表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/519

謎の赤髪女と修道兵たちの戦い

一方のルンは、夜が来ても巨大な正門を固く閉ざすだけで沈黙に包まれていた。

無数にある商店や住居からの光はない。

何しろ金持ちは用心棒を従えながら、馬車に乗ってとうの昔に逃亡。行くあても金もない普通の民は、修道院に着の身着のままに逃げ込むか、家を固く閉ざし地下や屋根裏に身を隠しているのだから当然といえば当然だった。

そして予想を大きく上回る速さでロハン軍が来たものだから、この街を治めるジェニファー・ロダン以下、行政を執り行っている者たちも、傭兵を含めた兵の配置と物資の確保、作戦立案で手一杯。

申し訳ないけど、民は自己責任で何とか生き延びてくれ!というのを、すごく柔らかく言ってみんなに納得して貰うしかなかった。

もうね、こんな事態は優秀で老獪なジェニファー・ロダン、一世一代の不覚としか言いようがなかったのだ。

ルンは、もともとザグレア王国という国に属していた一つの街だ。

その王国が滅び、自治区として経済最優先で街を繁栄させてきたもんだから、街の防衛に明るいものが少ない。そもそも防衛に関してはお隣の街ロハンに頼りっきりの状態だったのだから致し方のない事だった。


ただ、ジェニファー以下ルン執行部もただ何も手をこまねいているばかりではない。


あまりに時がないもんだから大それた作戦なんてものは無理だけど、正門からまっすぐに伸びる広い中央通りを舞台にした戦闘ならいくらか訓練を積んでいる。味方が、正規兵と官兵それに傭兵という寄せ集めの軍隊だった事もあり、結局一番簡単でわかりやすい中央通りを使った挟み撃ち作戦を執行部は選択した。その為、敵を中央通りに誘い込むために、この街道の明かりを少なくし敵にこの場所に兵はあまりいないと思わせる工作を行った。

まぁ、それはすぐに敵方のセザール将軍には読まれてしまったが…。



「サーシャ、場所はここでいいんだよね?」


「はい、騎士様。ここで間違いございません。」


セザール将軍がいよいよ軍を動かそうとしていた時、勝手に聖騎士なるものに祭り上げられてしまっていたアルバは、サーシャとルン修道兵200名と共に中央通りに面した建物の物陰にいくつかの部隊に別れて身を顰めていた。

位置的には、中央通りの正門からルン修道院の中間あたり。

建物と建物の狭い間に身を潜ませ、敵が攻めてくるのを冷や汗垂らして待っている。

何せこれはアルバにとって初めての戦争。とにかく臆病な彼は何度もサーシャに確認をとる。


「敵の最後尾が確認できたら、後ろから襲いかかる…ですよね?」


「はい、その通りです。私が頃合いをみて合図を送りますから、騎士様は大声で皆を導いてくれれば大丈夫です。」


「わ、わかった。ありがとう。」


アルバのくどい質問にも、サーシャは優しい笑みを浮かべながら丁寧に答えてくれる。

こんな緊迫した状況だというのに、相変わらず彼女は落ち着いていて、自分を必死に支えてくれていた。今となってはそのことが本当にありがたくてホッとする…。

何しろ、先ほどのルン修道院でのサーシャのお姿、本当に格好良かった。

あれだけ短いお言葉で。恐怖に襲われていた200人の修道兵の心を沸き立たせるんだもの。あれこそ、皆を引っ張る偉大な女神のお姿だ。ほんまもんだ。

だけれども、アルバはちょっと寂しい気分になってしまったのも事実。

サーシャが、遠い、遠い、偉大な英雄に見えてしまったからだ。

もうハナから別世界の人なのに、どんどん遠くへ行ってしまうような錯覚に襲われる。

だけど、彼女の自分に接する態度はその後も全く変わらなかった。

騎士様、騎士様と甘えるような声も出すし、気がつくと肩が当たっていたり、手を繋いでいたりとスキンシップも満載。まるで自分が英雄にでもなった気分だ。

その事に若干首を傾げながらも、なんだかんだでホッとしたアルバは、彼女に言われるがままいよいよ本当の戦場に来てしまったという訳だ。

ちなみに彼ら修道兵部隊がルン正規軍の隊長さんから任された作戦は、ロハン軍が正門を突破し騎馬で中央通りを通り過ぎた後に、後ろから奇襲してほしいというものだった。中央通りの終点であるルン執政官宿舎やルン修道院がある場所でルン正規軍本隊が待ち受けているので、傭兵や修道兵でロハン軍を挟み撃ちにする腹積もりのようだ。

とっても安直な作戦のようにもお見受けするが、その隊長さんの説明によると寄せ集めの軍編成で、尚且つ作戦立案と準備が数時間ではこれが限界らしい。

( まぁ…戦争なんてわかんないから、しょうがないけど…なんか嫌な予感がするんだよな…。 )

