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Barに行く、騎士。

シャーロットの話は、要約するとこうだった。

彼女にはミアとリリーというとっても仲のいい友達が2人いるのだが、どうやらその2人には最近、彼氏が出来たらしい。

それ自体は喜ばしい話だし、彼のいないシャーロットは友達を取られるようで少々寂しい気もしたが、結局は友人の幸せを素直に祝福しようと心に決めた。幼馴染といってもいいくらい、付き合いの長い2人だったからだ。

ところがである。

実際にその2人の彼氏とやらを紹介してもらったとき、もうね、まるっきり放心状態、魂を奪われたようの驚愕したそうだ。

その彼氏さんたち、刺青は入っているし、スキンヘッドだし、体格は喧嘩上等だし。

どう見ても危ない人たち…。

聞けばミアとリリーは、シャーロットと同じくこの豊かなダダの中でも全員が商家の娘。そこそこいい暮らしで、多少は夜遊びもするけれど、それなりに真面目に慎まやかに生きてきた。

そんな親友とも呼べる2人が選んだ相手がこれかい!と、突っ込みたくなったが、お年頃の女の子がアウトローの男性に惹かれるのは世の常。

ただ実際に話してみるとその強面の彼氏さんたちも、まぁ少々調子に乗っているとはいえ話はそこそこ通じるし、その見た目ほどはハチャメチャじゃなかった。だから少し安心したし、たまに5人で遊ぶこともあった。

しばらくは、何もない日々が続いた。

そんなある日のことーーーー。

ミアとリリーの彼氏さんたちが、「割のいいバイトがある。一緒にやらないか?」と持ちかけてきたそうな。

当然、怪しいなってシャーロットは直感で思った。

そしてその話は聞けば聞くほど怪しかった。

ダダの中央街にある砂糖の卸問屋から、港まで物資を運ぶというお仕事なんだけど…それはどう考えても何かの密輸だった。

お給金だって破格だ。…絶対にまともな仕事じゃない。

シャーロットは、ミアとリリーに「関わっちゃダメ!」と、必死に説得したのだけど、恋に狂った乙女が彼氏の話を疑うわけがない。むしろ、協力しない自分が非難される始末。

そこで彼女は、これを機会に大きな決断をするに至ったのだ。


「もうさ、縁を切ろうと思ったの。今日で遊ぶのは最後にしようって。だけど、いざ一人で行くとなるとやっぱり怖くて…。どうしようって迷いながらぼうーって歩いていたら、もっとボーって歩いてる君を見つけたの。」


「なるほど…。」 …酷い言われように、顔が引き攣った。


「それでね。アルバを見てたら、あっ!男の子に一緒に行ってもらえばいいじゃん!って思ったの。ほら、あの子たちの彼氏にも対抗できるような男の子と行けば怖くないじゃんって。」


シャーロットは急に元気な声をあげて、何かを思い出したようにそう満面の笑みを浮かべた。

なるほど…理由は分かったが、それはとんだ人選ミスだ。僕は苦笑いを浮かべながら、頭を掻いた。


「それなら、俺じゃなくて…もっと体が大きくて喧嘩も強そうなハッタリが効く様な人に声かけた方がいいと思いますけど…。」


「う〜ん、そこは不思議なんだけど…。何か君が気になって、いつの間にか声をかけていた…みたいな?ほら、アルバは優しそうだし!」


「…つまり、俺がお人好しに見えた訳ね…。」 


僕は肩を竦めて、苦笑いを浮かべた。ただ、それなら納得だ。


「そんな人聞きが悪い…。うんとね、君なら何とかしてくれそうって気がしたの。これは本当に!」


「ごめん…いったい俺のどこを見てそう思うの?」


ジルに鍛えられたといっても、僕は男では華奢な部類に入るのは間違いない。だから、そう素直に疑問を投げかけた。


「う〜ん、顔が好きだったのと…後は、腰に剣があるって分かったから!…もしかしたら、見た目は可愛いのに凄く強い人なんじゃないかって…。」


「そんなおとぎ話みたいな事あるわけないでしょう?これは護身用なんです。」


僕は苦笑いを浮かべながら、そっと聖剣の柄に手を添えた。

まぁ…ジル先生との日々や実戦をいくつか経験して、そこそこは強くなったような気もするけど、もともと喧嘩は嫌いだし、サーシャ以外のことで誰かと争いたくはない。それに動きが速いだけで、剣の腕の方は全くの未知数だ。

