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修道兵たちの奮闘

月夜に照らされた深夜のルンの街は、緊張に包まれていた。

3mほどの小高い石壁に囲まれたこの街は、空の上から見れば実に見事な正方形で四隅が綺麗に東西南北なのだけど、それは天から見下ろす神様や大空を舞うドラゴンや鳥類でもない限り誰も見ることなどできない。

その正方形を割って走っているような中央通りの終点、いわゆる中心の中心、道の幅が大きく変わる徳利のような形をした道。

そんな場所で繰り広げられていたロハン兵と、ルン正規軍及び修道兵たちの戦いはいよいよ佳境を迎えていたのだ。

とっても恐ろしげな赤黒い鎧に身を包んだロハン兵。対して藍色の薄手の鎧のルン正規軍に、グレーローブに白いターバンを巻いた修道兵が少々。

そんな彼らの激戦区は、ルン中央通りの終点である執政官宿舎とルン修道院へと続く最後の広場なんだけど、徐々に戦況が変わってきていて、ルン正規軍と修道士さんたちの旗色がどうにもよろしくない。

当初はアルバとサーシャ率いる修道兵の奇襲により、ルン正規軍は予想を覆しロハン軍を押し返していたのだけど、徐々に盛り返されつつあった。…いや、むしろすっかり劣勢に回ってしまったていうのが正しい。

理由はとっても簡単だ。

一つはもちろん、アルバとサーシャがその場からいなくなった事だ。

修道兵にとってサーシャはすべての支えで心の拠り所。言ってしまえば、”神”そのものだから彼女が敵の将軍を追ってその場から姿を消したことは大いに士気に影響してしまっていた。それは彼女たちに聖騎士と誤解されているアルバが消えたことも要因の一つでもある。

もう一つはロハンが後詰めの軍を動かした事だ。

元々、ロハン軍はセザール将軍直属の1,000兵だけでルンの街を急襲し、味方も敵も被害が少ないままサクッと執政官宿舎の占拠とルン修道院の破壊なんて狙いで戦っていたが、アルバとサーシャ率いる修道兵たちにいっぱい食わされ、劣勢を悟った彼らはいよいよ街の外に待機させていた5,000もの兵力を動かす決断をしたのだ。

対するルン正規軍と修道兵連合軍の数はこの時点で3,000を割り込んでいて、そもそも経験も腕っ節も大きく違う両軍の優劣は、あっという間に入れ替わってしまっていた。

まぁ、ロハン軍はいつも大国フィルファとも、わたり合っている現役バリバリの本物の軍隊。

一方のルン正規軍は平和を謳歌してきたのんびり軍隊。しかも今回の彼らは、急遽お金で雇われた傭兵でそのほとんどを構成している。優勢の時はいいのだけど、一度劣勢に陥入れば脆弱ぶりを一気に披露することとなってしまうのは致し方ない。

そんな訳で、あらゆる場所で陣形を崩されたルン正規軍は散り散りになって敗走に次ぐ敗走…。せっかくルン修道院の修道兵たちに作ってもらった大逆転のチャンスを逃すばかりか、むしろ彼女たちを危機に落とし込む事態になってしまっていた。

そう、修道兵たちはルン正規軍に置き去りにされた状態だったのだ。

だがどれだけ味方のルンの兵士たちが敗走しても、修道兵は戦いをやめないし、逃げることもしない。

なぜなら彼女たちの背中には、教団の女神と称されるサーシャ・カスティリャがいるからである。




真夜中だというのに、意外にもその戦場はそこそこ明るかった。月明かりもあったし、ランプをつけたまま逃げてしまった民が多く、道の左右に立ち並んだ3階建のアーチ状の窓からは沢山の明かりが漏れていたからだ。

