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オービタルエリス  作者: jukaito
第4章 ケラウノスパイデス・オラージュ
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第91話 光を飲み込む光

「残り十一秒です! 【メラン・リュミエール】発射までカウントを開始します!」

「うむ! これで奴等も一掃できる!」


 【エテフラム】のメインブリッジで参謀は笑って、余裕綽々の態度をとる。


「レジスタンスは取り逃した。それに、最後まで気を緩めるな」


 アルシャールは参謀へ気を引き締めるように促す。


「は、はい!」

「十、九、八」


 オペレーターは冷静にカウントを取り続ける。


「司令! 海賊船周囲から正体不明のエネルギー光が発生しました!」


 もう一人のオペレーターが状況を告げる。


「正体不明の、だと!?」

「スクリーン出します!」


 オペレーターがそう言うと、スクリーンにヴァ―ランスのバスタービームライフルが放った光が映る。

 当然、アルシャールや参謀達にはこれが何の光なのかわからない。

 ただ得体のしれない強大なエネルギーの光で、それはこの【エテフラム】さえも飲み込めかねないほど巨大でとてつもないものに感じてならなかった。


「こ、この光は一体!?」


 参謀は大いに狼狽する。


「この光の行き先は!」


 アルシャールはオペレーターに確認をとる。


「本艦です!」


 オペレーターが切羽詰まった口調で告げる。


「ただちに電磁バリアを展開! 本艦に直撃させるな!」

「了解です! 防空班、電磁バリア展開してください!」


 アルシャールは即座に指示を出し、オペレーターは防空班に指示を出す。


「カウント七、六、五」


 【メラン・リュミエール】のカウントは続く。


「電磁バリア展開します!」

「さすが防空班、迅速な対応ですね」


 参謀は安堵の息をつく。

 だが、アルシャールの顔は険しいままであった。






 アルシャールの指示通り、【エテフラム】の前方に電磁バリアが展開される。

 これによって、【エテフラム】を狙うあらゆる攻撃が弾かれる。

 だが、ヴァ―ランスから放たれた【バスタービームライフル】の光は単なる攻撃ではなかった。それは光に触れたものの存在そのものを消しさるという絶対なる神の威光ともいえた。

 それは電磁バリアをものともせず、神話に語り継がれる神が起こした洪水のようにバリアや【メラン・リュミエール】の発射台を洗い流し、消滅させた。


ゴオオオオオオン!!


 エネルギー光の轟音は【エテフラム】のおよそ三分の一を消し飛ばしてから遅れてやってきた。






「状況はどうなっている!?」


 衝撃と轟音のために、一時指揮系統は停止したがすぐにアルシャールは状況を確認する。


「被害状況、スクリーンに映します」


 オペレーターの発言とともに、【エテフラム】の外部が映し出される。


「――!」


 その惨状に参謀は絶句する。


「【メラン・リュミエール】のエネルギー炉ごともってかれたか」

「【メラン・リュミエール】、再装填不可能です」


 オペレーターは告げていたが、参謀の耳に届かず、アルシャールにはわかりきっていたことだった。


「【エテフラム】の損傷三十パーセントを超えています。これ以上の航行は不可能です」

「電磁バリアを貫通して……! これほどの損害を、信じられない! 一体何が!?」

「参謀、信じがたいことだがこれは起こった現実だ。敵の何らかの超兵器がこの【エテフラム】を破壊せしめた」

「……はい」

「損傷部分を切り離し、航行を維持しろ。敵は健在だ、弱味を見せればそこをつけこまれる」

「了解!」


 オペレータはアルシャールの指示を艦の制御班へ伝達する。






 【バスタービームライフル】の光に騒然となったのは海賊船のブリッジも同様であった。


「なんて、威力ですか……」


 最初に口を開いたのは意外なことにリィータであった。


(こちらのブロンテカノン以上か。あれじゃ電磁バリアは突破できてもそらされるかもしれんからな)


 ザイアスは苦笑を浮かべて、いまだ頭上を滑空しているヴァ―ランスに思いを馳せる。


(冥皇といったな、あの嬢ちゃん……とんでもないチカラだ、そして危険すぎるな)


 そこまで考えてマントを翻す。


「お前等、まだ敵は残ってるんだ! 気を引き締めろ!

