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オービタルエリス  作者: jukaito
第4章 ケラウノスパイデス・オラージュ

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第70話 急転直下

ピコン!


 ダイチの目の前にウィンドウが開く。


『ダイチはん、よく戦いよったな』


 イクミからの通信だ。


「イクミか! この機体、運び込んでくれて助かったぜ!」

『いやいや、お礼を言うのはこの修羅場をかいくぐった後やで』

「ああ、そうだな。その通りだ!」


 ダイチは応じる。

 修羅場。確かにそう言っていい状況だ。

 だが、既に辺りは取り囲まれているが、全てが敵というわけではなかった。


「おおぉぉぉぉぉぉぉぉッ!! オォォォォォル・ドラゴォォォォン!!」


ピカーン!!


 いきなり雲の下から雷をまとった黄金の竜が舞い飛ぶ。

 その前に立ちはだかるソルダやシュヴァリエ達を次々と落としていく。


「あれは……!?」

「ケラウノスじゃ!」


 フルートに言われるまでも無く、かなり距離が離れているにも関わらず、その神の如き威光を示す力はそれ以外に考えられなかった。


「ということは、領主が来ているのか!?」

『せや! 奴は南の領主ツァニスや! もうここまで進撃してきたんか!?』

「南の領主……!」

『チャンスやで、ダイチはん!』

「ああ!」


 ツァニスのケラウノスにより凄まじい進撃で、場は混乱している。

 今なら突破して脱出できる。


「正面を全速力で駆け抜けるんじゃ!」

「おお!」


 ヴァ―ランスのブースターを吹かせる。思ったよりも出力は出ている。

 さっきのシュヴァリエの戦いもそうだったが、ブースターの出力が格段に上がっている。これはイクミの改造の賜物なのか、それとも――。

 考えるのは後だ。今はありがたいことなのだ。

 全速力で駆け抜け、軌道エレベーターの屋上から逃れようとしたところで、その動きに気づいた奴がいる。


「――ジェアン・リトス!」


 昨日のスクリーンにも映し出されていた配備されたばかりの高価格にして高性能を誇り、師団長が駆るマシンノイド。一目見て、シュヴァリエよりも巨大で風格のある風貌にダイチは気圧される。

 こいつが戦場を緊急離脱する気配を感じ取って立ち塞がってきた。


「そこの所属不明機、逃がさんぞ! 大人しく投降しろ!!」


 スピーカーから警告が発せられる。

 その声には威厳があるが高圧的で、思わずビクッと震える。

 だが、だからこそダイチの反抗心に火がつく。


「投降なんざしてたまるか!」


 そう言い返すと、ジェアン・リトスはライフルを取り出す。


バァン!


 そして、プラズマ弾を撃ち出してくる。


(あれに当たったらまずい!)


 ダイチの本能が危険信号を発してくる。急旋回して、プラズマ弾をかわす。


ドガァァァァァァァン!!


 プラズマが爆裂し、屋上の床を大きく吹き飛ばす。

 間違いなく直撃したらヴァ―ランスといえどもただでは済まない。


「警告はした! 撃ち落とされても文句あるまい!」


 撃ったジェアン・リトスから発せられる声はどこまでも高圧的で苛立たしいものであった。


「誰が撃ち落とされるかよ!」

「そうじゃ! 撃ち落とされるのはおぬしの方じゃ!」


 フルートが啖呵を切る。ダイチに代わって、と言いたいところが正直ちょっと余計なことまで言っているような気もする。


「死ねえッ!!」


 ジェアン・リトスはさらにプラズマ弾を撃ち出してくる。

 それを食らうまいとヴァ―ランスのブースターを吹かして、全速力で回避する。


バァァァァァァン!!


 駆け抜けた先が片っ端から吹き飛んでいく。


「出力が足りんのじゃな、これでは勝てんぞ!」

「わかってる! だけど!」


 出せるブースターの出力、機体のサイズ差、武器の性能差、何もかもが敵が上。これがいかんともしがたい現実だった。


バァァァァァァン!!