戦場は、少しづつ道幅が狭くなり始めたルン中央通りの終点近く。硬く冷たい冬の石畳の上で、セドリーヌ率いる修道兵が攻め込んできたロハン兵と激しくやり合っていた。


「引いてはならん!我らの後ろにはサーシャ様がいらっしゃるのだ!無法者たちに女神様のお姿を見せてはならん!」


ルン正規軍がすっかり引いてしまい、残された修道兵と突撃してくるロハン軍が激突しているその少々明るい最前線では、ルン修道院の女長であるセドリーヌの声が響き渡っていた。彼女は40に手がかかろうという歳ながら教団の槍を華奢な手で握りしめながら、共に神に仕える若い修道兵たちと懸命に最前線でロハン兵と戦っていた。

リーダーが声を張り上げて味方を鼓舞しながら戦う勇敢な姿は、そもそも宗教という一枚岩である修道兵たちの心を熱くする。サーシャがいなくなり、下がっていた修道兵たちの士気は徐々に戻りつつあった。

それに訓練に訓練を重ねた3人一組で敵兵を一人づつ打ちのめす戦い方も見事で、損害も少ない。むしろルン正規軍よりも強いんじゃないかって思えたほどだ。

だけれども、所詮は多勢に無勢…戦局を維持するのにも限度というものがある。

次第に味方は、綻びを見せた微かな場所から陣形が崩れ始めていた。


「セドリーヌ様!このままでは、お味方は囲まれてしまいます!一旦、陣を立て直しましょう!」


やがて、中央で戦いながら戦況を読んでいたセドリーヌの腹心とも言えるエマの苦しそうな訴えが届く。

セドリーヌはその言葉を聞いて辺りを静かに伺うが、彼女の言う通りで敵は数に任せて渦を巻くように味方を囲みつつあった。戦の常識で考えても、少数の自分たちが周りを囲まれたら一巻の終わりだ。

それにルン正規軍が引いてしまった以上、兵力差は20倍。しかも相手は全員男なのに対し、こちらは全て女。力や地力っていう点でも、このままでは勝機は薄い。

セドリーヌが襲いかかってくるロハン兵をいなしながらチラッとエマに目を向けると、彼女のグレーローブはボロボロでご自慢の大きな眼鏡も大きくずれていた。致命傷は負っていない様だが、ローブの至るところに血が滲んでいる。顔にも疲労感がありありと出ていて、如何にも表情が辛そうだ。

( エマ…。 )

彼女は悲痛な面持ちでそう漏らすと、エマの提案に同意して小さく頷いた。いくらサーシャを守るといっても、味方を全滅させてしまっては結果は一緒だ。


「…仕方ありませんね。ここでもう少しだけ時を稼ぎたかったのだけど。」


彼女が悔しそうに目を細めてそう洩らすと、エマは力強く答える。


「私たちが援護します!すぐ後ろは、道幅が狭い。当初の作戦通りそこで陣を立て直せば、まだ時を稼げます!セドリーヌ様は、中段まで下がって全体のご指示を!」


「いえ!それでは、貴女の部隊が全滅してしまう。ここは、全軍で徐々に後ろに下がり敵を道幅の狭い場所で誘い込むのです!そうすれば、敵の勢いは一旦、止まる!その隙に徐々に陣形を立て直しましょう!」


意外と兵法に詳しいセドリーヌのその言葉に、エマは大きく頷いた。もはや出来る事は限られているが、生き残るために全てをやり切るしかない。

噂では、今回のロハン軍はルン修道院の破壊も作戦に入っているという。

そういう意味で言えばここを突破されれば、ルン修道院は目と鼻の先。匿っているルンの民たちの為にも、修道兵たちは負ける訳にはいかないのだ。

味方であるルン正規軍が引いてしまったのは青天の霹靂だったが、幸いロハン兵たちは神に仕えし修道兵をあからさまに傷つけるのは流石に腰が引けるているようで、槍を振りかざしてくるというよりは盾で弾き飛ばしにくるっていう方がしっくりくる攻め方だ。だから意外にも味方の損害は小さい。まぁ、この世界の住人はそのほとんどが教団の信者であるゆえ、仕方のないことかもしれないが。


