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オービタルエリス  作者: jukaito
第4章 ケラウノスパイデス・オラージュ
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第93話 もう一人のファウナ

(私は何故、あんな過ちを……?)

 ファウナは頭を抱えて心中で自問する。


――愛する兄を殺した火星人など全て殺してしまえ!


 頭の内から響いてくるこの声が頭痛をもたらす。


「あなたは、誰です……?」


 はじめは自分の憎しみが生み出したものだと思っていた。

 だけど、これは違う。

 兄を殺した火星人を憎いと思った。殺したいとさえ思った。

 だけど、この声は絶えず憎しみを掻き立て続けている。まるでもう一人の自分がいるかのように。あるいはこの声はもう一人の自分などではなく、別の誰かが自分の内側から語り掛けているのか。


「ファウナ様!」

「……ディバルド」


 ディバルドの声で我に返る。

 声も他人とやり取りをしているといくらか気分が晴れる。

 明瞭になった意識で状況把握に務める。

 アルシャールが敷いた包囲網が突破される。突如として出現した謎のエネルギー光によって【エテフラム】が半壊。それによってメラン・リュミエールは発射不能に陥っている。


「海賊船がこちらへ向かってきています」


 ガグズにそう言われて、ファウナはスクリーンでこの艦【パシレイオン】と海賊船の位置関係を確認する。


「包囲網を抜けたのなら、そのまま逃げればよかったものを!」

「そのままの勢いで倒せると判断したのかもしれませんな。どういうわけか、海賊達にもケラウノスを扱う者がいます」

「ならば、彼等の狙いはこの私の生命ですか」


 ファウナは自嘲する。

 これでも皇の座を継承する権利を持っていて、生命を狙われることは何度も経験している。ただ、その度に兄が守ってくれた。

 その兄はいない。

 自分の身は自分で守らなければならない。


「私はクリュメゾン領主です。兄から受け継いだこの座をなんとしでも死守します!」


 ファウナの激にブリッジに配備されている近衛騎士団はかしずく。


「ファウナ様! 必ずやあの海賊を倒してごらんにいれましょう!」


 ガグズが大いに張り切る。


「頼りにさせてもらいます。そして、ディバルド近衛騎士団長!」

「は!」

「あなたも討ってでなさい! あなたのチカラであれば必ず海賊を倒してくれると信じています」

「はい!」


 ディバルドは敬礼し、答える。

 アルシャールと双璧を成すクリュメゾン最強の騎士といわれた男ディバルド・ブランシアス。彼の実力ならば間違いなく海賊を討ち取れるだろう。

 近衛騎士団長という地位でなければ、一角の武人として戦場を駆けまわり木星随一の英雄にだって成り得ただろう。


「砲門を前方に集中! 海賊を何としてでも撃ち落とせ!」


 ガグズは号令をかける。

 しかし、海賊船は【パシレイオン】が放つ集中砲火を巧みにかわして、どんどん接近してくる。


「ファウナ様……」

「なんでしょうか?」

「本当によろしいのでしょうか?」


 ディバルドはファウナへ確認する。

 近衛騎士団長が領主の側を離れるということ。いくら敵を倒すためとはいえ、それは近衛騎士に相応しくない行動である。

「ええ、構いません」

 それでも主命であるならば従うのが務めだとディバルドは使命感とともに闘志を燃やす。

 主命を受けたからには必ずあの海賊を討ち倒す、と。






「いよいよ、大詰めになってきましたわね」


 闇の中で声はほくそ笑む。


「あなたはどうするの?」


 外套の女性は声の主に向かって訊く。


「私ですか? 私は最初から決まっていますわ」

「そうね。そう言うと思ったわ」

「それよりもあなたはどうしますの?」

「私は最後まで見届けさせてもらいますよ。この戦争の引き金を引いた一因としてね」


 外套の女性は楽し気に答える。


「そうですか、そうですものね。

あなたもちゃんと見届けてくださいね、この戦争の結末を」


 闇の声はそう言って気配を消す。


「ええ、あなたについていってね。

――ファウナ・テウスパール」


 外套の女性は後を追う。






バァン! バァン! バァン!


