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逆ナンされた騎士



「わぁ、綺麗だなぁ…。」


顔を擡げ、腕を組んでいたアルバは、ふと感嘆の声を漏らした。

嬉しそうに天を見上げる彼の顔の周りには、ふわぁっと白い息が幾重にもそよぐ。

だが、アルバが見ていたのは、満点の星が広がる夜空ではない。

彼の視線の先は、このダダの街特有の建造物である”三角屋根の木組みの家”だ。

時は真夜中。

5階から6階ほどの高さがあるその建物は幾つものランプに彩られていて、絵本に登場しそうな色とりどりの建造物がなんとも幻想的だった。そしてそれらの家々がまるで箱庭に閉じ込められたように密集している街並みは、童話の世界に紛れ込んだような錯覚に陥るほど現実離れしていたのだ。


つい先ほどまでサーシャとサカテと宿の食堂にいた筈の彼が、なぜこんな場所にいるのか…。

理由はいくつかある。

まずこの街は彼にとって、初めて見る生活圏外の場所であること。

そして彼は臆病ではあるが、多感で好奇心旺盛な16歳の少年であること。

とどめは、旅の仲間であるサーシャとサカテが奥のカウンターでたいそう話し込んでしまっていて、すっかり暇になってしまったってことだ。

そう、食事を終えてお腹いっぱいになった彼は、この時間を利用してダダの街の見学に繰り出した…という訳だった。



「あれ…?」


閉店した食堂のガラスに映った自分を見て、僕はふと足を止めた。

三角屋根の見物にもすっかり飽きてきて、どこへ行こうかと彷徨っている最中だった。

街頭ランプに照らされ、黒色の窓にぼんやりと写り込んだ猫背の自分…その丸めた背中に見慣れた黒い大剣がなかったからだ。

( しまった…。 )

思わず顔をしかめた。

あの黒剣は大きいくせに何故だか空気のように軽いから、持ってこなかった事に今更気がついたのだ。

額に手をあて、そっと記憶を手繰り寄せてみる。

( そういえば…。 )と、僕は食堂の椅子にその黒剣を立てかけたまま忘れた事を、はたと思い出した。

取りに戻ろうかとも思ったけど、面倒だしあの場所にはサーシャもサカテもいる。どうせすぐに戻る予定だし、しっかり者の2人がいるなら大丈夫だろうと決めつけ、結局はそのまま街の散策を続けることにした。

まぁ、あの剣が無くたってセザールのような強敵と出会わなければ何の問題もない。

長めの茶色マントに隠れているけど、村の神父さんに託された銀の鎧を着ているし、村長さんから預かった聖剣ガリネリウだって腰に帯びている。よっぽどの事があっても、最悪逃げ出せばいいやって思った。


そんな事よりもだ…って、僕を両手を掲げ、思いっきり伸びをした。


ーー最初に思った通り、この街は何かワクワクするのだ。

知らない街を一人で歩くのは結構勇気がいたが、この光景をゆっくり見られるなら、少々無理をして良かったとさえ思った。

記憶を無くしているから本当の所はよく分からないが、臆病者の自分が街の風景を見てみたいと宿を飛び出したのだから、どうやら自分は建造物をはじめとした知らぬ街の探求が好きだったのかもしれない。

色とりどりの煉瓦で作られた道、ほんのり橙色に光るランプ、冬なのに原色の花が咲き乱れる花壇…。

ここは、これまで自分が暮らしてきたワラミ村ともルンの街とも、建造物は勿論、雰囲気や街が持つ空気が全然違う。とにかく建物が木組みで色合いが可愛いし、どこか明るくて陽気だ。実はこの街にたどり着いた時からそんな事を感じ、ゆっくり見てみたかったのだけど、食いしん坊のサーシャの所為でそれは叶わぬ事になった。

そういう意味で言えば、サーシャとサカテが話し込んでくれた事は、僕にとって実に幸運だった。


( おっ…ここは人が多いな…。 )


宿屋から続く暗い小道を抜けて多くの店が立ち並ぶ繁華街へと出たのだけど、そこで僕は目を丸くした。

幅が4、50mはあろうかという通りには、今が深夜かと疑うくらい多くの人でごった返していたのだ。…恐らく、この街のメイン通りなのだろう。

みんなで合唱している人々、千鳥足で歩くおいちゃん、楽しげなカップル…。

そんな連中が蟻の大行列のように縦横無人に進んでいて、大きな道路はすっかり埋め尽くされていた。

ざわめく人々の雑踏の中、僕はその様子を道の隅っこで窮屈そうに窺っていたが、年齢層が低くて派手な服を着たやんちゃな若者やカップルなどが妙に目につく。そう、自分と同年代と思しき男女が大通りには溢れていたのだ。

