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オービタルエリス  作者: jukaito
第3章 リッター・デア・ヴェーヌス

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第50話 アングレスの要求

 ホテルの一室でアングレスはしばし休息をとってから、通話をかける。


『首尾は上々のようで何よりね』

 通話のウィンドウから外套のヒトが顔を出す。いや、顔は隠れて見えないので実際出てきたのは外套なのだが。


「ああ、あまりにも上手く行き過ぎて退屈しそうになっていたところだ」

『予定外のことがあったということか。大方、グラールの一回戦で思わぬ苦戦をしたってところ?』

「さすが。察しがいい」

『みていたから』

「なるほど」

『それとフェストの方は予定通り明日行動にうつるとか』

「予定通りというより、少々遅れていますね。ノヴァリーゼは予定以上にメンテが面倒みたいで」

『話を聞く限り、相当な騒ぎになるのだとか。それでも、今日みたいなワルキューレ・グラールの騒ぎほどではないと思うが』


 アングレスは得意気に言う。


「とっておきのサプライズだったから。しかし、本番はこれからだ」

『勝ち続けなければこの仕掛けも意味がない。下手をすれば父親の立場も悪くなるのだから』

「勝ち続けるさ」

『あなたの快進撃を期待しているわ』

「そうだ。賭けをしないか」


 アングレスは指を一つ立てて言う。


『賭け?』

「俺が優勝したら、その素顔を見せてくれないか?」

『………………』


 外套は少し考える。


『いいでしょう。ただし、あなたが負けた場合、あなたの手をいただくわ』

「手? 変わったもの……いいだろう、どの道、俺が優勝するのだから何を賭けようが関係ない」

『…………クス』


 それを聞いて、外套は少し笑った。




 その夜、ダイチとデランはホテルに仮設されている闘技場で組手をしていた。


カキィィィィン!


