何でこんなに不遇なんだよ
俺は侯爵家に生まれた長男だ。
もう18になるが、とある事情で跡取りから外してもらっている。
親父はまだまだ現役バリバリで俺がいなくても問題は無いはずだ。
俺は平民として奮闘しているのだが、どうにも爵位の報酬を貰えない…………。
俺は子供のころ、ほんとに3歳かそのくらいのころに、親父から買い与えられた一冊の本を読んで、衝撃を受けた。
その本は平民である主人公が、鍛えた肉体と魔法の能力を駆使して貴族になり、最後には邪悪な王を倒して一国を治める王にまで出世するという成り上がりストーリーだ。
当時、自分が高位の貴族の跡取りであることなど微塵も知らなかった俺は、彼に憧れ、自分もそうなりたいと願った。
そして実際に行動に移したのだ。
なまじ金持ちだった侯爵家は俺の夢を支援。俺のために訓練設備を整え、剣や魔法の先生を雇い、親父自身も仕事の合間を縫って俺に指導をしてくれた。
幼いころからの訓練が幸いしたのか、15になって大人として見てもらえるようになったころには、俺は自分でも驚くほどの力を手に入れた。
剣でも魔法でも国内に並ぶ者は無く、侯爵家跡取りなので貴族のマナーはもちろん一流。立派に領地を治める父の背を見て育ってきただけあって政治の能力も十分。加えて平民に憧れて育ったので、この国の貴族では珍しく、平民に対する見下した感情も持っていない。まるで奇跡の体現者だ、とは学校時代からの友人の評価だ。
ちなみに学校は8歳から5年間通う所で、ちょっと授業料が高いので、生徒は貴族が多い。青春なんぞしている暇の無い俺は半ば学校から孤立していたのだが、その中で唯一まともに話してくれる人がいたのだ。
そしてその友人は、運動は俺の足元にも及ばないレベルだったのだが、学術的才能が半端じゃなかった。一度聞いたことは決して忘れず、推理力、洞察力、発想力は超人的。
…他を逸しているところで俺と気が合ったのかもしれない。
そして、社会から評価してもらえる年齢になった俺は、とある目標を掲げた。
平民として生き、そのうえで自分の力で侯爵家に上り詰める、というものだ。
親父に話したら物凄い猛反対されたが、最終的には許しも貰え、晴れて俺は平民ライフをスタートさせることとなったのだ。俺は実家を出て、馬車で一週間かかる王都まで来た。
本当は生活していくためのお金は自分で用意したかったのだが、衣食住は親父が用意してくれた。
そのおかげで特にやるべきことがあるわけでもないので、俺は手柄を立てることに専念した。
王都一年目はとにかく派手な事をと思い、悪徳貴族を潰す手伝いをした。
あくどい貴族の悪事の証拠を掴んで王に提出したのだ。
ちなみに学校時代の友人が悪事を働く貴族を予測してくれたのでわりかし簡単にできた。
誘拐、違法薬物販売、平民拉致、密輸、詐欺、脱税、果てには王に対するクーデターなんかも未然に防いだ。
毎回王に報告に上がると報酬金を渡されるのだが、それ以外は貰えなかった。
元々貴族位にある人がやったらほぼ間違いなく昇進するほどの手柄だったはずだが、思ったより平民は不遇なようだ。目標の爵位授与にはまだ遠いらしい。
そして16になる頃には王都の貴族は悪事など働かなくなってしまった。
というより悪事を働くような貴族は俺が全部潰してしまった。
やることがなくなった俺は、これまでマイナス面でしか活躍できていなかったことを反省して、派手さは劣るが王都2年目はもっとプラスの事をやってみた。
初めにやったのが商品開発。
1年目に貰った報奨金は多く、平民としてなら一生遊んで暮らせるほどの額だったので、それを惜しげもなく投資して開発した。
失敗も多かったが、2か月ほどでそれなりにいい物を作ることが出来た。
学校時代の友人が協力してくれたのも大きかった。
代表商品はこんなところだ。
上位貴族向けに、友人の知識と俺の魔法を組み合わせた新技術で作った超高性能装備品。
下位貴族や裕福な平民向けに、自動洗濯機や食品冷却棚。
