キエイの槍
サカテがキエイを連れて、ザイゼンの店に戻ってきたのは夕方だった。
キエイは、手を洗ってくるとつげると早足で奥へと入っていった。家の中はさすがに頭の中にはいっているようだ。
ザイゼンは最初、孫を優しい笑顔で迎え、サカテにはぶっきらぼうに手をあげたて出迎えた。だが、サカテの姿を確認すると「おお」とうなり、やがて大笑いをはじめた。
「笑うな…オヤジ…」
サカテは突っ立ていながらも恥ずかしそうに顔をしかめた。ザイゼンは、悪い悪いといいながらも笑いが止まらない。
なぜなら、目の前の彼女は薄く化粧をして髪も整え、まるで美しい街女のような姿をしていたからだ。もちろんその髪には、キエイが贈った髪飾りが美しく輝いている。
髪飾りの女主人が、せっかくならと無理やりサカテに化粧をしたのだ。
普段ならお断りだが、キエイの願いでもあったのでとても断れなかった。
「カカカ〜。良いではないか、それなら誰もお前を武人とは思わん。命を狙われなくなるぞ!まぁ、女としては狙われるがな」
ザイゼンはそう言うと再び豪快に笑った。サカテは無表情に立っている。それを見てザイゼンは笑うのやめ、横においてあった土瓶を持ちお茶をいれた。それを、黙ってサカテに差し出すと、ゆっくりと話し始める。
「サカテ。あの子は、その髪飾りをただあの女主人に注文したわけじゃねぇんだ。あいつ、職人の家まで押しかけ、手でさわりながら形や模様を自分できめやがったんだ。」
サカテはますます驚き「本当かよ!?」と呟く。
「ああ、すごい能力だ。あれで目が見えてみろ。すげー職人になるぜ。あいつさぁ、お前の槍を一人でつくるのが夢なんだってさ。」
「槍頭だけじゃくて、槍そのものか。というか、なんでキエイはそんなに僕にこだわるんだ?」
「そんなこたぁ、俺はしらねぇよ。ただよぉ、お前が無事にここへ帰ってこれるように、お前を守る槍をつくりてぇんだって言ってたなぁ。」
サカテはその話をきいて、目を丸くする。
「あいつはよぉ。昔は目が見えないことに絶望してた。だが、お前がこの店にくるようになってから、やけに前向きなことばかりいいやがるからよぉ。あいつがお前に懐く理由は、お前の方がしってるんじゃねぇか?」
ザイゼンはそう話すと自分の分のお茶も入れて、飲み出した。サカテにはもちろん思い当たる節はあった。それは彼女の故郷に関係し、サカテの能力の話でもある。それで先ほどキエイが、自分の故郷へ行きたいと言っていた意味もわかった。
サカテは最初に彼に出会った時、落ち込んでいたキエイに自分の能力の話をしたことがあった。
「僕は力も弱いし、体も小さい。女の子だしな。でも、僕の倍以上の大きさの男や怪力の男にだって僕は負けない。なぜだかわかるか?僕は誰よりも速く、おまえの爺さんが作ってくれた特殊な武器を持ってるからだ。ひとつ人より劣るところがあっても、他で補えば人は強くなれる。それは、戦いだけじゃなくて仕事や人生にも言えることだ。でも、苦労はする。僕は10年間も男に混じって修行した。毎日血反吐を吐き、何度逃げ出したかったことか。だがそのおかげで僕は、目を瞑っていても相手の動きと位置がわかるようになり負けなくなった。女の僕でもできたんだ。男の子のお前ができないはずないだろう?」
サカテにしては、珍しく長い話を彼にしたもんだと自分でも思った。だが彼はその話を真剣にきいて実践した。目の見えない彼がもっとも困難な「デザイン」をしてみせたのだ。その証は今、彼女の頭にある。
サカテは過去を思い浮かべながら、ゆっくりと彼からもらった髪飾りに触れた。
「…。おやじ、いつからそんなオジャベリになったんだ?」
サカテはそう憎まれ口をたたくとゆっくりと立ち上がり、キエイに微笑んだものだ。




