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オービタルエリス  作者: jukaito
第4章 ケラウノスパイデス・オラージュ
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第88話 海賊船は嵐を往く

「マイナ、そっちへ行ったぞ!」

「わかってるわよ!!」


 デランは【クライス】のブレードで、マイナは【アシガル】のランスで、次から次へと押し寄せてくるソルダの大軍にそれぞれ対処する。


「まったくキリがないわね!」

「だが、これぐらいの方が戦いがいがあるぜ!!」

「私、あんたみたいな戦闘狂じゃないんだけど!」


 文句を言いつつも、マイナはランスで敵を倒す。


「やるな!」

「デラン、そっち行ったわよ!」

「おう!」


 デランはブレードを振るう。

 水星人のマイナと金星人のデラン。

 捕らわれた火星人とは何の関わりもない。だけど、木星人の理不尽な支配によって殺されようとしているのを見捨ててはおけないし、すっかりこの戦争に巻き込まれ、関わっている。

 エリス達を助け出し、海賊船で安全圏へ行き、手を引くつもりだったが、迅速に形成された包囲網によってそれは出来なくなった。

 最後までこの戦争の行く末まで見届けなければならない。そんな運命を感じる。

 だからこそ、戦って生き延びなければならない。


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」


 【クライス】のブレードで一閃し、ソルダの装甲を切り裂く。

 それでも、次から次へと敵はとどまることをしらず押し寄せてくる。


――目標・宇宙海賊!


 その一つの意志のもとに、数多の敵がやってくる。


(くそ、数がやたら多い!)


 まさに木星の巨大さを彷彿させる大軍にデランは心の中で吐き散らす。

 デランが幼い頃、火星、水星、金星の同盟軍と木星、土星、天王星の同盟軍との星間戦争があった。

 戦いの詳細は幼いデランには知る由もなかったが、火星、水星、金星は敗れ、火星と金星の都市は戦火に焼かれた。

 その戦争で、金星最強の騎士団といわれたワルキューレもデメトリア一人を残して全滅したときく。

 戦争当時のワルキューレの実力はデランの知る由は無いが、今のアグライアやレダと同じ程の実力者だったことは容易に想像がつく。


(神の雷、ケラウノス! それに、これだけの大軍と真正面にぶつかったら!)


 その彼女達が敗れたという事実はにわかに信じ難かったが、その木星の戦力の一端がこの戦いから見えた気がする。


(だが、俺は負けねえぞ!!)


 デランは闘志を燃やし、敵を斬り裂く。


「いくらでもかかってこい!!」


 そう啖呵を切った途端に、感じ取る。


――あいつが偉い奴か!


 即座にブースターを吹かせて、一直線へ向かっていく。

 その先にいた機体はジェアン・リトス。紛うことなき部隊長機であった。


「でぃぃやぁぁッ!!」


 必殺の勢いで突撃をかまし、斬りかかる。


キィィィィィィィィン!


 それをジェアン・リトスはビッグブレードで真っ向から受け止める。

 さすがに部隊長機だけあって、デランの突撃を見事に凌ぎ切り、プラズマライフルで反撃に転じる。


「おっと!」


 これをデランはさらに突撃しつつ、かわす。今の彼に後退の文字は無かった。


(こいつ、強い!)