貧しい平民向けに、機械化でコストを抑えた食器類。
どれも売り始めると成果が出て、一稼ぎ出来た。
販売開始から2か月経つ頃には俺は自ら商会を作り、持っていた私財を半分ほど使って開発して、使った額の3倍は稼いでいた。
しかも、去年の告発より内容的に地味だったはずだが、また王から謝礼金が出た。
そして、順調に時は流れ、16歳も半年は過ぎようという頃、新たな手柄を立てられそうな風の噂を頼りに俺は隣町に移動した。
商会は、友人と相談の結果、優秀な部下にすべてを任せることにした。
隣町は経済破綻寸前だった。
農業で生計を立てているのだが、土地は痩せていてうまく作物が育たない上に、その年は20年に一度と言われる大飢饉だった。しかも、王都の近くという事で王都からあふれた人たちが流れ着いて人口は増加しているというダブルパンチ。
もう諦めた方がいいという感じの町だったのだが、またしても友人からいいアイデアを貰って、俺は手を差し伸べることにした。
その領地を治める貴族に無理を言い、経営に口出しさせてもらって、領地の方針を一変させた。
農業中心の資本形態を取りやめにして、商業、工業をメインに押し上げた。
王都への交通に便利な立地を利用した宿屋、冒険者向けの商店を出店し、俺の商会で扱う製品を作る工場を建てた。
初期投資費は、俺の懐から出した。
最早一般貴族ほどの財産を自由に扱える俺には、その程度の資金提供は、わけもないことだった。
きちんと整備が終了し、数カ月ほど待ってみると、結果は容易に現れた。
王都とほとんど同じ品質に引き上げられた宿屋と商店は冒険者たちの拠点として存分に機能し、工場は多くの雇用を生み出した。
町に流入する人を受け入れて余りある工場は、その人達に労働の対価として賃金を与え、さらにそのお金が町の商店で使われてさらなる利益を生み出すという好循環。
もう俺が17になる頃にはその町は街というほどに発展を遂げていた。
とてつもない急成長を遂げた街を作った者として、俺はまたしても王から感謝状と謝礼金を受け取ったのだった。爵位は無いけれど。
もうこの二年で通常ならありえないほどの功績をたたき出し、世間の人には俺の顔が知れ渡っているのだが、いまだに爵位がもらえないのが解せない。
特例を嫌う貴族達には呆れる限りだが、呆れたところで意味は無い。
もはやこうなったらインパクトも社会への影響も特大の事をしなければ、貴族になど成り上がれないと分かった俺は、17になったのをきっかけに特大プロジェクトを遂行するに至った。
隣の魔人の国と国交を図るというものだ。
ご存知の通り魔人というのは人間をとことん嫌っていて人間を見た途端に襲い掛かってくる凶暴極まりない種族だ。そんなものの治める国と国交を持てるわけがない―――と、思われていた。
俺はその考えに異を唱え、隣国へ乗り込んだのだった。
友人曰く、魔人は元来人間と対立していなかった。昔は技術分野を人間が、魔法分野を魔人が担当して相互発展に努めていたのだ、という。
俺は友人が言うのなら間違いないと確信して、それなら国交を持つという理想を達成できるのではないかと考えたのだ。
魔人の国に乗り込むにあたって、何故か友人は隣国まで付いてきてくれた。
味方がいるのは嬉しいことだが、いかんせんあいつの身体能力は一般レベルより低い。
いつ襲われてもおかしくない、気が抜けない旅路に連れて行くのは少々不安だった。
しかし、新開発した最先端装備品によって身を覆われた俺たちは無血で隣国の王都までたどり着くことが出来た。
文字通り無血である。
襲い掛かってくる魔人を一人として傷つけることなく無力化してきたのだ。
そのおかげかは分からないが王都に入ってからは、敵対した目線は受けるものの襲い掛かってくる人はいなかった。
そして、友人の進言により、俺たちを敵対しない魔人を探して協力してもらおうという事になった。
そううまくいくかは不安だったが、王都の通りを歩いていると一人だけこちらに嫌悪に視線を向けていない人がいた。
