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副将軍の暴走

その頃、ロハン副将軍であるスカラは味方の兵を安全に撤退させるべく、中央通りのちょうど中ほどで、2m四方はあろうかという板の壁を横に何枚も並べ、その後ろに長槍と騎馬隊を横並びにして、報告のあった”神様と聖騎士”を待っていた。

彼らが簡易的に作ったそれは、簡単に言えば味方を逃す為の盾。

撤退戦において、最も重要な役割となる敵をせき止める”砦”というべき拠点なのだ。

ここには、持ち込んだ食料や飲み水、生き残る為の武器なども取り揃えている、ちょっとした陣みたいなものだ。

そしてここに陣取る兵団の役割は明確だ。

逃げてきた兵たちに水と食料を渡し、自分らたちの街であるロハンまでの撤退ルートを教える。そして、もちろん敗走する味方を敵が追えないように邪魔をするお役目である。

実を言えばこの撤退戦というのは非常に難易度が高く、その任務に当たる兵団はほとんど生きて帰る見込みはない。

簡単に言えば、味方の逃げる時間を稼ぐため、後を追ってくる敵兵を命を賭して止める任務であるのだから、そもそも全滅する事が前提となっている。まぁ、敗軍が苦し紛れに味方の被害を極力少なくする作戦なのだからそれは当たり前と言えば当たり前だ。

その為、普通は老兵や遊撃隊など、本隊ではない兵団が行うのが常なのだが、この時は副将軍であるスカラとボードワンを筆頭にした老齢だが、バリバリの本隊に所属する部隊長がその勤めに当たっていた。

理由は簡単である。

スカラもボードワンも、自分たちの将軍セザールの安否を確かめたかったからだ。

噂によると、アルバとかいう若い聖騎士に一騎打ちで敗れたという。だが、その事を副将軍であるスカラも部隊長たちも誰も信じられなかった。

だから彼らは命をかけてでも確かめたかったのだ。それが事実かどうかを。



「ここには水も食料もある!何としてもロハンまで逃げ延びよ!」


ロハン軍副将軍であるスカラは、その簡易的な砦のような場所でそう叫び、味方を逃すことに専念していた。


( しかし…これが我らが軍とは…とても信じられぬ。 )


彼は、その砦に飛び込んでくる変わり果てた自分たちの兵たちの様子を見て、そう漏らさずにはいられなかった。

敗走してくる兵士たちの青ざめた顔、震える肩…。見れば、鎧も盾も傷ついておらず、どこも怪我をしている様子はないというのに、その目は怯え、足が震えている。とても勇猛を誇ったロハン兵たちとは思えない。


「か、神がお怒りになられている…せ、聖騎士らしき人物もいた。もうすぐ、こっちにやってくる。副将軍さま…た、助けてくれ…。」


その声を聞いた時、「将軍セザールが最後まで心配していた事が現実になった」と、スカラは悟らずにはいられなかった。

セザールも教団を敵に回すことを最後まで危惧していた。

だからこそ、兵たちに修道院破壊という恐ろしきミッションとその責任を自分一人で背負うことにしたのだ。

だが結局、ロハンの兵たちは神を敵に回す恐ろしさを肌で感じてしまったようだ。こうなれば信心深い彼らはとても戦えない。

一般の民を極力巻き込まず、ルンの執政官宿舎と街の併合だけなら、教団は何もしなかったかもしれない。だが、自分たちの街”ロハン”の領主であるトンプソンは、将軍セザールや文官たちの反対を押し切り”修道院破壊”というミッションに拘った。なぜトンプソンがそんな無謀な事に拘ったのか誰も分からなかったが、これまでどんな悪党や非道な輩でも実行をしてこなかった教団への襲撃作戦の立案、その代償はあまりに大きかったようだ。


「ここは私たちが守るゆえ、皆はロハンまでとにかく落ち延びるのだ。」


スカラは、逃げ延びてきた兵士たちにそう伝えるしかなかった。その言葉を聞くと、兵士たちは皆が泣きそうな表情を浮かべ、感謝の言葉を述べてから食料や水を持ってその場から去っていく。