アルバは思わずそう漏らし苦笑いを浮かべた。まぁ自分のこういう時の悪い予感っていうのはよく当たる。かといって、代案があるかといえば、まるで思い浮かばない。

もうね不安いっぱいだけど、運を天にお任せするしかない状態だった。

すると、何やら難しそうな顔で悩んでいる自分に、サーシャがそっと手を添えて励ますように話しかけてきた。


「アルバ、そんなに緊張なさらないで。貴方ならきっとうまく出来ます。」


「だと、いいんですけど…。」


「大丈夫です。騎士様はとってもお強いではありませんか。私を盗賊たちから守ってくれたように、貴方はここルンもきっと守れます。」


「ハハッ…。」


アルバは彼女のお言葉に思わず乾いた笑いを漏らす。

まぁ、それは結果的には事実なんだけど、プロセス的には大きく異なる。

だいたい、自分は昨日までは、ただの物売り。いきなり緊迫した戦場に駆り出されたら、緊張するに決まっている。

だけどこのサーシャさんは、アルバの事をあまりに過大評価している。

彼女が探し求めている本物の騎士様であられる”師匠さん”なら、きっと何の問題もないのだろうけど、臨時の騎士様やってる自分には少々、荷が重い。何しろ、サーシャ1人を守るのでも役不足なのに、今や修道兵200名の運命まで背負ってしまった。サーシャは何十万もいるルンの民を守って!なんていうけど、そっちは恐ろしくて考えない事にしている…。


しかし…静かな夜だった。

みんなが息を潜めていうってのもあるけど、今から戦争が起こるなんて事が信じられないくらい、辺りは静寂に包まれている。

さっきまでヒューヒューと吹いていた風は止み、建物を抜ける音もしなくなった。

アルバはつかの間の静かな時間を楽しむように、地面に腰を下ろして暗がりの建物の隙間から銀色に輝くまんまるのお月様を見上げた。

季節は真冬。屋根の段々から抜け見えるその冬の夜空は、空気が澄んでてとっても美しい。まるで様々な色が発光している巨大なキラキラの宝石箱…それをボオッて見ていたら、美しいものっていうのは遠くから見るから美しい…っていう誰かの言葉が頭を過ぎった。

と、アルバはふと後ろを振り返った。

だってとてもお美しい御方が、後ろにいらっしゃる。この人はどうなんだろうって思ったのだ。

…振り返ったら、その女神さんは意外にも自分のすぐ近くに顔を寄せていて、上目遣いでこちらを見ていた。

今日は満月だ。

彼女の輝く大きなブラウンの瞳だけでなく、長く細い睫毛までくっきりと見える。

そして鼻筋が美しく通ったおはな、ぷるっとした薄紅色の唇…。

サーシャはいつもよりちょっとだけ幼く見えたけど、彼女の美しさはやっぱり近くで見ても変わらない。

やっぱり可愛い。何度見ても可愛い。どんどん心が彼女に奪われていく。まるで吸い取られるように…。


「騎士様、どうかしたのですか?」


いつまでも口を開かない自分を見かねて、サーシャは顔を傾けながら不思議そうに尋ねてきた。


「サーシャ、裏で剣を振ってきてもいいかな?」


彼がは思わず、そう口にした。

まさか、「近くで見てもやっぱりサーシャは綺麗ですね。」なんてとても言えず、思わず頭に浮かんだ言葉を言ってしまったのだ。

まぁ、戦いは迫っている。それに狭い隙間で座っているので、窮屈で体が固まってしまいそうなのも事実だ。それに、やっぱり寒い…。

自分なりには真っ当な理由にもなった。


「それは構いませんけど…まだ緊張が解けないんですか?」


サーシャが怪訝そうに尋ねた。

まぁ、戦争というよりは貴女に対しての緊張が解けないんですけどって思った。


「いや…。ちょっと寒いから体を動かしたくて…。」


「まぁ…それはいけません。温めましょうか?」


「へっ?」


アルバはキョトンとして尋ねる。すると、サーシャはとても嬉しそうに微笑んだ。


「私が後ろから抱きしめて差し上げます。」


「こ、こんな場所ではダメです。」


アルバは慌てて、手を振る。

何しろ近くにはいないとは言え、自分たちの周りにはピリピリしているお仲間の修道兵の皆さんがいるのだ。

万が一見つかったら、いくら彼女たちがサーシャの部下みたいなもんだとしても、気まずい事この上ない。

それに折角ね、戦う勇気と士気を高めたのに、若干片思いしている彼女にそんな事されたら全てが台無しだ。

だいたいこのお美しいサーシャに抱きしめられたら、黄金色の長い髪が頬とかに当たってくすぐったいし、心の奥を掻きむしられるようないい匂いもするし、そこそこ豊かな胸が当たっちゃうし…。なんて、想像しただけで顔が、かぁって熱くなる。まぁ今は銀の鎧を着ているので、胸の感触までは分からないと思うが、間違いなくデレデレになってしまうのは目に見えている。

するとそんな困惑している自分に彼女はクスって笑う。


「あはっ。相変わらず騎士様は恥ずかしがり屋さんですね。私も寒いので温めていただきたかったのに。」


「…場所とタイミングを考えてください。」


「ふふっ。では、せめて肩を寄せ合いましょう。」


サーシャは問答無用とばかりに、アルバの二の腕を掴んで、クイって引き寄せてしまった。とっても呑気で鷹揚で…実にマイペースなお人だ…って、毎度の事ながらアルバは少々呆れてしまう。