 プラズマの爆裂で吹き飛ばされかける。

 だんだん、照準が合ってきている。

 動きが読まれている。次は当てられるかもしれない。


「くッ!」


 次はどうしたらいいか。その一瞬、判断に迷っての硬直が敵に付け入る隙となった。

 ジェアン・リトスから距離を詰められて、金属水素を加工したビッグ・ブレードを振るう。


キィィィィィン


 強烈な斬撃を咄嗟に両手のブレードで受け止めるが、衝撃は殺すことができず、操縦席のダイチにまで伝わってくる。


「……がはッ!」


 受け止めたブレードごと腕を斬られたような痛みにとらわれる。

 今のはよく受け止めたとは思うが、もう一撃来たら確実に縦に真っ二つにされる。


「ダイチ、操縦桿を妾によこすんじゃ!」

「フルート、何を?」


 フルートは強引にダイチの手をどけて、操縦桿を取り、コントロール権を乗っ取る。


「妾は冥皇じゃ。あの程度の機体に後れを取るものか!」


キュイン!


 システムウィンドウに【UNKNOWN】の文字が浮かび上がる。

 GFSがフルートを何者なのか認識できずにエラーを起こしている。


「ええい、言うことをきけい!」


 そんな不具合に対してフルートは癇癪を起こす。


ピコン!


 それが通じたのか、今度は【All Clear】の文字が出てくる。

 何にしても、これでヴァーランスはフルートの意志で動くようになった。


「お、おい、待て!」

「待っておれん!」


 ダイチの制止を聞かず、ヴァ―ランスのブレードを振るう。


ガキィィィィィン!!


 ジェアン・リトスのビッグ・ブレードを弾き飛ばした。

 その今までに無かった圧倒的なパワーにダイチは驚愕する。


(イクミの改造のせいじゃなかった、妙な出力パワーは!?)


 フルートが一緒に乗っていることで起きていた現象なのだと認識する。しかし、何故なのかまではダイチには理解できない。


――GFSはマシンノイドを操縦者の遺伝子情報を受け取って、身体の延長として最適化してくれるシステムだ。


 確かそんな説明を受けた気がする。

 つまり、これはフルートの冥王星人としての遺伝子情報を受けた結果なのかもしれない。

 さっきエアバイクにとんでもない力を与えたフルートの不可思議な力ならそれも有り得る。


「ゆけ、ブレードッ!」


 フルートはそんなダイチの戸惑いなどお構いなしにヴァ―ランスを操る。


ザシュ!


 ブレードを一閃して、分厚い鎧を彷彿させる金属水素の装甲に亀裂を入れる。

 ヴァ―ランスのブレードは、ジェアン・リトスの巨大さに比べたらナイフどころか針といってもいい。にも関わらず、そのジェアン・リトスに亀裂と呼べるほどのダメージを与えた。

 ダイチが操っていた時とは桁違いのパワーが発揮されていることを如実に物語っている。


「すげえ! すげえ、けど……!」


 このパワーならばこの窮地を脱する事ができる。

 それなのに、ダイチはその事実を素直に喜べない。エアバイクのときもそうだったが、フルートはこの強大な力を制御しきれていない。それで危うく軌道エレベーターに激突しかけたのだ。


 このヴァ―ランスだって同じことが起きないとも限らない。


 いや、それよりももっとやばいことになってもおかしくない。

 エアバイクのときのようにブレーキでギリギリのところで止まるような奇跡がまた起きることなく、このヴァ―ランスがそのパワーを制御できずにバラバラになる、という破滅。


「おい、フルート!」


 そう考えると止めずにはいられない。


「まだじゃ!」


 しかし、フルートは聞く耳をもたず、ヴァ―ランスを操って追撃をかける。


ザシュ! ザシュ! ザシュ!


 ジェアン・リトスを装甲をあっさりと斬り裂いていく。

 さっきまで、ダイチが操縦していた時のパワーでは亀裂どころか斬ることすら出来なかっただろう。

 それだけ今のヴァ―ランスの出力は桁違いで、それゆえにダイチの不安も歯止めがきかない。

 これは明らかに強すぎて身の丈に合わないチカラだ。


「フルート! おい、フルート!」


 ダイチは必死に呼びかけるが、フルートはまったく返事しない。


「せいいいいいやああああああッ!」


 気合の叫びを上げて、ブレードでジェアン・リトスを斬り裂く。


「そんなバカなぁぁぁぁぁッ! あんな虫けらにやられるはずがあるわけがぁぁぁぁぁぁッ!!」


 ジェアン・リトスの操者の悲鳴がけたたましく鳴り響く。

 正直聞くに耐えない騒音なのだが、それを聞いてクリュメゾン軍が集まってくる。

 まずい。ただでさえこのジェアン・リトスとフルートのチカラで危機的状況だというのに、敵が集まってきたら確実にやられる。


(どうする!? どうしたら!? どうすればいいんだ!?)


