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新たに姿を見せた騎士



「おおっ〜!これがベッド?」


宿に到着し部屋に入ると、アカネはそう声をあげて目をキラキラさせた。アタナトたち4名が選んだ宿は、ジェドプールの街で暮らす民にとっては一般的なものだったが、その部屋の作りは布で部屋が仕切られていて、ベッドも「ハンモッグ」と呼ばれる支え木2本に布を結び、宙に浮いているような形態だった。


ベルトランは、慣れているのか何も言わず荷物をそのハンモッグの上にドカッと置いて涼しい顔で水を飲み、アカネとラメレスは目をキラキラさせながら布部分をひっぱたり、恐る恐る乗ってみたりしていた。だが、唯一潔癖性のアタナトだけはあからさまに表情を曇らせ、顔を引きつらせる。そして部屋に案内してくれた宿の主人に


「普通のベッドはないのか?」


と、困った表情で尋ねた。宿の主人は一度不思議そうな顔をしたが、やがて「地べたに寝ます?」と意地悪を言われ、アタナトはしぶしぶハンモッグを了承した。真面目で堅物な彼にとっては睡眠はとても大切なもので少しでも様子が違うのが嫌だったのだ。その様子をニヤニヤしながら見ていたアカネがアタナトに声をかける。


「アタナト、これ嫌なんでしょ?」


「ああ。いつもと違うモノは、極力避けたいのです。」


「揺られて楽しそうじゃん!」


「寝るのに、楽しいは関係ないと思うが?」


アタナトが若干ムキになってそう返すと、アカネは(もう!可愛くないんだから!)と、嫌味を込めて


「ふふ。私と一緒に寝れなくて寂しいのね。可愛い〜」


と揶揄った。するとその言葉を聞いたベルトランとラメレスは思わず声を出して笑ってしまった。それは、その質問が可愛くて笑っただけなのだが、それ以降アタナトは押し黙ってしまった。常にスマートに生きてきた彼のプライドが若干崩れてしまったのか、あからさまに不機嫌な顔になる。アカネは、(し、しまった…)と、アタナトのその顔を見て焦る。堅物で頑固な彼の機嫌を損ねると後々面倒臭い。


「そ、そんな寂しがらないでよ。無理やり2人で寝てもいいよ?」


「…そういう事ではありませぬ。」


「…怒ってない?」


「私はそんな事で怒りません。」


アタナトは普通にそう応えたのだが、アカネにはその言い方が少し冷たい言い回しに聞こえてしまった。そもそもは、ベッドが宙を浮いているという事だけが、堅物のアタナトにショックだったのであって、アカネの冗談は他人に聞かれたことが少し恥ずかしかっただけだ。だが、この楽しそうなベッドが気に入らないなどと露ほどもしらないアカネは、自分の冗談が彼を怒らせてしまったと思い込んでいた。


「なんか…ごめんなさい。」


「…。」


「アタナト、2人でお出かけしに行こうか?」


「…。」


「行かないの?」


「…。」


こういう時の、アタナトは何も話さなくなる。アカネは全てを相手に伝えようと必死になるが、彼は全て飲み込む。無愛想にハンモックの前に座り込む彼に、アカネは悲しそうな表情を浮かべ、やがて顔を落とした。

アカネは喜怒哀楽が激しい。一度、気持ちを落とすと一気に落ちていく。この時も彼女は、口数少なくアタナトの元を離れ自分のベッドへと潜っていった。


しばらくしてから、宿の主人が葉に包まれた夕食を持ってきた。だが、アカネは「いらない!」の一点張りで食べようとはしなかった。






(お腹すいた…。)不貞寝したアカネが目を覚ましたのは、夜の十時くらいだった。そっと、ハンモックから顔を出し周りを見渡すが、仲間の3人はすっかり寝入っていて寝息が聞こえる。とりあえず、アカネはハンモックから降りてキョロキョロと非常用の食料が入っているバッグを探すが見当たらない。


(あ、そういえば…)


アカネがそう思い立つとそっとアタナトのハンモックを見る。ロハンから預かった食料と金は彼が管理している。そこから食料を貰うとすると、彼を起こさなければならないが、昨日の事があってなんとなくアタナトには頼りたくない。


(しょうがない…。なんか買いに行こう。)アカネはそう思い立つと自分の財布を確認した。そこには、銀貨が一枚入っている。金額としては十分だ。(よし!)アカネは、みんなを起こさないようにそっと、部屋を出て行った。



街は…暗かった。


アカネはどこもロハンやルンと同じだと外に飛び出してしまったが、あんなに発展し治安の良い街はフィルファ国くらいしかない。ジェドプールの街は、夜は灯りがほとんどなくこの夜更けでは開いている店も少なかった。


「う〜ん、まいったな…。」


アカネはブツブツ言いながら、とりあえず灯りがついている方へと向かっていく。彼女は以前、ご飯屋さん探しで大失敗し売春宿に入り込む失態を犯しているので、この時はそれなりに慎重だった。やがて、幾つかの飲食店らしき店が集まった場所についた。時間柄、酒を出す店がほとんどだが食事も少しはありそうだ。