だけれども、悲しいかなやはり彼女とくっつけるのは嬉しい。顔が真っ赤になる程恥ずかしいのだけど、どうにも離れがたい。

何事のにものんびりな自分でも、片思いの女性にはこうなってしまうのかと、少々戸惑ってしまうというものだ…。

だけれども、そんな邪なことを考えているアルバとは対照的に、意外にも彼女は真面目な顔で話し始めた。


「騎士様。ルンの隊長さんが仰っていた事…どう思いました?」


それは、「この場所で待機して、敵が通り過ぎたら後ろから奇襲を。」とお願いしてきたルン正規軍の隊長さんの事だろう。


「え?ああ、ロハン軍が中央通りをまっすぐにくるから…奇襲するってやつ?」


「…そうです。」


彼女はそう漏らすとアルバの肩の上にちょこんと頭を乗せた。

…そんな事でも全身に電気が走ってしまうから、本当は控えてほしい…。だが、そんなアルバの心の声を全く無視して彼女は真面目な話を続ける。


「ロハン軍は戦上手と聞き及んでいます。松明の炎が少ないくらいで、まんまとこちらの罠にはまってくれるでしょうか?」


「そう言われると…ね…。」


「さっき聞いたのですけど、敵は西の丘の上に陣を引いたとか。あそこからは、恐らくルンの街を一望できます。騎士様が敵の将軍なら、どうされますか?」


どうされますか?と、物売りの少年に言われても…って思ったけど、とりあえずは考える。何せ他ならぬサーシャさんの問いかけだもの。

サーシャの髪の感触を感じながら、腕を組んで、ゆっくりと目を瞑ってみる…。まぁ、妄想は得意だ。

アルバは、1年以上もルンに物売りとして通っている。だから、ルンの街のつくりはなんとなく分かる…。

敵は、丘の上から街を見据えたのだから、まずアルバと同じく街の位置感を掴んでいる事だろう。

このルンは経済発展を優先した街…。

道路も全てしっかりと整備されている。全てが綺麗に碁盤の目のように並んでいて、道路も中央通りと平行に、多くに道がルン修道院のある中央街にいっぺんに伸びているのだ。

さて…さっきのルンの隊長さんは、どんなに屈強で大軍でも、周りを囲まれいろんな場所から追い立てられたら混乱するとおっしゃってた。だからこそ、中央通りを利用した挟み撃ち作戦を採用したと…。

でも…それって、こちらも一緒なんじゃ…。


「あっ…。」


って思った。

何しろ、ロハン軍は百戦錬磨。確か、有名な将軍だっている。数だってルンの2倍の兵力。

待って、待って…。

悩むアルバ。考える物売り…


「う〜ん、私だったら、敵の裏の裏をかいちゃうね〜。」


いきなり、後ろから女の声がした。

ウンウン、そうだよね!ってアルバは思ったけど、その女性の声…サーシャにしては、軽いし言葉遣いもなんか違う。


「だ、だれ!?」


アルバは思わず声をあげて、後ろを振り向く。肩を並べていたサーシャも勿論一緒に振り向いた。

するとね、鼠色のフードを深くかぶった人物が、横の壁にもたれ掛かりながら、腕を組んでこちらを見ていらっしゃる。

ウンウン、

怪しい…。

ものすごく怪しい。

ローブじゃないから修道士さんじゃないし、背もそこそこ高いからチビのサカテさんでもない。声からして女性であることは間違いないのだけど、全身が長いフードコートで覆われているので外見がさっぱりわからない。まぁ、月明かりがあるとはいえ夜だしね。

2人が呆気にとられ仲良く目を丸くしていると、そのフードの女性は手をゆらゆらと揺らしながら、口を開いた。


「脅かしてごめんね!あ、でも怪しいもんじゃないから。」


「はぁ…。」


アルバが何とも中途半端な声をあげる。怪しくない…わけがない。


「まぁ、疑わしいのは仕方ないか…でも安心して。私は、この戦争でルンに勝って貰いたい側にいる人間。つまり、今日は味方よ。」


謎の女は軽いお声でそう話すと、ゆっくり近づいて来た。

アルバは慌ててサーシャを守るように半身を前に出して割って入る。だが、その女はそこで何故か足を止めると、「ふ〜ん」って漏らしながら、ゆっくりと腰を下ろした。そしてアルバの陰に隠れているサーシャを覗き込むように目をやる。


「たまげたわ。女神様が大地にいらっしゃるなんて。噂は本当だったのね…。」


感心するように、小さく息を吐いた謎の女。…ますます胡散臭い。


「サーシャに何か用か?」


アルバはなるべく強がって声をあげた。臨時とはいえ、自分は彼女の騎士だ。


「ん?ああ、今日は女神様には別段に用はないわ。また後日、改めてお伺いしま〜す。」


…自分の脅しなんて全く効いていないっぽい軽いご返事。アルバは顔をしかめながら、必死にそのフード女を睨めつけていると、逆に警告されてしまった。


「あんたさぁ、睨む相手間違いてるよ〜。」


「は?」


「あんたらの上官?司令官?そっち睨みなよ。…こんな子供騙しもいいとこの作戦なんて、相手に全部筒抜け。全滅しちゃうよ〜。」


暴言にも聞こえるフード女の話なんだけど、アルバは口をポカンと開けて固まった。

いやはや、この怪しいお姉さん、自分と同じ事を思ってるって…。

するとそれまで黙っていたサーシャが、アルバの肩口から顔を覗かせて感心したようにフード女に話しかけた。


「貴女もそう思われますか?私たちもおかしいなぁってお話をしていたところなんです。」


「でしょう?つーか、神様も普通に話すんだね〜。ちょっと感動〜。」


フード女はそう巫山戯て肩を竦めると、右手の人差し指をアルバに向けて話を続けた。


「いい?敵はまず中央通りを騎馬で突撃してくる。だけど、それは囮。あんたたち伏兵が飛び出してきたら、急に向きを変える。そして、予めあんたらの後ろに回った他の部隊が背後から襲ってくる。」


