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2人の髭じいからの贈り物


何やらバタバタとサーシャとサカテとの旅立ちが決まってしまったアルバは、その夜に村長であるカナイの家に向かうことにした。

勿論、それは旅立つ事の許可を貰う為だ。

何しろカナイにはこれまでも、護身術を教えて貰ったり、生活用品を分けて貰ったりととってもお世話になった。村長の大らかな性格上、自分の旅立ちに反対することは無いとは思うが、アルバとしてもキチンと別れを言いたかったのだ。

それに、村長が話してくれればだが…サーシャの事も聞きたかった。

すっかり一目惚れしてしまったサーシャだけど、どうにも彼女の正体が分からない。カナイはどうやら彼女とは昔からの知り合いの様なので、先日の事も含めて尋ねたかったのだ。


( と、とと。 )


そんな事を思いながら足元が見えづらい夜のあぜ道をつたい、トボトボと村長の家へと歩いていく。歩き慣れた道とはいえ、この寒空の下、側溝に足を取られて水浸しになりたくは無い。

( しかし…信じられないような二日間だったな…。 )

アルバは昨日と今日の事を思い出しながら、空を見上げ苦笑いを浮かべた。

思えば藍色の大きな石を見つけてからというもの驚きの出会いが続き、アレヨアレヨという間に、自分は新たに出会ったサーシャとサカテという2人の女性と旅に出ることになった。それは二日前には想像も出来なかった驚愕の事実という奴だ。

まぁ、今でも自分で自分がどうにも信じられない…。

何しろ平穏を愛し、呑気が服着て歩いているような自分が、村を出て宛のない旅に出ようというのだから。

まぁ、アルバにはその理由めいたものはある。それは勿論、偶然出会ったサーシャという女性に一目惚れしてしまった事だ。

それまで女性を好きになった記憶のない自分は、初めて自分に分かりやすく優しくしてくれたサーシャにすぐに好意を持った。言い訳するわけではないが、それは致し方ないと思ってはいる。何しろ彼女は心持ちが優しく気立てがいいだけでなく、容姿端麗を通り越してこの世のものとは思えないほどの美しさ。

冷静に自分を分析すれば、憧れのお姉さんに心奪われてしまったようなものだ。

でも最初はね、贅沢なことは考えてなかった。近くにいれて、楽しくお話さえできればいいって思っていた。彼女の正体は未だに謎のままだが、どう見ても自分と不釣り合いなのは分かっていたし。

ところがいざ、すっかり心を奪われてみれば、呑気してられないほど振り回されるし、心を大きく掻き毟られる事の連続だった。

さらに致命傷もあったりする。

それは、彼女には愛する”師匠”なる人物がいるという事だ。

何処にいるのか、寧ろ生きているのかさえ謎なんだけど、話を聞く限りはその師匠さんの事をサーシャはとっても大好きなようだった。

まぁ、普通ならスパッと諦める状況なのだけど…何故かアルバは茨の道を選んでしまった。


そう、サーシャが師匠に会えるまで、彼女を守る…というやつだ。


第三者目線から見ても、まぁなんとも切なくて、未来がなくて、お前はアホかと突っ込んでしまう事…だけど、今、自分がしたいのは彼女のそばにいることだけ。仕方がない。一緒にいるにはこれしか方法がないんだもの…そうするしかなかったのだ。


やがて月明かりに照らされる見慣れた土壁の塀までたどり着く。それは村長の家をぐるりと囲む壁だ。それを南に向かってえっちらほっちら歩いて行くと、村長宅の玄関先にたどり着くんだけど、その場所に珍しく人影が見て取れた。

( こんな夜更けに誰なんだろう…。 )