辺りに目をやれば大概の店は閉まっていたけど、酒場と思われる店からは煌々と光が漏れ、賑わっている様子が伺える。

若干、こういうイケイケな人種や繁華街的な雰囲気が苦手な僕は、人並みを避けるようにそのまま隅の方をトボトボと歩くことにした。


「おっしゃー、もう一軒行こうぜ!」


「マジだるいんですけど…。」


「てか、飲みの方がよくない?」


元気でノリがいい言葉が至る所から聴こえてくる。

さっきまでの可愛らしい街の情景とは打って変わったその光景に、益々気後れしていく自分がいた。そして逃げるようにどんどんと道の隅へ自分で自分を追い込んでいく。

ただ、道行く若者たちは幅いっぱい広がっているから、この街の喧騒からはどうせ逃げられない。

諦めたようにそんな聞きなれない若者たちの言葉を耳にしていたのだけど…彼らの会話を聴けば聴くほど、本当に色々と考えさせられてしまう…。

そして、今は遠い昔のように感じるワラミ村での孤独な生活が頭をよぎった。

あの自由気ままな生活も人から言われるほど悲惨じゃなかったし、それなりに楽しんでいた。ただそれが16歳の真っ当な生活かと問われれば疑問符がつくのはしょうがない。教会で勉強はしてないし、年がら年中一張羅でその日暮らし。一番の心配事は毎日の夕食にパンが並ぶかどうか…。

そういう意味で言えば、ルンの街で見かけた若者や、いま目の前をゆく同世代の連中を見ると、何か自分の方が世間とズレているのではと漠然と思ってしまった。

ど田舎の村で一人で生きてきた僕に、街で暮らす若者たちの常識なんて分かる筈もないけど、向こう側から見えるものってなんだろう…無邪気に騒ぐ彼らを見てそんな疑問が頭にこびりつく。


( みんな…どういう生活をしてるのかな…。 )


ふと、そんな事が気になった。世間でいう普通の”16歳の生活”に少し興味が湧いたのかもしれない。

騒ぐ友達や恋人だっている彼ら…きっと自分とは何もかも違うのだろう。

昔から叔母や神父さんとかに、”友達が欲しくないの?”と聞かれる事も多かったけど、そもそも友達がどういうものか分からないから答えようがなかった。同年代が周りにいなかったから、知り合いと友達の違いが分からないっていうのもあっただろう。

ただ、今なら身近にサーシャやサカテがいてくれる。

もし、あの2人と自分との関係がお友達というなら、友というのは素晴らしいものだって思える。

一人は教団の司祭様だし、もう一人は鬼のように強い槍の名手っていう普通なら絶対に知り合えない面々であることも勿論だけど、サーシャなんてご飯作ってくれたり、洋服を編んでくれたり、落ち込んでいるとずっと側にいてくれて添い寝までしてくれて励ましてくれる。

…ただ、僕にはサーシャとサカテしか友と思える人がいないけど、彼女たちには他にも友達がいっぱいいるのだろう。するとサーシャにも、僕と同じような男友達なるものがいるのだろうか…それは、なんか凹む。

そんな事を漠然と考えながら、無意識に足を進める。

亀のように…ゆっくり、ゆっくり…呑気の歩みは遅い。


「ねぇっ!そこの少年!」


と、いきなり後ろから甲高い声がした。

元気で、なんの躊躇もない、はっきりとした声色だった。

だけど、まさか自分が呼ばれたとは思えずそのまま歩く。何せここは初めて来た街、友達どころか知り合いだっている筈もない。

ところが、また同じ声がした。しかも声が先ほどより大きい…。


「ちょっ、ちょっと待ってよ。シカトはないでしょ!」


思わず驚いて振り返った。

肩を掴まれたからだ。

見れば同い年くらいの若い女の子だった。


「えっと…俺ですか?」


「うん、君!」


見知らぬ女の子は、弾かれるように元気な言葉を返してきた。ピンクの大きなマフラーが印象的な短い茶髪の女の子だった。

ただ、そんな派手なマフラーとともに彼女にはもう一つ特徴があった。それは…髪型だ。

( 玉ねぎみたいだな…。 )

その丸っこい髪型を見て、僕は思わずクスッて笑みをこぼしてしまった。そう、彼女の頭は見事な玉ねぎの形をしていたのだ。

するとその玉ねぎさん、ようやく振り返った僕の顔をじぃっーて見ていたかと思うと、「なに笑ってるのよ!」と口を尖らせながら大げさに手を掲げていきなり僕の胸元をバンッ!って叩いた。鎧を着ているから痛くはないんだけど、その圧が強い彼女にちょっとたじろいでしまった。なにせ僕の周りにはお淑やかと偏屈な女性しかいないから、こんな女性に馴染みがないのだ。