「つうことは…。」 アルバがそう漏らすと、彼女は大きく頷いた。


「そう。挟み撃ちにされるのは、あんたらよ。だいたい相手の主力はロハンのエリート部隊。機動力だって破壊力だって寄せ集めのルンの軍とは大きな開きがある。そもそもこんな適当な作戦じゃ手も足も出ないわ。」


「…俺たちには、最初から希望もなかったてことか…。」


アルバが悔しそうに天を仰ぐ。

だがサーシャは気落ちしたアルバの肩に手を置くと、そっとフード女に目を向けた。


「それは事実として受け止めねばなりませんね。ですが、どんな困難にも必死に立ち向かえば道は開けるもの。」


「ふふっ、さすがは教団の司祭様ね。お言葉に説得力があるわ。」


女は、そう言ってゆっくりと自らのフードに手をかけた。

そしてゆっくりと顔を俯かせ、やがてシュッってフードを後ろにまわす。


( あれま…。 )


アルバはとっても意外そうな声を上げる。

なんか小難しい事を並び立て、偉そうだったから、メガネのインテリみたいなお顔を想像してたのだけど目の前に現れたのは、燃えるような赤い髪に、色素の薄い鶯色の瞳のエキゾチックなお姉さん。

少し面長だが、目鼻立ちがしっかりとした若い女だった。


「今から、この困難を乗り切る”策”を、女神様と護衛の坊やに授けるわ。一度しか言わないから、ちゃんと聞いてよねん。」


「というか、あなたは誰?」


アルバが怪訝そうに尋ねると、その女は顔を傾げてニィッ〜って笑った。


「女神様を守る正義のヒーローよん。言っとくけど、これは貸しだから…後で倍にして返してもらうから覚悟してよね〜。」


そう言ってアルバの頭を軽く小突くと、赤い髪の謎の女はこれから成すべき事を2人に説明したのだった。





ロハンの将軍セザール・モイサが率いる、”苛烈の炎”の一団の攻めは鋭かった。

流石は他国にまで名が知れ渡る勇猛な騎馬軍団。

見事な槍、腰に帯びた剣、馬の横に備え付けた丸い盾。そして紅の色で統一された鎧と兜の一団は見た目にも壮観だった。

だがこの連中、厄介な事に喧嘩が強いだけの筋肉馬鹿ではない。頭がキレ、集団行動は勿論、個々が最良の判断ができる頭脳まで持ち合わせている。

堅固な事で有名な石造りのルンの正門を、爆薬と火矢を使った見事な戦術でわずか半刻で陥落させ、疾風のようにルンになだれ込んだ。


「歯向かう者には死を!従う者には慈悲を!」


セザールはいつものお題目を宣言して、有能な1,000人の部下とともに突撃する。

門周辺を守っていたルンの正規軍は弓や石飛礫で必死に抵抗するが、あっという間に押され始め、やがて敗走した。

だが、そこからのロハン軍の行動は意外だった。

すぐに中央通りを進み、執政官宿舎まで来ると思いきや、彼らは正門周辺の建物を一刻ほどかけて全て制圧してしまったのだ。

( まさか我らの作戦が読まれてしまったのか…。 )

全然攻め込んで来ないロハン軍を見て、元々一直線に中央通りを突撃して来るロハン軍を挟み撃ちにする手はずだったルン軍は大慌てだ。

だが、若干ルンの正規軍が浮き足立ったとき、ロハン軍はようやく突撃を始めた。


( よしよし、これで挟撃できる! )


もちろんルンの軍は、そう色めきだった。

ただね、アルバやサーシャ、それに怪しい赤髪の女が推測した通り、やっぱりルンの思い通りにはならなかった。

中央通りを騎馬で抜けたロハン兵は、300兵あまり。

それを追ってルンの伏兵が物陰から飛び出たんだけど、なんとその伏兵ルンの軍は何故か逆に後ろから激しい攻撃を受ける羽目になってしまった。

そう、予め正門前を占拠したロハン軍は、ルン軍が隠れていた建物より更に裏に回り込み、彼らを急襲したのだ。

完全に裏を取られたルン軍は、慌てふためき大混乱に陥った。

その後、ルン軍が総崩れになったのは致し方ない事だ。


ここまで聞くとロハン軍の作戦はピタリと当たり、文句の付け所がないようにもお見受けしたのだけど、一箇所どうしても戻って来ない一団があった。

それは東から回り込むはずのロハン急襲隊の100名の兵隊さんたち。

そう、そこはアルバとサーシャ率いる教団の修道兵部隊が守る箇所だったのだ。




「す、すごいな。さっきの人が言った通りだ。」


「本当ですね…。」


屋根の上から、裏道をそろりそろりと進むロハン軍を見下ろしたアルバとサーシャは、感心するようにそう漏らした。

街に灯がともっていない漆黒の闇。

夜空に輝く銀色の月明かりだけが頼りだが、その光を受けた路地や細道からはガシャガシャと武具が擦れる音がしていて、槍や剣を構えたロハン軍が小走りであたりを伺っていた。