シャーロットは、僕が自信無さげに笑うのを見て、「そっか…。」と寂しそうな声で漏らし、落胆を隠すように複雑な笑みを浮かべた。


「ごめん…。無茶苦茶だよね…。こんなこと…。」


彼女は悲しげに、顔を俯かせる。しかも溜息交じりの苦しそうな声で…。

僕は返事を返さなかったが、これまでの彼女の言動や様子を見て、シャーロットが胸に抱く隠された思いはなんとなく察しがついてしまった。

…結局彼女は、2人のお友達を助けたいのだ…と。

力づくでも、その彼氏さんたちからお友達を引っ剥がし、連れて帰りたいのだ。だから、彼女は僕の剣を見ていたのだろう…。

よくよく考えれば、縁を切るだけなら別に彼女が友達のところへ行く必要などない。フルシカトで二度と会わなければ済む事だ。

僕は、ちらってシャーロットに目を向けた。

彼女は先ほどまでと違い、顔を伏せて辛そうに何度も溜息を洩らしていた。目も虚ろで、だらんと両腕を垂らして歩くその様は、まるで群れから取り残された小動物のように怯えているように見えた。

「シャーロットさん…?」僕は、心配になって声をかけたが返事は返ってこない…。

彼女の特徴である玉ねぎ頭も、どこか新鮮味がない。

…こういうのは、苦手だ。

そう思った僕は、彼女に元気を取り戻して欲しくて、普通に話して欲しくて、言葉を探す。

だけど、それをさせる答えは一つしかない。

僕は小さくため息をつくと彼女から視線を外し、今度こそ夜空を見上げて口を開く。


「えっと…君のお友達カップルたちは何処にいるの?」


サーシャのお人よしの影響を受けたのもあるだろう。

結局僕は、いつの間にかそんな言葉を口にしていたのだった。







彼女が僕を連れていった場所は、先ほどの繁華街から路地に入り、3つほど先の狭い通りにあった。

幾つもの交差点や十字路を越えて進めば、道は徐々に狭くそして複雑になっていく。捨てられたゴミ、割られた酒の空き瓶、鼻を突く悪臭…シャーロットに言わせれば、ここは日雇い労働者や物乞いなど低所得層が住む地区だという。

あの華やかな繁華街からわずか10分ほどの場所にこんな所があることも驚きだが、ランプの数が少なく若干寂れた感じのその裏通りは、道を挟むように古い木組みの家が立ち並んでいて、2人の息遣いが耳に残るほど辺りは静寂に包まれていた。


「こんな所に、本当にお店があるの?」


前を行くシャーロットにそう声をかけると、彼女は足を止めて小さく頷く。

僕が怪訝そうに辺りを窺うと、シャーロットは正面にある古びた建物をゆっくりと指差した。

こんな暗闇でも寂れた様子がはっきりと分かる濃緑の建造物…看板は出てないようだか、入口と思われる木の扉には、なにやら不気味なレリーフがかけられていた。それは悪魔みたいな物の怪が、舌を出して微笑む気持ちの悪い代物だった。


「あのマークのドアから、地下に降りるのよ。そこのBarでみんな待ってるの。」


シャーロットの声が少々固くなった。


「…なんか、怪しそうなお店だね。」


「うん…。でも、普通のBarだから。」


彼女はそう話すと無理やり作った笑みを浮かべ、ゆっくりと歩き出した。

よほど緊張しているのか、彼女の足は微かに震えている。今から友達を説得し、その彼氏さんたち共々説き伏せようと言うのだ。それは仕方ないことなのかもしれない。

だが、足が震えているのは、何も彼女だけじゃない。それは自分だって同じだ。

なにしろ、こういう裏世界の方々とのお付き合いはこれまで皆無(まぁ、強盗さんや人さらいさんや暗殺者は知ってるけど)だし、気がつけばこの場所にはいろんな殺気のようなものを感じ取れたからだ。