「どけどけどけ!!貴様らには用はない!!」


徐々に後ろに下がり始めた修道兵に向けてロハン軍兵士長たちの威嚇するような怒号が、修道兵の彼女たちに響き渡る。

その声を聞く限り、敵はやはり自分たちを殺すと言うよりは排除する事に躍起になっているようで、修道兵たちの長い教団の槍を、とにかく盾で弾き飛ばしながらまっすぐに進んでくる。

彼らとしては、バリケードの様に立ちはだかる修道兵たちを一刻も早くどかして、ルン執政官宿舎を占拠したかったのだけど、まぁヒステリックに長い槍を振り回す修道兵さんたちに、ほとほと困り果てていた。

しかも修道兵たちは「サーシャ様!サーシャ様!」と喚き散らし、一向に士気が落ちない。

もうね、オウムの様にその名を叫び、どれだけ脅しても一切怯まないのだ。

これには勇猛果敢で知られるロハン兵たちも呆気に取られ、目を丸くするしかなかった。

サーシャという名はここ最近よく耳にしていたが、それがどんな人物なのか迄は、下っ端の兵隊さんたちはよくは知らない。

ただその名を叫びながら戦う修道士のその姿は、あまりに異様で、常軌を逸していて、寧ろ何かに取り憑かれているようにすら思えてしまう。簡単にいうと、”死”すら恐れていないって感じてしまっていた。

これがまた厄介で、命を惜しくない人間と戦うのは、どうにも骨が折れる。

戦の定石が一切通じないし、降伏もしない。

まぁ、なぜ彼女たちがなぜそんな行動をとったのか、サーシャとは誰なのか…それは、このロハン兵たちは今後、とってもよく知る事になるのだけど、今はそんなこと知らないし、考える余裕もない。


「立ちはだかる修道兵たちを隅に追いやり、道を作れ!!」


「兵力はこちらが遥かに上だ!とにかく、押し返せ!!」


一向にひるむ様子のない彼女たちを見て、仕方なくロハン兵たちは口々にそう叫び、盾で身を守りながら、とにかくごり押しして突破口を作る事に躍起になっていた。

本当なら回り込んだり別ルートを通ったりしたいのだけど、困った事にルン執政官宿舎の広場へと続く道はここしかなく、しかも道幅もそんなに広くない。いやいや、むしろドンドン狭くなっていくように感じられる。

やがて彼らは石畳が敷き詰められた中央通りが、先に進むにつれ徐々に尻窄みになっていてるって事にようやく気がつき始めていた。…これでは、とてもではないが大軍が一度に通れる訳がない。

そして最初から修道兵たちもこの狭い通路を主戦場に決めていた様で、一度引いたかの様に見えた彼女たちは、この場所につくと再び激しい抵抗を始めた。

そう、石造りの高い建物に囲まれたこの細い道で、ロハン軍の盾と修道兵の槍がどつきあっている状態なのだ。

これは広い荒野での野戦を得意とするロハン軍にとって厄介なことこの上なかった。対して修道兵たちは”守る”戦いをベースに訓練されているため、非常にこなれている。

そしてそんな修道兵を率いているリーダー的な修道士の2人も、ロハン軍にしてみればとっても面倒な存在だった。


「我らに刃を向けるは、神への冒涜!早々に立ち去れ!」


「サーシャ様に剣を向ける者共をうちはらえ!!」


セドリーヌとエマは、前線でとにかく声を張り上げながら味方を鼓舞する。

ただただ叫んでると思われるのだけど、実はこの言葉合戦も戦いではすごく大事。相手の威勢を挫き、味方の士気をあげるのにとっても役立つ。

そしてその上で彼女たちは、味方の修道兵たちにロハン兵の兜を長い槍でバンバン叩くことを命令していた。相手が鋼鉄の鎧なんてものを着ているときは、槍で刺すよりも叩いた方がはるかにダメージを与えられるのだ。