アルバとサーシャが率いる修道兵部隊200名は、建物の3階や屋根の上に陣取っていて、その様子がはっきりと確認できた。

先ほど出会った赤髪のフード女が予想した通り、ロハン軍は急遽背後から現れた。

もしあの女のアドバイスを聞かず、さっきまでのように物陰に潜んでいたら、味方は確実に急襲されて全滅だった。


「ものすごく怪しかったけど…信じてよかったな。」


「ふふっ。信じるものは救われる…ですね!」


サーシャはそう言ってクスって笑った。

アルバは感心するように大きく頷く。

とりあえず目の前の危機は回避した。だが、いよいよこれからが本番だ。

このルンの街と修道院を救う為には、この恐ろしげで物騒な連中を追いかえさなくてはいけない。

だが、そこにも一縷の望みがあった。

自分たちの危機を知らせてくれた怪しい赤髪の女は、それだけではなく屈強なロハン精鋭部隊と戦う術まで与えてくれていたのだ。しかもそれは、ルンの隊長が考えたようなチンケな挟撃ではなく、とっても緻密で本格的なモノ。

ただ、そんなに上手くいくのかと若干訝しむような内容ではあったが。


「この後も、あの正義の味方さんの言う通り事が運べばいいけどな…。」


「あはっ。駄目ならその時に考えれば良い事です。さぁ、行きましょう!」


「ああ…。」


あいも変わらず呑気な女神に、アルバは苦笑いを浮かべながらついていく。

彼女は、その高貴な生まれからは想像もできないほどアグレッシブ。言い方変えればお転婆だ。狭く不安定な屋根の上をものともせず、下を通るロハン兵を伺いながら鳥のように屋根から屋根へ飛び移っていく。

森で生きて来たアルバでもついていくのがやっとだ。

そしてもっと驚いたのが、彼女が腰に細い剣を帯びていること。

ルン修道院から拝借して来たらしいけど、レイピアと呼ばれる美しい剣は彼女にとっても似合っていて様になっている。

( サーシャも、剣を使えるのかな…。 )

アルバは思わず妄想してみたが、目の前の華奢で可愛らしいサーシャさんが剣を振るお姿など到底想像できない。


「アルバ、着きましたよ。」


そんな事を考えていると、やがてサーシャは急に立ち止まり、ゆっくりと振り返りながらそう小さい声をあげる。

ここは、赤髪女が作戦の第一段階として選んだ場所…。


「うん!じゃ、いっちょやりますか!」


アルバも足を止めて拳を掲げ、サーシャに笑顔を見せる。

それは狭い路地が入り乱れている袋小路のような場所の一角。道が十字になった小さい小さい交差点だった。

と、西の方角から、小走りで進んでくるロハン軍の一団が見える。

時間、場所、タイミング…あの赤髪女の言った通りだ。


「よし!いくよ!」


「はい!騎士様!」


アルバとサーシャは目配せすると、手を取り合いながら一気に屋根の上から、ロハン軍が向かってくるその十字路に飛び降りた。

タンッ!っていう小気味いい音がして2人が大地に降り立つと、ほぼそれと同時にガシャガシャと甲冑の音を靡かせたロハン軍の一団数十人ほどがやって来た。


「な、なんだ、お前ら!!?」


いきなり神様みたいに空から降って来たその2人を見た彼らは、慌てて足を止めて目を丸くする。あまりに突然の事で思考が止まるのは平民も軍も同じだ。

しかも降って来たのは、世にもお美しい金髪の姉ちゃんとやけに立派な剣を背負った坊や…まぁ、とっても興味をそそる。


「やばい!逃げるぞ!」


「わぁ…怖い〜!」


なんて、とっても態とらしい声をあげて一目散に逃げ出す2人…。

すると当然、ロハン兵の一団は雄叫びを上げる。


「待て!!コラッ!!」


って、腹の底から込み上げてくるようなドスの効いたお声。

そしてドタドタ大きい足音を立てながら必死にアルバ達の後を追う。

まぁね、ここは戦場。

しかも模擬訓練から移動、そして実戦に及ぶ今日までの一週間、ほとんどが男だらけの味気ない灰色の世界の中で過ごして来た兵士達にとって、金髪なのに清廉なお顔立ち、華奢なのにおっぱい大きいサーシャさんを見たら、いくらロハンエリート部隊と言っても、そりゃ冷静さも失うし判断も鈍る。

