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女神の抱擁と悩むアルバ

やがてアルバとサーシャは、深い森の中にひっそりと存在する村にたどり着いた。

アルバが暮らす郷で、ワラミ村という。


先ほどの様な連中が多いからだろうか。

村と言っても、その周りを高い土壁にぐるっと囲まれており、パッと見、中に入れる門も見当たらない。そしてその土壁は木のつるや葉で覆われていて、夜など言われないとそこに壁があるのかどうかも疑わしいほどだ。

その様子は、村を守っているというよりは、何かの秘密を守る為に外の世界から隔離しているのではないかと思わせる佇まいであった。


そんな土壁の前まで来ると、アルバはようやくサーシャから手を離した。

そして左手に持っていた黒い大剣を地面に突き刺す。…サーシャから借り受けたその大剣は、最初は重たかったが、なぜか走って逃げているときは軽く感じられた。とても不思議な剣なんだけど、今はぶっちゃけそんな事はどうでも良い。

やがてアルバは、膝に両手を当てながら下を向き、はぁはぁと息を整える。何しろ、半刻も全力で走りっぱなしだったのだ。生きているのか怪しいほど心臓はバクバク、心なしかグルグルと目眩までしている。


「大丈夫ですか?」


サーシャはそんなアルバの背中を優しく撫り、心配そうに顔を覗き込んできた。


「ハァ、ハァ…。なんでサーシャさんは平気なの?」


アルバは、自分の側で平然としている彼女を恨めしそうに仰ぎ見る。共に全速力で走ってきたはずなのに、このお嬢様は息が乱れてないどころか汗もかいていない。やはり、物の怪なのだろうか…。


「ふふっ。旅慣れていて、体力はあると言ったでしょう?」


彼女はそう言って微笑む。だが、いくら旅なれていると言っても、そんな事がある訳がない。でもそんなサーシャが浮かべる天使の様な笑みを見ていると、なんだかどうでもいい様な事の様に思えてしまうし、何より自分も疲れ切っている。…もう、物の怪でも何でもいいやって、本気で思えてきた。


「…サーシャさんは、怪我とかは大丈夫だった?」


「ええ。勿論です。」


彼女は気丈にそう答える。こういうトラブルも慣れているのだろうか…。だけど、こっちはまるで慣れてない。初体験だ。


「でも…怖かった。本当に死ぬかと思ったよ。」


アルバは素直な思いを口にした。


「ふふっ。でも、私は怖くなかったわ。」


「えっ?そうなの?」


やがてアルバがそう言いながら呼吸を整えゆっくりと体を起こすと、サーシャがすぐに目の前まで寄って来た。そして黄金色の髪をふわって揺らし、顔を傾げると、おもむろに彼の両手を掴む。当然、電流が走った様にアルバの体はびくってする。恐らくね、今日一日で自分の寿命が半年間は縮まっているはずだ…。


「だって…アルバくんが側にいてくれたから。」


サーシャは満面の笑みを浮かべ、そう言った。


「……こんな頼りない俺でも?」


「ううん。貴方はとても頼り甲斐があります。…助けてくれてありがとう。とっても嬉しかったわ。」


サーシャは目を潤ませながら、そう言った。

アルバはそんな彼女の瞳を見て、( な、涙!? )って思ったけど…その様子を見るにつけ彼女もやっぱり怖かったのだろうと解釈した。


「いえ、俺は逃げただけです。何もしてません。」


「馬鹿を言わないでください。貴方は私をちゃんと守ってくださいました。」


彼女はそう言って…スゥーって体を寄せてきた。アルバの目が点にり、少し体を仰け反らせる…。やがてサーシャは、そっと彼から手を離すと、そのままアルバの首を包むように腕をまわし、正面から優しく抱きしめてきた。


( …!!? )


…ちょっと体が触れただけでも電流が走るのだ。そんな彼が、サーシャに抱きとめられる…なんて事をされたら、どんなんになるか想像がつくというものだ。これまで体験した事のない様々なものが彼の五感を刺激する。体がすっかり固まってしまい、まるで動けない。彼はサーシャの白ローブに包まれながら、ミノムシのように、ただ佇む。サーシャの甘い香り、黄金色の髪の感触、からだ全体に伝わる彼女の温もり…。


「ありがとう、騎士様。」


やがてサーシャは耳元でそう囁くと、暫くして体を小刻みに震わせた。

騎士様…確か、先ほど盗賊に襲われた時も彼女はそんな事を口走っていた。それが何の事だかアルバには想像もつかなかったが、彼女の様子を見るにつけ、かなり深い事情がある事だろう。

アルバは小さなため息をつくと、ゆっくりと夜空を見上げた。

彼女が中々、体を離さなかったからだ。


だが事情がわからない以上、彼女を抱きしめ返すことも出来やしない。

サーシャが口にした師匠やら、騎士様やらが、彼女の彼氏さんや許嫁だったら大変だと思ったからだ。

恐らく「勘違いしないでください!!」って、怒られ、大炎上することだろう…。


だからアルバは、彼女が体を離すまで、夜空の星を数えることにしたのだった。


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