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襲われる2人



( しまった!! )


自分たちに迫り来る怪しげな気配を感じて、アルバは心の中で悔やんだ。

謎多き絶世の美女サーシャとの話に夢中で、あたりの警戒をすっかり怠っていた事にこの時ようやく気付いたのだ。一人の時なら、とうの昔に察知して逃げているのに…あまりに彼女に心を持っていかれすぎていた。

アルバは額に汗しながら、ちらっと彼女に目をやる。

着用しているお召し物やアクセサリーなどは、どう見ても超がつく金持ちのお嬢様だし、お姿はサラサラの黄金色の髪に透き通るような白肌の超美人。しかも悩ましすぎるスタイルも最高ときてる…そりゃ、盗賊も、強盗も、人攫いも、変態も集まるってもんだ…彼は、じたんだを踏むほど悔しかった。

こんな美しい女性を連れている時点で、最初から気をつけなければならなかったのだ。先に分かっていれば、逃げ込める場所や隠れる場所などいくつもあった。

だが、もう仕方がない。それを言っても時は戻らないし、状況は変わらない。

彼は暗闇の林を見つめ、神経を研ぎ澄ます。アルバは別に剣士とかではないが、この乱世を生き抜く術くらいは持っている。野鳥が羽ばたく音が響き、風がないのに森の葉が微かに揺れているところなんてのも目に付く。間違いなく、誰かがいる。しかもその気配はサーシャが話した通り複数いて、自分たちを丸っと囲っているのは間違えない。


サーシャは、無言でアルバの背に回る。2人は背中と背中をくっつけた状態になった。彼女の背負っている黒い大きな剣の気配が、アルバの背にひやりと伝わる。


「アルバくんは…剣とか使えますか?」


やがてサーシャがそう尋ねてきた。その声は意外にも落ち着いているように感じられた。


「ご、護身術程度なら…。」


「………。」


アルバの答えにサーシャは無言だった。

やがて、彼女の手がスゥーッと自分に伸びてきてアルバの左手を掴んだ。サーシャのすべすべの細い指が、自分の指に絡まる。寒空なのに、彼女の手はなぜか温かった。

( 師匠…。 )サーシャがふと漏らした謎の言葉が、微かに耳に届く。そしてその言葉とともに、彼の手はサーシャの手に導かれ、ゆっくりと上へと登り、やがて彼女の背負った黒い剣の柄に到達した。

アルバは無意識にその剣の柄を握る。見た目にもその大剣は、刃渡り1mはあるだろうから普通の剣よりもかなり大きい。( こんなもの、俺に扱えるのか…。 ) なんて不安が頭をよぎる。


「アルバくんなら、必ず勝てます。私、信じてますから。」


サーシャは、まるで彼の弱気を察したようにそう言い切る。だが、信じるとか言われても、彼は剣などほとんど扱ったことなどない。さっき護身術程度ならと言ったが、それは村長に習っていた木の棒や棍棒でのチャンバラの延長。ましてやこんな大剣など、見るのも触れるのも初めてだ。否が応にでも剣の柄を握るアルバの手に、嫌な汗が滲む。


やがて2人を取り囲むように、月明かりに照らされた怪しげな男たちが森の中からバラバラと姿を現した。全部で5人だった。全員ガタイがいい男たちだったが、剣や斧、槍と武器が不揃いだ。すぐに夜盗の類だとわかる。


( 5、5人も…。 ) 


アルバは一気に恐怖に襲われた。足がすくみ、動悸が激しくなる。体がまるで縄で雁字搦めに縛られたように動かない。当たり前だ…見た目にも強そうなガタイのいいおっさんたちが、斧や剣を振りかざしながら、目を血ばしらせ、こっちに向かってくるのだから。向こうは勿論、全員喧嘩上等。こちらはビビりまくったヒョロヒョロの少年とお姫様の2名…勝敗は火を見るより明らかだ。


「何か御用ですか!?それ以上、近づくと切りますよ!」なんて言いたかったけど、声にならない。賊が持っているでっかい斧の刃や剣が自分に向けられる事が怖かったのだ。あれに斬りつけられたら…なんて思うと背筋が凍る。

やがて自分がビビりまくっている事が相手にも伝わったのか、賊たちはせせら笑いを浮かべながら、ゆっくりと間合いを詰めてきた。

アルバは、彼らをボンヤリと見ながら、これからの時を想像する。

周りを賊に囲まれているのだ…とりあえず逃げ場はない。さりとて、こんな夜更けの山奥の山道…誰かが助けに来るアテなどない。…と、なると自分で何とかしなくてはいけないのだけど…戦闘のど素人の自分が抗ったところで、あっという間に斬り殺されるのがオチだ。

とすると、解決策は…

有り金を全部渡して許しをこう?

…いやいや、金持ってないし、相手の狙いは金だけじゃない。

はたまた、土下座して泣きながら命乞いをする?