 強敵との戦いに心躍らせる。

 そして、こういう敵の戦いの先にこそ勝利への活路があるものと信じて疑わなかった。






「ブラックレーザー!!」


 エリスはフォルティスの肩から黒いレーザーで、ソルダやシュヴァリエを撃ち抜いていく。


「エリス、上から二十、下から三十、来ます!」

「ああ、もう! まずは下からよ!」


 即座の判断でフォルティスの足に力を込める。


「うんうん、ミリアの情報処理とエリスの即断即決は完璧やな!」


 イクミは満悦顔で言う。


「ぼやぼや喋ってると舌噛むわよ!」

「わかってるちゅうに! そっちも音声入力しっかりやりなはれよ!」

「言われなくても!」


 フォルティスの足に取りつけられたビーム砲を下方の敵へ向ける。


「ブレイザーレグ!!」


 超高熱のビームが群がる敵を薙ぎ払っていく。

 しかし、ビームやレーザーを撃っていくうちに押し寄せてくる大量の敵のうち何体かくぐりぬけて接近してくる。


「パァァァァンチ!!」


 そんな敵は即座にエリスの、もといフォルティスの剛腕の餌食になる。


「あんた達も戦いなさいよ!!」


 エリスはミリアとイクミに向かって怒鳴る。


「それでは、これを使ってよろしいですか」


 疑問形では無かった。


「かまへんよ。今は出血大サービス中やからな」

「それでは敵に血を吐いてもらいましょう

――ファイアバット!」


 ミリアの一声で、フォルティスの背面に取り付けられていた蝙蝠の羽を模した遠隔操作型の小銃が飛び出す。

 それらはミリアの脳波によって、敵の周囲へ飛び回り、発砲する。


ズゴォォォォン


 ファイアバットによって上にいた敵が瞬く間に撃墜されていく。


「なるほど、これは便利ですね。自分の分身みたいに動いてくれます」

「ミリアにおあつらえ向きの武装やろ!」


 イクミは得意満面の笑みで言う。


「それじゃ、上の敵は任せるわよ!」

「はい、お任せください!」


 エリスとミリアのごく自然な掛け合いであった。

 気合は入っているものの、気負いは感じない。

 心身ともに充実した状態といえる。


「うんうん、これなら安心やな」」


 イクミは腕を組んで観客のようにエリス達の戦いぶりを見ていた。


ドゴォォォォォォォォォン!!


 そこへ後方から雷鳴のごとき砲弾が鳴り響く。

 海賊船からの援護射撃だ。

 フォルティスが迎撃に入ってからの死角をカバーするように的確に撃ってくれている。


「やりますね、宇宙海賊!」

「包囲網を突破するんだからこれぐらいやってもらわないと!」


 エリスはそう言いつつ、また一機ソルダを剛腕で打ち砕く。


「そこよ! フォーカスビーム」


 さらにその背後から気を伺っていたもう一機のソルダを目からのビーム砲で撃ち貫く。

 いかがわしさとゴテゴテしさが合わさったマシンノイドなのだが、ヴァ―ランスを遥かに超えるパワーと頑強さ、豊富な内蔵武装、さすがにイクミの自信作だけある。

 これなら大軍と十分渡り合える。






「いけ、ダイチ!!」

「おう!」


 フルートの掛け声とともに、ダイチはブレードで斬り裂く。


「その調子じゃ! 追加でソルダ三機来とるぞ!!」

「斬っても斬ってもキリがねえな!」


 ダイチはブレードからハンドガンへ持ちかえて応戦する。


ドゴォォォォォォォォォン!!


 海賊船からの援護射撃のおかげで前方への敵だけに集中できる。


「ありがたいぜ!」

「これほどの戦力差でも渡り合えるとはのう! あっぱれな宇宙海賊じゃ!!」

「俺達も負けないようにな!」

「うむ! もっとパワーを上げるんじゃ!」

「おお!?」


 フルートが言った直後に、ヴァ―ランスのパワーが引き上がるのを実感する。


(やっぱりフルートのチカラなのか?)


 いくらイクミがカスタマイズしたとはいえ、ヴァ―ランスのカタログスペックを遥かに超えているはず。

 GFSは、操縦者の遺伝子情報を読み取って機体を身体の延長のように最適化してくれるシステム。もしも、フルートの遺伝子がヴァ―ランスに反映されているのだとしたら。


――星をも滅ぼしてしまいかねない冥皇のチカラがこの機体に備わり始めるのなら。


 戦争どころの話じゃないと思いつつも、今は生き残ることだけを考えらなければ生き残れない。そういう土壇場の戦場に来ているはずだ。


(今は考えるな! 考えてるヒマなんてないんだ! 戦い抜くんだ!!)