――このチャンスを逃すな、突破するぞ!!」


「「了解!!」」


 海賊船ボスランボは直進し続ける。




「……ダイチよ、無事か?」


 フルートの声が聞こえる。


 それで意識が現実へ戻される。


「あ、ああ……!」


 【バスタービームライフル】の光に目をやられるとともに、撃った反動で意識を奪われた。そこからようやく回復できた。

 やっぱり強力すぎた。

 撃った方の身体さえも滅ぼしかねないほどの威力は、ヒトが扱っていい武器の領分を遥かに超えているようにダイチは感じた。

 この手で撃ってよかったのか、明晰な答えが自分の中から出てこない。


(それでも、使わなくちゃ生き残れないのが戦争なんだな……)


 震えが今更ながらにやってくる。

 改めて、自分がどんなに恐ろしい状況に置かれているのか実感させられる。

 それでも、生き残らなくちゃならないのもまたヒトの性だと感じつつ、意識がだんだんはっきりしてくる。


「状況は、どうなっているんだ……? 俺達、やれたのか?」

「今こうして妾達が生きていることが答えじゃよ!」


 フルートは誇らしげに答える。


『やったわね、ダイチ!』


 エリスが通話ウィンドウを開いてくる。


「はは、なんとかな」

『早くこっちに来なさい。キャプテンが全速力で包囲網を突破するって』

「ああ、わかった!」


 ヴァ―ランスを飛ばして、海賊船の甲板に飛び移る。

 あれだけのエネルギー光を放ったにもかかわらず、ブースターの挙動には何も問題は無い。

 【バスタービームライフル】も破損は無い為、これならもう一発撃てそうだ。もっとも、もう一発撃ってやろうという気力は湧いてこないが。


『やりましたね、ダイチさん! 凄かったですよ』


 ミリアがニコリと笑う。


「そ、そうか……」


 素直にそう言われて、ダイチは照れる。


『私のときと反応が違うわね』


 エリスは面白くなさそうにしている。


『あら、やいているんですか?』

『焼く? そうね、今お肉でも食べたい気分ねえ』


 ミリアとダイチは揃ってため息をつく。


『ダイチさん、これは望み薄ですよ』

「んなこと、言われなくてもわかってるよ」

『……?』


 エリスは首を傾げる。


『ハハハハハ、いやあ愉快やな!』


 イクミは大笑いする。


「笑い事なのか?」


 ダイチは訊く。


『いや、愉快痛快やった! 

なんや、あの威力!? うちはあんな出力で撃てるように調整しとらへんで!!』


「………………」


 ダイチは押し黙る。

 やっぱり、あれはイクミの調整によるものじゃないのか、と。

 そうなると、あの馬鹿げた威力はどこから出ているのか。

 思い当たるのは、フルートのチカラ。冥皇のチカラという底しれぬチカラがあの威力を引き出させているのか。

 スクリーンに【エテフラム】が映し出してみる。


「これを、俺達が……!」


 ダイチは息を呑む。

 あれほど巨大で城のように聳え立っていた【エテフラム】が見るも無残に三分の一が消し飛んでいた。


(台風か……竜巻でえぐりとられたみたいな……いやそれどころじゃない)


 しかも、これは自然現象ではなく、自分達の手で引き起こしてしまった。地球人のダイチと冥王星人のフルートの手で。

 そう思うとたまらなく恐ろしく感じる。多分、フルートの方も。


『そうよ、あんた達が突破口を開いたのよ!』


 エリスは嬉しそうに誇らしげに言う。


『ああ、これで道は開けた』


 ザイアスが通話ウィンドウを開いて言う。


『そんじゃ、全速力で突破するぞ! 振り落とされないように、しっかり捕まってろよ!』


 ザイアスの宣言とともに海賊船の後部のブースターが勢いよく噴射される。


「おうわ!?」


 いきなり速度が出たので、バランスを崩しかける。

 確かにこれは注意していないと振り落とされる。ここまで戦い抜いてきておいて、船から落っこちって逃げ遅れたのでは笑い話だ。

 振り落とされないように足を踏ん張らせ、甲板のマスト部分に手をかけさせる。

 そうしているうちに【エテフラム】がどんどん近づいていく。

 空飛ぶ城としての雄大さとそれをえぐりとった【バスタービームライフル】の惨状が同時にくっきり見えてくる。


(こんなチカラ、俺がふるってよかったのか……?)


