あれから五年後の俺
あれから、五年の月日が流れました。
こんにちは、ダン=クロウズです。皆様いかがお過ごしでしょうか?私は取り敢えず元気です。
私もあれから色々な事がありましたが、何とか五歳を迎える事ができましたよ。
そして、生活をしていく過程で、沢山のスキルを習得していきましたよ。こちらです。
《ダン=クロウズ
男
ハーフドワーフ
クロウズ家長男
スキル:属性耐性 冷 火 風・威圧耐性 極・異世界言語・回復魔法 極・斬撃耐性 極・打撃耐性 極・緊急回避・危険察知》
普通に生活をしていたらこんな事になってました。
え、おかしいって?そうだよね、おかしいよね?よくわかるよ。だって、俺もおかしいと思うもん。でもさぁ……。
「何をモタモタしているのですかダン?早く外に出なさい。今日も特訓を致しますわよ」
練習用の木剣を片手に、義理の姉ローザが、今日も俺をしごいて下さるそうです。
俺の三つ上の八歳になったローザは、俺の予想以上に美しく成長した。
きめ細やかな銀髪は長く伸び、成長途中ながらも胸は膨らみ始め、顔に至ってはロックとセシルの良いところを存分に受け継いでいる。
「はいはい。わかりましたよ」
俺がため息混じりに答えると、ローザは目付きを鋭くする。
「だらしない。返事は一回!」
「はいッ!」
「よろしい」
満足げに頷き、俺の襟元を掴み、引きずりながら外へと出た。
「遅い!お姉様、ダン。待ちくたびれちゃったわよ!」
外にいたのは、俺の腕を十字固めで折って下さった女の子で、リディア=クロウズという。
姉に負けず劣らずの美少女で、銀髪をサイドテールにしている。
雰囲気はローザと反対で、大変活発な少女である。
「ごめんなさいねリディア。この子がモタモタしていたから遅くなってしまったの」
俺のせいなの?ただ、今日の特訓は遠慮したいとか思っていただけなんですけど?
「どうせ特訓したくないとか思っているんじゃないの?」
「まあ!そうなのダン?」
半眼で睨んでくるリディアと、わざとらしく驚いた風を装うローザ。いや、だってさ?考えてみてよ?嬉々として地獄に突き進む理由は皆無だよ?
「……フゥ……」
ローザは頬に手を当てため息をつく。あ、これはアカンかもしれない。
「私は大変残念でなりません。ダン、貴方は私の訓練をまだ信じてくれていないのですか?」
信じる?何を?ああ、地獄のしごきについてかな?それだったらよくわかるよ。
俺のスキルがここまでの充実さを誇るようになったのは、この訓練だか特訓だか地獄のしごきだかわからないもののせいである。
木剣で極限まで叩きのめされ、斬撃耐性を習得して、リディアにはボコボコに殴られ蹴られ極められ、打撃耐性を習得。
怪我が治った端から痛めつけられ、痛めつけられた端から回復魔法で治すというループを毎日繰り返し、気がついたら極までレベルアップしていた。
見えなくなった時の特訓と称し、目隠しされたまま同じように痛めつけられ、危険察知と緊急回避を習得。
いつの間に覚えたのか、火炎魔法と風魔法で襲われ、属性耐性の火と風を習得。
このままだと殺されると思った俺は、
「ローザ姉さんは俺の事が嫌いなんだろ!?だからこんな酷い事ができるんだろ!?」
と、批難を口にしたんだよ。そしたらさ…。
「…………」
突然無表情になったかと思ったら、無言で一筋涙を流したんだ。
いたたまれなくなって、俺の方が折れて謝ったんだ。
だってさ、こっちを無表情の無言でずっと見てるんだよ?そのくせ涙は止まらないし、整った顔をしているから、涙を流したお人形がずっと俺を凝視している感じとなっていた。軽いホラーだぜ?