 ダイチは背面のパックからバスタービームライフルを取りかける。


「あ……!」


 軌道エレベーターの時の惨状を思い出す。

 バスタービームライフルから放たれた光が敵であろうと容赦なく飲み込み、軌道エレベーターまでも破壊してしまった。味方を巻き込まなかったのは幸運でしかない。

 もう一度、今ここで使おうものならエリスやデラン達、それどころか守るべき海賊船まで飲み込んでしまうかもしれない。


「どうしたんじゃ、ダイチ!?」

「ダメだ、これだけは使っちゃダメだ!!」


 ダイチはアサルトランチャーに持ちかえる。

 そして、アサルトランチャーからミサイルを発射する。


バァァァァァァァァン!!


 威力はあるが、ありすぎるということはなかった。


「おお、いい調子ではないか!」

「いい調子、ね」


 大はしゃぎするフルートに対して、ダイチは釈然としないものが少しだけこみ上げてくる。


ピコーン!


 そこへザイアスからの通話が入ってくる。


「よお、調子がいいようだな」


 ザイアスはすっかりいつもの人を食ったような調子であった。


「キャプテン! こんな時になんだよ!?」

『ここが勝負どころだと思ってな』

「勝負どころ!?」

『お前等甲板につけ!』


 キャプテン・ザイアスの号令は海賊船の周囲を護衛するマシンノイドの操縦者達に号令をかける。

 いきなり、なんで? と、ダイチが疑問に思ったが、すぐにザイアスは説明してくれる。


『これより、本艦は【エテフラム】へ突撃する。巻き込まれたくなったら速く乗り込め!』

「突撃!? そんな無茶な!」

「じゃが、あの男ならやりかねんぞ」


 フルートの言うことももっともだ。

 ブランフェール収容所襲撃のときも無謀ともいえる海賊船一隻による一点突破で切り抜けたのだ。

 今回もそれでいくつもりなのだろう。

 もう一度上手くいく保証があるのだろうか。戦力はあのときよりも遥かに強大だというのに。


「――!」


 ダイチには海賊船に掲げられたドクロの旗が目に入る。

 あれは宇宙海賊としての信念の象徴。

 どんな困難だろうと立ち向かって必ず乗り越える決めた男だけが掲げられる海賊旗だ。


「了解した! いくぞ!」

「おう!」


 きっとキャプテン・ザイアスなら出来るはずだとダイチにはそう信じられた。






「海賊船が突撃を始めました」


 カラハがギルキスへ報告する。


「よし、手筈通りだ! 我々も動くぞ!!」


 収容所の格納庫で待機していたレジスタンスの部隊が一斉に動き出す。

 先鋒は一番隊の指揮権を預かる二番隊長のコンサキスが務める。


「俺に続け! 何としてでもここを突破するぞ!!」

「「「おおぉッ!!」」」


 号令を飛ばし、一気に進撃を始める。

 目指す先は包囲網の側面部。

 包囲網の中心へ向かう海賊船とは対照的であった。







「レジスタンスが攻撃を開始しました! 包囲網の突破を試みるつもりのようです!」

「海賊船は本艦に攻めてきます!」


 オペレーター達から報告が入ってくる。


「別々に攻めてきたか」


 アルシャールは戦況を見つめる。

 海賊船はこの【エテフラム】へ突撃し、レジスタンスは別方向の包囲網の突破を試みる。


「ならば協力していることはないか」

「海賊船が接近し始めてきました!」

「戦力をこちらに集中させる必要があるな。第三師団、第四師団をこちらに引き寄せろ!」


 アルシャールはオペレーターに指令を言い渡す。


「ですが、それでは反対側の包囲網が手薄になります」


 背後に控える参謀長が異議を申し立てる。


「いや、今はそれより海賊船を叩くことが先決だ。ブランフェール収容所の防衛戦力を突破せしめたケラウノスを侮るわけにはいかない」

「確かに」

「いざとなったら、【メラン・リュミエール】を使用する」

「――!」


 アルシャールの一言に参謀長は狼狽する。


「しかし、あれは我々の判断では!」

「許可はファウナ様からいただいている。充填準備に取り掛かれ!」

「承知しました!」

 参謀長は敬礼する。

「……【メラン・リュミエール】」


 アルシャールは、忌々しげにその超兵器の名を口にする。

 それは、海賊船どころかブランフェール収容所そのものを消滅させうる、領主の許可が無ければ使用することは叶わない超兵器であった。

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