アルバはそう訝しんだが一歩一歩近づいてみると、それはどうやら見慣れたグレーローブのようだ。そう、教会に従事する修道士さんだ。


「こんばんは…アルバです。カナイ村長にお話があって来たのですが…修道士さんも村長に何かご用ですか?」


「あら、アルバくん。こんばんは。いえね…実はちょうどロアン神父もここにいらしていてね。私はその神父の付き人として来たの。」


「そうなんですね。…お疲れ様です。」


たまたま顔見知りの老婆の修道士さんだったので、自然とアルバの顔が少し綻ぶ。

それにそれはとってもラッキーだ。何しろこの村で旅立ちの報告をしなくてはいけない2名が、偶然にもここで揃ってくれたからだ。


「まったく…神父さまは、すぐに用を済まして出てくると言ってらしたのに…困ったお人だわ…。」


老修道士は、そう言って自分で自分の肩を抱きながらブルブル震えている。


「ハハッ。神父は、マイペースなお方ですからね。修道士さんも、一緒に家に入りましょう。風邪、引いちゃいますよ。」


「まぁ、ありがとう…。」


「はい。まぁ…俺の家ではないんですけど。」


アルバはそう苦笑いを浮かべながら村長宅の庭先に立つと、口に手を添えて大声で叫んだ。


「夜分遅くすいません!!アルバでーす!!」


それとともに、村長の庭先で飼っている鳥たちが驚いたようにバタバタと音を立てながら鳴き声をあげ始めた。その鳴き声に肩をすくめたアルバは、横で凍えている老修道士の背中を撫りながら、しばらく返事を待つ。


「誰じゃ、騒々しい!」


やがていつもと変わらない村長の悪態が聞こえた。

アルバは老修道士と目を合わせてニッコリと笑い、時を待つ。暫くしてギギギッーって音がして見慣れた白髪の紳士が顔を出した。


「おお、アルバではないか。奇遇じゃのぉ。ちょうど、そなたの話をしておったんじゃ。」


カナイは自分を見た途端、笑顔を作りそう声をかけてきた。


「ハハッ。また悪口ですか?」


「ほほほっ。そうではない。で、今日はどうしたんじゃ?」


「はい。実は、村長にご報告があって来たんです。」


「ほう…儂にのぉ。」


「ついでにロアン神父にも同じ要件で話があったので…お時間があれば助かるんですけど。いらっしゃるのでしょう?」


「ふむ、ちょうど奥で話をしておった。…それならば、一緒に伺おうではないか。奥へ参れ。」


カナイはそう言って、扉を大きく開けた。アルバはその扉に手をかけると、横にいた老修道士の肩に手をのせて村長にお願いをする。


「あとロアン神父のお付きの修道士さんが外で凍えていたので…中にいれさせてもらってもいいですか?」


「なんと!そうであったか…。これはすまん事をした。勿論じゃ。すぐに温かいお茶を用意させよう。…まったく、神父は最近物忘れが悪くていかんの…。」


「ハハッ。そんな事を言いますと、また老人扱いするなと怒られますよ。」


「まったくじゃ。老人ほど、自分が老人である事を中々認めんでの。」


村長はそう笑い、ご自慢の長い顎髭をスリスリしながら2人を部屋の奥へと招き入れたのだった。



アルバが案内されたのは、奥のリビングだった。

そこは建物の外観からは想像できないほど、広く天井が高い。

檜で丁寧に組まれたその長方形の空間には、大きな本棚が部屋をぐるりと囲んでいて無数の本が、乱雑に並べてあったり積まれてあったりしている。アルバにしてみれば、なんともおもちゃ箱のように楽しげなお部屋だ。


「おお、アルバではないか。」


彼が恐る恐る部屋に入ると、中央の鉄製の暖炉の前で体を丸くしているロアン神父が陽気な声で話しかけて来た。この御仁もカナイ村長と同じで、白く長い顎髭が印象的な御仁だ。ただ村長は見事な白髪だが、この神父は坊主頭…というか綺麗に禿げ上がっている。


「神父様…そんなところでぬくぬくして…。お付きの修道士さんの事を忘れていたでしょう?外で凍えていましたよ。」


早速、そう言って口を尖らせた。するとその神父は、すぐに目を丸くして体を飛び上がらせた。


「おお!そうじゃった!こりゃ、いかん!」


「村長が控え室まで案内しました。あとで、謝っておいた方がいいですよ。」


アルバはそう言って苦笑いを浮かべると、暖炉のそばに敷いてある様々な色合いの絹で編み込まれたラグの上にそっと腰を下ろした。

( ふう。寒かった…。 )

アルバはそう漏らすと黒色の今にも動き出しそうな暖炉に手を掲げ、ガラス越しの煌々と燃える炎に目を向けた。顔が火照り、火はユラユラと一定間隔で揺れている…明日から旅をするという高揚感が少しだけ落ち着いたように感じられた。