すぐさま話しかけ、協力することを快諾してもらった。
どうやらその魔人も変わった研究者のようで、人間と交流を図りたいようだった。
そしてその魔人に匿われるようにして連れて行かれたのが、なんと王都の中央に禍々しく聳え立っている城だったのだ。
そう、その魔人は国を治める王様で、人間界では魔王と呼ばれ、畏怖される存在だったのだ。
友人と同じように優れた頭脳を持っていた魔王は、今の魔人と人間の状況を芳しく思ってなかったそうで、魔人領に無血で侵入してきた人間がいるという話を聞いて、一度話をしてみたいと城下町まで出ていたらしい。
つまりは俺たちと同じ思考をもった魔人がいて、それが魔王だったという事である。
俺たち3人は、それから人間と魔人との共存を果たすため話し合った。
友人と魔王の会話は高度で付いて行くのが精一杯だったけれど何とか纏まったらしい。
結果、人間の俺らが魔人領で魔王と共に生活して、人間も悪いだけじゃないと思わせるようにすることになった。
半年後、俺らは再び人間の住む王都へと舞い戻った。
半年の間で、俺らは魔王の協力もあって人間代表として信用を得ることが出来、魔人側からは、何とか反対派を丸め込んで国交を結ぶことに同意してもらう事に成功した。
後は人間側から同意が得られれば晴れて国交成立で、友人は反対されることは無いと読んでいた。そもそも人間は魔人に怯えているだけなのだから。
俺自身もそこは同様に思っていたが、この国の新たな取り決めは決定するまでが凄く長い。たっぷり4カ月はかかるだろう。
やはりそうなったようで、実際俺が友人と魔王を連れて国王に話をつけてから、最初の魔人が交易のため王都にやってくるまで4カ月かかった。
しかし、逆に言えば、4カ月で交易を結ぶまで為し得たのだ。これはすごいことだろう。
魔人の持つ人間にとっては知り得なかった情報が流れ込み、魔人には人間の持つ技術が流れ出す。それに付随して魔道具や装備品も貿易された。
その功績を称えられ、またしても王から金銭を賜ったのだ。
またしても爵位は無かった。がっかりだ。
この国交成立によって、俺の商会に入る金は指数関数的に増え、王から貰った金銭と合わせて、俺は国家予算レベルの資産家となった。
そして今に至る。
今現在、俺は自室に籠ってぐうたらしている。
所謂無気力症候群というやつだ。何もやる気が起きない。
これだけ尽くしてもまだ功績が足らないのだから、もはや何をやっても無駄という気さえしてくる。
「なあ、俺が今仮にやる気を出したとして、他に何か手柄を立てられることはあるか?」
俺は同じく部屋に籠っている友人に尋ねた。
「無い」
やはり簡潔な返答が帰ってくる。
そう、俺はもはやこれ以上できることが無いのだ。
今まで以上の功績をたたき出す術がない。
俺の頭でも思いつかなかったが、友人をしても無いと断言できるのだから間違いではないだろう。
「俺はこれから何をして過ごせばいいのだろう。なんかいい方法はないか?」
俺は今までやることが無いという状況が無かった。常に訓練をするか、計画を練るか、休養を取るか、とにかくやるべきことの処理に追われる毎日だった。
それ故に、今の状況が不快だ。何か体を動かしたい。
「それならいくつかある。例えば、王に抗議に行くとか」
うーん、抗議か…。あんまりいい手には思えないけど。
まあ最早何もしなくても一生過ごしていけるだけの財産は持っているし、没収さえされなければ問題ない。貴族の財産の没収は頻繁にあるが、平民から財産を奪い取った例は無い。特例を嫌うこの国なら大丈夫だろう。最悪、魔王の所に転がり込むことも出来る。
そう考えた俺は、抗議に行くことにした。無論友人も付いて来るが。
王城に出向くと、まず、門番が門を開いてくれる。
通常なら、身分証明や検査などでかなり時間を食うのだが、俺はそんなことはされない。
平民だから無警戒なのだろうか?むしろ平民こそ警戒すべきだと思うのだがそんなことは知ったことではない。
