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空のカラ

作者: ムムム

――神様にだって娯楽は必要――


 神様へのお願い事はひとつだけ。

 だからお願い事は本当に大切なことにしなさい。

 カラはそう神様に言われてこの世に生まれました。

 カラは生まれてくるときからカラでした。と言うのも生まれてくるときに神様より「お前はカラとして生きておいき」と言われたからでした。

 昔のカラは人の役に立ちたいだとか、金持ちになりたいだとか漠然とそういう夢を抱いていたわけですが、その度神様に言われた言葉を思い出し、大切な時のために取っておくのでした。

 しかし、カラは夢が叶わないとしても将来は平凡ながらそれなりの職に就き、それなりの異性と結婚し、それなりの家庭を築き、それなりの生涯を送るものだとばかり思っておりました。そして、幸にも貧しくも卑しくもない自分の親を見ていればそう思うのも自然だと思いました。そして何より、自分には神様に願わなくとも自然と御加護があるのではないかという思いも芽生え、不幸になるはずがないと感じないわけにはいきませんでした。

 カラは自尊心の強い子でした。自分の名前は神様より賜った貴いものだという自負があるからでした。

 カラはよく笑う子でした。そしてよく泣き、よく怒る子でもありました。

 幼い時はそれでも感情が豊かで可愛い、可愛いと大切に育てられ、周囲も笑って受け入れてくれるのでしたが、今ではいい年をしながら我が儘で、融通のきかない、それでいてどこかお気楽な、おべっかひとつ出来ないただの阿呆と笑われるのでした。

 カラは悩みました。

強すぎる自尊心が邪魔でした。豊か過ぎる幼子のような感情がどんどん自分の首を絞めてくるのでした。

 どうでもいいことで怒り、些細なことで傷付く自分に疲れました。

 そこで、ふと神様が言っていた言葉を思い出しました。今こそ、神様にお願い事をするべきだと思いました。

――神様、神様。私を縛るこの感情、皆から笑われるこの感情を取り払ってくださいまし。

 カラの心を乱す感情を排除することで穏やかな気持ちを手に入れられると思いましたし、それが今のカラにとって最も切実な願いでした。

 それからカラには感情がなくなりました。

 そのおかげで今まで辛かったこと全て辛いと思わなくなりました。どうでもいいことで怒ることもなくなりました。些細なことで傷付くこともなくなりました。

 それで楽になったという感情はありませんでした。それで嬉しいという感情も生まれませんでした。

 カラは今までよく笑う子でした。お願い事のおかげで笑わなくなりました。

 幼い時分に描いた夢は叶いませんでした。

 カラがどんな夢を持っていたのかは覚えているのですが、どうしてそんな夢を抱いたのか見当つきませんでした。

 結婚はしませんでした。

 そういう願望が生まれませんでしたし、そもそも異性に限らず人と関わりたいという気持ちもありませんでした。性欲は自慰行為で済ませます。どうやら子孫を残したいという本能は人間には必須のものではないようです。

 仕事は続けました。

 辛くもなく楽しくもない、やりがいのない流れ作業です。仕事はしたいとも思わないのですが、生命維持の手段のため行っている次第です。

 カラは考えることを止めました。

 人の感情がなく、何も理解できないカラに考える必要もないからですし、もはや考えたいという考えが起こりえません。今のカラは自分を受け入れるも拒絶するも、そもそもそういう考えなど沸きませんでした。


 そうやって、カラはそれなりの人生を送ったのだとさ。


 カラが手に入れたものは穏やかな心だったのでしょうか。

 なんとなしに天界で神様に問うたところ、

「それはからというのだよ」と教えられましたが、別になんとも思いませんでした。




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