そう、ジルから授けられた様々な気配を感じ取る僕の心眼は、この建物の周りに潜む、幾人もの敵意を教えてくれていた。

少なくとも自分とシャーロットが何者かに監視されているのは間違いがない。

僕がその気配を確認するように辺りを伺っていると、突然シャーロットに腕を掴まれた。


「もうさ、パッと断ってすぐに出てこようよ!」


吹っ切れたようにシャーロッットはそう言い放った。


「それで済めばいいけど…。」


「大丈夫!2人にちゃんとお別れだけ言えればいいからさ…。」


そう強気に話すシャーロット。

だけど…その言葉が、逆に痛々しく聞こえた。お節介かなとも思ったが、どうしても確認しておきたかった僕は、遠慮気味に尋ねる。


「あの…シャーロットさん。本当にいいんですか?」


「何がよ?」


「ミアさんとリリーさんの事です。お友達なんでしょう?」


「………。」


「彼氏さんたちの方は仕方ないとしても、お友達の2人は最後にもう一度だけ話した方が…。」


僕はなるべくゆっくりとした口調で説得を試みた。

地下へと降りる扉はすぐそこだったけど、彼女には後悔して欲しくなかった。

男女間や過ごした時間という違いはあるものの、僕がサーシャやサカテと縁を切るなんてとても考えられなかったからだ。

…だが、彼女は申し訳なさそうに首を横に振った。


「…もう、いいの。決めた事だから。」


「…えっ?でも…。」


「いいんだってば!つーか、アルバって見かけによらずお節介ね。」


彼女は頬を掻きながら、大きな笑みを浮かべた。見た目より、だいぶ頑固なようだ。

だけどその笑みは微妙に引きつっていて、無理してるな…って、いくら鈍感な僕でもすぐに分かった。

やがて扉の前に着き、2人は足を止めた。

その怪しげで重厚な黒い扉には、不気味な悪魔のレリーフ以外にも数多くの傷が刻まれていて胡散臭さ満点だ。どう見ても真っ当な店の玄関じゃない…。

「じゃ、いくよ…。」 シャーロットは、そう僕に確認しながら震える指をドアノブにかけた。僕が小さく頷くと、やがてその重たそうな扉は、ギィギィーと鈍い音を上げながらゆっくりと開く。

だが扉の奥は漆黒の闇…。何も見えなかった。

「真っ暗だね…。」 僕がそう洩らすと、彼女はそっと腕に手を添えた。


「目が慣れれば階段はじきに見えるわ。足元には気をつけて!」


「う、うん。」


おっかなびっくりで、ゆっくりと階段を降りていく。

歩くたびにギィ…ギィ…っと鈍い音がこの狭い空間に響く。よほど年代物なのだろう。

まるで地獄に降りていくような怪しさ満点のその階段は思ったより長かった。やがて彼女の言う通り、目が暗闇に慣れてきて、細くて頼りなさげな木で組まれた階段がじんわりと映し出された。


「アルバも見えてきた?」


僕の足取りが軽くなったのを感じたのだろう。彼女がそう尋ねてきた。


「…まあ、だいぶ。」


「ふふっ…でも残念。もうすぐゴールよ。」


彼女がそう言ってクスって笑う。その意地悪そうな笑顔が、今は少しホッとする。

やがて2人は一間ほどの狭い部屋のような場所にたどり着いた。

ワインの樽や木箱が無造作に置かれていて、まるで物置のような空間だった。

埃っぽくて蜘蛛の巣がやけに目につく。

それは、まるでここから先がないように思わせるためのフェイクのように感じられた。…それだけでもかなり如何わしい。

やがて、彼女はドアと思わしき木の板に向かって、トントンって2回叩く。

その可愛らしい横顔は、どこかこわばっていて固く感じられた。

…暫く、静寂が続いた。


「誰だ?」


急に扉の向こう側から、野太い声が聞こえた。

シャーロットは少しだけ背伸びをすると、「シャーロットです。友達と来ました!」と言い放った。

それと同時に、ガチャッ!ガチャッ!と鍵が落ちる音がした。

僕は緊張のあまり額に汗が滲む。もうね、裏通りに入ってからこちとら、ロケーションやこの空間に至るまでの様々な状況を分析しているんだけど、ここまでは怪しい事この上ない。

