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オービタルエリス  作者: jukaito
第2章 マーズ・マン・ハンター

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第18話 その炎は嵐のごとく


第17話 その炎は嵐のごとく


「おおッ!?」

 それに反応しきれなかったデイエスの巨体は揺らぐ。


「だりゃッ!!」


 しかし、エリスの猛攻は一撃で止まることはない。

 紅蓮の鉄拳がデイエスへと連続で放たれる。


「ぐ、こいつッ!」


 しかし、デイエスは倒れること無く、歯を食いしばって踏みとどまる。


「調子に乗るんじゃねえッ!」

 デイエスはエリスの拳を掌に重ねて弾く。


「くッ!」

 弾かれたパワーが大きかったせいで、エリスの身体は大きく揺らぐ。


「こんのォォォォッ!!」


 しかし、エリスは気合で踏ん張る。

 そして、また嵐のような連打を繰り出す。

「おおッ!!」

 これにデイエスは気合を一声上げて応じる。


バシュ! ゴシュッ! バシュッ!


 拳や蹴りが空を切る。

 エリスの攻撃をデイエスはことごとく空を切らせる。

 掌によって、攻撃を弾かれている。そのため、ダメージを与えることが出来ない。

 しかし、それだけであった。


「ぐぅッ!」


 デイエスの顔が苦悶に歪む。

 能力によって掌への攻撃は弾いている。だが、その全てを弾いているわけではない。

 どうやら能力の範囲は指先や手の関節にまでは及ばないようだ。

 だんだん、攻撃への対応が遅れていっている。そのせいで掌で攻撃を受け止めて完璧に弾くことができなくなっているのだ。


「指がちくしょう、てめぇッ!!」


 それでも、ダメージにすれば大したものじゃない、はずだ。そもそも指にはいるダメージなんてダメージにもならないほどの衝撃でしか無い。

 何しろ、エリスが放つ拳の八割は掌で受け止めているのだ。

 それなのに、何故腕が痛む。

「おおぉぉぉぉッ!」


バシィ!!