それは勿論、副将軍のスカラが、一般の兵士たちから絶大な信頼を得ている事を示していたが、こんな大敗の後ではそのことさえも何処か物悲しい。何しろ今、目の前に広がっているのは、ほとんどの戦いで勝利してきたロハンにとって地獄絵図のような光景だったのだ。だがこの副将軍は顔色ひとつ変えずに、兵たちを労い、逃していく…。副将軍である人物が下っ端兵士の盾になる…それはロハン軍ならではの光景なのかもしれない。


「副将軍、そなたはまだ若い。ロハンの為にも役立つことも多くあろう。兵たちを纏めて、下がったらどうだ?」


そんな様子に見かねた老部隊長のボードワンが、思わずそう声をかけてきた。何せ、スカラは、歳はまだ40。70を超えたボードワンと違ってまだ若く、街のためにできることは山ほどある。だが顔が四角く、立派な口髭を蓄えた大柄な御仁に似合わないほど丁寧な言葉遣いで、スカラは言葉を返した。


「私は、現在の軍最高責任者です。そんなこと、できませんよ。」


「まったく…セザールといいそなたといい…変わった将軍たちじゃの。」


ボードワンはそんな彼を見て、しわくちゃの顔をさらにくしゃくしゃにして笑う。まぁ、そうは笑いながら、スカラに男気を感じるからこそ、老練な老部隊長たちも彼らに従っているのだが。

( この男とここで果てるなら、いいかもしれんの。 )

ボードワンは静かにそう思ったものだ。

やがて…風が出てきた。

こういう時、こんな場所では、そんな些細な事が何かを動かす、きっかけにもなる。

それまで彼らがバリケードを作っている中央通りは、とても戦争が起こっているとは思えないほど静かだった。

スカラも老部隊長たちも、しばらく味方を逃す事に専念していたが、やがてワーワーっていう掛け声と金属音が激しく交わる鈍い音が聞こえ出した。


「来たかな…。」


松明を抱えながら目を凝らし緊張した面持ちで、その先を見据えるスカラ。

怒鳴り声と悲鳴が交わる怒号がこだまする。

スカラたちは、ついに神様と聖騎士がやって来たのかと思ったのだけど、月明かりと兵たちの松明に照らされ浮かび上がったのは、藍色の鎧を着たるんの兵士たちが、逃げ惑うロハン兵を襲っている光景だった。

味方を攻撃しているのは、修道兵や神様ではなくルン正規軍の兵士たちだった。

彼らは劣勢を感じた先ほどまでは、逃げて逃げて人家や家の庭などに潜んでいたが、アルバとサーシャ率いる修道兵が盛り返した事を知ると再び戦場に姿を表し、戦意を失ったロハン兵を襲い始めたのだ。

背中を見せて逃げ惑うロハン兵に、容赦無く槍と剣で襲いかかるルン正規軍の攻撃は辛辣を極めた。


「クソがっ!」


老部隊長であるボードワンは、その様子に見かねて槍を抱えながら、その場に走り出してしまった。ロハンは戦争好きで知られているが、意外と硬派。向かってくる敵には容赦無く戦いを挑むが、逃げる兵士たちを追ってトドメをさすなんてことはしない。

それはこの街が生まれてから数百年変わらない、鉄則である。

まぁ、今回は自分たちが戦争を仕掛けて、負けてるんだから、そもそもそんな事を言う権利もないし、そんな美談などルン正規軍には関係ない。

ただ、昔からロハンの部隊長だったボードワンには、それがとっても卑怯で非人道的に思え、こらえきれなかったのだ。だからこそ、この簡易的な砦を守るなんて命令を無視して飛び出したのだ。


( まったく…爺様は命令を聞かないんだから。 )


その様子は見たスカラは思わず苦笑いを浮かべた。

ここのバリケードには、スカラとボードワンなどの部隊長たちと心中を誓った40名ほどの兵しかいない。味方を逃す為に、みんながこの場所で堪えて、少しでも時間を稼がなくてはならないんだけど、味方が袋叩きにあっているっていう目の前で起こっている惨劇に耐えられなかったようだ。