だけどその謎の少女は、まるで何もなかったように僕の顔をまじまじと覗き込み、元気な声で話しかけてくる。


「君さぁ、暇?暇だよね?」


彼女は自分が苦手な早口だった。

…思わず、のけぞって答える。


「い、いえ…。あの…何か、御用ですか?」


「うん!用がなきゃ、話しかけないでしょ!」


……また、身もふたもない事を言う。だけど僕は君に用事はない。


「それはそうだけど…。」


「私はシャーロットよ。君の名前は?」


「ア、アルバ…です。」


口ごもりながら答えて後ずさると、その分だけ彼女は迫ってくる。


「アルバか!いい名前ね!…それで、アルバはここで何してたの?さっきから見てると、お化けみたいにボウって歩いているみたいだったけど…。」


「…えっと、街の見物です。俺、ルンから来たばかりなので。」


「ふうん、ルンからね。あそこは街全体が白く光ってて綺麗よね!」


思わず目を丸くした。まさか自分と同年代の娘がルンの街を知っているとは思わなかった。


「ルンに行った事、あるの?」


「うん。親戚がいるの。年に一度は家族で行くわ。」


シャーロットと名乗った娘は、自慢げに腰に手をあてた。

初めて彼女の格好をまじまじと見たが、ベージュのコートは厚手だし長靴もふわふわして暖かさそうだ。

まぁ、この時代に家族で旅行ができるのだから、彼女の家が裕福なのは想像に容易い。


「シャーロットさんの家はお金持ちなんだね。」


僕の声は若干、卑屈だった。ただ彼女は何も感じなかったのか、玉ねぎ頭を揺らしてせっかちに尋ねてくる。


「そうでもないわ…。ってか、アルバはこんな真夜中になんで街見物なんてしてるの?」


「いろいろな事情があって…。こんな時間になってしまったんです。」


「ふうん…まぁ、いいわ!じゃさ、私が街を案内してあげる!」


「えっ?で、でも…。」


「さっ、ついてきて!」


シャーロットは、呆気にとられている僕の腕を掴むと、強引に引っ張ってくる。

彼女の突拍子もない行動に「ちょ、ちょっと?」と、僕はすかさず文句を言ったが、彼女は意に返さずそのまま手を離さなかった。またそれが冗談っぽいのではなく、僕のマントが取れちゃうくらいの力の入れ具合だったから余計に驚く。

彼女の細腕にどこにこんな力が…とつまらないことが頭をよぎるが、僕だってこのまま理由もなしに彼女について行く訳にはいかない。まぁジル先生に体幹なるものを鍛えられた僕の身体はピクリとも動かなかったけど、前からの名残でなんとなく足を踏ん張った。

歯を食いしばって引っ張る彼女と、足を踏ん張って抵抗する僕。

…なんとなく、睨み合いのようになった。

彼女は眉間にしわを寄せて、凄んでくる。


「なに?アルバは、私を疑っているの?」


「そういう訳じゃないけど…。」 


本音は勿論、かなり疑ってる。


「変なものを売りつけたり、案内料をとったりする観光客相手の詐欺師だと思ってる?大丈夫よ、むしろご馳走してあげるから。」


「……まずます怪しんだけど。」


「もう!こんな素敵な女の子のどこが怪しいのよ!ほら!行こう!」


早口で強引なシャーロットは、体をいっぱいに使って有無を言わさず僕の腕を引っ張ってきた。その懸命に綱引きをしているような彼女の格好と健気な様子が面白くて、僕は思わず体の力を抜いてしまった。

