卌弐
昨晩、あの出来事を忘れようと布団で叫んだ翌日。僕は朝早く学校に登校していた。これには訳があって一人で勉強をしたいからである。学校の朝は生徒がほとんどいないので静かに朝学ができるのだと親から教わった。なぜ、こんなことをするのかと言うと周りと同じ学力になれるように自身の遅れを取り戻すためだからだ。学校に朝早くついた僕は職員室で自分のクラスの鍵を取り、教室の扉を開ける。最初、どこに座ったのだろうと戸惑いながらも何とか自席につき、黒い学ランの上を脱いで、椅子にかける。セーター姿になった僕はカバンから勉強道具を出し、勉強を開始する。
「さて、苦手な国語をやろうかな。」
そう言って、小学校の漢字が全部載っている問題集を開いて解き始める。黙々と、当たり前の漢字だと思いながら解いていった。
どのぐらい経ったのだろうか。ふと、時計を見ると八時を回っていた。流石に集中しすぎて疲れたのでうんと体を伸ばす。それと同時に、誰かが教室のドアを開けた。
「早いな。」
声をかけてきたのは池澤だった。入学式の時に一人でいた事をきっかけに僕から話しかけ、友達になれたと僕は思っていた。
「うん、ちょっと勉強したくて。」
「勉強?なんの....って、小学漢字問題集?なんで、そんなのやってるんだ?」
「僕、小さい頃から入院してて、他の人と勉強の進み具合が結構遅れてるんだ。だから、少しでも追いつけるように頑張らないと。」
「そうか。頑張れよ。あとそこの問い『意識』の『識』、織物の『織』になってるぞ?」
「嘘!?あっ……本当だ。あざーっす。」
「………いいよ、別に。」
池澤に間違いを教えられて、慌てて消しゴムで消し、書き直した。その時に池澤は顔を赤く染めていたことは、この時の僕は知らなかった。
対面式が終わり、僕を含む一年生全員はクラス単体で学校探索を開始した。どこにトイレがあるのかや授業で移動する移動教室を見たりなどした。学校探索を得た後は体育館で部活の紹介がされた。定番のスポーツ部がアピールを行い、新入生を歓迎していた。そんな感じで授業が終わり、放課後となった。この日から一週間は仮入部というものがされたが、僕は当然帰宅部だ。本来なら筋肉をつけないといけない時期なのだが僕は身体が弱い。なので、どの部活にも入らないことにした。僕は入部届けを先生に返し、靴箱で靴を履き替え、校門を出ようとしたその時、僕はある人に捕まった。
「隆也?何で帰るの?仮入部どうするの?」
そう。彼女、波越楓に捕まったのである。
「いや……僕、部活とか入らないからね。」
「どの部活にも?」
「うん、まぁね。」
「あっ、そうか。体、弱いんだもんね。じゃ、一緒に体験入部できないね。」
いや、本来部活は男子と女子、別なのだが………。
「クラスで一緒になった人といけば?」
「クラスの子と?そうだね。うん。そうする。」
波越は自分のクラスへと帰っていった。僕と波越は一緒のクラスではなく別々のクラスになった。別に一緒になれなくて悔しいとは思ってはいないからな!
「さて、帰って寝るとしますか。」
僕は背筋を伸ばしてあと、ゆっくりと家に帰った。結局、僕は部活には入らなかった。月日は流れ、五月に中間テストがあった。初めての形式だったのでなんとか平均は取れたので良かった。特に六月もなくいよいよ初めての夏休みを迎えようとしていた。