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先生

あの師匠さんに剣を教えていた…。


そんな事が決め手になり急遽弟子入りする事が決まったアルバは、已む無くこの横暴で偉そうな閻魔さまに頭を下げると、「俺のことは、そうだな…先生と呼べ。」なんて言い放たれ、頭をパンって叩かれた。

( 痛いなぁ…もう! )

これが結構痛かったから、心で文句を言ったアルバは唇を尖らせる。

まぁ、この閻魔さまは体が大きいが故、手もでかい。その団扇みたいな大きい手で叩かれたもんだから、アルバは若干、文句を言いたげな目で彼を見上げた。

だけど、先生は素知らぬ顔で、笑っていらっしゃる。


「できれば名前を教えて欲しいんですけど…。」


取り急ぎ、文句を言ってみた。


「…いずれな。それまでは、先生だ。」


「先生…ですか?」


睨むように彼を見る。


「そうだ。お前に教えなきゃならん事は、剣だけではない。他にも山ほどある…。」


「はぁ…。」


「そんな、くそ面倒臭い事を好意でやってやるんだ。少しは敬って貰わんとな。」


「は、はい…。」


アルバは顔を傾げ、変な笑みを浮かべた。

別に不満があるって訳でもない。

むしろ剣を教えてくれるんだから、神様でも先生でも何とでも呼んでやる。

だけど、そんな事よりも気になる事があった。

それは、もちろん秘密のベールにに包まれた”師匠”のこと。

何しろ、この男…師匠に剣を教えたのは自分だとおっしゃりやがった。

師匠という人物は、アルバが片思いをしているサーシャさんの本物の騎士様で、恐らく彼女の恋人か許嫁。盗賊風情なんて睨んだだけで撃退するっていうとってもお強い騎士様らしい。

アルバは師匠のように強くなって、サーシャが安心して旅を続けられるようにって願いがあるから、もしこの先生が本当に師匠さんに剣を教えていたなら、是非是非ご教授願いたい。

だけどそれ以上に、師匠さん…そのものの事を知りたかった。

サーシャは何故かその師匠の事は詳しく話したがらないし、ルン修道院で偶然知り合ったキートンっていう御仁も師匠を知っていたが、尋ねるとお茶を濁された。

全く…どいつもこいつも内緒にして〜!なんて膨れていたが、ここまで秘密にされると寧ろ興味がどんどんと強くなってしまう。


「せ、先生は、師匠さんを知っているのですか?」


そんな訳でアルバは真っ先に尋ねた。


「…そうだな。」


「ど、どんな人なんですか?」


「その質問には、まだ答えられん。」


又してもバッサリ…とやられた。

あ〜、この人もか…と、心底がっかりする。

アルバは、小さくため息を漏らすとゆっくりと首を振って、自嘲気味に笑い口を開いた。


「みんな師匠さんを秘密にするんですね…。何ででしょう?」


「…では逆に尋ねるが、お前は何で師匠の事を聞きたいんだ?」


そのご質問に、アルバは思わずその先生とやらを見上げた。

何故って…そりゃ知りたいでしょうって、喉まで出かかった。

彼女に仄かな想いを抱いて、どんどん深みにハマっているアルバとしては、恋敵というか、その羨ましき御仁の事を知りたいのは当然だって思いがあったからだ。

とりあえず一番聞きたい事を直球で、いく。


「師匠さんは……サーシャの愛する人…でしょ?」


聞いた瞬間、後悔…。だけど、ポニーテール先生は顔を顰めた。


「…はぁ?」


「違うんですか?」


「つうか、お前さ。自分で何言ってるか分かってるのか?」


「へ?俺…何か変な事、聞きました?」


「自覚ないのか?」


その問いに、話が噛み合ってないと感じたアルバは、質問が悪かったのかと反省し、はっきりと言ってみた。


「えっと…自分の好きな女性が愛している人…俺の場合は師匠さんって事になるんですけど…。好きな相手の愛する人って、知りたくないですか?まぁ、人によるのかもしれませんけど。」


師匠を知りたい…そう、その一点を目的としてもう告白みたいに恥ずかしい事を堂々と言ってみた。

こっちは恥も外聞も捨てて、捨て身の攻撃をしたのだ…。

だって、自分はサーシャが好きって完全に認めてしまったのだもの!

さぁ、どうする?

どうする、先生!って、顔を覗き込む。

するとね。

やがてね、その先生、

いきなり自分の目の前で大笑いを始めた。

しかも腹を抱えての本気の大笑いだ。


「はははっ!お前、やっぱり面白いな!そうきたか!くくくっ…。」


「…笑わそうとして言った訳じゃないんだけど。」


「馬鹿!これが笑わずにいられるか。はははっ!」


やがて、この人。前かがみになって笑い出してしまった。

しかもね、ずっと笑っていらっしゃる。

どうやら、笑い出したら止まらないって性分らしい。アルバはすっかり呆れて、これ以上聞く気が無くなった。

笑いもんにされた上、何も話してくれないなら用はない。


「…もう、結構です。湖を見てきます。」


アルバはふて腐れたような声を上げると、いよいよ笑い転げてしまったポニーテールの先生を残し、一人で小屋を出て行った。

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