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オービタルエリス  作者: jukaito
第3章 リッター・デア・ヴェーヌス

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第45話 ブースト500%!

『相打ち覚悟の特攻ですか……いえ、あの気迫、自分が勝つことしか考えていない。いいですね、そういうのを倒してこそ優勝の価値があるというものです』


 バライは、エリスの姿勢を認め、カウンターの姿勢をとらせる。


『エリス、どうせ聞く耳もたんと思うが聞いてくれ。奴はカウンターを狙っている。さっきもそれでやられてる、いくら出力を引き上げてもこのままじゃ勝ち目はあらへんで』

「ええ、わかってる。これでもまだ足りないのは!」


 エリスは熱く燃え上がった中で、勝機を窺う。

 ブースト五百……音を超える突進力……鉄拳……ヒートアップによる反応……これだけ揃えてもまだ足りない。勝つためにはもう一手必要で、それはまだどこかに必ずあるはずだ。


「――そこ!」


 エリスはそれを見つけ、突進する。


『来ますか! ならば、狙い撃ちです! グランド・ドゥンナー!』


 エネルギー充填を済ませた、開幕に放たれたビームが発射される。


「そんなもの!」


 エリスはある物を拾い上げて、ビームの範囲外へと離脱する。


『あれは……!』


 バライはハイスアウゲンが何を拾い上げたのか、確認するのとほぼ同時にハイスアウゲンが目の前に現れた。

 限界をブーストの賜物である、超スピードの結果であった。


「せいやぁぁぁぁぁぁぁッ!」


 雄叫びから放たれた電光石火の一撃で、ノヴァリーゼの巨体が揺らぐ。

 それは、ノイヘリヤのバスターアックスにブーストの猛烈な勢いを付けたものであった。


『ぐ……! 見事です。たとえ敵のものであっても、勝つためだったら躊躇いなく利用する。その貪欲なまでの勝利への執念! ですが!』


 ノヴァリーゼはサーベルを繰り出す。

 ハイスアウゲンはバスターアックスからバスタードソードへ変形させて受け止める。

 使い方はノイヘリヤとの戦いでなんとなくわかる。


「せいッ!」


 今度はビッグサイズへと変形させて、ノヴァリーゼの腕を斬り落とす。

 さらに、バスターアックスへ変形させ、頭へ斬りかかる。

 ノヴァリーゼはこれを、盾を展開させて受け止める。


バゴォォォォン!!


 バスターアックスと盾がぶつかり合い、爆裂する。

 しかし、エリスは怯まず、蹴りをくわえる。


バゴォォォォン!!


 ノヴァリーゼの爆裂する装甲に阻まれるが、それでも止まらない。


「おおぉぉぉぉッ!!」


 ハイスアウゲンの燃え盛るがごとき勢いの連撃にノヴァリーゼはたまらず、倒れ込む。


『まさか、これで止まらないとは……!』


 バライは驚嘆し、そして、自らの敗北を認める。


――勝者、ハイスアウゲン!

――テクニティスフェスト優勝!!


 アナウンスがコールされ、エリスは勝利を悟るとともにコックピットのシートに座り込む。


「……勝った」



『無茶しなはってからに……しかし、ようく勝ったな、おつかれさん!』

『見せつけられたわね』

『凄かったです、エリスさん!』


『………………』



 通話ウィンドウからみんなのやかましい歓声が聞こえてくる中、一人ラウゼンだけは無言であった。


「じいさん、何か言いたいことあるんじゃないの?」


 気になってエリスの方から問いかけた。


『……色々言いたいことはある。が、礼だけは言っておきたい。

――ありがとう』

「……どういたしまして」




 そこから、先のことはエリスはよく憶えていない。

 表彰式でのトロフィー、各著名人からのメッセージ、色々あったのだが、やりきったせいで意識はほとんどとんでいったせいだ。

 ただ、ラルリスやバライから受け取ったメッセージだけははっきりと憶えている。


『あの状況で私の武器を拾って使うなんて私達騎士の発想にはなかった。そういうやり方で勝つことは認めたくないが……悔しいね、それを否定するためには、私は力不足だった……だから、次は必ず勝つ! 覚悟しておきなさい』


 ラルリスのメッセージに、エリスは「次も私が勝つわよ」とだけ返した。


『お見事でしたよ。ボクもまだまだだということですね。ボクはこのフェストで自分の考えの正しさを証明して、新しい金星の機体の体系を作りたかったのですが……フフ、上手くいきませんでしたね。また一から出直してきます。この次のフェストには必ず優勝してみせます』


 バライのメッセージに、エリスは「面倒な人ね」とだけぼやいた。

 そして、フェストの閉会式が終わったあと、エリスは泥のように深い眠りに落ちた。




 スタディオンのすぐ隣りにあるホテルのバーラウンジで、ラウゼンとアライスタはワインを酌み交わしていた。


「ま、まずは優勝おめでとう、といったところか」

「正直実感はねえな。嬢ちゃんに優勝させてもらったようなものだからな」

「まったくだ。あんな機体、あの火星人の娘以外だったら競走の時点でリタイアだ」

「お前さんのマルチウェポンだって似たようなものだろ」


 ラウゼンは一杯目を飲み干してから語る。


「六種類の武器を使い分けるなんざ器用な真似、あの元聖騎士の嬢ちゃん以外できやしないだろう」

「何も六種類全部使い分ける必要はない。へなちょこ騎士だって一種は扱える。金星中の機体に配備することが出来る」

「そういう算段か。ま、フェストの主旨を考えりゃそうか」


 ラウゼンは納得する。


「次世代の金星の主力機を選抜するコンペディションね……そういった意味じゃ、バライ・ファラウスのデカブツの方が最も優勝に相応しい機体かもしれんな……」

「木星のマシンノイドのノウハウを金星の機体に組み込む。正直発想としてはいいものだし、それを実現させた技術力は対したものだよ……まあ、木星に散々踏みにじられてきた金星人としては心情の面で納得できないけどね」

「バライの坊主はそういうこだわりが許せなかったんだろうな。金星人なら金星人の誇りを持って戦う。それで木星に負けたんだからな。誇りを捨てなきゃ、木星の支配を抜けられないって考えるのも無理はねえ」

「あんたも同じ意見なのかい?」


 アライスタは真剣な眼差しで問いかける。


「火星人の娘を操縦者に選んだあんたも、バライの意見に賛成なのかい?」

「わしは……」


 ラウゼンのワインのグラスをテーブルに置き、アライスタの目を見据える。


「お前に勝てるんなら、木星や火星なんざどうだっていい。そう思ってた」

「………………」

「だが、バライの坊主の機体が現れた時、あいつには負けたくねえって思った。

なんでだろうな、やっぱり、わしも金星人だったということかもな」

「いや、それは憎しみというより単なる対抗心じゃないかい。まったく呆れたマイスター魂だよ」

「よせ。お前から褒められると鳥肌が立ってしょうがねえ」

「減らず口を」


 アライスタは飲み干したワインをグラスに注ぐ。


「この次は負けない」

「もう聞き飽きたセリフだな」


 カン、とグラスを乾杯する音が心地よく響く。

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