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アルバvsセザール将軍

ルンとロハンの戦争は、新たな局面を見せ始めていた。


時は、日が変わろうとしている。

これまでの銀色の丸い月の淡い明かりと満点の星空が放つ輝く光も、黒々と…そしてモヤモヤした様な雲が風にのってやってくる様になり、大地への光を遮り始めていた。

それでも夜空から届けられる光は明るい方だ。

だが今、ルンの街中では激しい戦闘が行われていて、いつもは窓から漏れる暮らしの明かりは見えない。

ここは、80万人が暮らす大きな街。

いつもなら賑やかで、夜中まで煌々と輝いている世界でも有数な都会だ。

そう、いくら月明かりが明るいといっても、やはりこの街にしてはとても細やかな光。

( 都会とは言え、光がないと夜はやっぱり寂しんだな…。 )

サーシャに導かれながら、ルン修道院に向かっているアルバは変な所に感心して思わず唸った。

それほどルンの街はいつもの光景と違っていたのだ。

戦況はアルバとサーシャが味方するルンにとって、だいぶ好転してきたとはいえ、まだまだ予断を許す状態にない。

だがサーシャの親友であるエマが報告してくれた通り、2人が必死に走る修道院の南側の道は比較的敵兵が少なく、会話が普通にできるレベルだった。

これは、ルン軍が徐々にロハン軍を押し返し、主戦場が少しづつ動いてきている兆しでもある。

それはこの2人にとって吉報だった。


「騎士様、どこか痛いところはありませんか?」


やがてサーシャはキョロキョロと敵が近くにいない事を確認しながら、そう尋ねてきた。


「大丈夫です!あ、でも敢えて言えばこっちの腕が痛いかな…。」


少しだけ腫れた右腕を抑えながら、自分はそこに目をやる。

…見た目的には、手首近くがぷっくりと赤く膨らんでいて、如何にも痛そう…。

だけど当のアルバは、意外にもそんなに痛みは感じなかった。まぁ戦闘中で、血が滾っているから…なのかもしれないが。


「ああん…こんなに腫れてしまわれるなんて…。」


だけどサーシャはとても心配そうに、自分の腕を見てくれる。

出血はしていないので、敵の槍や盾にでも打ち付けられたのだろう…。要は、打撲だ。

まぁ、あれだけの乱戦。痛める理由なんていくらでもあるってものだ。


「でも、利き腕じゃないんで、大丈夫です。」


そう笑顔で答えた。

自分は左利き、逆手をこの程度痛めただけなんだから、それほど影響があるとも思えない。

だけどそう答えた自分の顔を見て、彼女は大きな目に涙をいっぱい溜めて、とても心配そうな表情を浮かべた。

まぁ心配性で優しい彼女の気持ちは手に取るように分かる。

何せ乱戦を乗り越えた自分の顔は汗まみれ。鏡がないのでちゃんとした事は分からないんだけど、返り血もいっぱい浴びたから、恐らく頬にはどす黒い血の跡がいっぱいこびり付いている事だろう。

銀の鎧や短いマントだって、打撃や斬撃でついた傷が無数に見て取れる。

サーシャが自分を心配するのは当たり前だ。


「サーシャ、本当に大丈夫だから。」


そう言ってもう一度、念を押す。

とにかく、自分は彼女を守る騎士。心配させちゃいけない。…まぁ、臨時だけど。


「フフッ、やっぱり騎士様は格好いいわ。本当に素敵。」


だけどサーシャはそう言って微笑んだ。

実を言えばこの女神様、今のアルバを見てとてもホッとしていたのだ。

勿論、返り血や多くの傷は戦いの厳しさを如実に表していて心配は募るが、その走る姿と生気漲る瞳は実に力強くて、本当に格好良く見える。

何しろその傷は、すべて自分と修道士たちを守ってくれた勲章みたいなものだ。

その事が何とも誇らしい。

彼女は何気にアルバの右腕に手を優しく添える。そう、少しだけ腫れている箇所だ。

「ん?」って、アルバが彼女に目を向けると、サーシャは彼を大きなブラウンの瞳で見つめ返し、そっと微笑んだ。


「傷が良くなる…おまじないです。」


もうね、とんでもなく可愛い顔でそんな事を言うサーシャさん。アルバは思わず電気が走ったかってくらい体がゾクってしてしまったもの。

でもその後、もっと驚く事が起きた。

アルバが顔を赤らめて目線を外した時だった。

何とね!