 衝撃が二つ起こる。

 エリスが反撃で殴られたのと、エリスが掌の防御を超えて、拳を顔面に打ち当たってたのだ。


「ぐがッ!」

「ごふッ!」


 同時に攻撃を受けた二人はよろめく。


「ああ、やめたぜ……!」


 デイエスは顔を上げて、血を吐き出す。その顔は笑みに満ちていた。


「全部防ぐのだってまどろこっしい真似はやめだ! ふんッ!!」


 頭突きがエリスの額へと落ちる。


「あうッ!?」

 エリスは頭を抑えてうずくまる。

「どうしたッ!? もう終わりか?」

「終わり? まさかッ!!」


 エリスは額から血を流しながらも立ち上がり、拳を構える。


「来なさい!」

「へ、生意気だぜ」


 デイエスは蹴りを入れる。これをエリスは難なく避ける。

 しかし、それが罠であった。


「俺の能力は掌に置かれたものを弾くって、こたあよぉッ!」


 デイエスはエリスの顔面に張り手を叩き込む。


「触れた相手も弾き飛ばせるってことなんだぜぇぇぇぇッ!」


 能力によってエリスは柱にまで吹っ飛び、叩きつけられる。


「今ので頭が潰れなかっただけ褒めてやるかぁッ!?」

「お生憎様、私は頑丈にできてるのよ」


 エリスは立ち上がる。


「ようはそれを喰らわなきゃいいんでしょ」

「出来るのかよ? もう頭クラクラだろ?」

「クラクラ、この程度で?」


 エリスは笑う。


「マグマのようにグツグツの間違いでしょ!」


 さらに能力を発動させ、発散される熱で髪が燃え盛るように巻き上がり、瞳も炎のように揺らめいている。


『戦いはどうなってる?』


 ダイチがミリアに訊いてくる。

 その声には心配の色が含まれている。


「ええ、大丈夫ですよ。エリスが遅れを取ることはありませんから……」


 ミリアはそう答えて、自分も不安を抱えていることに気づく。そして、そのことを口にだすのをやめられない。


「ただ、その身体はついていけるかどうかわかりません」

『――!』

『ミリアよ、その場はエリスに任せて大丈夫なんじゃろな?』


 フルートは問いかける。

 声だけでわかる。

 ダイチは今にも飛び出していきそうなのを必死に抑えている。フルートはそれを察して訊いているのだ。

 もし、これでミリアが弱気な返答をすればすぐにダイチは駆けつけてくる。しかし、だからといってエリスが止められるわけでもないし、止めに入られても困る。

 何しろ、エリスは勝つのだから。むしろ、余計な茶々を入れられて、負けることの方が不安なのだ。


「ええ、大丈夫です」

 だから、ミリアは堂々と答える。


「エリスは勝ちます」


 それが決められた未来だから。

 その返答に応えるようにエリスは力強く踏み込む。

 掌を、手首ごと、手ごと、腕ごと、吹き飛ばす勢いの拳を撃ち放つ。


「ごがぁッ!?」


 弾いた。エリスの拳を能力を使って弾いた。

 しかし、完全には弾けなかった。

 手首が折れる音がした。もう受け止めた右手は使い物にならない。


「ば、ばかな、こんなバカなことがッ!」

「バカなっていうんならさッ! 弾いてみせなさいよぉッ!」

「おおぉぉぉぉッ!!」


 デイエスは吠える。


「おおぉぉぉぉッ!!」


 エリスも負けじと吠える。

 能力はそれに呼応し、体温が上昇していく。

 いや、もうそれは紅蓮の炎ともいうべき存在であった。

 敵を燃やして、灰にする強大なる戦意。

 粉々に打ち砕かんばかりの気合に満ちた拳が振るわれる。


「がはッ!?」


 デイエスの巨体が倒れる。

 完全に頭にクリーンヒットし、意識を刈り取った。


「勝ちました、エリスの勝利です」


 ミリアがそう告げると、安堵しているのが伝わってくる。


「――ふう」


 エリスは一息ついて能力を解除する。


「なんとか、持ちこたえてくれたわね」


 自分の腕を握りしめて、義手が壊れていないことを確認する。


「感謝するわ、イクミ」


 なんだかんだいって、ちゃんとした義手を用意してくれる自慢の家族だと再認識させられた。


「さあ、このままふんじばって賞金いただきね!」

「それは困りますね」


 エリスの前にローが立つ。ちょうど、デイエスをかばうように。


「いつの間に!?」


 近づいてくるのがわからなかった。

 本当にいつの間にか、この少年は立っていた。


「何かの能力!?」

「そんなことはどうだっていいじゃないですか。僕はあなたと戦うつもりなんてありませんから

――僕は」


 少年がそう言った瞬間、エリスの周囲を数人の男が取り囲んでいた。


「な、何よ?」


 それぞれ警棒やパイプ、銃の武器を持っている。

「ああ、あんた達も戦いたいのね」

 エリスは納得して、ニヤリと笑う。


ババババァン!!


 しかし、男達やエリスが戦う前にエリスが光線銃で終わらせる。


「制圧完了、です」

「ちょ、あんた、人の獲物をッ!?」

「エリスばっかり暴れてずるいんですもの」


 ミリアはわざとらしくむくれる。


「あ~しょうがないわね。―ーって、それより賞金は!?」


 エリスはデイエスが倒れているであろう方向を見る。


「いない!?」

「あら、逃げられてしまったんですね」

「呑気に言ってる場合じゃないでしょ!」

「あ~あ~ダイチさん、聞こえますか?」

『ああ、聞こえてる』

「エリスが逃してしまったんで、外に出ていっていませんか?」

「私のせいにするな!」


 エリスのツッコミをミリアは無視する。


『いや、まだ出ていってないみたいだぜ』

「きっとまだ近くにいるはずよ、逃がすものですかッ!」


 エリスはフロアを一気に駆け抜けて階段を駆け下りる。


「ああッ! 考えなしに突っ込んでは危険ですよ!」

『あいつ、また無茶しやがったのかッ!?』

『世話が焼けるのう』

「とりあえず、追いかけます。そちらの見張りもお願いします」

『おう』

「間に合えばいいのですが……なんだか面倒事になる予感がします」


 既にかなりの面倒事になっているのでは、とダイチは思ったが、それを口には出さなかった。






 エリスは追いかける。

 敵はどこに行ったのかわからない。ただ、外に逃げるのではないかという勘だけを頼りに階段を駆け下りた。

 絶対に逃さない。その一念だけでエリスは追いかけていた。


「いたッ!」


 最下層まで降りたエリスはデイエス達の姿を捉えた。

 彼らはバギーに乗り込み、さらに遠くへ逃げようとしている。


「逃さないわよ!」


 エリスは全力疾走でそのバギーを追いかける。

 しかし、バギーはもう走り出しており、人間では絶対に追いつけないほどの速度をもう出し始めていた。

「待ちなさいッ!」

 エリスは叫ぶが、どうしようもない。

 いくら能力を使っても、今のエリスが出せる速度には限界がある。

 バギーとどんどん距離を離れていく。


「こんの臆病者ぉぉぉッ!!」


 エリスは力いっぱい叫んだ。

 しかし、既に遠くへ行ってしまったデイエス達に届くはずがなかった。


「ダイチ!」

『おおう!? 聞こえてるぞ、でかい声出すな』

「それどころじゃないの! わかってるでしょ!」

『ああ、連中が逃げていくのが見えたぜ』

「わかってるんなら、さっさと追いかけなさいよ」

『無茶言うなよ、人の足じゃあんなの追いかけられないぜ!』

「無茶でも何でもやりなさいよ!」

『だから、それが!』

「あー! 話にならない、切るわよ!」


 エリスは癇癪を起こして通信機を切る。

 なんとかならないものか。あいつらをなんとしてでも逃してはならない。

 でも、自分の足じゃ追いつくことはできない。


ブオオオオオオオン!!