「そういえば…アルバはサーシャ様にお会いしたとか。」


炎を無心に覗き込んでいるアルバに、神父はふと話しかけて来た。


「はい…。実は、その事で今日は村長さんと神父様に会いに来たんです。」


「…そうか。」


神父は、なぜか嬉しそうに長い顎髭を何度も摩った。


「神父様。一つ、聞いてもいいですか?」


「なんじゃ?」


「カナイ村長も彼女を知っていた様ですけど…神父様もサーシャさんを知っているのですか?」


アルバが自分の斜め向かいに座っているロアンにそう声をかけると、神父は何やら言葉を選ぶ様に神妙な面持ちで語った。


「うむ。教団…とりわけ修道士の中で、サーシャ様の御名を知らぬ者はおらぬ。」


教団はこの世界唯一の宗教で、1,000万人を超す修道士を従え、世界中のほとんどの人が信者という世界で最も権威のある組織だ。

もし、この神父の言ったことが本当ならばサーシャはとんでもない御仁だということになる。だいたい、この老齢の神父が彼女に”様”をつけるのだから、どう見ても身分が高いのだろう。

当然、アルバは目を見開き、背中に変な汗をかく。


「そ、そんなに有名な方なんですか?」


「そうじゃ…。」


「で、でも、俺はこの村でも勿論、ルンの街ですら彼女の名前を聞いたことがありません。」


「うむ。サーシャ様はその生まれから、あまりに影響力がある。そのため、教団の中枢にいる司教たちが彼女の存在自体をこれまでひた隠しにしておったというのがその理由じゃ。」


「そ、そうなんですか…。」


「うむ。…じゃが、人の口に戸は立てられぬ。ここ数年は、一般の民も知る所になってしまった様じゃがの。」


ロアン神父はそう言って、顔をしわくちゃに歪めた。

その顔を見ながら、アルバは色々と考え始める…。

いやはや、ぶったまげた。

まさか共に旅をする事になり、ころっと一目惚れしてしまったサーシャがそこまで有名な御仁とは夢にも思わなかった。

…この神父の様子を見るにつけ、彼はサーシャの正体を間違いなく知っている。

だが、それを聞いていいのか、正直迷った。悪い予感がしたからだ。もし、それを聞いてしまったら、もう彼女の目を見てちゃんと話せない様な気がするから…。

早い話、アルバはビビってしまって聞けなくなってしまったのだ。


「おお、神父、アルバ、待たせたの。」


そんなとき、村長が呑気にこの部屋に戻って来た。

何やら、美しい弧を描く見事な剣と白い箱を抱えて…。


アルバは、村長が抱えたこの村の持ち物としてはとても似つかわしくない見事なモノを暫くボーって目で追った。

…何やら、とっても気になってしまったのだ。


「よいしょっと…。」


カナイが窮屈そうにラグの上に腰を下ろすと、ゆっくりとアルバの方を向いた。あいも変わらず、優しそうな好々爺の顔だ。

だが彼は高齢なのだけど、座ると背筋がピンと伸びていてて、身につけているゆったりとしたペリソンでも彼の鍛えたれた肉体がわかる。


「それで…アルバはどのような要件で来たのかな?」


カナイはペリソンのシワを伸ばすと、ゆったりとした口調でそう問いかけて来た。


「はい。今日は、村長さんと神父様にお願いがあって参りました。」


アルバはそうはっきりと言って、カナイとロアンに小さく頭を下げた。村長はますます大きな笑みを浮かべ、嬉しそうに自分の顔をまっすぐに見てくる。


「ふむ。どんなお願いかな?」


「実は…旅に出ようと思っています。その許可を頂きたいと思い、来ました。」


「………ほう。」


彼は特に驚くでもなく、むしろ感心したのではないかという表情を見せた。


「村長ともお知り合いのサーシャさんと、たまたま昨日知り合ったサカテさんという槍使いさんと3人で。」


アルバがそう言い切ると、カナイはチラッとロアンの方を一度目をやった。それがまた何とも嬉しそうな表情だった。2人は何やら楽しそうに目配せをしていたが、やがて大きく頷くと、再び自分に目を向けて尋ねてくる。


「行き先と目的は、何じゃな?」


「行き先はわかりません。ただ、目的は二つあります。一つは、サーシャさんの旅を助ける事。もう一つは彼女を助けられるだけの腕を身につけるための剣の修行…とでも言いましょうか…えっと…なんていえばいいのかな…。」