理屈じゃなく、彼女の喋り方や仕草がどうにも悪人に見えなかったからかもしれない。


「フフッ。やっと観念した?」


自分の腕を掴み、したり顔の彼女の顔が少々生意気に見えた。

僕は諦めたようにため息をつく。どうせ口喧嘩や問答では早口な彼女に勝てるわけがない。


「あの…俺にも連れがいるので、そんなに遠くへは行けないですからね。」


「うん、勿論!ちょっと付き合ってくれればいいから。」


付き合う?彼女の言葉尻に少々疑念を持ったが、もはや後の祭り。僕は引きずられるように彼女に手を引かれながら、行き先も分からないままついて行く羽目になった。


「本当に時間は少しだけですよ。本当に、本当ですよ!」


僕は懸命に釘を刺す。あまり遅くなると、サーシャとサカテに心配をかけてしまう。


「はいはい。ってか、こんな可愛い娘が誘ってるんだから、もう少し喜んでよ!」


「う、うん…。」


僕は頭を掻いて苦笑いを浮かべた。

まぁ、彼女が自画自賛する通り、自分の手を引くシャーロットは若くて普通に可愛し、活発そうで性格も明るそうだ。

玉ねぎみたいな形をした髪型はどうかと思うけど、自分より少しだけ背の低い彼女は、マフラーやコート、バッグに至るまで身につけているアイテムが洒落ている。

以前なら、全く女性慣れしていない僕は、もっと驚いていて落ち着かなかっただろう。

ただ最近の僕は、あのサーシャさんの側にいる。女神のごときサーシャは僕にとって同年代で初めて知り合った女性だから、新しく知り合う女性とサーシャをどうしても比べてしまう。そう、女神様が指標になってしまうのだ。

比べるという行為そのものが失礼だし、タイプも全然違うからあれなんだけど、そうなると自分で可愛いでしょ?と尋ねてきた相手に僕が浮かべる表情はどうしても苦笑いになってしまうのは致し方ない。

やがて僕が大人しくついてきたからだろうか。彼女は掴んでいた僕の腕からようやく手を離すと、気軽に尋ねてくる。


「ねぇ、アルバって幾つなの?」


「16…です。」


「わぁ…やっぱ同い年か〜。最初見た時から、そう思ったんだぁ〜。」


シャーロットは、嬉しそうに両手を挙げた。その無邪気な彼女に、僕も思わず大きな笑みを漏らした。同い年の知り合いが出来たのは初めてだったからだ。


「同い年の人と知り合えるなんて…なんか嬉しいです。」


僕は素直に笑った。本当に嬉しかったからだ。すると彼女は急に大きな声でハハハっーと

笑い出す。


「あははっ、なにそれ?」


「実は…あまり歳が近い知り合いがいなくて…。」


僕が困ったように笑うと、彼女は足を止めて自分の前に立ちふさがった。


「へぇ〜、意外!」


「そうですか?」


「うん。髪型もいまどきだし、腕のミサンガも洒落てるし、香水なんかもつけてるから、友達や知り合いがいっぱいいるように見えたんだけどなぁ…。」


なるほど…。だけど、それは全部サーシャのお陰だ。というか、揃いも揃って全部サーシャがしてくれたものばかり。まぁ、香水は誤りで、シャンプーなるものの残り香だと思うけど…。


「と、とんでもない。俺はただの物売りなんです。」


全力で否定すると、彼女はクスクス笑う。


「ふふっ、アルバって冗談も言うのね。どこに香水つけてる物売りがいるというの?」


シャーロットは碌に自分の話を聞かないで肩をすくめた。

だから香水じゃないってば!って言いたかったが、確かに彼女が言う通り今の僕は物売りをしていた時の格好とは大きく違う。

今はマントで隠れているがジルとの生活によって体幹が鍛えられ、村の神父さんから貰った銀鎧も様になってきた。サーシャにカットして貰った髪型は爽やかだし、総合的に鑑みても自分ではそこそこの若者に見えるのではと最近は思ったりもしている。…ただ中身と本職は、売れない万年貧乏な物売りのままだ。


「冗談じゃなく、本当です!」


だから強調して言ってみた。


「はいはい。そんなムキにならない。まぁ、ある意味では私の家も物売りだしね〜。」


「そうなの?」


「うん。うちは代々、ここダダでお洋服の布地を売っている商家なの。同じだね〜。」


そう、嬉しそうに話すシャーロット。

僕は全然ちがーうって思った。そりゃ、商売に成功したお金持ちの物売りだ。

まったく…世間しらずのお嬢め〜なんて少々呆れながら彼女を見返すが、その能天気な横顔を見て…ふとつまらない事が頭に浮かんだ。

僕も商売に成功してさえいれば、もしかしたら彼女と同じ生活ができたかもしれないって…。

……俄然、彼女の生活に興味が湧いた。


「じゃ、シャーロットさんはお家で働いているの?」


興味津々な顔でそう尋ねる。物売りの秘訣があるならぜひ教えて欲しいって思った。何しろサーシャが師匠さんを見つければ、僕はまた唯の物売りに戻るからだ。だが彼女は首を横に振った。