 そこへけたたましいエンジン音を上げて、二輪のマシンに乗り込んだマイナがやってくる。


「エリス、無事!?」

「無事は無事だけど……あんた、それどうしたの?」


 そう言われて、エリスはマイナが乗っているマシンを指差す。どうみてもバイクだ。

 彼女の所持金でこんなものを買うことは出来ないはずだ。

 そうなると、作ったということになるのだが、こんなものを作れる人間と言ったら真っ先に思い浮かぶのは――


「ああ、イクミね」


 どうせ、スクラップ山から材料をかきあつめて作ったのだろう。相変わらず器用なものだと感心する。


「そ、あいつがまた人使いが荒いのよね」


 マイナは文句を垂れる。


「ちゃんと動くの?」

「ええ、スピードは水星人の私が太鼓判を押すわ! このビーマックスはいい子よ」


 マイナは自信満々に言う。ビーマックスというのはそのバイクの名前なのだろう。

 水星人というのは、太陽系の惑星の中で最も速く太陽を一周する。ゆえに、そこに住む水星人は敏捷力や速度に関しては最も優れている。

 その水星人のマイナがそう言うのであれば、間違いないだろう。

 まさに渡りに船であった。


「使うわよ」

「ちょッ!」


 エリスはマイナを無理矢理バイクから下ろして乗り込む。そして、一瞬の躊躇いも無く、それに乗り込んでエンジンをかける。


「よし、いけるわ!」


 エリスはアクセルをかけて発進する。


「ゴー! ビーマックス!!」







「ああ、くそ! エリスのやつ、完全に頭に血が上ってやがる!!」

「ダイチ、エリスの馬鹿者が飛び出していきおったぞ」

「なんだって!?」


 隣のビルで待機していたダイチとエリスはエリス達が入っていったビルを見下ろす。

 そこにはバイクにまたがって、バギーを追いかけるエリスの姿があった。


「あいつ、何考えてやがる!?」

『……何も考えていないでしょうね』


 通信機から疲れたようなミリアの応答があった。


「ミリア、お前無事か?」

『ええ……ですが、エリスを先に行かせてしまいました』

「しょうがねえよ、ああなったらあいつは止められねえ」


 本当は止めたいんだけどな、と、ダイチは心の中で付け足した。


「じゃが、一人で突っ走りすぎではないか」

『そうですね……そこが心配なのです、何か罠でもありましたらと思うと』

「罠……!」


 その言葉に、ダイチは嫌な予感がよぎる。

 こと、真正面切っての戦いならエリスは負ける心配はないが、敵が罠を張っているとしたら話は別だ。


「なんとかならねえかよ。ああ、もう一人で突っ走りやがって!」


 文句を言いつつも、エリスが心配でならない。

 相手は凶悪殺人犯だ。罠に引っかかって返り討ちになったら、ただじゃ済まない。

 良くて重症、最悪殺されることだってあり得る。


「ああ、くそ! こうしちゃいられねえ!」

『どうするのですか?』

「追いかけるんだよ、一人にしていられるか!」

『追いかけるって、どうやってですか?』

「う……」


 意外にも冷静なミリアの一言にダイチは水をさされる。

 相手はバギーとバイクだ。走って追い掛けるなんて現実的じゃない。


「イクミ、聞こえてるか?」

『ああ、全部聞いてたよ』

「全部聞いてたんなら話ははええ。エリスを追いかけたいんだ、どうしたらいい?」

『今は無理やな』


 イクミはきっぱりと答える。


『エリスは今もう街を出てる。この進みっぷりやとまだまだ追いかけているところやな。足じゃまず追いつけんで。まったくマイナに試運転を頼んだら、それをぶんどって追いかけるなんてエリスらしいわ』

「そんなことはどうだっていい。だったら、足以外でなんか追いつく方法はないのか?」


 イクミはため息をつく。


『それがないんよ』

「じゃ、なんとか!」

『んん、どうにもならへんな。どうにかしたいんやけど……』

「くそ!」


 ダイチは通信機を投げ飛ばしたい衝動にかられる。


『ともかく、エリスに呼びかけてみるよ。一人じゃ危険すぎるからな』

「あったりまえだ!」


 殺させるわけにはいかない。

 何のために、強くなりたいと思ったんだ。

 こういうときに何とかするためだろ。

 でも、ダメだ。


「すまん、ダイチ」

「なんで謝るんだ?」

「妾がチカラを制御出来れば、そなたをこんなにも悩ませることはなかったというのに」

「いや、いいよ。フルートのチカラは無闇に使わないほうがいい」

 フルートのチカラは冥王星の皇としてのもの。

 以前、テロリストとの戦いで使った時は小規模の天体を生み出したことがあった。

 あんな物凄いチカラが何かのはずみで使ってしまったら火星が滅びる、とまではいかないが、街一帯が壊滅してもおかしくない。


「しかし、他に足が無いことには……チカラを使う他ないであろう」

「いや、チカラ以外にも何か手はあるはずだ……

考えれば、考えれば……チカラ以外で、バイクやバギーに追いつく方法が……」

 ダイチは頭を引っ掻いて必死に考える。


――ここに、サーベルがあって、銃と一緒に携行していて……すげえ、ブースターの出力でこんなにスピードがでるんですか!?


 脳裏に浮かんだのはヴァーランスのコックピットで見たものであった。


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