「ふむふむ、よう分かった。」


カナイは、そう言って手を掲げてアルバの言葉を止めた。

そして怪訝そうな表情を浮かべる彼の目の前に、先ほど抱えて来た湾曲している白い剣と、大きな箱を並べる。

白い剣はどちらかといえば細身で、鞘も柄の部分も純白だった。

そしてサーシャから託された漆黒の大剣と同じように、柄の端と鐔には教団のシンボルマークである宇宙の真理と女神像の横顔が黄金色で見事に彫り込まれている。


その剣を目をパチクリしながら見ていると、やがて村長はゆっくりと口を開いた。


「この剣は、ガリネリウスという剣じゃ。」


「ガリネリウス?」


…そんな難しい名前の剣、聞いた事もない。アルバがポカンとしていると、カナイは腕を組んで、まるで自分の体を突き通すほどの鋭い目を向けた。


「と言っても、それは剣そのものの名ではない。これは、聖剣づくりの名人である”ザイゼン”という人物が作った者ゆえ、そう言われる。簡単にいえば、ザイゼン工が創りし聖剣は全てガリネリウスと呼ばれる。」


「あ、あの…聖剣ってなんですか?」


…分からない単語を次々と並び立てないで少々焦った。

聖なる剣…。

そのお名前から、教団に関係する高貴な剣である事は想像に容易いが、そもそも剣士ですらないアルバがそんな事を分かるはずもない。

すると、そんな困惑した表情を見せたアルバに、カナイは諭すように言葉を続ける。


「この世界の名のある剣は、大きく2つの種類に分類される。一つは天剣または聖剣と称される白い剣。もう一つは、暗剣と称される黒い剣。…ほれ、お主が背負っている剣が暗剣じゃ。」


「これが…ですか?」


アルバは何気に背中の漆黒の剣の柄にそっと手を添えた。

そう、サーシャから託された逸品で、そもそもは師匠という人物が扱いし大きな剣だ。


「そうじゃ。それは、暗剣の中でも最強の剣で、名を”黒剣”という。」


「ほえぇ…。」


アルバは思わず変な声を出してしまった。いやはや、この漆黒の大剣…元々ただの剣ではないとは思っていたけど、そこまでの名剣だとは思わなかった。ただ悲しいかなこのアルバという少年は、それはそれは呑気だ。サーシャ本人の事なら大抵のことでも驚き恐れおののくが、剣の事など本音を言えばどうでもいい。

まぁ、自分には全く相応しくないものだとは分かるが、もう託された以上はどうしようもないって考えの持ち主だ。

その心持ち通り、なんともいえない微妙な表情を浮かべていると、村長が話を続けてくる。


「さて、話を戻そう。お主に、このガリネリウスを授ける。餞別代わりじゃ。」


「はっ!?この立派な剣をですか?」


思わず大声を出してしまった。

それはまた、思い切った餞別というものだ。

サーシャといい、村長といい、なぜそんな大層なものを自分に託すのか甚だ疑問だった。貧乏な少年に剣をあげることが流行っているなら分かるが、当然そんなことあるわけがない。


「で、ですが…俺はもう既に身分不相応なこの大剣を持っているんですけど…。」


アルバが背中の剣を指差し困惑した表情を浮かべたが、カナイの眼光はますます鋭くなるばかりだ。


「…良いか?お主はいずれ、この2本の剣を扱う事になる。それがサーシャ様をお守りする騎士の宿命故。」


「に、2本ですか?」


「そうじゃ。」


「はぁ…。」


そう呑気に気の抜けた返事をしてしまった。全く実感がわかなかったからだ。

だけど、2本の剣といえば思い当たる節がある。

そう、昨日の朝に見た英雄”コルドバ”の姿だ。確かあの御仁も腰に2本の見事な剣を帯びていた。

強い剣士というのは、剣を2本持っているものだろうかと少々訝しむ。まぁ、それは大きな勘違いなのだが、アルバには剣士の知り合いなどいないのだから分かるべくもない。

ただ、そんな事よりだ。

この村長さんはアルバが臨時の騎士であることを分かっているのか心配になった。

何しろ、自分はサーシャの本当の騎士である”師匠”なる人物の代理だ。

有り体に言えば、このガリネリウスとやらを持つに相応しい御仁は別にちゃんといるのだ。

だけどアルバは( でも…まぁいいか! ) ってすぐに思い直した。タダで貰えるものは何でもありがたく受け取っておこうって思ったのだ。何せ、自分は食うものにも困っている大変貧乏な物売りだもの。