「えっ?まさか。私はまだ16よ。普段は教会の高學でお勉強。この歳で働いているのは…貧乏人か職人さんを目指す人くらいのものよ。つーか、アルバだって高學でしょ?」


「い、いや。今は、旅をしているから…。」


僕が誤魔化すように答えると、彼女は少し垂れた目を爛々とさせて見つめ返してきた。


「マジで〜!?えっ?旅行じゃなくて、旅!?何年も世界を巡ったりする方!?」


「う、うん…。」


そう頷くと、シャーロットは大袈裟に両手を掲げてはしゃぎ出した。


「いいなぁっ!アルバって、やっぱ凄い人だったんだねぇ!!ねぇ!私も連れてってよー!」


「…無茶言わないでください。だいたい、教会のお勉強はどうするの?」


思わず、声が裏返る。

ただ、同い年…だからだろうか。生まれも育ちも違うけど、その後も話は勝手に盛り上がった。シャーロットの質問ぜめにあってしまったので残念ながら彼女の普段の日常を詳しく知ることは出来なかったけど、話の端々でなんとなく察しがつく。

働かなくても、家があって、食べ物があって、お金に困ることもない生活。夜遊びだってできちゃう彼女は、この世界では恵まれた部類にはいるのだろう。

一見、何も悩みがないように見えるシャーロット…。

だが、他愛もない会話を続けていくうちに、人はいろんな顔を出す。

世界的権威”教団”の支配者の一族であるサーシャだって悩みがあるように、裕福とはいえ思春期の女の子に悩みが無いはずがない。

やがて僕は、彼女の視線が気になった。

…先ほどから何度も僕の腰のあたりにチラチラと目をやっていたのだ。そこは、マントが膨らんでいる箇所…そう彼女は僕が腰に剣を帯びていることを、何度も確認していたようだった。最初は偶然だろうと特に気にも止めなかったが、ここまでチラチラとみられると、いろんな想像をしてしまう。

僕が武器を持っているかどうか気になるってことは…他にも仲間がいて、強盗?人さらい?…それは怖いし、できれば関わりたくないし、御免被りたい。

そんなわけで彼女との楽しい会話は続いていたが、あまり集中できなくなり、やがて急に我に返った。

ふと口を開くのをやめた。

すると彼女は、不思議そうに僕の顔を覗き込んでくる。


「どうしたの?急に黙ったりして。」


「シャーロットさん…。本当は何で俺なんかに声をかけたんですか?」


「えっ?」


目を丸くする彼女。声も裏返った。

僕がそんな事を突然尋ねたもんだから、完全に面食らっているようだ。

だけど僕にとって、その事実を確認するのは身の安全の為。なにせここは全く知らない土地だから、色々予防線を張っておかないと危ないったらありゃしない。

ただ予想した通り、彼女はせわしなく玉ねぎ髪をいじりながら、すっとぼけた。


「…う〜ん、ちょっと気になったからかな。えっと…ほら、キョロキョロしてたから観光客なのかなって。それなら、案内してあげようかなって…。」


「シャーロットさんが俺を観光案内しても、特に得する事があるように思えないんですけど…。」


「えっと…。それは、ほら、ダダを訪れてくれたお客さんを持て成そうと…ね。」


「…そんな物好きな人、そうそういません!」


僕はそう言って口を尖らせた。…まぁ、本当はサーシャっていう、もっと物好きな女性を知ってはいたんだけど…。


「わ、私は、その物好きな人なの!」


「…分かりました。ただし、もし観光案内じゃない事を言い出したら、俺はすぐに帰りますから。」


そう強めに言い含めると、彼女は目を見開いて困った表情のまま愛想笑いを浮かべた。…結構、わかりやすい人みたいだ。


「ちょっと〜!そんな冷たい事を言わないでよ!運命の出会いをした同い年じゃん!?仲良しになったじゃん!?」


「同い年なら、本当のことを言ってください。」


「…本当のことを言ったら、アルバは帰っちゃうよ〜。」


その瞬間、自分の不安は確信に変わった。ほれ見たことかと彼女を睨んでしまった。

シャーロットは慌てて口を塞ぐが後の祭り…。

見た目や先入観で、彼女を信じた事を少々後悔した。

だけど、折角知り合ったのだ。せめて理由だけは聞いてあげたい。と、いうか彼女が自分に声をかけてきた理由は、今後の為にも聞いておきたかった。ぼうっと歩いていたのがいけなかったのか、道の隅を歩いていたのがダメだったのか…今後の旅を続ける上で、要注意項目に上げておかなければと思ったのだ。そうじゃないと、おちおち一人で出歩くこともできなくなってしまう。


「…帰るかどうかは、話を聞いてからで。とりあえず、もうバレたのだから話してくれてもいいでしょ?」


そう尋ねると、シャーロットは一度小さなため息を落としてから顔を俯かせ、ゆっくりと本当の事を話し始めたのだった。

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