 焦りが募っていき、どんどん状況が悪くなっていく。


ピコン


『よお、調子はどうだい?』


 そこに見覚えのある眼帯をつけた男がウィンドウで現れる。


「キャプテン!?」


 宇宙海賊の船長ザイアスであった。


『困っているようだから手を貸すぜえ』

「手?」


 ザイアスがニヤリと笑って言う。


ババババァァァァァン!


 その直後、雷鳴のような砲撃が轟き、クリュメゾン軍を撃ち抜いていく。


「なに!? なんだ、あれは!?」


 これには東軍を率いてクリュメゾン軍を蹴散らしていたツァニスも驚愕する。


「海賊船……」


 誰かがそう呟いた通り、木星の空よりもさらに高い宇宙空間から帆船を模し、ドクロの旗を掲げる海賊船が舞い降りてきた。

 あれは宇宙海賊キャプテン・ザイアスが駆る海賊船ポスランボであった。


「なんで、キャプテン達が……?」

『うちが呼んだんや! 驚いたか!?』


 ダイチの疑問に即答するイクミは得意満面だ。


「いや、それより……」

『ああ、事情は大体そっちのお嬢ちゃんから聞いたが、どうにも見てみぬフリできる状況じゃなかったからなあ。お前達に協力してやるぜえ』

「協力……?」

『そいじゃ、砲撃第二弾、いくぜ!!』


 ザイアスは景気よく言うと、海賊船から砲撃の雨が降り注ぐ。

 しかし、狙いは極めて正確でクリュメゾン軍の機体だけを撃ち抜いていく。


「たった一機の海賊船に、戦場が引っ掻き回されるとは!? なんなのだ、あれは!?」


 黄金の竜ともいうべきマシンノイド【ヴィラージュ・オール】の操縦席からツァニスは狼狽する。

 突如として現れた正体不明の奇抜なデザインの戦艦が敵であるクリュメゾン軍だけを薙ぎ払っていく。味方なのか、と思ったが、あのような戦艦に心当たりは無い。


「あれは、もしや……」


 傍らにいたジェアン・リトスを駆る側近が言う。


「知っているのか!?」

「アステロイドベルトで暴れ回ってていると言う宇宙海賊ではないでしょうか?」

「宇宙海賊だと!? 何故、そんな奴がここに!?」


ピコン!


 ツァニスの疑問に答えるようにウィンドウが開く。


『ツァニスの坊や。久しぶりだな』

「あ、あなたは……!?」


 その風貌に見覚えがあった。

 眼帯をつけているが、瞳に宿るギラついた眼光、野性味の中にわずかに気品が感じられる。


「何故、あなたがこのタイミングで?」

『細かい話はあとだ。ひとまずこのエレベーターの制圧には協力してやる』

「は、はあ……」


 ツァニスが返事をする前に、通信相手は通話を切る。


「……まさか生きていた、とは……!」


 ツァニスは驚きのあまり、しばし呆然とする。その戸惑いが南軍に伝播し、進軍が止まる。


「フルート! 聞いてるか、味方が来てくれたんだ! 逃げるぞ!」


 一方のダイチは状況が変わったことをフルートへ告げる。


「じゃが、この敵を倒さぬことには!」


 しかし、フルートの目には自分達を倒そうと襲い掛かってきたジェアン・リトスを倒すことしか頭にない。

 だけど、今はそんなことをしている場合じゃないし、フルートにチカラを使わせ続けるのは危険だ。


「俺にコントロールを返せ!」


 ダイチは辛抱たまらず、操縦桿を握るフルートの手を振り払う。


「なッ!?」

「お前はチカラを使うな! ここは俺に任せてくれ!」

「ダイチ……」


 ダイチの必死の物言いに、フルートは落ち着きを取り戻す。


「一気に離脱するぞ! 」


 ダイチはブースターを点火させて、飛び立とうとする。


「逃がすかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」


 そこへジェアン・リトスがプラズマ弾を撃ち出す。

 これにはダイチは完全に不意を打たれたが、大声のおかげで気づけて急旋回する。


バァン!