「カナイ村長、ありがたく受け取っておきます。」


アルバはサクッとその聖剣に手をかけた。


「うむ。それでいい。」


カナイは素直に受け取ったアルバに満足そうな笑みを浮かべると、今度はその剣の横に置いてあった大きめの白い箱を差し出して来た。


「これは?」


アルバがそう尋ねると、今度は斜め前に座っていたロアン神父が口を開いた。


「それは儂からの餞別じゃ。…実を言えば、今日はこれを村長さんに渡しに来たのじゃ。もうすぐアルバが旅立つと言うておったでの。」


「…そうなのですか。」


アルバは目を丸くして答えた。

だって神父の言葉は、とっても不思議だったのだもの。

そう…それはカナイ村長が何故、自分が旅に出ることを予見できたって事だ。

大体、旅に出ると心に誓ったのはついさっき。村長さんが知る筈がない。

( どういう事なんだろう…。 )

彼はチラッとそんな超能力者のような村長に目を向けたが…まぁその村長さん、照れ臭そうに笑っておられるだけで何も言わない。あ、こりゃ喋んないな!ってすぐに分かったので、とりあえず神父さんが用意してくれた白い箱を恐る恐る開けた。

カチャって金具が外れる音がしてアルバの腰くらいの高さがあるその箱を開けると、そこには鎧っぽいものや布製品が無数に入っていた。


「それはの、儂がまだ上級修道兵をやっていた頃、身につけていたものじゃ。」


ロアン神父はそう言って笑った。


「上流修道兵?神父様は、修道兵だったのですか?」


「うむ。もう何十年も昔の話だがの。」


「…信じられません。」


アルバは、ぽっこりお腹のロアン神父を一度見て苦笑いを浮かべると、箱の中身を丁寧に取り出す。

そこには本当に色々なものが入っていて、とりあえず取り出せたものだけでも綺麗に並べてみる。

( うわぁ…勢揃いだ…。 ) って、目を丸くしたアルバの前にデーンっと並んだのは、銀に輝く薄手の軽装鎧と藍色の短いマント、薄手の楔帷子、白いダボっとしたズボン、強固な皮で作られたブーツなど旅に欠かせないとってもありがたいものばかりだった。


「す、すごいですね。」


アルバは、とりあえず一番大きく立派な銀の鎧を両手で掲げてそう漏らした。


「うむ、それはミスリル製の鎧じゃ。…今の修道兵は誰も身につけておらんが、昔は戦争も多かった故な。じゃがその鎧と楔帷子を身につければ、かなりの防御能力が期待できる。儂など、これがなかったらもう3度は死んどる。…持って行くが良い。」


そう言って笑顔を見せたロアン神父。それに…カナイ村長も笑顔だ。

暫く、アルバは交互に2人に目をやる。

…驚きで暫くその場を動けなかった。

本音を言えば…感激してしまったのだ。


「…ありがとうございます。…ですが、何故こんなにまで…。」


素直な思いを口にすると、カナイ村長は小さく首を振った。


「儂も神父様もお主には、本当に世話になった。これはそのほんのお礼じゃ。」


「…ですが、俺はほとんど何もしてないと思うのですが。」


アルバが顔を傾けながらそう疑問を口にすると、2人はまるで息を合わせたように手を振って自分の言葉をやんわりと否定した。


「ホホッ。知らぬは本人だけじゃ。儂らも、この村のみんなも、子供たちも、皆がお主には感謝していると思うぞ。」


「全く身に覚えがないのですが…。」


それは本心だった。村のみんなや教会の為にも特に何をした訳でもない。

ただ、ボーってのんびり生きて来ただけだ。だが、この2人はアルバとは違うご意見を持っていらっしゃるようだった。


「そこが良い。特に何をした訳でもないのに感謝される。それこそが本当の善行というのかもしれん。」


と、カナイ村長が言えば、ロアン神父も声を揃える。


「儂はアルバの屈託のない笑顔が好きじゃった。お主は笑顔だけで人を救うことができる稀有な少年じゃ。まるで女神さまのようじゃった。」


「…すいません。そこまで褒められると気持ち悪いんですけど。」


アルバは思いっきり顔を顰めた。


「何を言うか。お主は、人のことはよく観察するが、自分に事はしっかり見とらんのぉ。」


「全くじゃ。女神像までお主がくると喜ぶと言うに。」


次々と繰り返される大げさな賛辞!

これは素直に受け取らないと、このこそばゆい地獄が永遠と続くことになる…そう感じたアルバは、2人の怒涛の褒め言葉を手をあげて制した。


「わ、わかりました!お二人の好意はありがたく頂戴します!!」


そうきちんとお礼を言うと、ようやく2人の言葉がやんだのだった。

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