大きな門をくぐると、どこからともなく、やれ荷物持ちだやれエスコートだやれ護衛だといろんなことをする人が現れる。
そもそも俺は、この国トップクラスの体力の持ち主と言っても過言ではないので荷物持ちは要らないし、何度も王城に来ているのでエスコートも要らない。護衛に至っては意味が分からない。もっと他に重要な人がいるだろうに。
俺は、これらの人達は俺の行動を見張る監視役の一種だと思っている。そうじゃなければ説明がつかないからだ。
そして、俺がそこら辺の取り巻きに、王に面会願いたい、と言うと、すっ飛んで行って、すぐに面会させてくれる。いつ報告に上がってもそうだ。
なんだ、王は暇なのか?そんなにやることが無いのなら新しい機械の開発とか、魔法理論の研究とか、政治以外の事もやればいいのに、とか思うが、不敬罪に問われるので決して口には出さない。
準備のため10分ほど無駄に広くて豪華な部屋で待たされる。
待つのは当然だと思うのだが、この部屋には、明らかに高価な絵、花瓶、宝石、槍、盾、鎧といった装飾品が趣味悪くならないほどの間隔で並べられている。王城にはもっと使い勝手のいい狭い部屋は無いのか、と言いたくなる。
そして、面会をするための部屋に移動して、王との面会が始まる。
「き、今日は、何の用事かね」
何故か、いつも王は軽く震えている。そんなに緊張する必要はないと思うのだが。
国民に向けたスピーチのときは緊張していないのになぜなのだろう。
きっと根は緊張しいでアドリブに弱いとかが原因なのだろうと推測されるが詳しくは知らない。
「王様、申し訳ありませんが、今日は手柄を立てたことの報告ではないのです。王の貴重なお時間を割いてしまうのもしのびないので本題に移させていただきます。…なぜ私に爵位をくださらないのですか?」
抗議をしているため、一応、身構えておく。ほぼ無いとは思うが、側近が剣を抜いて切りかかってくる可能性もあるからだ。
しかし、身構えていたにも関わらず、王からは一切反応が無い。どちらかというとぽかんとしている。
仕方が無いので、俺は話を続けることにする。
「私は、成人してから3年間、精一杯努力してきたつもりです。15の時には王の治世の妨げとなる悪徳貴族を一網打尽にし、翌年には経済活性化のため、新商品も発売し、交通の要所である街を復活させました。さらに次の年には、今まで敵対状態にあった魔人との国交を回復させ、魔法の発展にも協力したはずです。…それなのに、なぜ、なぜ爵位をくださらないのですか」
「そ、そうだったのか。我は失念しておった。てっきりお主は資産が欲しいのだとばかり思っておった。初め、報告があったときにどうしたものかと考えたのだが、既に侯爵の跡取りだった貴殿に爵位を与えても意味が無いと思ったのだ。ゆえに、金銭を渡したのだが」
「そうだったのですか。そのようなお気遣いをしていただいていたとは露ほども知らず、たいそう不躾な申し出をしてしまいました。申し訳ございません」
「そうか、爵位が欲しかったのか。それならそうと早く申せばよかったものを。これでようやく残りの報酬がすべて支払えるぞ」
「は?」
驚きのあまり、つい声に出してしまった。俺としては不服だったわけだが、一応褒美として客観的に見て適切な金銭は受け取ったのだが。残りの報酬とはいったい何なのだろうか。
「お主、自分のしたことを正確にわかっていないようじゃから補足するぞ」
自分のしたことを分かっていない…だと…。いや、そんな事は無い。さっきちゃんと言ったじゃないか。
「まず3年前、お主が成人した後、悪徳貴族をうまいこと潰してくれた。お主はこの国の王都だけ救ったつもりなのかも知れぬが、それは違うぞ。この国の王都は、陰で世界中の悪党どもが蔓延っていて、全世界的な悪の本拠地だったのじゃ。これは王族しか知らないことじゃからお主が知らぬのも無理はない。そのおかげで、徐々にこの世界から、悪が滅んでいったのじゃ。そして、しまいには総決起してこの国を乗っ取ろうとしたようじゃが、それもお主が壊滅させたのじゃろう。おかげで、現在、大きな悪事を働く盗賊どもはきれいさっぱり、この世界から、いなくなったのじゃ」