 至近距離でプラズマが爆裂し、吹き飛ばされる。


「おおぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」


 直撃は避けられたものの、衝撃が大きい。それを歯を食い縛って、ブースターを操作して姿勢制御に努める。


「もらったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」


 その姿勢制御の隙を好機と見たジェアン・リトスは一気に飛び込んでくる。


「――!」


 巨人の威容を持つジェアン・リトスからサーベルが振り下ろされる。


ガキィィィィィン!!


 ダイチはとっさにヴァ―ランスのブレードで受けるが、衝撃を殺しきれず、軌道エレベーターから落下する。


「このくそッ!」


 ブースターを全開にして持ち直そうとするが、ジェアン・リトスはしつこくサーベルで振りかざして押してくる。


「落ちろよぉぉぉぉぉぉッ!」


 その執念は凄まじく、共に雲海へ落ちることになることもいとわず、さらにパワーを上げてくる。

 サイズ差、重量差、パワー、全てにおいてヴァ―ランスを遥かに上回っており、ブースターを全開にしても押し返せず、ひたすらに雲海へ飲み込まれていく。


ピカーン! ゴロゴロゴロゴロッ!!


 雷が轟き、濁流のごとき大気の流れに飲み込まれていく。


「く、これはまずいなッ!」

「やはり、妾のチカラを使って!」

「いや、それはダメだぁッ!」


 フルートの提案を蹴って、ダイチは力の限りブースターを吹かせる。

 しかし、GFSによって拡大された感覚は、木星の雲海の嵐を直接感じ取っているかのようにダイチの身体を苦しめる。ただ、それでも、フルートのチカラは使ってはダメだと本能が告げる。

 あのチカラを使わせないためにも、なんとしてでもここで踏み止まらなければならない。


「頼むぞ、ヴァ―ランス! 力を貸してくれぇぇぇぇぇッ!」


 ダイチの気合の叫びで力を入れる。


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」


 ただ、それでもジェアン・リトスとのパワー差は覆しようがなく、雲海の底へと落ちていく。


「ダイチ、このままでは!」

「いや、これでいいんだ!!」


 ダイチは叫びを上げて、逆噴射する。

 雲海の底へ! 底へ! 底へ! 一直線に突き抜ける!

 ジェアン・リトスの操者は勢いを全く衰えさせることなくサーベルを押し出す。

 一瞬でも気を抜いたら、ブレードは折れてヴァ―ランスごと真っ二つになる。そうなったら雲海の嵐に無防備で放り出されて生きていられなくなる。あらゆる環境に適応できるこの地球人のエヴォリシオンをもってしても、木星の雲海は過酷すぎる。

 ゆえに一瞬も気が抜けない。

 力を入れすぎず、抜きすぎず、絶妙な力加減でもって文字通り流されるままに雲海の底を目指して落ちる。

 どのくらいこうして落ち続けただろうか。

 これだけ長い時間、生命の危険を晒して戦い続けたのはダイチは初めてであった。


「くぅぅぅ、おぉぉぉッ!」


 システムによって、ダイチとヴァ―ランスの腕は完全に連動しており、ジェアン・リトスの巨大なサーベルを受け続けたせいで痙攣し始める。


「ダイチ、もってくれよッ!」

「ああッ!」


 フルートの声に応える。

 もう限界でダメか、と思いかけた絶妙なタイミングであった。

 この声がもうひと踏ん張りのチカラをくれる。機体を突き動かした強大で途方もないチカラとはまた別の、あやふやだけ心強さをくれる確かなチカラ。これがあるから戦える。


「まだだ! まだもつぞッ!」


 ダイチは声を張り上げて、精一杯の強がりとともに力を振り絞る。


ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロ!


 雷光が瞬き、雷鳴が轟く。

 モニター越しでも、目を、耳を、肌を、文字通り焼きつけてくる。

 そして、見上げると雷光に照らされるジェアン・リトスの黄金の装甲が神話の巨人を彷彿させる。


(怖がるな! 恐れるな! あれはヒトが造り出したマシンだ! 神なんかじゃない、ヒトで倒せるマシンだ!)