急に自分の腕とサーシャの手が白く輝きだしたのだ。

( えッ?えっ? )って、もうね、超びっくりだ。

思わず目を丸くして、自分の腕に再び目を向ける。

そうしたら、自分の腕が本当に光ってる…。その痛めているとこだけ、フワって優しく、ほんのり光っていらっしゃる…。

もう、そんなとんでもない事態だというのに、当のサーシャさんは「フフッ…。」って、微笑んでいるだけ。やがて、白い輝きがスゥ〜って消えていってしまった。まるで幻をずっと見ていたみたいに…。

そして何とく予想していた通り、腫れがすっかり無くなっていた。

( …やっぱり、物の怪かも…。 ) なんて心で巫山戯ながら、痛みが消えた右腕をおっかなびっくりで摩る。…すると、すっかり痛みも引いて腫れも消えている。


「サ、サーシャって、魔法使えるの?」


思わず尋ねた。云々、こんなの童話の中のおとぎ話レベルだ。


「いえいえ。ですが、私は騎士様の為なら何だって出来てしまいます。ご要望があれば空だって飛んで見せますわ。」


そう細腕でガッツポーズを掲げるサーシャさん。

アルバは彼女の謎がまた深まったことに顔を顰めたが、この時はそのまま口を噤んだ。

だって、そんな事よりももっといいものが見れた気がしたんだもの。

…見るたびにどんどん大きくなっていく、彼女の笑顔。

それはまるで恋人でも見るかの様に、自然で優しい微笑みに見えてしまっていて…。

思わず誤解しそうで、自惚れてしまいそうで…

だけど今は…その事がアルバには魔法らしき白い光より、大事なことの様に思えたから、それ以上は聞けなかったのだ。




アルバとサーシャが、ルン修道院の門に辿り着いたのはそれから15分ほど後だった。

ロハン軍の目標として攻撃目標に挙げられていた修道院ではあったが、意外にも門があるルン修道院広場に兵の姿は見て取れない。

辺りは静寂に包まれていて、すぐ近くで激しい戦闘が行われているなど想像ができないほど、ひっそりとしていた。

だが、だからこそ修道院の門の前で、松明を掲げた一人の剣士の姿はすぐに確認できた。

「………。」

その男の姿を見て、アルバは思わず息をのんだ。

月明かりと松明の炎に照らされたその男は、紅色の立派な鎧を着込み、長く落ち着いた銀色のマントを靡かせていて、じっと修道院を見上げていたのだが雰囲気が独特。

赤く染まった長いストーレートの髪、顔は色白で面長。

とてもスマートで、華がある人物とすぐにお見受けした。


「どうやら、あの殿方が有名なロハンの将軍さまのようですね。」


サーシャが、アルバにそっと耳打ちする。


「は、はぁ…。」


「確か、セザール殿という方です。この戦争を簡単に終わらせるなら、彼を討取るのが一番早いかもしれません。」


え?誰が討取るの?って、アルバは聞き返したくなったが、まぁそれはどう考えても自分の役目なのだろう。

何しろこんな場所にのこのこ来てしまったし…そもそもここのご案内してくれたのは他ならぬサーシャさんだ。

思わず頭を掻いて、その有名な将軍様に再び目をやる。

まぁ、筋肉モリモリの厳ついおじ様のようにはお見受けしないが、強者特有のオーラみたいなもんは、何となく感じ取れる。そう、サカテと一緒だ。

( 絶対…勝てない…。 )

アルバは見た瞬間、分かった。云々、あのスマートな将軍様は桁違いに強いって、なぜだかはっきりと分かる。

だけれども、自分の雇い主というか聖女さんは、いつもの見解をお示しになられた。


「騎士様なら、あんな男、へっちゃらです。」


…根拠をお示しになられてほしい。アルバは素直にそう思った。だが、彼女は一度口にした事を決して覆さない。でね、もう正直に言ってみる事にした。


「サーシャ…。あのさ、今度こそ自信がないんだけど。」


「フフッ。またご謙遜になられて…あのような格好つけしいの優男など、騎士様の足元にも及びませんわ。」


…そのお答えに、師匠さんなる彼女の本当の騎士様のご苦労が少しだけ分かった気がした。まぁ、見たことも話したこともないけど…。

だけど、もう、どうせ、ここまで来たら戦うしかない。

だけど、何だか足が震える。やっぱ、怖いんだって自分でも分かる。

( どうしたら勝てるのかな…。 )って、本気で悩むが答えなんて出るはずもない。

…正直、困った。

まぁ、剣技や実戦経験では敵うわけないから…とりあえずは気持ちだ。

そうあんまし好きじゃないけど精神論だ。

何とか気合いだけでも負けないようにしないと勝負にならない。

気持ちを熱くさせる方法…方法って何だっけ?