そしてその少ない貴重な兵たちも、ルン正規軍の行為を許せないのか、次々とボードワンに続いて、味方を助けにいく。

いやはや統制のとれた軍隊とは思えない暴挙だ。


「だが、それが我らロハン軍ですもね、セザール将軍!」


だがスカラは、そう叫んで満足そうに夜空を見上げた。

かの将軍はクールで冷静な外見とは違い、意外と心は熱く、味方を決して見捨てない。

( さすが将軍の子供達は違いますね。 )

本来ならそんな命令違反を止めなくてはならないスカラもそう呟きながら、ボードワンの後に続き、剣を抜いて襲われている味方の救出に向かってしまった。

それが正しい事なのか、大間違いなのか…それは一目瞭然、戦術に明るいスカラはその事を人一倍分かっている。

それが、とんでもない愚策だって事を。

だが、彼らの心の叫びはその事さえも覆した。


「我らが盾となる!!何としても逃げ延びよ!!」


「このへなちょこルンの兵士どもめ!!儂が相手じゃ!!」


スカラとボードワンがそう叫びながら、数百に膨れ上がったルン正規軍に突っ込んでいく。だが今度は立場が逆転して、ロハン軍が周りを囲まれ集中攻撃を浴びている状態だった。スカラたちが率いる約40人の部隊は、わざと右方向から侵入し弧を描くように、敵陣を駆け抜ける。味方を少しでも多く見せる為と、回り込まれないようにする為だ。


「怯むな!!敵を混乱させよ!!味方を逃すのだ!!」


自らも槍を振るい、敵を叩きのめしながらボードワンが叫ぶ。

予期せぬ場所からロハン兵が現れ、まさか襲いかかってくるとは夢にも思わなかったルン正規軍は、その奇襲のような戦術に浮き足立った。また数千の援軍がきたかと思ったのだ。

それは名将スカラらしい敵を欺くために様々な趣向を凝らした見事な突進だった。

何しろその様子を側から見れば、まるでロハンが押し込んでいるようにすら感じられたものだ。だが、それはあくまで最初だけ。そもそもスカラ自身だって3分もてばいい方だって思ってる。

ロハンの攻撃は限定的で、味方の被害も少ない…。

( あれ? )って、ルンの軍もすぐに気がつく。ロハン軍が実は100名もいない事に。


「惑わさられるな!敵は少数だ!!」


すぐに悟ったルン正規軍は、口々にそう叫んで徐々に盛り返し反撃を開始し始めた。


「こっちに来い!何としても逃げるのだ!!」


副将軍であるスカラも自ら大剣を振るい、とにかく抵抗のできないほど弱った味方を助け、導いていく。だが、多勢に無勢、その救出も命がけ。

彼は必死に大きな体をいっぱいに使い、大剣で敵をなぎ倒し、盾で味方を庇いながら一人一人を助けていく…とにかく諦めない。


「立つのです!今ならまだ逃げられる!」


「味方にしがみ付いてでも、ロハンへ帰るのじゃ!」


2人は砦を守るための40人ほどの兵と共に、まだ息がある味方の肩を持ち、立ち上がらせ、ビッコを引いてでも逃げてもらおうと、必死に闇夜に逃していく。

そしてそれと同時に剣や槍を振り続け、相手を威嚇することもやめない。何せ、このまま動きを止めれば、全滅。

自分たちが助かる道は、とにかく動き回り、敵の目を欺き暗闇に紛れ逃げ延びる他ない。


「徐々に、下がれ!!味方を助け終わったら、撤退だ!!」


「足を止めるな!!命続く限り、走り続けるのだ!!」


やがて味方を助けられるだけ助けたスカラとボードワンは、ルンの大軍をいなしながら、そう叫び続ける。次は、最後まで自分たちについてきてくれた40人を逃す命令を発したのだ。