 ダイチはそう自分に言い聞かせる。

 雷光に照らされ、全身を震わせる度に勇気を奮い立たせる。

 機体が悲鳴にも似た軋みを上げる。サーベルを受け続けるブレードの方もひびが入り限界が近づいてきている。


「もう少しだけ、もう少しだけ、もってくれ!」


 祈るような気持ちで、ブレードに、ヴァ―ランスに語り掛ける。


「そうじゃ、もう少しじゃ!」


 フルートの声で確信する。

 雲海の底はもう近い、と。


「おおぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」


 ダイチはブースターをさらに逆噴射させる。

 やがて、雲が晴れ、軌道エレベーターの山々が見えてくる。

 とうとう雲海を突き抜けたのだ。


「よし!」


 すぐさまダイチはブースターを切って、自由落下する。


「なにぃぃぃぃぃぃッ!」


 急に落下したせいで、ジェアン・リトスのサーベルは空を切る。

 落下したヴァ―ランスは軌道エレベーターを蹴りつけて、ブースターを噴射させる。


「おりゃぁッ!」


 ヒビの入ったブレードで思いっきり亀裂の入った装甲へ叩きつけてやる。


パリィィィィン!


 二つのブレードは砕け散って、破片が空へ舞い散る。

 ダイチはそんなことも気にせず、バックからハンドガンを取り出して撃ち出す。


「がぁぁぁぁぁぁぁッ!!」


 フルートのチカラによる強力な攻撃、雲海を無理に突っ切ったダメージ、ブレードを思いっきり叩きつけた一撃、そして、至近距離からのハンドガン連射。

 溜まりに溜まったダメージによってとうとう装甲は限界を迎える。

 鎧を思わせる装甲が弾けて、熱煙を上げる。


「まだだぁッ!」


 ただ、それでもジェアン・リトスは止まらない。装甲は砕け、操縦席は剥き出しになっても、執念の猛追をかける。


「――!」


 どうしてそこまでの執念を向けられるのか。

 ダイチにはまるで心当たりが無かった。

 軌道エレベーターに侵入し、守るべき場所を侵したことは確かに悪いことだったかもしれない。ただそれはちゃんとした目的があってのことだ。

 なのに、何故彼は親の仇のように追いかけまわすのか。


「ダイチよ、やらなければやられるぞ!」

「わかってる!」


 ダイチは反射的に答える。

 バスタービームライフル。手持ちの武器の中で最も出力のあるライフルだ。これならばジェアン・リトスもその恐るべき執念ごと倒すことが出来る。


「くッ!」


 だが、それを撃っていいのか。敵とはいえ、ヒトの生命を奪ってもいいものなのか。

 躊躇いが引き金を引こうとする手を止めさせる。


「いかん、ダイチ!」


 フルートの警告でダイチは身をひるがえす。

 直上からシュヴァリエがライフルを構えている。


(――まずいッ!)


 そうダイチが思ったと同時に、ライフルは放たれる。


ガシャァァァン!


 反射的に旋回した避けられたものの、右のウィングを吹き飛ばされた。


「がぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」


 背中を撃たれたかのような痛みがダイチを襲う。


「ダイチ!」

「まだ、まだだ!」


 ブースターを吹かしてなんとか立て直す。

 見上げるとシュヴァリエが自分を仕留めるために、さらにライフルを構えている。


(また、こいつが……! 俺を……!)


 悪夢のように何度も繰り返し立ちはだかってくるその姿は、ダイチの目には悪魔に映った。

 動かなければ! 避けなければ、今度こそやられる!

 そう思っても、身体は動いてくれない。ライフルで背中を撃ち抜かれた焼きつく痛みとここまで戦い抜いてきた疲労によって、身体のコントロールがままならず、それがGFSを伝って、ヴァ―ランスの落下に繋がっていく。


「――もうよい、後は妾に任せよ」


 朦朧とした意識の中、フルートの声が妙にはっきりと聞こえた。

 すると手が操縦桿から離れ、フルートの元へ行く。


「ダメだ、フルート……! そのチカラを使っちゃダメだ……!」


 かすれた声でダイチは必死に呼びかける。


「じゃが、こうするしかないのじゃ!」


 フルートはその制止を振り切ってバスタービームライフルを発射する。


バゴォォォォォォォォォォン!


 その時、ライフルの発射音が雷鳴よりも遥かに力強く轟いた。

 その次に光の柱がライフルの発射口から立ち昇る。あたかも竜が滝を登るかのような凄まじい勢いで柱は軌道エレベーターを伝ってシュヴァリエを飲み込み、滅ぼす。

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