しかも今回に限って言えば、本当に道幅が狭い。敵の頭をバンバンして相手をその場で気を失わせられれば、敵兵がそのままバリケードになってくれるんだもの。


「敵の鎧は硬い!槍は突かないで、相手の兜を弾くのよ!」


そんな訳でエマの元気な声が響く。

もうね、その声に応えるように修道兵全員が長い教団の槍を器用に使って、兜の上を何度も何度もしつこく叩いてくるもんだから、ロハン兵からしたら、たまったものではない。頭がグァングァンしちゃうし、耳も痛い。

すると、それまでなんとか彼女たちをその場から立ち去らせようと躍起になっていたロハン兵たちの目の色が変わる。

円形の盾を構えながら、いよいよ剣や槍を突き出してきたのだ。

女に暴力を振るうなんて男がすたる…なんて思っていたロハン兵たちも、いつまでも抵抗をやめない敵に苛立ってきたのか、はたまた地味だけどやけに腹立たしいその攻撃に頭にきたのか、徐々に本気で反撃を開始してきたようだ。

まぁ、いつまでもしつこく抵抗を続ける彼女たちに嫌気がさしてきたっていうのが本当なのかもしれないが。


「こ、こうなったら、馬で突撃をかけろ!もう容赦するな!!」


「馬を横並びにして、押し返せ!!」


やがて予想されたように、強行突破を暗示するような掛け声が飛び交う。

まぁ、そのほとんどが手柄の欲しい前線の部隊長さんたちの声だ。

彼らの指揮をとるはずのセザール将軍がこの場所にいないことも、それは顕著に現れ始めていた。

兵士たちが聞いたところによると、セザール将軍は”修道院の破壊”という領主密命を受けているようで、一人で陣を離れていて作戦を遂行しているという。その為、現在は副将軍のスカラが少し後ろで全軍の指揮をしているのだが、一刻も早く戦争を終わらせたい前線の指揮官たちは、副将軍の意図を無視してどうにも焦っているようだった。


当然その様子をルン修道院の女長であるセドリーヌも注意深く凝視していた。

( いよいよ、力づくでくるようね…。 )

彼女はそう感じ、素早く味方の修道兵の陣形を頭に浮かべた。

敵歩兵部隊は一旦進軍を止めていて、その後ろからは馬の嘶きが聞こえる。

いよいよ真打、ロハンの騎馬隊のご登場らしい。

神の名において戦う修道兵相手にどこか抑え気味だったロハン兵も、これからは死に物狂いでくることは明白だった。

ロハン軍の隊長らしき人物が、必死に騎馬兵に何かを伝えている姿が目につく。

( 騎馬隊なら…馬を狙うしかないか…。 )

セドリーヌはその様子を見ながら、そう呟いた。あの騎馬隊がこちらに突進してくるのであれば、こちらも対騎馬用の備えをしなくてはならない。

それは前面に囮の兵を置き、側面から騎馬を槍でつくと云う陣形だ。古典的ではあるが、効果は中々のものだ。

彼女は一瞬でその陣形を頭に浮かた。…この狭い道をうまく利用すれば時間は沢山稼げるわって…。


「よし!みんな…」


だけど不意に後ろを振り向いて叫ぼうとした時…彼女は一瞬その事を口にすることに躊躇した。月明かりに浮かぶ、自分の家族ともいうべき神のしもべたち…。

グレーローブに白いターバンを巻いた勇敢で美しい修道兵たちは、一見、痛みや凄惨な現場を見ながらも凛としているようにも見える。だが流石に皆、肩で息をしていて疲労困憊な事は明らか、しかもけが人も相当な数になっていた。

ターバンは血にまみれ、グレーローブはボロボロ…まともな格好や怪我をしていない者など一人もいない。

( これ以上は戦えない。一度、休ませなくては…。 )

彼女たちの姿を見て流石の女長もそう判断せざるを得なかった。

だがもちろん敵は待っていてはくれない。見れば敵の騎馬隊は隊列を組み終わろうとしている。

…セドリーヌは覚悟を決めた。


「エマ…皆を連れて修道院に戻りなさい!何としてもサーシャ様をお守りするのです!」


やがて瞬時に考えをまとめたセドリーヌがエマに向かって、そう口にした。味方がこんな状態で、ロハンの主力部隊とも言える騎馬隊に突っ込まれたら、あっという間に全滅だ。


「…セドリーヌ様はどうするんですか!?」


丸く大きな眼鏡をクイって上げながらエマが思わずそう叫ぶ。


「私はここに残り、時を稼ぎます!いいですか、エマ。ここを突破されればルンは墜ちます。ですが、私たちはサーシャ様と修道院に逃げ込んだ民を守る責務があります。…貴女にはそこで最後の采配を振るってもらわなくてはいけません。」