 剣と剣が打ち合う甲高い金属音が鳴る。


「よし!」


 デランはその中で手応えを感じる。


「いい調子だな」

「……ああ、ベストだ」


 デランは鞘にしまう。


「ありがとな、最後の調整に付き合ってくれて」

「俺だっていい勉強になってるよ」

「ああ、そうだったな。お前もだんだん強くなっているぞ」

「そうか。そうだったら嬉しいな」

「まったく不思議なやつだよ。打ち合う度に強くなっていくんだから」


 デランの笑顔でそう言われると嬉しかった。


「そうか、へへへ。じゃあ、痛い想いしてる甲斐があるぜ」

「だけど、まだまだ俺の方が強いぜ!」

「な、なんだと!?」

「事実だろ! 悔しかったら俺に左手を使わせてみせろよ」

「く……!」


 悔しいが、そこまでは出来なかった。


「お前の左手、とんでもない凶器だよな」

「ああ、ガキの頃は剣なんて持ってなかったからな。素手一本で戦ってたらいつの間にか身についちまった」

「……いつの間に、か」


 ダイチは感慨深く言う。

 ハルトアルム――左腕が一本の剣になる能力。しかも切れ味が良すぎるため、加減が難しくここ一番の勝負にしか使えない。相手を殺してしまう危険があるせいだ。

 一回戦はこれを使わなければ負けていた。聖騎士リミエッタはそれほどまでに強敵だった。

 俺もそれぐらい強くなれたら、と、思わずにいられない。


「そういえば、お前の能力聞いてなかったな。なんていうんだ?」

「いや、俺の能力は……ここじゃ、使えねえんだ」

「はあ、どういうことだ?」

「俺の能力は……どんな環境にでも適応できる能力、らしい」

「なんだそれ? どんな環境?」

「宇宙空間でもいけたことがある」

「……すげえのか、すごくねえのか、よくわからねえな」


 まさにデランの言うとおりだった。


「ああ、そうだな。俺もエリスみたいな能力だったらよかったんだが」

「エリスか……そういえばあいつも強いのか?」

「ああ、強い。俺はまだあいつに両手が使えなくても勝てねえんだ」

「それも強いのか、強くねえのか、よくわからねえな」

「比較対象が俺だからか?」


 ダイチは苦い顔で言う。


「そうだぜ! ハハ、よくわかってるじゃねえか」

「ク……」

「しょげるなって! ハハ、学園に来てから強くなってるんだ、自信持てよ!」


 デランはダイチの背中を叩いて元気づける。


「自信か……そうだな、ありがとう」

「な、なんだよ、急に礼なんか?」

「いや、お前にそう言われると自信がつくっていうか、感謝してるんだ」

「や、やめろよ!」


 デランはそっぽ向く。


「本当だぞ」

「ああ、わかった! わかってる!」


 何をそんなに怒っているのか、ダイチにはよくわからなかった。


「おーい、ダイチ!」


 フルートが走り寄ってくる。


「もう組手は終わったのか?」

「ああ、たった今な」

「ならば、早く夕食にゆくぞ。ミリアがさっきから妾の頭に食いついてきそうで怖いんじゃ」


 フルートの頭をかぶりつくミリアの図を思い浮かべて二人は笑った。


「ハハ、そいつはあぶねえな!」

「俺もちょうど腹がへったところだ! 景気づけに肉食うぞ!」


 デランはダイチの肩を掴み、引っ張る。


「お、おい!」

「妾を置いてくなー!」


 フルートはもうダイチの片方の肩に飛びつく。

 今日の街はワルキューレ・グラールということもあり、街をあげてのお祭りにより一晩中賑わっていた。そんなわけで屋台や露店によるご馳走の調達に事欠かず、心ゆくまで祭りの夜を楽しんだ。




 ワルキューレ・グラール二日目が始まった。

 デランはさっそく第一試合に出番がやってきて、さっそく戦った。

 対戦相手はミレーフ・フラウスキ。北の騎士団を率いる優騎士。斧を扱った豪快な戦いが売りで、パワーでデランを圧倒し、武舞台の縁まで追い詰めたが、意を決して飛び込んだデランの踏み込みにより、懐に入られ、呆気なく倒れた。

 今まで近づける敵との戦いを経験していなかったのが敗因らしい。

 続く三回戦の相手は同じエインヘリアルの生徒で、先輩でもあったパリス・セイツァー。長いパープル髪と刃のように鋭い銀眼が特徴の美少女だ。


「あなたがここまで勝ち上がってくるなんてね」

「あんたこそよくここまで勝てたな」


 パリスは優雅に笑う。


「実力ですもの、当然よ」

「じゃあ、俺が勝つぜ。実力あるからな!」


 デランの大胆不敵な発言をパリスは笑って受け流す。しかし、銀眼には闘争心を宿す。


――ファイッ!


 試合開始のコールがなされる。

 デランはいきなり飛び込む。パリスはそれを自慢の得物であるムチで阻む。


「くッ!」


 なんとか剣でこれを弾く。

 しかし、反対の方向からもう一つのムチが飛んでくる。

 パリスは珍しいムチの使い手であり、そのムチは生きているかのように敵へと弧を描きながら向かっていく。

 デランは直撃を避けたものの、どこから飛んで来るかわからないムチに対応しきれず、後退する。


「どうしたの、飛びかかってくるのではなかったのかしら?」

「これからだよ」


 パリスは余裕に満ちていた。

 それは剣の届く間合いにまで踏み込ませない絶対の自信があるからだ。



「相性が悪いな」

「はい。一直線に向かうデランさんに対してパリス先輩は曲線で右に左に仕掛けています」

「うん、何度か手合わせしたことあるけど、あのムチにいつもやられているよ」

「ああ、俺もやられたことがある。……って、エドラ、お前いつの間に!?」

 いつの間にかダイチの隣にエドラが座っていた。

「病室にこもりっきりだと退屈でね、こっちの方が楽しめそうだと思って来たんだよ」

「来たんだよって、大丈夫なのか?」

「まだ傷は痛むけど、ちゃんと手当てはしてあるから大丈夫だよ」

「そっか、ならいいけどよ」

「おおッ!」


 フルートが叫んだので、ダイチ達の会話は打ち切られた。



 デランがムチの連打を浴びているのだ。


「どうしたの? もうこれで終わり!? 手応えがないわね!?」


 パリスはムチを止めず、むしろ、さらに速度を上げて文字通り叩き込む。


「ちくしょう! これでどうだ!」


 デランは剣でムチを薙ぎ払う。


「なっ!」


 剣の一振りにより、ムチの速度がわずかに鈍る。

 その隙を狙って、デランは飛びかかる。


「バカね! そうくることは読んでいたわ!」


 パリスはムチを前方に集中させる。

 バカ正直に正面から向かってくるデランを迎え撃つ体勢だ。


「ハルトアルム!」


 デランは輝く左腕を抜刀する。


ザシュゥゥゥゥッ!!


 ムチを切り裂き、刃はパリスへと届く。


「カハッ!」


 刃によって斬り裂かれて、パリスは倒れる。


――勝者、デラン・フーリス!


