機械化人間 ~アナタのカラダ、まだナマミですか?~
先生「来週までにこの教科書の範囲を一通り覚えて来ること。機械化してない生徒は大変だと思うが頑張ってくれ」
ノゾミ「ひー生身には辛いわ」
カオル「お前もさっさと機械化しろよ」
ノゾミ「んー。やっぱなんか怖いんだよね」
カオル「大丈夫だって。失敗したなんて聞いたこと無いし。このクラスで機械化してないの
ってお前くらいじゃね?」
ノゾミ「いや、ヒカルもまだ生身だったハズ」
ヒカル「あ、いや、俺も明日機械化するんだ」
ノゾミ「マジで?」
カオル「来たね。いよいよ生身はノゾミだけだな」
ヒカル「でも、緊張するわ……」
カオル「体まるごと機械に変えちゃう訳だからね、抵抗あるのも無理無いね」
ヒカル「手術は時間かかった?」
カオル「時間はかかるけど、体感的にはそんなに・・・。寝てるだけって感じ」
ノゾミ「やっぱ止めたら? 物が見えなくなったり、料理が不味くなったりとかあるかもよ」
カオル「いや、ねぇから! 俺を見ろ! 機械化してもぴんぴんしている。体の自由だって、前よりずっと利くようになったし。何よりテストの暗記が楽になった。安心しろ、基本的には生身とそんな変わりない」
ヒカル「まぁ、みんな口々にそう言うから我が家でも家族まとめて機械化することにしたんだけどね」
放課後。
家に帰宅したヒカルは特に意味もなく、バラエティー番組を見ていた。
親「明日は早いから早く寝なさい」
ヒカル「んー。これ見てから寝るね」
特にこのバラエティーが面白いと言うわけでは無い。しかし、緊張で、寝ても寝つける気がしなかったのである。やはり、どうしても機械の体への抵抗感とそれによる緊張があったのだ。
バラエティーでCMが流れる
CM「君のカラダ、まだ生身ですか?」
人類が生身と全く変わらない機械の体を開発してから50年が経つ。その後、生体親和性や法整備など様々障壁を乗り越え、身体の機械化が一般化したのはここ10年にも満たない話である。この10年で身体の機械化は急速に広まった。今や、学校の授業ですら機械化された人間を相手するのが前提で授業を進めるようになった。ヒカルの家族もそんな時代の流れに乗っただけで決して珍しい光景ではなかったのだ。
バラエティーが終わるなりヒカルはテレビを消し、翌日に備え、寝た。
翌日。
早朝、家族と共に病院へと向かった。とりあえず少し大きめな談話室へと通された。中にはヒカルの家族を含めて30人ほどの人が居た。
暫くして、白衣を来た先生が集団で現れた。
島本「これより皆さんの機械化を担当するリーダーの島本です。本日はよろしくお願いします。各自に担当の医師がつきますので、今後は担当のモノの指示に従って下さい」
その後、ヒカルの目の前に白衣を着た人が現れた。想像以上に若そうだ。
石黒「君の担当になった石黒です。本日はよろしくお願いします」
ヒカルは軽く会釈した。
石黒「君の部屋はDー129号室だね。開始までちょっと時間あるけど、何か質問とかある?」
ヒカル「手術はどれくらいかかりますか?」
石黒「だいたい10時間くらいはかかるね。でも、君は若そうだから8時間で終わるかな?」
ヒカル「え、手術時間って年齢で変わるものなんですか?」
石黒「そうだね。だいたい年齢に比例するね」
ヒカル「へーどうしてそうなるんですか?」
石黒「ヒカルくんさ。緊張してるでしょ?」
石黒医師は突然悪戯っぽい笑顔を見せる。
ヒカル「え・・・・・・。まぁ、ハイ」
石黒「ふふ。まぁ、緊張するのはわかるけど、ここは安心して我々に任せてよ」
石黒医師はとびきりの笑顔で言った。その笑顔は不思議とヒカルを安心させた。
手術室に入る。
石黒医師も真面目な表情を浮かべる。
石黒「とりあえず、頭に電極を取り付けますね」
ヒカルは頭にコードのたくさんついたヘルメットのようなものを取り付けられた。
石黒「麻酔が効いたら後には引けないけど、覚悟は大丈夫ですか?」
ヒカル「大丈夫です」
石黒「まぁ、そんな緊張しないで。目が覚めたら本当にいつも通りの生活が待ってるからね」
ヒカル「ハイ」
石黒「では麻酔をかけます・・・・・・」
泥のような眠りについた。
平たく言えばここから目が覚めるまでの記憶は無い。
ヒカルは目が覚めると、なにやら変な椅子に固定されている自分が居た。そして目の前には自分と姿形が変わらないものが横たわっていた。動こうとすると身動きがとれない。手足が縛られていた。そばには石黒医師の姿があった。
ヒカル「あ、先生、俺、機械の体になったんですか?」
石黒医師はヒカルの思いに反して、血相を変えた表情をしている。
石黒「島本先生ー。生身の尾石ヒカルさんが目を覚ましてしまいました」
島本「あーあ。麻酔の量間違えたな。記憶の転送は終わった?」
石黒「終わりました」
島本「機械身体の構成は?」
石黒「終わってます」
島本「じゃ、生身の方は電気ショックかけて処分して良いよ」
石黒「了解しました」
ヒカル「え、ちょっと待って。処分って何?」
石黒「生身の君を処分するのさ。電気ショックをかけて」
ヒカル「生身ってつまり俺ですか? まって! 俺殺されるってことッ?」
石黒「いやいや、君の記憶は全て機械の君に転送済みだから生身はもう処分して大丈夫! 安心して!」
石黒医師は不気味なまでにとびきりの笑顔を浮かべ、電気ショックのスイッチを押した。
ヒカル「ぎゃぁぁぁああああッッッッ!!」
………………
機械化されたヒカルは目が覚めると、ベッドの上に居た。目の前には石黒医師の姿があった。
ヒカル「あ、先生、俺、機械の体になったんですか?」
石黒「ハイ、手術は無事成功しましたよ」
ヒカル「本当に生身と変わんないんですね」
石黒「手術された皆さん口々に同じことをおっしゃいますよ」
翌日。
ヒカル「いやー。本当に寝てるだけで手術が完了しちゃうんだ。寝て、目が覚めたらもう機械化されてた」
カオル「な? 俺の言った通りだろ?」
ノゾミ「へー本当にそうなんだ」
カオル「ノゾミもほら、早く機械化しちゃえよ」
ノゾミ「どうしようかなー」
ヒカル「迷うこと無いよ。なっちゃえば案外楽だから」
ノゾミ「ついにヒカルまでそれ言い出したか」
病院にて。
石黒「島本先生、次のゴミの回収はいつですかね?」
島本「来週じゃなかった?」
石黒「そんな先なんですか・・・」
島本「どうしたんだ? いきなり?」
石黒「ほら、この前たくさん機械化手術患者請け負ったじゃないですか? 処分場がパンパンで、しかも夏だから生身の抜け殻が腐り出して、ごみ捨て場周辺が異様に臭いんですよ」
島本「とりあえず、消臭剤まいといたら? 全く生身はこれだから・・・・・」
大学のサークル用に書いたモノを試験的に投稿しました。
読んで頂き、有り難う御座いました。