この時も、その一団は作戦工程を忘れて血眼になって2人を追い立てて来た。


「こ、怖い!!」


アルバは後ろから迫り来る敵をチラッて見て、そう呟く。

何しろロハンの方たち、必死にもほどがある。

騎馬でもないのに、ドドドッーって砂煙をあげる勢い…なんだもの。


「あはっ、本当ですね!」


サーシャもクスって笑って彼に同調する。

ご自分がターゲットだというのに、彼女は相変わらず呑気で鷹揚だ。

まぁ、ここは複雑に細い道が入り組んだ袋小路。逃げ足だけは、誰にも負けないと自負するアルバは、勝手知ったる道をサーシャの手を引っ張りながら迷路のような細道を曲がりまくり、ロハン兵を奥へ奥へと誘い込んでいく。

厳しい訓練をくぐり抜けて来たロハン兵といえど、知らない道を流石にこうもちょこまかと動かれたら、中々追いつけない。


と、お広い十字路が見えて来た。


顔を見つめ合って笑うアルバとサーシャ。

そして足をゆっくりと止めて、追いかけてくるロハン兵たちを振り返った。

ダッダッーって不揃いの足音を響かせながら、そいつらもすぐにやって来た。


「はぁ、はぁ…。いよいよ観念したか!!」


散々走り回され、息も絶え絶えのロハン兵がそう声を上げる。

だけれども正体不明の2人は、こちらを見て呑気に微笑んでいるだけ…。

( な、なんか変だな…。 )

兵隊さんたちは一様にそう思った。

されど、こんなカップル相手にロハン最強の”苛烈の炎”のメンバーである自分たちが、止まるわけにはいかない。

彼らは一斉に丸い盾を背中に回して、両手で掴んだ槍を2人に向けた。

そしてゆっくりと彼らに向かう…。

やがてそ十字路に全ての兵が足を踏み入れた時だった。


「いまだ!!」 アルバが叫ぶ。

「はいっ!!」 なんて屋根に潜んでいた修道士さんたちの声がする。


するとロハン兵たちの頭上に、何かが羽を広げるようにバッ!!って宙を舞った。

「へっ!?」なんて彼らは見上げたが、もう遅い。

ガシャーン!!って、激しい金属音とともに、それは兵士たちを巻き込みながら大地に落ちる。

それは、ルンの豊かな物資を荷台にくくりつける鉄製の大きな大きな網だった。

そう、荷台から荷物が落ちないように止め、しかも細かい商品も落とさない網目の細かい優れもの。強盗に襲われても煮崩れしないように、楔帷子と同じ素材でできていて剣さえもそう易々とは通さない強固なシロモノだった。


「な、なんだこれは!!?」


さしもロハン兵も予想だにしない攻撃に大慌てだ。

だけれど、彼らに覆いかぶさったのは鉄製の網。お魚が海の中で投げ縄漁にかかったのと同じ状態。故にどれだけ暴れても、網から抜け出せない。


「よし!突撃です!!」


そしてアルバの声が響く。すると、家の中に潜んで来た修道兵たちが一斉に飛び出して来て、教団の槍で網の中で暴れるロハン兵を一斉に叩き出した。

云々、袋叩きとはこの事だ。

いくら防具を備えているって言っても、兜めがけて長い槍で叩かれたらたまったものではない。むしろ頭に響いて、クラクラするのは請け合い。

ロハン兵は次々と気を失い、地面に転がった。


「皆さん!捕獲です!」 頃合いを見て、引き続きアルバが叫ぶ。

すると修道兵の彼女たちは、網の穴が開いた部分から一斉に手を入れて器用に縄で相手の手首や足を縛っていく。こういう作業はやっぱり男より女が上手い。しかも彼女たちは殺さずに相手を捉えるプロフェッショナル、修道兵だ。

すぐに作業を終えて、2人に声をかけた。


「サーシャ様、アルバ様!完了しました!」


「では、みんなで網を縛りましょう。そうすれば、彼らはもう無力です。」


サーシャが微笑んで、そう言い放つ。

その言葉通り最後はみんなで、大きな鉄製の網をくるって巻いて、ロハン兵数十名を完全に閉じ込めた。

武器を奪われ、自由を奪われ、鉄網に閉じ込められた彼らに抗う術はない。

やがて鉄網を縛り終えたアルバは、みんなに拍手を送った。


「皆さん、ありがとうございます。ですが、まだ敵兵は多くいます。この要領で、少しでも数を減らしましょう。」


そう笑顔で言った彼に、みんながガッツポーズを見せた。

ただね、みんな彼の事を聖騎士だって勘違いしちゃっているから…。


( アルバ様は凄いわ。こんな連中なら一撃でやっつける聖騎士でいらっしゃるのに、私たちに自ら街を守る方法を教えて実戦させるなんて。今後、アルバ様やサーシャ様がいなくても街を守る方法を教えてくださっているのね…。 )


なんて、思われちゃっていたが。


まぁそれはさておき、200人の修道兵たちはこの方法で伏兵として潜んでいたロハン兵を次々と捕獲した。これがまた面白いくらいハマった。

勿論、修道兵の彼女さんたちの手際がいい事と、サーシャがいる事で皆が必死に取り組んだ…なんて事も大きいのだけど、やっぱり赤髪のフード女が残した戦略とやらの効果が圧倒的だった。