俺は衝撃を受けた。なるほど、どうりで潰しても潰しても1年間は悪徳貴族がいたわけだ。そして、言われてみればクーデターの時は敵の数がやたら多かった気がする。おれは、上層部をたたいて壊滅させたわけだが、その上層部の奴らだけで20はいた。冷静に考えれば、組織自体の構成員は王都の人口より多かったかもしれない。
「そして2年前、お主は商会を立ち上げた。そしてその商会の経営を部下に一任しただろう。それも画期的な経営システムを残して。その後どうなったか、詳しく聞いておらぬようじゃから、我から伝えよう。お主の商会はこの国にとどまらず、株分けされて全世界に広がっていったのじゃ。お主の商会単体でも、驚異的な売り上げであるというのに、株分けされた全部を合わせたら、お主の総資産はお主が街を再建させた時点で、世界一位だったのじゃよ。そしてその資産はお主の知らぬところで雇用を生み出していたのじゃ。ここで話が少し変わるのじゃが、2年前と言ったら、飢饉があったじゃろう。実はあの時人口の1割程度の減少が見込まれておったのじゃ。しかし、お主が間接的に生み出した雇用のお陰で、貧民層は救われ、生き延びることが出来たのじゃ。しかも、お主の商会が、雇った平民の基礎教育までしこんだために、それが株分け後も受け継がれ、結果として全世界的な教育水準まで上がったのじゃ」
知らなかった。確かに商会は興したが、それはあくまで自分の経営のためで、それがまさか世界規模に広まるなんて、思いもしなかった。教育を施したのも、友人との相談の結果、労働者が使えないと困るからと始めたものが、そんなに影響を及ぼしていたのか。
「そして去年、お主は、魔人の国との国交を樹立したな。お主のお陰で、世界から注目されている我が国がそんな事をしたら、周りの友好国もそうしようかと思うのは、自然な流れじゃ。またしてもお主は全世界的な革命を起こしたのじゃ。そして、魔人の国から魔法技術が持ち込まれた。…結果、もう少数派となっていた我が国の敵対国は、ことごとく戦争に敗れた。魔法の支援があれば当然の結果じゃ。お主は、この世界から戦争まで消し去ってしまったのじゃよ」
もはや一周回って驚きはしない。魔人の国との国交が素晴らしいことだとは俺自身分かっていたが、こんな壮大な事になるとは想定できるはずが無い。
と、ふと隣に友人がいることを思い出した。俺と同様に動揺しているに違いない。少し様子を伺ってみる。
しかし、そんな事は無かった。いたって冷静だ。
まさか、お前、ここまで想定して今まで動いてきたのか?
「そして、これ以上与えられる金銭ももう我が国には残っていない。これ以上報酬を出すと国が傾いてしまう。だから我はさっき身震いしておったのだが」
へー、そんな理由で緊張してたのかー。良かったねー。これ以上手柄が増えなくてー。
「しかし、お主は爵位が欲しいと言った。それなら与えられる。ただ、もはやこれまでの手柄となると既存の爵位では釣り合うまい。そこでだ、我らが新たに作る位に就いてもらう。無論いやなら断ってくれて構わないぞ」
俺はもう思考をほとんど放棄した。あー、我らとか言った気がするけど、ここにいるの王様一人じゃないか。他は誰なんだよ。
「連合国王じゃ。お主には連合国のトップを任せたい。今回、戦争で敵対派の国がなくなったじゃろ。じゃから、各国が同盟を組むことになってな。その話し合いの場で、いっそのこと連合国にした方がやりやすいのではないかという話になってな。そこから成り行きで、連合国が出来てしまったのじゃ。じゃがそのトップに一つの国の王が就くわけにもいかず、そうしたらもう、ここに収まるのはお主の他におらぬじゃろうという事になったのじゃ」
なんだ、我らって各国の王の事か、それなら納得…
ここで、ようやくちゃんと意識が戻ってきた。
はぁぁぁぁ?連合国?なんだってぇぇぇぇ!?