 砲弾が雨のように絶え間なく撃ち鳴らされる。


「おりゃあッ!!」


 リピートは舵を切って、巧みに海賊船を操って砲弾を避ける。


「キャプテン、左舷下方に十門の砲台が!」


 リィータの報告が入る。


「そっちなら任せろ!」


 ザイアスがケラウノスを振るい、海賊船の砲台から発射される。そうして海賊船を狙う【パシレイオン】の砲台を潰す。


「見事な連係プレーじゃな」


 フルートは感心する。


「この集中砲火の中、先程からまるで落ちる気がせんぞ。文字通り大船に乗った気分じゃ」


 フルートは上機嫌でそう言う。


「ああ、そうだな」


 ダイチはそれに同意する。


「問題はこのままあいつのところに辿り着けるかってところね」


 エリスは険しい顔つきで言う。

 エリス達は機体は、海賊の整備に預けてブリッジに集結していた。

 【パシレイオン】内部に突入し、領主のファウナ・テウスパールにこの戦争を止めさせる為に。


「心配するな、このまま突っ込む!」


 ザイアスはそう力強く言い、海賊船を進ませる。


(こんなに凄い人でも、皇のジュピターになれなかったのか……)


 ダイチはザイアスの背中を見て思う。

 強くたくましく、そして頼れる。ザイアスにはそういった男で皇に相応しく思える。それでも、兄には勝てずジュピターの座に就くことは出来なかった。

 木星はそれほどまでに広大で、強いヒトがたくさんいるということなのか。


「――む!」


 フルートは険しくなる。


「どうしましたか?」

 ミリアが訊くと、フルートは上を見上げる。

 そこには天窓があり、雲海へ向かってそびえ立つ【パシレイオン】の主塔があった。


「良からぬチカラがあそこから放たれておる!」






 フルートが顔を向けた【パシレイオン】の主塔には、領主ファウナが居座るメインブリッジがあった。


「姫様……いえ、領主陛下」


 ガグズが不安そうに問いかける。


「なんでしょうか?」


 ファウナは凛とした佇まいで答える。

 そこから火花が散り、稲妻が迸る。


「――!」


 ガグズは反射的に怯む。

 神の権能ともいうべきケラウノスの前に尋常ならざる気迫を感じてしまう。その時、自分はただのヒトで、領主は皇となるべく生まれた神の子だと思い知らされる。


「そのチカラをお使いになるのですか?」


 それでもガグズは制止しようとする。


「ここまでの接近を許したのです。私が迎え撃つしかないでしょう!」


 ファウナはケラウノスを迸らせ、砲台の回路へ雷を流し込む。

 チャージーメーターはあっという間に溜まり、海賊船どころか戦艦さえも沈められるだけの威力にまで引き上がる。






「主塔から高エネルギー反応です! どんどん上昇しています!!」


 リィータは慌ててつつも、主塔の状況を正確に報告する。


「――ケラウノスか!」


 ザイアスは察して、主塔を見上げる。


「わかるの?」


 エリスが訊き、ザイアスは頷く。


「どうにもこの身体は雷を敏感に感知するようになってる。とりわけケラウノスにはな」

「それで、どうするのじゃ? こっちが感知できるということは向こうも感知できるということじゃぞ。狙いを外すと到底思えん」


 フルートは問いかけるが、ザイアスはとても慌てた様子はなく、ドンと構えている。


「だろうな。だったら、迎え撃ちだけだ」


 そう言って、カットラスを振り上げる。


「主砲ブロンテカノンだ!」


 ケラウノスを放ち、砲台へ充填を進める。


「了解です!」

「ターン、外すんじゃないぜ」


 リピートは砲座にいるターンへ呼びかける。


『んなもん、承知だぜ』


 ターンの威勢のいい返しが聞こえる。

 おかげで、ザイアスの気合が入る。


「おおし、いくぜ!」

「敵の方の充填も完了したようじゃぞ!」


 フルートが主塔の主砲充填の完了を感知して言う。


「おおし、そんじゃこっちも発射だ! 全員、対ショック防御だ!!」






「ケラウノス・カノーネ、充填完了しました!」


 オペ―レーターが告げる。


「即発射しなさい!」


 ファウナは気丈に応える。


「ケラウノス・カノーネ発射!!」


 オペ―レーターはすぐに答える。






 ケラウノス・カノーネが発射されたのと同時にリィータが告げる。


「ブロンテ・カノン発射!!」


 海賊船ドスランボの主砲と【パシレイオン】の主塔の主砲。

 お互いに神の雷ケラウノスが砲台を使って際限無く一方向へ放出される。


ズゴォォォォォォォォォォォォォォン!!