何が凄いって、その作戦は全てが綺麗に時系列に並んでいて、その順序を追っていくと必ずロハン兵はこう動くっていうのが、全問正解してるんだもの。

そしてこれにより、ルンに突撃してきたロハン兵”苛烈の炎”部隊は、10%の戦力を失った。これはトータルバランスで物事を動かしているロハン将軍セザールさんには、結構な痛手。

何しろ、東の備えがいなくなったばかりでなく、ルン軍が最初目論んでいた奇襲攻撃と挟撃が一部とはいえ、実行できることになったからだ。


「皆、もう少しお力を貸してください。」


裏通りに修道兵200を再結集させたサーシャはそう皆に願うと、そのまま一人一人の修道士たちに手を繋いでいく。

女神との握手…。

それは敬虔な修道士たちにとっては胸が熱くなるような時間。広大な砂漠の中から一粒の砂を探し当てたに等しい奇跡だ。

時間がないため女神は一言づつしか語らなかったが、それでも彼女たちの心を奮い立たせる為には十分だった。

何しろ修道兵たちは、これから中央通りに出てロハン騎馬隊との戦いに挑む。

それはとても難易度が高いけど、現代の女神サーシャ・カスティリャに従わない者など修道士の中にいるはずもない。

先ほどの作戦大成功もあって、修道兵たちは「おおっー!」なんて雄叫びをあげ、いよいよ士気が高まる。

だが、ここからはルンの街中とはいえ野戦に近い。

相手が屈強なロハン兵である事を考えれば、当然被害も多く出る事だろう。

だが修道兵たちは、自分たちの女神が側にいる事で恐れはない。まぁ、彼女たちにしてみれば、神様と戦地に赴くみたいなものだ。

そう、サーシャがいる事で、神が宿る正義の戦い。

それは聖戦となる。

死んだとしても、その魂は間違いなくこの女神が抱いてくれ、そして天に導いてくれる。恐れなど感じるはずもない。まぁ、こんなところが宗教の凄いとこであり恐ろしい所でもあるが。


「ルンの勇気ある民は、中央通りで必死に戦っています。神に愛された娘たちよ。今こそルンを無法者から守り、我らが成すべき事を致しましょう!」


やがてサーシャがレイピアを天高く掲げ、宣言する。

それに応えるように、皆が一斉に自分たちの女神を力強く見つめ、歓声に似た雄叫びをあげたのだった。




「サーシャ、さっきの赤い髪の女性、凄かったね!」


「ふふっ。本当ですね。ですが、騎士様の働きも見事です。修道兵のみんなが貴方を信頼しているわ。」


「いやいや…。みんなはサーシャが先頭に立っているから、頑張れるんだよ。」


サーシャとアルバはお互いを讃えあいながら修道兵を引き連れ、攻め込んできたロハン兵とルン防衛部隊との激戦地へと走る。

入り組んだ袋小路を抜け側道に出ると、いよいよワァーやらオォーー!!っていろんな感情を含んだ様々な声が届く。そしてドドドッーって馬の蹄の音と嗎、金属が激しく打ち合う音…アルバは、咄嗟的に腰に帯びた聖剣ガリネリウスを引き抜いた。