「…セドリーヌ様。」 


「エマ、あとの事は頼みましたよ?」


凛とそう話し、笑みすら浮かべたセドリーヌ。

その言葉を聞くにつけ、この女長はここを死に場所と決断をした様だった。

…あいも変わらずご自分に厳しいお方だわ…ってエマは思わず目を丸くする。だが、この御仁をこんな場所で死なせるわけにはいかない。


「ふふっ…。そんなお言葉、セドリーヌ様らしくございません。」


エマはそう言って、微かな笑みを浮かべながら首を横に振る。


「エマ…。」


「だいたいセドリーヌ様がここで果てたら、貴女様のお言葉と救いを待っている信者は、どうすればいいのですか?」


「………。」


「それに…セドリーヌ様を置いて逃げ出す者など、ここにおりません!」


エマはそう言い切って、教団の槍を小さく掲げる。当然、周りの修道兵たちも槍を天に突き上げた。

このエマという修道士さん、メガネをかけて大人しそうな外見なんだけど、実を言えば結構無謀な性格。でなければ、一介の修道士である彼女が教団最高位司祭のサーシャと親友なんぞになれるわけがない。

そしてそれは彼女の周りにいる修道兵たちも同じ。とにかく、見た目はボロボロなのに心が折れている者がいなかった。

( なんてこと…。 )

小さい頃から知っている若い修道兵たちのその立派な心根はとっても嬉しいのだけど、こっちだって自分の可愛い部下たちを無駄死にさせるわけにはいかない。

セドリーヌは慌てて皆を諫めようと手を激しく振った。


「し、しかし…エマ。敵は馬を出してきます。ここは持ちません。」


「みんなで戦えば活路は開けます!」


彼女はそう言って、腰に力を入れてゆっくりと敵に目をやる。ロハン兵は狭い路地の向こう側に馬を並べ、いよいよ一気に突進をかけてくる準備が整ったようだった。


「エマ…。」


「この狭い通路を抜けられれば、どうせルンは終わりです。」


「…それは、そうですが…。」


セドリーヌが申し訳なさそうにそう洩らす。

彼女の言う通りここが最後の防衛ライン。突破されれば、先はない。さりとてここで修道兵が全滅すると、修道院を守り指揮するものがいなくなる…答えのない堂々巡りだ。

だけれどもエマはそんな女長にチラッと横顔を向けて大きな笑みを浮かべた。

そうそう、何たって今日の自分たちには切り札があるのだ。


「セドリーヌ様!、なんの心配がありましょう!私たちの側には女神様がおられるです。女神像…ではなく、本物の女神様ですよ?負けるもんですか!」


そんな事を言い切るエマに、驚くセドリーヌ。だけど彼女もやがて小さく息を吐いて、笑みを浮かべた。


「…そうでした。今、私たちは女神様と共にいるのでしたね。」


「フフッ。私たち修道士は、いつも女神様に祈り、尽くしているのです。こういう時こそ、神様にご褒美をいただきましょう!」


エマはそう言って嬉しそうに微笑む。

云々、そりゃそうね!なんて、真面目なセドリーヌも周りにいた修道兵たちも顔が緩む。

ただね、みんな、もちろん神は信じているけど、それほど都合が良くないことも知っている。

だけど、今回はそのエマの希望的な言葉をなんとなく信じたくなった。


「突撃!!」


やがて遠くから、そんなロハン兵の雄叫びが聞こえる。

馬の嘶く啼き声。

かつかつと響く蹄の音。


いよいよ最後の攻防戦が始まりを告げた音だった。

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