「ごめん姉さん!言い過ぎた!」
「……ほんとうに?」
少しだけ涙声でそう聞いてくる。やめてくれませんかね?俺がいじめてるみたいじゃんか?
「うん。本当本当」
「きらいにならない?」
「なるわけないよ!」
「……すき?」
「当たり前じゃないか!」
家族としてな。変な意味は無いぞ?実際に普段は物静かで温厚なお嬢様だし。
「だいすき?」
「大好きだよ!」
家族としてな?
「あいしてる?」
「勿論!」
本当に家族としてな?
そしたらあなた、その後は普段の五割増しでしごかれましたわ。終始輝く笑顔でな。よく死ななかったと自分で自分を褒めてやりましたわ。
まあね、実際愛されている自覚はあるんだ。
セシルさんはいわずもがな、ローザ姉さんやリディアも温かく接してくれるし、使用人の人達もよくしてくれる。
唯一ロックだけきつく接してくるんだけどね。嫁さんと使用人にガッツリやられたのを根に持ってるみたいなんだよ。
「一時の気の迷い」とか「何で妊娠した」とかブツブツ呟き、極めつけは「何故生まれてきた!?」とか言い出した。
不倫がばれたグズ野郎の常套句だよなぁ…。前世にも身近にいたよこういう奴。大体、一時の気の迷いとか言ってるけど、ヤる目的で女を口説くんだろうし、ヤる事ヤればそりゃあ妊娠もするだろうよ。
何で生まれてきたって、妊娠すれば産むだろ?俺の産みの親ティナ=ターナーはこいつの事が好きだったらしいし、好きな男の子供なら産むんだろうよ。実際、一人で育てるつもりだったらしいしね。
俺自身、特に気にもしてなかったし、あの後ティナの行方を探しだして、病床ながらも最後に挨拶が出来た。
凄く優しい人で、ローザやリディアにも優しく接して、俺に「ごめんね?お母さんが育ててあげられなくて本当にごめんなさい」って泣きながら言うのよ。
俺は喋れないから、笑顔で答えたよ。大丈夫。俺はしっかりやるよって、態度でさ。
そしてティナを看取り、クロウズ家の近くにある見晴らしの良い丘にお墓を作った。
それでまあ、ティナの事が娘さん達にもばれてしまい、前世のインターネット掲示板でいうところの、
【悲報】浮気がばれただけで、嫁と娘たちに総すかんを受けているのだが?
とかいうスレッドが建っちゃう扱いを受けてしまったのです。
俺は恐らくざまぁWWWとかあきらメロンとか書き込むだろう。余裕でな?
そんでまあ、勢いあまったのかしらんが、どうして生まれてきた云々を口走ってしまったのよ。
いや、怖かった。
こちらからでは表情が見えないのだが、セシルさんは視認できる程の闘気を立ち上らせているし、ローザも母親レベルでないものの、やはり同じく闘気を溢れさせていた。
そこからの事はあまりにも凄惨で、あれはもしかするとロック本人ではなく、そっくりな人形なんじゃないの?とか思っちゃうぐらい痛めつけられていた。
パイルドライバーで白目剥いてるロックの顔面をグリグリ踏みつけ「しにますの?しんじゃいますの?というかしんでくださいまし」とか能面みたいな表情で呟いてるし。
そんなこんなあり、こうして俺は無事にクロウズ家の一員として迎えられたのだった。
数刻後、俺はボロ雑巾みたいな姿で倒れていた。
「も、もう少し手加減できないのかな姉さん?リディアもさ…」
無意識に回復魔法が発動しているのか、打撲傷やら切り傷やらが勝手に治っていく。
《自動回復を習得しました》
嬉しくねぇ…。その証拠に、勝手に傷が治っていく俺を見て二人ともニッコリと微笑み、
「これも、私の愛ですよダン?」
「うんうん、愛してるよダン!」
とか言ってくるんだもんな。
敵わないって、こんなの。