それは、とても綺麗な放物線であった
俺を抱きながら、大きなお屋敷へと足を運ぶメイドのお姉さん。
しかし何だね、この世界の人達は、皆さんこの人のように田舎訛りをしているのかしら?
よく見る余裕がなかったけれども、金髪のスタイルの良い綺麗なお姉さんである。生前の俺なら、容姿と訛りのギャップに萌えていたことだろう。
そして、運ばれながらお屋敷を見上げると、赤ん坊の視点を抜きにしても大きい事がわかる。
(でかいな…お貴族様のお屋敷ってところかな?)
この世界の階級制度はわからないけど、どうなんだろうな?俺を見ていきなり「何だその汚物は!?切り刻んで畑の肥やしにしてしまえ!」とか言い出したりしてな?言うかもわからんけど、いきなりは無いだろうなきっと。
「……捨ててきなさい。この家から限りなく遠くへ」
言われちゃったよ。捨ててこいってよ。酷くない?
この屋敷の持ち主らしい、まだ見た目が若い男が、俺の包みに入っていたらしい手紙を読んだら、こんな事を言い出した。
まあねえ、理解は出来るんです。自分の子供ではない子供を、持ってこられて育てろなんて、少し無茶な話だよね?でもさぁ、こっちも命懸けなんですよ。どうか一つ、その寛大な心で育ててやっては下さいませんかね?
ほら、俺を連れて来たメイドのお姉さんも、奥様と思われる男と同年代位の綺麗なお姉さんも困惑の表情をしているよ?
「あなた、それは可哀想よ?使用人の見習いとして育ててあげても良いじゃない?」
お、奥様、今良いこと言った。その調子でどうか一つ、旦那さんを説得して下さいお願いします何でもしますから。使用人でも何でも。こちとら伊達に、前世で社畜をしてませんよ?
「…ぬぅ…と、とにかく駄目だ!この赤ん坊は…」
旦那さんの方は頑なに拒否の姿勢を取る。大丈夫っすか旦那さん?何か汗びっしょりですけど?っていうか、挙動不審過ぎませんかね?あからさまに目が泳いでますけど?何かの病気なら、安静にしていた方が良いんじゃないですかね?
「……その手に持っている手紙を見せなさい?」
「!?」
奥様の台詞に、さっきよりも一層挙動不審になる旦那さん。わかりやすいなこの人。
旦那さんは必死に手紙を懐に仕舞おうとしたが、奥様はそれよりも速く手紙を旦那さんから取り上げた。速くない?奥様の手が見えなかったんですけど?
それでね?奥様?どうしたの?手紙を読み進めていく度に、何やらよくわからないオーラらしきものを噴出させてますけど?なにこの、何?すげえ圧迫感。漏らしちゃうかもしれないよ?
《威圧耐性を習得しました》
何か習得しましたね?威圧耐性っすか?なるほど、確かにこれは威圧ですね。幾分は感じていた威圧感が、多少は軽くなった気がしないでもないです。でもさ、直接ぶつけられている訳ではないのに、この威圧感ですよ?面と向かってぶつけられたら、確実に漏らすね。
「…あなた、これは一体どういう事なのかしら?」
肩を震わせ、声まで震わせて、奥様は旦那さんを睨み付ける。
怖い!何だろう、美人って顔が整っている分、他には無い迫力があるな。ほら、旦那さんなんて、真っ青な顔してるよ。
この奥様、一瞬消えたかと思ったら、旦那さんの背後に立っていた。そして、旦那さんの腕を背後から取り、自分の腕と組み合わせた。
「ちょっと待って!?セシルッ!?話せばわか―」
「問答ッ!無用ッ!」
それは、とても綺麗な放物線であった。
人が人を背後から持ち上げて、地面へと叩きつけるという野蛮極まりない行為であるはず。
だというのに、この美しさはなんなのだろう?
完璧なタイミングで、完璧なフォームで繰り出されたその放物線は、芸術の域に達していた。
まぁ、ジャーマンスープレックスホールドなんですけどね?旦那さん、死んでないよね?すげえ音を立てて地面に叩きつけられてますけど?
ん?手紙がメイドのお姉さんの手にあるぞ?拾ったのかな?勝手に見たら駄目なんじゃないの?…まあ、俺は見るけどね?赤ん坊だし、ばれないでしょう。どれどれ?
「バブー!ダァー!」
やれ!やっちまえ!いやむしろ殺してしまえ!何だこの野郎!てめえは下半身に脳みそがあるのか!?電気アンマか?いいぞやっちまえ!潰してしまえそんな粗末な物!
手紙の内容は、かいつまんで言うと、この男、ロック=クロウズが、昔奥様も一緒に組んでいたパーティーメンバーの女性、ティナ=ターナーと一年くらい前に浮気して、俺が産まれたという内容であった。
ティナは、どうやらこのロックという男に惚れていたらしいのだが、セシルとの仲を知っていたから、泣く泣く諦めていたという。そして一年くらい前に、偶然再会した時、一緒に食事をしていて、お酒も飲んでいたのだろう、流されるまま関係を持ってしまったらしい。
で、俺を孕んで、産んだ迄は良かったのだが、どうやらこのティナさんは、不治の病を患ってしまったそう。
俺を育てられないと悟り、迷惑だと考えていたがロックに託すより他、方法がなかったという話らしい。
あ、そうそう、後、この下半身自由主義野郎とティナとの肉体関係は、一回で終わらなかったらしいんですわ。
あんなプレイをしたとか、あんな場所でプレイしたとかを、赤裸々につづってらっしゃった。
このロックという男、現地妻でも作ったつもりだったのかね?
あ、ドロップキックだ。ロック選手が窓を突き破って外へぶっ飛んだ。セシル選手も場外へ。場外乱闘かな?いい気味だわ。