少し考えたら、答えはすぐに出た。

そうそう、自分が戦う理由はサーシャさんだ。

自分が格好をつける理由なんて彼女しかない。

若干、邪な考えだと自分でも呆れるけど、サーシャさんだけが自分を奮い立たせてくれる…。


「サーシャ…。」


アルバは思わず、彼女を見つめ名前を呼ぶ。


「はい、何ですか?」


「あのさ…もし、あいつに勝ったら…また、あのスープ作ってくれますか?」


アルバは、そう言い残してその場から走り出した。彼女の返事も聞かず、その雰囲気満点の有名な将軍様に向かって…。

彼が先ほど口走ったのは、初めて逢った日に彼女が自分に作ってくれた黄金色のスープ。

そう、ジャガイモのスープだ。

それを初めて口にしたとき、なぜか全身に鳥肌がたった。それくらい美味しかった。

毎日、食べたいくらい…。

でもね。

そのスープも本当は違う人のもんだ。

そう、彼女は”師匠さん”という、とってもお強い騎士様を愛していらっしゃる。

何しろ、その人を探して一人で危険な旅をしているんだもの。

それは知ってるんだけど、まぁ、スープくらいはおねだりしてもいいかなって思った。

”師匠さん”という人も、それくらいなら許してくれるかなって。


タッタッタッ。

石畳を走る自分の足跡が響く。

相手である、長い赤髪の剣士もその音に気づき、アルバの方に顔を向けた。

…やがて、そのスマートで雰囲気満点の将軍様は体をこちらに向け、腕をいっぱいに伸ばしてそろりと剣を抜く。松明を持っているから、もうその姿は地獄からいらした鬼の様にすら見える。

銀色に光る見事な剣…相手が自分を敵と認識した。

僕は恐怖心を消す様に、走りながら腰に下げた聖剣を抜く。

背中に背負った黒剣が、燃える様に熱い。まるで何かを警告する様に。


周りに人影は見えない。完璧な一騎打ちだ。


相手は兜すら被っていなかった。故に、顔がはっきりと見える。

その男が持っていた松明の灯火に映るその瞳は、無表情で冷たい。

むしろ無謀にも突っ込んできた自分を哀れんでいる様にすら感じた。


ウオッーーー!!


もうね、獣の様な声をあげて突っ込んでいく。”策”なんてない。

臆病で、こすい事ばかり考える自分がなんでって思ったけど…それしか思いつかなかったんだもの。

いよいよ剣を天高く掲げた時、思った。

人っていうのは、いろんな感情に支配されて、稀に突拍子もない事するだなって。

サーシャの前で格好付けたかったこと。

サーシャに褒めてもらいたいってこと。

でもどれだけ頑張っても、師匠さんに追いつけないこと。

でも彼女をどうしても守りたいって事。

でもこの強そうな将軍様には逆立ちしても勝てないってこと。


…これまでなら、逃げるか、はたまた他の修道兵やルンの正規軍が来るのを待って戦いを挑むはずなのに、今は勝手に足が出た。

呑気が服着て歩いている様な自分が、これほどまでに熱くなれるんだって思った。

そしてそれを分からせてくれたサーシャに感謝だってしてる。

あ、俺って意外とできるんだなって…。


だけど一方では、やけを…起こしてるんだって事も知っている。


そりゃそうだ。いきなりこんな戦場に連れてこられ、若干片思いしている彼女に「力を貸して。」とお願いされ、いわば気持ちを無視され強制的に戦いをさせられている。

そして、今は世界に名を馳せている将軍様との一騎打ちまで…。


俺は君の本当の騎士じゃない。こんな事させられたら、死んじゃうんだよ!


って、彼女に伝えたかったのかもしれない。口で言っても分かってくれないから。

それにもし生き延びられても、この先師匠に出会えたら、サーシャは僕を捨てて、その師匠と何処かへ行ってしまう…。


「騎士様!!大丈夫です!貴方なら必ず勝てます!!」


いつものサーシャの元気な声が聞こえる。

するとね、どんなに落ちていても強制的に自分の心が湧き上がる。

腹の底から炎が昇ってきて、全身に熱い血が巡る。


聖女を護れ。


そんな、押しつぶされそうな重圧が自分を襲う。頭を大きく振ってその刻まれた文字から逃れようともがくんだけど、どうにも逃れられない。


やがて、まるで蛹から生まれ変わる様にアルバの体から何かが抜けていく。

速さが…増した。

云々、体がなんだか軽くなったんだけどね、ちょっとお相手が悪かったのかもしれない。

結果から言えばね…

できれば、もう少し先にお会いしたかった…この将軍様とは。


シュッ!!