いや、そりゃ、嬉しいけど。ずーーーーっと夢だった平民からの出世が出来てうれしいけど。なにこの釈然としない感じ。なんかもっと、ゆっくりゆっくり段階を踏んでいきたかったのに、こんなにいきなり持ち上げられちゃったらもうどうしようもないじゃん。
平民から世界の王になるなんて大出世にもほどがある。いくつかの爵位を経由していれば、その分たくさんの喜びを味わえたに違いない。
まあ、そんな事を考えてもどうしようも無いので、とりあえず返事をしておこうか。
「はっ、ありがたき幸せ」
「うむ、良かった。これで我の為すべきことはおわりじゃ。では、お主。次の瞬間から、我は部下じゃ、何なりとお申し付けください」
「は?」
「何を驚いておられるのですか。当たり前でしょう。私はただの一国の王。しかし貴殿はたった今から、人類すべての王となったのですから」
「ちょ、ちょっと待って、ててってっ、な、なぜ、王様が、私に、敬語?」
「少し慣れないかもしれませんが、我慢してくださいね。あ、それと」
王様は少しためを作ってから友人の方に向き直ってこう言った。
「連合国王妃、これから先大変かもしれませんが、がんばってくださいね」
友人はこくんとうなずく。
って、ちょっと待て。こいつが連合国王妃ってことは、俺の妻ってことじゃねえか。俺ら結婚した覚えねえぞ。
「お、王様?わ、私たちはいつ結婚したのでしょう。きき、記憶にないのですが」
「これはこれは、失礼しました。未来の、という言葉を忘れておりました。それでは私はこれにて、失礼させていただきます」
王様はそう言うと本当に出て行ってしまった。
控えていた王付きの側近たちも出て行ってしまい、後に残ったのは俺ら2人と気まずい空気。
「うん、えっと、あのー」
「私からもひとつ」
友人はそう言うと、少し息を整えてから、普段のぶっきらぼうな喋り方ではなく、普通の、女性の、話し方でこう言い放った。
「ずっと前から好きでした。良ければ結婚してください」
いや、ちょっと待て急展開すぎる。俺らはまだ付き合ってすらいなかった気がするんだが。まだ俺の認識としては友人のままなんだが。まあ確かに、女、ではあるけど。
言われて、今までの生活を振り返る。我ながら凄い人生を送ってきたものだなぁ。
しかし、そうやってよく考えると、もはやこいつとは結婚生活と同じくらいの事をしていた気がする。実際学校時代はずっと一緒に行動していたし、15の時に再会して以来、協力し合ってきた。王都を離れた後は住食を共にしてきた。
考えれば考えるほど違和感がなくなってくる。別に結婚しても構わないかもしれない。
こいつは、無口でほとんどしゃべらないが、美人ではある。街中歩いてるとちやほやされるくらいには。
それに外見を抜きにしても悪いやつではない。だからこそ、一緒に行動するようになったのだから。
ああ、もう鬱陶しい。もう考えなくてもいいか。
「こちらこそよろしく」
こうして、俺の連合国王生活が始まるのだった。
もうしばらく経つと、いろんな面倒ごとに頭を悩ませる俺だが、今この時だけは、このプロポーズという人生の一大イベントを終えた直後だけは、どうか静かに感慨に浸らせてもらいたいと思う俺であった。