 ぶつかり雷光が木星の空を白く染め上げ、雷鳴が【パシレイオン】の艦隊の空域全てに響き渡る。


「凄まじいのう……!」


 そのショックから一早く回復したフルートは呟く。


「リィータ、状況は?」


 ザイアスが問う。


「主塔健在! 主砲と威力は互角で相殺された模様です!」

「そうか……さすがに飛ばしっぱなしだったからな……」


 ザイアスは一息つく。

 その顔には疲労の色が伺える。


「だが、この隙に一気に飛び込むチャンスだぜ! そうだろ、キャプテン」


 リピートが威勢よく意気込む。


「ああ、そうだな! 進め、リピート!」

「了解! 全速力で突っ込むぜ!!」


 リピートは舵を切る。






「海賊船、健在です!」


 【パシレイオン】のオペ―レーターが信じられないといった面持ちで事実を告げる。


「相殺、されましたね……!」


 ファウナはふらつきながらその事実を受け止める。


「ディバルドを向かわせたのは正解でしたね」

「はい。ファウナ様の慧眼、恐れ入りました……」


 ガグズは感心する。


「私もこんな事態になるとは思ってませんでした」


 ファウナは自嘲する。

 ただ、海賊船の戦いぶり、ケラウノスを見て、自分ではかなわないかもしれないと危惧していた。それが的中しただけの話だ。

 この主砲で沈められなかったのは落胆を禁じ得ない。


(やはり、私などでは……お兄様のようには……!)


 ファウナを弱音を吐く。


「――醜態、ですわね」


 ファウナの背後から聞き馴染んだ声がする。


「――! その声は!?」


 ファウナは驚愕し、振り向く。

 そこには自分と瓜二つの少女が威風堂々と立っていた。


「ファウナ様が二人……!?」


 ガグズを始めとする近衛騎士団も驚愕する。


「そんな、まさかお姉様……?」


 ファウナは血の気の引いた顔でその少女を見上げる。


「そう呼ぶだけの太々しさは残っているみたいですわね」


 お姉様と呼ばれた少女は憎悪に満ちた目でファウナを見下げる。


「何故、お姉様が……!? お姉様は死んだはずでは……!?」

「いいえ、私は生きていましたわ! アランツィードお兄様に殺されかけましたけどね!!」

「お兄様に!?」


 ファウナは信じられないといった表情をする。






「うおぉぉぉぉぉぉぉッ!!」


 リピートは気合の声を上げ、海賊船の舵を切って主塔へ接近させる。


「ターンさん!」

『任せろ!!』


 リィータの呼びかけに、ターンは応じて砲座からレーザーを発射させる。


「キャプテン! 今だ!!」

『おう! あとは頼んだぜ!』


 格納庫で待機していたザイアスは答える。

 その格納庫から小型高速艇【エギーユ】が飛び立つ。

 搭乗しているのは、ダイチ、エリス、ミリア、イクミ、フルート、マイナ、デラン、ユリーシャであった。


「突っ込むぜ!!」


 ザイアスはいきなり最大速度を出して、音を遥かに超える速さであっという間に主塔へ突入する。


「お前等、降りるぞ!」


 ザイアスは一緒に乗り込んだダイチ達に呼びかける。


「ああ、しかし、なんて操縦だ」


 急加速の負荷をモロに受けたデランはぼやく。


「マイナさんより激しい加速でしたね」


 ミリアはそうコメントする。


「上には上がいるってわけね」


 マイナもクラクラと立ち上がり、それを認める。


「あんた達、グズグズしてるとキャプテンに追いてかれるわよ!」


 エリスが既に【エギーユ】を出て行ったキャプテンを追いかける。ダイチ達も追いていかれないように走る。


「あの端末や!」


 さっそくイクミは端末を見つけて、即座に手持ちの端末と接続して【パシレイオン】内部のマップを入手しようとする。

 その間一分程度だが、侵入者を排除せんとガードロボットや衛兵がぞろぞろとやってくる。


「ヒートアップ!」


 エリスは体温を上昇させ、熱気を巻き上げる。


ズドン!


 砲弾のような拳打をガードロボットに見舞う。


「おう、また一段と迫力が出てきたなあ」


 ザイアスはニヤリと笑う。

 エリスは殴った拳をグッと握りなおして、感触を確かめる。


(……完調ね!)


 これならあの姫様に雪辱を果たせると確信する。

 そのためにも、ここをなんとしてでも突破しなければならない。


「よし、完了や!」


ピコン


 イクミが端末から入手したマップがダイチ達に送信される。


「さあて、そんじゃあ突破するかあ」


 ザイアスはそう言って、カットラスを振るう。

 ケラウノスを使わず、剣圧だけで衛兵達を吹き飛ばす。


「行くぜ、野郎ども!」


 ザイアスは威勢よく号令をかける。


「なんだか私達、海賊みたいね」


 エリスはぼやく。


「って今さらかい!?」


 思わずイクミがツッコミを入れる。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 話の流れはベタではあるものの、きっちりお約束を押さえて無難にまとまっている。台詞の掛け合いは軽妙。 [気になる点] 描写が薄い。立ち絵つきのゲームのシナリオを見ている感覚で、スパロボなどを…
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