 疑問と不安がとめどなくこみ上げてくる。


バァン! バァン! バァン!!


 【エテフラム】に接近している間にも、敵は攻撃を仕掛ける。

 それに対して、海賊船もレーザー砲で応戦するが、心なしか手が緩んでいるようにも感じる。


「怯えているのじゃ、彼等も……」


 フルートは言う。


「怯えてる?」

「うむ、あれだけのチカラを放てる敵に対しての恐れが、妾には手に取るようにわかる」

「なのに、なんで攻撃してくるんだ?」


 ダイチにはそれが不思議に思えてならなかった。

 仕掛けてこなければこっちだって迎撃はしない。戦いあって無駄に生命を捨てるようことを。


「使命感かもしれぬな」

「使命感?」

「奴らにとって、妾は得体のしれぬ化け物というわけじゃが、それを倒さなければ国や主君にどのような害をもたらすわからぬからな」


 フルートは自嘲気味に言う。


「フルートは、お前は得体のしれない化け物なんかじゃない」


 ダイチにはそう言葉をかけることしか思いつかなかった。


「ダイチ……」

「あれを撃ったのは、俺だ……化け物っていわれるんなら俺の方がよっぽど」

「そんなはずがなかろう……ダイチよ、おぬしはヒトじゃ、妾が知っているヒトの誰よりも……」

「へへ、そっか……」


 我ながら不器用な接し方だとダイチは思った。

 フルートの表情が和らいでいるのは間違いなかった。こんな自分にもそのくらいはできたことが妙に誇らしかった。






「止められるのか、突破されてしまうぞ!」


 参謀は大いに狼狽する。


「あれだけの超兵器を見せられて、動揺するなという方が無理な話だ。

……こうなったら、私が出るしかあるまいか」

「アルシャール閣下自らですか!?」


 参謀は驚く。


「それしか、奴等を倒す手立てはあるまい。それにもうじき【バシレイオン】がやってくる。領主陛下の前で無様を晒すわけにはいくまい」

「……う、ううむ」


 参謀は頷きかける。


ピピピピピピピピピピピ!!