それを受けて「撤退だ!」口々に、味方の兵たちが声を上げる。さすがは戦慣れしたロハン兵だけあって、それぞれが役割とやる事をわかっている。

そしてスカラが思った通り、彼らは思い思いに頃合いを見て夜陰に紛れながらこの場から上手く逃げていく。その様子を見た彼は、心から安堵のため息をもらしたものだ。

だが当然、声を出していたこの2人は逃げる様子はなかった。


「爺様、ここはひとつ2人で大暴れしますか!」


「無論じゃ!!」


そう楽しそうに話す2人。

共に砦を守るための味方まで逃し、結局は副将軍と老部隊長だけになった。だが、その事でむしろやる事が明確になって、こんな事態だというのに2人の表情は晴れ晴れしているようにすら見えた。


「ルンの腰抜けども!!かかってこいや!!」


声を合わせ、自分たちを囲むルンの兵士たちに怒鳴り散らす。

味方が逃げる時間を稼ぐためーーー彼らは敵の目を自分たちに釘付けにしようと、大立ち回りを繰り返した。ボードワンなど70を悠に超える高齢だが一向に怯む様子すらない。長槍を両手でグワングワン振り回すそのお姿は、むしろスカラよりも元気なんじゃないかってほどだった。


「ロハンの副将軍スカラだ!お前らごときに俺の首が取れると思ってか!!」


スカラも負けじと、そう叫びながら敵の前に立ちはだかると、大剣を必死に振るいながら敵兵の足を止める。そして彼らの狙い通り、ルン正規軍は自分たちのところに集まってきた。それは勿論、副将軍やら部隊長やらと彼らの肩書きを聞いたからだ。

まぁ、派手なマントを羽織っているし、鎧も剣もなんだか立派。その格好からも彼らがロハン軍の指揮官たちであることは明白だった。

ルンの兵からすれば、敵の有名な将校たちを倒せば、名は上がるし出世にだって繋がる。傭兵たちからすれば正規軍に雇ってくれるかもしれない。

だからこそ、皆が2人めがけて集まってきたのだ。


「敵は有名な将校だ!打ち取って名を上げろ!!」


「殺せ!殺せ!」


そして、そんな事を悠々と叫ぶ。何しろ敵はたった2人。楽勝だろうと次々と2人に襲いかかるルンの兵士たちだったが、さすがは勇猛果敢なロハン軍の将校たちはお強い。

共に背中を合わせながら、襲いかかってくるルンの兵士を打ち倒していく。


「おー!爺様もやりますな!」


「ガハハっ!儂はお前がまだ小さい頃から槍を振ってるんじゃ!」


そう言い合いながら、ご自慢の剣と槍の凄技を次々と披露するスカラとボードワン。

たった2人なのに、数百はいる敵にいつまでも挑み続けるのをやめない。

これには優勢のルン正規軍たちも呆れるのを通り越して、不気味さすら感じた。

何せこいつらはたった2人で、数百はいる自分たちに向かって鬼神のような戦いを続け、いつまでも抵抗をやめないのだから。

スカラは間合いに入ってきた敵を順繰りにテンポよく切り裂いていき、ボードワンは頭の上で長槍を風車のようにグルグル振り回しているもんだから、近づこうにも近づけない。

これには流石にルンの兵士たちも( なんだ、この化け物みたいな奴らは…。 ) って、漏らしながら徐々に焦り始める。

手柄は欲しいのだけど、こんなにも強い2人を討ち取れるのかと…。

だが彼らだってバカじゃない。暴れまわる2人を見ながら考えを巡らせる。

…周りをすっかり囲んで長槍で一斉に突き刺せば、何もできなかろうと。


「敵はたった2人。囲め!囲むのだ!」


そんな事をおぼろげに思いついた敵の兵長と思われる声が響く。

その命令を受けた兵士たちは、ロハン兵とは違うガシャガシャって軽い鎧の擦れる音を立てながら、一気に2人の周りを固め始めた。

やがてスカラとボードワンの元には、次々と敵兵であるルン正規軍が集まってきてしまい、ドーナツのように2人をぐるりと囲う。どんどん兵士たちがスタスタと集まり、ぐるぐると周りを走る。