…それで状況が好転するとは、とても思えない。何せ相手は、ルール無用のならず者さん達だ。


う〜ん…選択肢が少ない、つうか一つしかない。


背中にはサーシャがいる…って考えが、最初に浮かぶ。

乱世の時代、誰もが自分の命を紡ぐ事で精一杯が常識のこの世で、自分の命より他人を想うなどありえない。ましてやサーシャなんて今日出会ったばかりで、家族でも友達ですらない。

酷いとは思うが、ここはサーシャを賊に引き渡して逃げ、生き延びるのが賢い選択…。何度もいうが、サーシャは赤の他人なのだから。


だが、彼は違う選択をした。


実を言えばアルバはこの時、とっても不思議な感覚に襲われていたのだ。自分の身は斬られても焼かれてもどうでも構わないと思えるのだけど、サーシャが酷い目に合うのだけはどうにも我慢ならなかった。

いやいや…と、さらに欲もでる。ここで自分が死んだら誰がサーシャを守るんだって…2人して生き延びないと意味がないぞって…。

だがそれは、この世界では非常識。

それを実行でき、生き延びられるのは一握りの英雄たちだけだ。…そう、朝に仰ぎ見た水の騎士コルドバのような…。


と、いよいよアルバの目の前の賊の一人がいきなり走り出し、彼に向かってに剣でつきかかってきた。…どうやら問答無用のようだ。

時を同じくして、サーシャが後ろから器用に手を回し、そっとアルバの頬に添えた。そして、さっきよりも大きな声で叫ぶ。


「私を護って、騎士様!」


サーシャの体が一瞬、闇夜に白く輝き、黄金色の髪がふわっと舞い上がる。

すると、どうだろう…今度はアルバが腹の底から何かが湧き上がってくるのを感じた。一気に身体中の血が滾り、全ての神経が研ぎ澄まされる…。


「うわぁーーーー!!!」


これまで上げた事がないようなアルバの叫び声が、漆黒の森に響き渡った。

そして彼は、しばらく待ってタイミングを図り一気にサーシャの背から黒い大剣を引き抜こうと力を込めた。

…だが、その大剣は彼の想像以上に重かった。その分タイミングが遅れ、先に突っかかてきた相手の剣がアルバの腕をとらえてしまった。

「くっ!」 アルバは痛みに顔を歪め、声を漏らす。賊が持つ鈍い切れ味の剣からアルバの血が舞った。

「やったぜ!!」なんて他の盗賊たちからも歓喜の声が聞こえたが、実を言えば間一髪のところでアルバは腕を逸らしていて、舞った血もかすり傷程度の浅いものだった。


「このぉー!!!」


アルバは、一切怯まずそのまま大剣を振り下ろす。だが、そのあまりに遅く、凡庸な太刀筋はすぐに相手に見破られる。目の前の敵は、「甘いわ!!」なんて叫びながら一瞬ニヤリとして、それを軽々と受け止めようと剣を掲げた。

ところがである。

シュキッーン!!なんて小気味いい音とともにアルバの振り下ろした大剣は、やすやすと相手の剣も鎧も含めて、丸っと丸ごと賊の体を真っ二つに叩き割ったのだ。

…もうね、そこに居合わせた盗賊たちは、目を見開いて一斉に足を止めた。ありえない…どこの世界に剣も鎧も含めて真っ二つにできる剣などあるものかと…。

だが、目の前の事実は変えられない。

やがて切られた相手の男は、声を出すことも出来ずその場で文字通り体を真っ二つに引き裂かれ、やがて絶命した。


だけれども驚いたのは何も盗賊達ばかりではない。当の本人であるアルバも、その大剣を握った手を小刻みに揺らしながら、目を見開いて驚愕していた。


( な、なんて剣なんだ…。 )と。


だけれども悠長に感心ばかりもしていられない。なんと言っても、彼の中では今は非常事態宣言が絶賛発令中だ。

アルバは慌てた様子で、賊の様子を見渡す。

月夜に照らされた恐ろしげな賊たちは、見た目は怖いままだったが、完全に足が止まっていて戸惑っているように見えた。どうやらこの大剣が与えたインパクトは、彼らの想像を遥かに超えていたようだ。しかも、一人を倒した事で包囲に穴が空いている。ラッキーな事にその方向は、村の方角だった。


彼はふと思い出した…そう言えば、今日は朝からツイている…。


アルバは迷わずサーシャの手を握り、叫んだ。


「逃げましょう!サーシャさん!」


そう、彼が選択したのは逃げること。

相手の隙をついて、2人とも生き延びるにはこれしかない。だって自分は英雄でも勇者でもないのだから。


「アハッ。アルバくん!それはとってもいい作戦だわ。」


サーシャもそれに同意するように彼の手を掴む。

と、共に2人は一目散にその場から逃げ出した。

一瞬あっけにとられた盗賊たちも、我に帰り必死に後を追ってくる…。

だけども、アルバは山を知り尽くしていて、足だけは誰よりも速い。


「畜生!!待ちやがれ!!」


なんて悪態をつく、賊の声が虚しく響き渡る。だが、体が大きいが故、鈍重な盗賊たちに、風のように去っていた若い2人を追撃するなど、とても無理な相談であった。

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