やがて少しだけ開いた扉の隙間から顔を出したスキンヘッドの男の迫力満点な顔を見たとき、それは確信に変わった。

やはり此処は僕なんかが来ちゃいけない場所だって…。

男は僕とシャーロットを交互に冷たい視線を送ると、やがて無表情に口を開いた。


「いらっしゃい。お友達が待っているよ…。」


常人の3オクターブほど低い声。何気ない言葉にも、かなりドスが効いていらっしゃる。

それ以外にもスキンヘッドや刺青、そしてガタイのいい体を覆う上下黒い服もその迫力に一役買っていて、正直言えば目も合わせたくなかった。目を合わせた途端、殴られそうだもの…。

そんなわけで僕は彼女の横で小さくなっていたが、シャーロットはそのスキンヘッド男に軽く会釈して、あろうことか僕の背中を押す。


「…行こう、アルバ。」


「ちょ、ちょっと…。」


「男の子でしょ?」


「そりゃそうだけど…。」


そう口を尖らせたが、結局は僕が先に店に入ることになった。

不気味な笑みを浮かべたスキンヘッドの男が、ドアを大きく開ける…。

僕はその男に軽く頭を下げ、骨董品のように古いドアをくぐり、ギシギシと音が軋む古臭い床を踏みしめながら進む。

歩きながら注意深く辺りを見渡したのだけど、店内は薄暗い橙のランプが頼りなさげに幾つか壁にぶら下がっているだけで、たいそう暗かった。

席は10人ほどが座れるカウンターと4人が座れるボックス席が3セットのみ。ただ席は埋まっていて、そこら中で立ち飲みの客が溢れ、ざわざわと雑然の声が響き渡りその空間を覆っていた。

部屋中に充満する葉巻の煙と噎せ返るような酒の匂い…。

Barというのは大抵こんなものだけど、当時の僕はそんな事は知らなくて、その空気の悪さと窮屈さに面食らったものだ。


「すごいとこだね…。」


僕は口を手で押さえながら、横を歩くシャーロットの耳元でそう洩らす。少なくとも未成年者の田舎者が来る場所としては、そぐわない事は間違えない。

彼女は僕の言葉に気のない返事をして精一杯背伸びをすると、小動物のようにキョロキョロと辺りに目を向けた。

だが、店内は右往左往の大渋滞。お友達も簡単には見つかりそうもない。


「お友達は、いた?」


「ううん。ここにはいないみたい…。」


シャーロットがそう言って、不安そうに首を振った時だった。


「おい、シャーロット!遅かったじゃねか!」


突然、後ろから声をかけられた。

軽い声だった。

僕とシャーロットは驚いて振り返る。と、そこには厳つく目つきの悪い坊主頭の男が、含み笑いを浮かべながら立っていた。


「イーサン…。」


すぐに彼女が反応する。

気安く呼び捨てで男の名を呼び、愛想笑いを浮かべた彼女の横顔…。

察するにこの男が、お友達のどちらかの彼氏なのだろう。

やがて男は、目つきの悪い目を更に細めて僕に目を向けた。


「なんだ、この坊やは?」


「私の…恋人なの。うん、そう、新しい彼氏!アルバっていうのよ!」


たいそうな事実誤認に僕は慌てて彼女を睨んだが、逆に足を踏まれた。

イーサンと呼ばれた男は、首を前に出して僕の顔をまじまじと見て「ふうん、シャーロットの趣味は変わってんな。」って、ぼやきながら、眉間にしわを寄せた。僕は苦笑いを浮かべて頭を掻く。失礼な御方だけど、敵意を向けられるよりかはなんぼかいい。