アルバは走ってきた勢いのまま、その男の腰を一閃しようと剣を振るう。

だが、その赤髪の将軍様は、松明を左手で掲げながら右手に構えた見事な銀色の剣で、アルバの渾身の一撃を、なぎ払った。


ガキィーン!!

って、金属同士が激しく交わる音がしたかと思うと、アルバの聖剣はそのまま遠くに飛ばされてしまった。やがて遠くで、カラン、カランって、石畳に剣が落ちて転がる音がする。

凄い力…だった。

このロハンの将軍は、どちらかといえば普通体型。腕だって見た目、そんなに力がある様には見えない。

だけど、アルバは軽々と体勢を崩され、剣を握っていた握力をも上回る一撃を受けて、村長に貰った聖剣まで遠くに飛ばされてしまったのだ。


バ、バケモノだ…。


アルバは、スローモーションの様に地面に倒れこみながら、そう思った。

やがて、激しく頭を固く冷たい石畳に打ち付ける。手で受けようと思ったのだけど、間に合わなかった。

ここは街中、地面は石だからね。痛いなんてもんじゃない。兜とかも被ってないし。

本当なら暫く休んでじっとしたい所だけど、これは相手がいらっしゃる戦いだ。いつまでも痛がってうずくまってもいられない。

「いてて…。」なんて、頭を押さえながら上半身だけを起こすと、その男は、赤く長い髪を揺らしながら、剣の先を自分の額に突きつけてきた。

もうね、早速やってきた絶体絶命というやつだ。

だけどアルバは、必死に威嚇する様に上を睨む。まぁ、それしかする事がなかったっていうのが本音だが。

だが当然その男はそんな事に怯むことなく、さらに顔を近づけてきて口を開いた。


「勇気ある少年兵よ。将軍の首を獲る…その狙いは良かったと思いますが、命を粗末にするものではありません。」


…やけに、ゆっくりとした話し方だった。寧ろ、怖さよりも温かさを感じる様な声だ。軍人なんて、みんなガサツで猛々しいって思っていたから意外だった。


「君は前途ある若者です。こんな場所で死んではなりません。見なかったことにしてあげます。お逃げなさい。」


「…ですが、俺も引けないんです。」 そうは言ったものの声は震える。せっかくの逃げるチャンスをくれたというのに、この時の自分は必死にそれに抗った。


「ほう…それはまた何故です?」


「………。」


思わず口を噤んだ。いやはや理由なんて複雑すぎて言えるわけがない。

一言で言えば、サーシャの為?って事になるけど、そこに至るまでのプロセスはそれはそれは入り組んでいる。

するとその将軍様は暫くアルバを値踏みする様に見ていたが、やがて「フッ。」て小さく笑うと、背筋を伸ばして地面に倒れこんでいる自分をを見下ろしてきた。


「君は、とっても不思議な少年ですね。」


呆れた様にそう漏らす将軍様。

正直、はっ?って思った。サーシャとかサカテとかもそうだが、何かしら特技を持っていたり、偉い人っていうのは稀に突拍子もない事を言う。


「…そう…ですか?」


「ええ。そして、とても懐かしい匂いを感じます。」


アルバはその不思議な言葉を聞きながら、恐る恐る立ち上がった。

ちょっと英雄さんとやらと話してみたかったけど、いつまでも会話を楽しんでもいられない。

何しろ、この男を倒さないとルンも修道院も救えない。それは突き詰めれば、サーシャが守りたいものを守れない事を意味している。

だけど、全身がビビっていて、足だって小刻みに震えている。

当たり前だ。昨日おとといに剣を振り始めたばかりの自分が、この百戦錬磨の将軍様に勝てる理由が全く見つからないからだ。

だが、そんなビビリまくっているアルバだけど、その瞳だけは違っていた様だ。


「しかもその目…。困りましたね…。」


やがて将軍様はアルバの目を覗き込むと、呆れる様にそう言って首を左右に振った。

自分はその隙を利用して、素早く後ろに下がって距離をとる。

あのね…逃げたいんだけど、何か逃げれない。何かに背中を押されている様に、言葉も行動も気持ちとは真逆な事を表してしまう。


「ごめんなさい。逃がしてくれようとしているのに…。」


アルバはそう言って、ゆっくりと背中に背負った”黒剣”に手をかける。