やがて、2人の目前が開ける。

側道からついに中央通りへ出たのだ。

喧騒の中、アルバたちの目に飛び込んできたのは、平和だった中央通りに倒れこみ、もがき苦しむ兵士たちだった。

アルバがいつも見上げ、眩しそうにみていた兵士たちの輝く鎧は血にまみれ、大地に転がされた兵は、生まれたての馬のようにヒクヒク体が動かしている。

あちらこちらで火の手が上がり、辺りには木や石が焼ける嫌な匂いが鼻につく…。


「な、なんだこれ…。」


彼は初めて見る戦場に、足が止まった。

戦況は、誰が見ても明白ーー。

作戦を見透かされたルン軍は、ロハン軍から激しい攻めを受ける羽目になり、かなりの劣勢だった。

使命を全うする為に血だらけでも剣を振り続ける者、生きる為に逃げ惑う兵士、建物から引きづり出される弱き民たち…。

怒号と泣き叫ぶ声、凍てつく冬の夜なのに、それを感じさせぬほどの阿鼻叫喚…。

サーシャがアルバの腕を優しく抱きとめ、彼の横顔を心配そうに覗き込む。

彼の体は…震えていた。

だが、それは普通の民からすれば当たり前のことだ。

恐怖でそこから一刻も早く逃げ出したくなる…それが普通だ。

だが…この時の彼は違った。

胸から激しく燃える炎のように湧き上がってきたのは、意外のも”怒り”の感情だった。


「………。」


…声が出ない。臆病で自信もなければ何も持っていない自分が、なんでこんな感情が湧き上がるのか全く謎なんだけど、自分の心には嘘はつけない。

敵を丸め込み、アドレナイン全開の今なら尚更だ。


「サーシャ!行こう!」


アルバはいつの間にか、そう声をあげていた。…盗賊たちからサーシャを守った時もそうだったんだけど、何故か戦いが怖くない。


「はい。騎士様!」


サーシャは1度ホッとしたような表情を浮かべ、やがてそう元気に応える。

その時のサーシャの顔は、今のアルバにとって何より心を奮い立たせる起爆剤だ。

彼女と…彼女が守りたいものを守る…。

それが、騎士というものだ。まぁ、臨時だけど。

「ふうっ…。」 アルバは一度深呼吸する。

そしてまるで何かが彼の背中を後押しするように、彼は一歩を踏み出した。

辺りから…喧騒が…消えた。

頭に浮かんだのは、修道院にあった巨大な2体の石像。

階段下にあった剣聖の彫刻と大聖堂に鎮座する女神像。

一瞬、精神が漆黒の闇に投げ出される。

星がきらめく不思議な空間を浮遊する。

まるで異世界に投げ出された感覚…。

だが、変わらぬモノがあった。

それは、自分の左腕を守るように掴んでいる、女神サーシャの温もり。


「サーシャ…。」


アルバが、そっと振り返り彼女の名を漏らすと、サーシャはいつものように女神の微笑みをそっと浮かべたいた。


「騎士様、時が参りました。」


その言葉で、我に帰るアルバ。

すると、目の前に倒れこんだルンの兵士を打ち倒そうとするロハン兵の姿が飛び込んでくる。


「うわぁっー!!」


アルバは咄嗟に、掲げた剣をそのロハン兵に向ける。

相手は突然現れたアルバに気がついてもいない。

やがて腰を低くして相手の足の関節を狙ったアルバの一撃は、見事に相手の鎧を切り裂き、そのロハン兵は「グァッ!!」と雄叫びをあげながら倒れこんだ。聖剣ガリネリウスは、背負った黒剣とまではいかないが素晴らしい切れ味だ。


「神の下僕である我々修道兵は、無益な戦を仕掛けたロハンを敵と見なす!!」


「神の怒りをその身に刻むがいい!!」


「ルンの皆々よ!神と共にあられる女神さまと聖騎士さまに続き、この無法者たちを追い返せ!!」


やがてアルバの一撃に合わせて、彼とサーシャに従う修道兵たちが次々と声をあげる。

この世界のほとんどは、教団の信者。それはロハン兵とて同じこと。

一気にロハン兵に動揺が走る。反対にルンは沸き立った。


「皆の御霊、このサーシャ・カスティリャが胸に抱いている!恐ることなく、騎士様に続け!」


サーシャの凛とした掛け声が辺りに響き渡る。

それと共に、修道兵200は一気にロハン兵へとなだれ込んだのだった。



戦争というのは、常に戦況が変わっていく。そう、まるで生き物のように…。

どれだけ攻勢に出ていても、少しの綻びが取り返しのつかないとんでもない事態に陥る時がある。

ロハン精鋭部隊”苛烈の炎”の1,000人は、10隊に別れそれぞれの役割を全うしていた。そう、それは英雄セザール将軍によって完璧な作戦として絵が描かれ、確実に遂行された…はずだった。

ところが、ルン軍の動きを逆手にとった6箇所からの囲い込み作戦のうち、一箇所から兵が戻らなかった。

東の第二攻略地点ーーー。

そう、アルバとサーシャが罠にはめて網に閉じ込めた兵隊さんたちがいた場所である。

本当ならね、そこの部隊はルンの挟撃部隊を殲滅してセザールがいるロハン軍本隊に合流する筈だったのだ。

ところが、東から現れたのは、敵である修道兵たち。

押していた筈のロハン軍は、それにより正面で戦っていたルン軍と共に挟み込まれ、一気に窮地に追い込まれた。

しかも、その修道兵部隊、かなり手強かった。

言ってしまえば、ルンの正規軍なんかよりはるかにお強い。

側面からの奇襲だから、ただでさえ甚大な被害が出るのは当たり前なんだけど、修道兵たちの勢いは激しく、勇猛果敢なロハン兵といえど跳ね返せなかった。


( な、なんてこと…。 )


これには、沈着冷静なセザール将軍も爪を噛んだ。

そもそも中立を守ることの多い教会が、軍をわざわざ外に出して戦争する何てことは、ほとんど前例にない。例え戦争が起こっても、いつもなら教会の門を固く閉ざし、弱き民を守りながら閉じこもるのが常だ。

…しかも、その修道兵の皆様、とっても士気が高い。

体が大きく迫力満点の荒くれロハン兵を一切恐れず、教団の槍を休むことなく振るっている…。

( 一体、誰が指揮をとっているんだ。 ) セザールはそう訝しんだ。ルン修道院を取り仕切っているのは、確かセドリーヌという女だ。彼女は立派な修道士として有名ではあるが、これほどまでに修道士たちの士気を高めるなど果たして出来るのだろうか…と。


やがてセザールの元に劣勢を知らせる伝令が次々と飛び込んでくる。

こんな緊急事態にも伝令が将軍に届くところは、さすがロハン兵というところだが。

彼は、その報告を冷静に受け止め、頭を巡らせた。


( 仕方が、ありませんね…。 )


彼が頬を掻く。

セザールは、街の外の丘に残してあった正規軍5,000の出撃を命じた。残り3,000は万が一に備えたしんがり部隊だ。

教団がルンにつくのは想定外だったが、ロハン最強戦力”苛烈の炎”だけで事を済まそうと思っていた彼には、まさかの事態。大誤算だ。


「ふう…。」


彼がそう大きなため息を落とした。

セザールの目線の先には、夜空にそびえ立つルン修道院があったのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