「今日は、話があって来たの。ミアとリリーはどこ?」


シャーロットは、イーサンを見上げながら必死に睨む。


「…奥の部屋にみんな居る。…ただ今日は、例のバイトの元締めも来てんだ。話は後だ。」


「も、元締め?」


「ああ。だからお前も、お行儀良くしとけよ。」


その男は、そう言い含めると大きな咳払いをしながら店の奥へと歩き出した。

背はそれほど高くはないがガタイのいいイーサンは、のっしのっしとまるで象さんの様に進む。いっそ、曲芸でもしてくれれば可愛げがあるんだけど…なんて呑気に思ったが、シャーロットはがっくり肩を落としていて、横顔はやはり曇っていた。


「シャーロット、大丈夫?」


「…う、うん。」


…その返事も、顔の表情もあからさまに曇っていた。

その理由は、聞かずともよく分かる。元締めっていう御方が恐ろしいのだろう。

僕は恐る恐るその事を尋ねた。


「…さっき、あの人が言っていた元締めって…誰?」


「…よくは知らない。でも…多分、マフィア。」


「マ、マフィア…。」


2人して、ますます声のトーンが落ちた。

マフィア…。

云々、いかなものを知らない自分でもその人たちの事は知っている。

彼らは無法者の集団で、脅しと暴力で物事を解決する非常に厄介な連中の総称だ。

やがて彼女は、思いつめた表情を浮かべながら目線を外し、ブツブツと独り言を言うように口を開いた。


「アルバ。…やっぱり、君は帰って。」


「へっ…なんで?」


驚いて聞き返すと、彼女は自嘲気味に笑った。


「これってやっぱ私たちの問題だから。君を巻き込む訳にはいかないわ。」


「………。」


「ね?今すぐここを出れば、君は旅人だし、マフィアなんかと関わらなくて済むんだからさ。」


「………。」


僕は無言で彼女の目を見ていた。

化粧をしているとはいえ、幼さが残るシャーロットの目は、小さく揺れていた。

ふと、思った。追い詰められた彼女が、本当のことを言うはずがないって。

恐怖、後悔、諦め、覚悟…彼女からは色々な感情が読み取れる。

シャーロットは強がっている…咄嗟にそう思った。

だけど…ここで調子に乗って彼女を助けるべきかどうかは迷う。

なにしろこの場所には、自分の心を沸き立たせてくれるサーシャはいないし、頼もしい仲間である槍使いのサカテもいなければ、背中の大剣もない。

これまで有名な将軍との一騎打ちで勝利したり、盗賊や傭兵を追い払ったりして来たけど、それは大剣の力と支えてくれた2人がいてくれたからだ。なにせ僕はただの田舎の物売りの出身だもの。

ふと…腰に帯びた剣の柄に目をやった。今はマントを羽織っているから見えないけれど、そこには村長から授かった聖剣ガリネリウがある。

今の自分にあるもの…それはこの聖剣とジルに学んだ僅か1年の剣の修行で得たチカラのみ。

あと、強いて言えばサーシャを護るために目指す頂、師匠さんへの畏怖。僕は今、彼の代わりにサーシャを護っている。

師匠さんは大剣の本当の持ち主で、サーシャの真の騎士様。そんじゃそこらの悪党なんて、ひと睨みで撃退するって御仁らしい。

師匠さんなら…どうするんだろうなって、ふと思った。

だけど、その答えはすぐに頭に浮かぶ。

何しろ師匠さんは、かの女神の騎士様。

稀に見るお人好しで世界中の民の心の支えである女神サーシャ・カスティリャの真の騎士様だ。

そんな彼の行動なんて、手に取るように分かる。

( こうなったら…師匠になりきろう…。)もう、そう自分を慰めるしかなかった。


「シャーロット、行くぞ。…俺から決して離れるな。」


だから僕は自分でも驚く様なセリフを口にして、いつの間にか彼女の前を歩き出していたのだ。



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