 そこに警報アラームが鳴り響く。


「何事だ!?」


 参謀にオペレータへ声を掛ける。

「別方向からの攻撃です! これはレジスタンスです!!」

「なんだと!? 奴らは包囲網を突破して、逃亡したのではなかったのか!?」

「いえ、それが本艦の背後から突如現れまして……」


 オペレータは焦りを現す。

 スクリーンにはレジスタンスの輸送艦とマシンノイドを中心とした部隊が【エテフラム】の部隊に攻撃を仕掛けている様が映る。


「はめられたか……!」

「はめられた、といいますと?」

「ジャミングをかけられていたのだろう。我々に気取られることなく巧妙にな」

「そんなバカな! 索敵班は何を!?」


 参謀は指示を出す。


「はい! レジスタンスの反応は包囲網を突破後に消失し、さっきまで現れることがありませんでした、とのことです」


 オペレータはそう答える。


「なんということだ……!」


 参謀は頭を抱える。


「我々はしてやられたということだ。レジスタンスの迎撃には私が出よう」

「アルシャール閣下!」

「参謀、あとのことは任せる」

「お待ちを!」


 参謀の制止もきかず、アルシャールはブリッジを出る。






『レジスタンスが……【エテフラム】の背後から……!』


 状況を聞いたユリーシャの驚く声がする。


『ハハハハハハハハハ! さすがロバルトはんやな!!』

『だから、本名で呼ぶなぁッ!』


 イクミが高笑いし、ロバルトは赤面して抗議する。


『こ、これぐらいこの混戦状態なら容易い。軌道エレベーターでの経験もあるしな』

『おかげで俺達はすんなりこの国の領空内に入れたからな。感謝してるぜえ』


 ザイアスがニヤリと笑うと、ロバルトは照れ隠しに顔をそらす。


『だ、だから対したことないって!』

『いや、大国のレーダーにジャミングかけるのは、十分凄い芸当だぞ。国が放っておかないだろ、そんな逸材』


 リピートが言う。


『せやから、ずっとシェルターに籠ってたんやで。ウチや仲間のチャットが唯一の娯楽という寂しい子なんや』

『わ、私のプライベートを、かかか、勝手に暴露するなぁぁぁぁぁッ!!』

「なんていうか、可哀想だな」


 ダイチはイクミとロバルトのやり方を見てそう言う。


『そうでしょうか、あれで彼女結構楽しんでいるようにも見えますよ』


 ミリアはそう言う。


「そ、そうなのか?」

「妾にもわからん」


 フルートはダイチに同意する。

 さっきまで敵の艦隊の動揺を把握していたというのに、そういうことは冥皇でもわからないようだ。


『ようし! レジスタンスの援護で突破するぞ!』

『了解ですぜ! 全速前進でいくぜッ!!』


 リピートがそう応えると、海賊船ボスランボは【エテフラム】を横切って、突破する。

 その最中にも【エテフラム】の対空砲が撃ち込まれるが、弾幕と呼ぶにはあまりにもとぼしい。【バスタービームライフル】によって破壊された三分の一の影響というのはそれほどまでに凄まじかったのだろう。


「これで包囲網を突破できたな」


 ダイチは安堵する。


『いや、まだ気を抜くのは早いぜえ』


 キャプテンが即座にそう言ってくる。


「まだ何かあるっていうのか?」

『巨大機動要塞【パシレイオン】。そいつがもうじきやってくる』

「きょ、だい、ようさい?」


 ダイチはその大仰な冠に息を呑む。


「うむ、確かに巨大じゃな。昨日食ったパフェのようなスケールじゃ」


 フルートには、スクリーンを介さず、それが視えているようだ。


『それがこいつや!』


 イクミが、パチンとあるはずのないキーボードを叩くように打音を鳴らして、スクリーンを映し出す。


「……これは……!」


 ダイチは、その威容に圧倒される。

 スクリーン越しではあるものの、【エテフラム】を超える巨大さは十分伝わってくる。

 【エテフラム】はまるで空飛ぶ城みたいだと感じたが、【パシレイオン】は山みたいだと思った。

 峰は雲海に向かってそびえ立ち、その山を支える大地のような鋼鉄の基地が空を飛んでいる。


「なんで、こんなものが……!」


 そう言わずにはいられなかった。

 せっかくこの戦場を切り抜けて、命からがら脱出できたというのにこんなのがやってくるなんて。


『このままだと俺達はこいつと正面衝突しちまうぜえ』

「そんな! なんとかならないのかよ、キャプテン!?」

 正面衝突なんてしたら、ひとたまりもない。

 山と船がぶつかったら、船なんて木っ端微塵になるのは間違いない。そもそも衝突という言葉が成立する大きさの話ではない。


『なんとかならないこともない』

「本当か!?」

『いっそ、このまま正面衝突するんだよ!』


 ザイアスは得意満面に言う。


「は、はあああ!?」

『いいわね、背中向けて逃げるよりよっぽどいいわ!』


 エリスは大いに乗り気で同意する。


「おいおいおい、本気かよ!?」

「ダイチよ、こやつらも大概畏れ知らずの化け物じゃな」


 フルートは逆に感心してしまう。


『いいじゃねえか! どうせならとことんやってやろうぜ!!』


 デランも大乗り気であった。


「ああ、俺もそう思う。化け物ばっかで安心するよ」


 ダイチは皮肉をぼやき、フルートは笑う。


『よし、それじゃあ行くぞ!」


 ザイアスはキャプテンらしく、大航海時代にかじを取る船長のように行く先を告げる。


『目標・巨大機動要塞【パシレイオン】、クリュメゾン領主ファウナ・テウスパール!!』

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