 デランは左腕を掲げ、喜びを露わにする。


「よっしゃぁぁぁぁぁぁッ!!」


 デランが勝ったことが、自分のことのように、ダイチ達も嬉しく喝采を送った。




 三回戦が終わったことで、グラールのベスト8が決まった。


「さあ、激闘をくぐり抜けてきた八人の騎士達よ。どうか、私の前に姿を表してください」


 ヴィーナスの号令により、八人の騎士が行進する。



東方の翡翠聖騎士ヴェリアーデ・アーミル

宮廷の護衛聖騎士ミィセル・ラムザ

アルテミス大陸随一の槍騎士ユスティン・ディートハルト

南のエインヘリアルの男性騎士デラン・フーリス

唯一出場した皇騎士ニラリス・ルラン

弓兵の聖騎士フィオレ・カーフェリア

東のアルヴヘイムからやってきたユリアン・フリュッケル

そして、木星からの留学生にして木星大使の一子、アングレス・バウハート



 錚々たる顔ぶれであった。

 しかし、その中でも異彩を放っているのが、やはり木星人のアングレスだ。

 武舞台に集まった他の騎士達も怪訝そうな顔つきで彼を見ている。

 中には闘争心をむき出しにし、今にも斬りかかりかねないのでは、といった面持ちの騎士までいた。


「「「………………」」」


 観客達もその剣呑な緊張によって静まりかえっていた。


「金星皇・ヴィーナスよ」


 その中でアングレスが天覧席のヴィーナスの名を呼ぶ。


「私、アングレス・バウハートの目的は、此度のワルキューレ・グラールの優勝によるワルキューレ・リッターへの参列! ワルキューレ・グラールの優勝の暁には栄光有る金星皇近衛騎士団ワルキューレ・リッターの参列を約束していただきたい!!」


「「「――!!」」」


 アングレスの宣言に、闘技場中が衝撃が走る。


「あやつ!」

「なんと傲慢な!」


 これにはワルキューレ・リッターのアグライアとステファーも怒りを露わにする。


「木星人がワルキューレ・リッターにだと!?」「そんなことありうるの!?」「いやない! 木星人め、どこまで踏みにじめれば気が済む!?」「許されることではない!」「木星人め! 生かしちゃおけないわ!」


 観客達は一斉に怒りを爆発させて、アングレスへ飛ばす。

 しかし、アングレスは相変わらずそんなもの一切期にせず、ヴィーナスを見上げている。

 なんと図太いのだろう。木星人は巨人の化身ともいわれることがあるが、神経までも図太いものなのか。


「みなのもの、落ち着きなさい」


 ヴィーナスは威厳を持った発言で観客達は静まる。


「木星大使の一子アングレス・バウハートよ。あなたの希望、聞き届けました!」


「「「――!!」」」


「ヴィーナス様、それは!」


 ステファーの発言をヴィーナスは手で制する。


「ですが、あくまで条件はワルキューレ・グラールの優勝です。その場に集った騎士達の中で勝ち上がってたときに私はあなたにワルキューレ・リッターの地位を授けましょう」

「承知」


 アングレスは一礼する。


「貴様、何を考えている!?」


 ミィセルが剣を構える。


「考えていることは今言ったけど」

「木星人がワルキューレ・リッターを愚弄するか!

許せん! 今この場で斬り倒してくれる!!」

「よさぬか、ミィセル」


 それをニラリスが止める。


「卿! ですが!」

「その怒りは試合にぶつけろ。奴がワルキューレ・リッターに相応しいか、自ずと結果は出る」


 ニラリスはあくまで冷静に言う。


「……む、卿がそういうのであれば……!」


 ミィセルはそう言って、剣気を抑える。



「大波乱ですね」

「ああ、デランのやつも取り乱していないか」


 ダイチは武舞台に立っているデランを心配そうに見る。


「大丈夫だね。一見落ち着いているように見えるけど、内心は闘争心でグツグツになっているよ」


 デランをよく知るエドラの言うことだから正確だろう。


「それって大丈夫なのか?」

「デランの場合、それが良い方向に作用すると思うよ」

「なるほど、エリスもそんな感じです」

「ダイチはどうなのじゃ?」

「なんで俺に振るんだよ?」



「それでは、ベスト8の組み合わせを出します」


 ヴィーナスが宣言するとコロッセウムの宙にトーナメント表が映し出される。


「ここまで試合ごとに公表していましたが、トーナメント表で組み合わせを一気に発表されることになっています」

「誰がどの試合、自分はどの試合に出るかわかるってわけか」


 デランの試合、アングレスの試合がいつになるか気になるダイチは口にする。


「あ、デランの試合は……!」


 真っ先にエドラはデランと対戦相手の組み合わせを見つけ、驚愕する。一瞬遅れてそれを見た一同は絶句する。




第四試合

デラン・フーリス対アングレス・バウハート

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