すると相手はいよいよ大きなため息をついて、見返してくる。


「背中の剣が真打か。ですが、今の君では私に勝てませんよ。」


「…そんな事、やってみないと分からないでしょう?」


「…確かに。ですが、せめて一年後に剣を交えたかったものです。」


意味深な言葉を吐いたその赤髪の将軍は、持っていた煌々と燃え盛る松明を地面に転がし、ゆっくりと剣を構えた。…辺りの空気が歪む。そう、まるで魔法の様に。

やがてとんでもない重圧がアルバを襲った。


「私はロハン将軍セザール・モイサという。君の名は?」


「…アルバです。」


必死に重圧に耐えながらそう答えると、セザールと名乗った将軍様はとっても意外そうな顔をした。


「アルバ…というのか。では、未来の英雄アルバくん、その力を見せておくれ。」


「未来の英雄?馬鹿言わないでください。俺は只の物売りなんです。」


そう言いながらも顔を顰める。だが、そのセザールさんは、結構本気だったようだ。


「馬鹿を言っているのは君です。只の商人が私に勝負など挑んでくるものですか。」


「…えっと、それにはいろいろと事情がありまして…。」


もう、半笑いだ。


「どんな事情が知りませんが、貴方は自分以外に守るものがあるのでしょう?だから、命をかけて私と戦う。」


「まぁ、そんなところです。」


云々、それは間違えない。自分の心はとある女神のことでいっぱいだ。


「なら、その守られている者からしたら、君は既に英雄の心を持っています。」


「なるほど…。」


「ですが、それはまだ只の”心”。願いと一緒です。実際に守りきる力を持った時に、人は本当の英雄になれるのですよ。」


セザールは結構真顔でそんな事を言う。なんか俗物にまみれている兵隊さんの言葉としては、とても違和感がある。


「…結果が大事って事ですね。」


「そういう事です。…さぁ、おしゃべりは終わりです。見事、私を打ち果たし、ここルンの英雄となってみなさい!!」


…ついにセザールは、銀刀を掲げアルバに襲いかかってきた。

しかもその動きは静かで、しなやか。まるで風の様…。

すっ〜て左足を小さく前に出し、一気に肩口からの一閃を狙った様だ。

だけれども、やっぱりその一撃は、速く、鋭い。

アルバは慌てて背中の大剣を引き抜く途中で、間一髪で彼の剣を受けれた。

そして今度は、吹き飛ばされずになんとか踏ん張れた。

腰が入っていたからか、はたまた黒剣の力なのかは分からなかったが、腰をかがめ背中から引き抜く前の黒剣で受けれたのだ。

もうその姿を想像するに、完全に奇跡だった。


「まさか、私の一撃を受けるとは…さすがですね。それに運も強い。」


将軍様もびっくりだった様だ。


「あっ…。悪運は強い方かもしれません。」


「ハハッ。ですが、運が強いのは英雄の第一条件といってもいいくらい大事な事です。」


セザールはそう言いながら、第二撃を繰り出す。

打ち込んだ剣から力を抜き一度引くと、そのままアルバの腹に突き上げたのだ。

…もうね、流石に受けきれなかった。勿論、躱す事も。

「グァッ!!」って、アルバは叫び声をあげてその場に倒れこむ羽目になった。

中に着込んだ楔帷子のお陰で多少はダメージが緩和されているだろうが、内臓が飛び跳ねたかと錯覚するほどに、とんでもない重い一撃が届いたのだ。

アルバは握っていた黒剣を大地に落とし、咳き込みながら膝をつく。


「なぜ、こんな時に君は出てきたのです?」


やがて、セザール将軍の寂しげな声が届く。

アルバが痛めた腹を手で抑えながらゆっくりと顔を上げると、セザールは既に腹にさしていたはずの剣を引き抜いていて、振りかぶっていた。云々、もう振り下ろされたら一貫の終わりだ。

( や、やばい! )

流石に呑気な自分も血の気が引いた。

だけれども、もうどうあがいても逃れるすべはない。

やがて、ザクって鈍い音がしたかと思うと……アルバはそのまま目の前が真っ暗になってしまったのだった。



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