…やがて出来上がる何重にもできた人の壁。

まるで、2人の一点突破をも押さえ込むような人壁が完成し、スカラとボードワンは、もはや逃げ道さえ失ってしまった。

ルンの兵士たちは2人から少しだけ距離をとり、突撃の構えのまま止まっている。…上官の「突撃!」と云う命令を待っているのだろう。何せ後は仕留めるだけだ。

これは流石の2名も年貢の納めどきと云うやつだ。

だがそんな絶体絶命の事態にも彼らの声は元気だった。


「ふう…なぁ、爺様。我らは、どれだけの兵を逃すことができたでしょうね。」


スカラは敵の攻撃や一時的に止んだ事を確認すると、一度息を整えてから自分の後ろにいるボードワンに話しかけた。


「ガハハッ、そのような事知るものか!それより、もうひと暴れできそうじゃの!」


老齢なボードワンは、肩で息をしながらも笑いを交え、そういきり立つ。さすがは、百戦錬磨の部隊長、肝が座っている。

だが、これほどまで完璧に包囲されては、自分たちが討ち取られるのは時間の問題だった。スカラは諦めたように自重気味に微笑むと、後ろにいるボードワンに話しかける。それは最前からずっと気になっていた、自分たちの上司の事だ。


「爺様…。結局のところ、セザール将軍は生きているのでしょうか?」


すると、ボードワンは振り回していた槍を止めて淡々と答えた。


「…死んでおろう。生きておれば、必ず我らを助けようと姿を見せるはずじゃ。」


「…爺様と同じ意見で、安心しました。」


「そう云う男ゆえな。」


「間違いないですね。」


スカラはそう言いながらも、やはり肩を落とした。セザールが死んだなどとても信じられないが、ここにやって来ないと言うことは確かにこの爺様の言う通りだと…素直にそう思ったからだ。だがボードワンは、そんな彼の背中を突く。


「何をしょげた声を出しているのじゃ…いつかあの世で、みんなで集まって酒を飲めば良い。先の楽しみが増えて良いではないか。」


「なるほど…それはいいですな。では、後ろの食料庫からつまみを持っていかなくては…。」


スカラが死を覚悟したようにそう洩らすと、ボードワンは呆れたように声をあげた。


「コラコラ!お前は、もう生きる事を諦めたのか?儂が言ったのはすごく先の話じゃ!まったく…お前は若造のくせに悲しい事ばかり考えよるの。どんな絶望や死の淵に追い込まれたとしても、生きる望みを失わない者にだけ、女神様は微笑むのじゃ!覚えておけ!」


「ハハッ。やはり爺様にはかないませぬ。…ですが、我らはその女神様に楯突こうとしたのです。微笑んでくれますか?」


「たわけ!儂は幼少の頃から、教会の女神像に祈り続けておる。一回くらい”おイタ”したくらいじゃ、怒りはせぬ。女神様は、おおらかで慈悲深いのじゃ!」


ボードワンは、そう言ってガハハッと笑った。

( いつもは短気なのに、こう云う時はやけにデンと構える…。流石は数々の戦場を生き延びた御仁だけはある。 )

スカラは、爺様のその呑気さに呆気にとられながらも思わず笑みが漏れる。だが流石に女神の家とも言える修道院を破壊しようとした自分たちに果たして微笑んでくれるものだろうかと疑問をもったが。

だが、老人や年長者の言葉は素直に聞くもの…なんて云う教えは意外と当たっていたりする。言ってしまえば、それは経験に基づいた統計学のようなものだもの。

やがて、敵の上官が手にした剣を天に掲げ、突撃〜!なんて言葉を言いながら腕をおろそうとした…その時だった。


「何をしているのです!」


辺りの喧騒をものともしない、凛とした声がその場に響き渡った。

その美しくも威厳に満ちた声に、その場にいた全ての者が声のした方を振り返る。

清廉。

厳か。

神々しさ。

その全てを織り交ぜたような白く輝く淡い光…。

そこにいたのは、白馬に跨った黄金色の髪を靡かせた神々しい女。

まさに女神と呼ぶに相応しいサーシャ・カスティリャが全ての人々を見下ろしていたのだった。



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