「うう…。お腹すいた…。」


アカネは空腹に耐えかねていたので、幾つか手前にあった店を覗きながら探しはじめ、3つ目に見つけた女性客のいる店に入ることにした。店といっても宿と同じで布で簡易的に囲ってある店がほとんだ。


「いらっしゃい。あら、可愛いお客様ね。」


その店の女店主は、アカネを見てそう迎えた。ここロフテン国は教団追放を宣言しているので、修道士であるアカネもイエローのワンピースに茶色のマントという格好だった。


「すいません。お酒はいらないんですけど…ご飯だけでもいいですか?」


アカネは、カウンターらしき木の台しかない店先の椅子に腰を下ろすとそう店主に話しかけた。すると50代くらいの女店主はふくよかな顔を微笑ませて応える。


「もちろん、いいわよ。簡単なものでいい?」


「あ、はい。食べれるもんならなんでも!」


「まぁ、よほどお腹が空いてるのね。飲み物は…お茶でいい?」


「はい。」


アカネがそう明快に答えると、女主人は「では急いで作るわ。」と言うと早速、目の前で料理を作り始める。そしてその料理の合間で、彼女は手馴れた手つきでお茶を差し出すと、アカネに話し始めた。


「私は、ここの店主のテラよ。貴女は…旅の人ね?」


「はい。アカネといいます。えっと…遠い国から来ました。」


さすがにアカネでも、この国でロハンの名を出すことが如何にまずいか知っている。彼女は、出されたお茶に軽く口をつけて慎重にそう応えた。すると、テラと名乗った女主人は小さく笑う。


「フフッ…、遠い国からか。アカネは、一人で旅してるの?」


「いえいえ。えっと…仲間が3人います。」


「そうよね。さすがに貴女みたいな可愛い子が一人で旅なんてできないわよね。」


テラはそう言って目を細めると、首を大きく左右に振った。そして、「こんなもんでいいかしら?」と、簡単につくったパンとスープを差し出す。それは、この国では珍しい料理で、心なしか、たまに見かけるサーシャの作るスープに近い。アカネはとにかくお腹が減って仕方がなかったので、すぐにパンに齧り付いた。するとテラは何か思い出したのか、食べるのに夢中なアカネに話しかける。


「そういえば…この前、貴女みたいにとても綺麗な女の人がきたわ。金髪で、色白の。名前は…なんて言ってたかな…」


「へっ?もしかして、サーシャ様?」


「あ、そうそう!そんな名前だったわ。一緒にすごい強そうな男を連れたわよ。」


アカネは若干、その事を不思議に思いながら頷く。あの2人は別ルートでここロフテンに忍び込んでいるので、この街にくることはないはずだ。だが、彼らは自由に行き先を変えたりもする…今回も何かあったのだろうとアカネは特に気にも止めなかった。


「あなた、あの綺麗なお姉さんの知り合いなの?」


「はい。まぁ…その…妹みたいなもんです。」


「ふ〜ん。さっき貴女が話してくれた3人の中にその人もいるの?」


「いいえ。今は一緒に旅はしていないの。」


アカネがそう答えると、店主のテラは「へぇ…。」2〜3回満足そうに頷き、意味深な表情を浮かべた。そしてしばらく美味しそうに食べるアカネを見ていたが


「ちょっと、外すわね。ゆっくり食べてって。」


と言い残し、突然その場から奥へと入っていった。アカネは、彼女がトイレにでも行ったんだろうと思い、特に気にしないでそのままスープを飲み始める。


(う〜ん、やっぱりサーシャ様のスープに似てるわ…。)


アカネがスープを飲みながらそう思っていると、スッと背中から風を感じた。だがそれはとてつもなく嫌な予感がした。


「?」アカネは慌てて振り返ると3人の紫の装束をきた何者かがいきなりアカネを羽交い締めにした。


「ちょっ!なにすんのよ!」


アカネが慌ててそう叫ぶが、相手は3人がかりだ。体が小さく華奢なアカネは軽々と店の外へと運びだされてしまう。(これって…やばいやつ!)アカネは直感でそう思って懸命に暴れるが3人の力には到底かなわない。


「おい!早くしろ!」やがて一人の賊からそう声があがり、アカネを縛り上げようとする。アカネは、相手の腕を必死に払いのけようとしたり、噛み付いたりしようとしたが動きが封じられうまくいかない。


彼女は、やがて目に涙を溜め始めた。


悔しい。怖い。危ない。


様々な感情が彼女を襲う。


聖女であるアカネは


頭の中で


もちろん自分の騎士の姿を浮かべる


自分のただ一つの絶対のもの。






「騎士様ーーーーー!!助けてーーーーー!!」







しかし、ここからアタナトがいる宿までは遠く、声など届くわけがない。と、


タッタッタッ!!


と馬の蹄の音がアカネの耳に飛び込んでくる。紫の装束たちもその音に、体の動きを止めて一様に馬の音がする方向に目をやった。


「邪魔者か!?」その3人の男たちは口々にそう声をあげるとやがて馬は姿を現し、そのままその中へと分入ってくる。するとその3人は馬の体で蹴散らされ、やがてアカネの目の前に手が出てきた。


「アカネさん!!掴まれ!!」


知らぬ男の声がする。だが、アカネは咄嗟にその手を掴む。それしか生きる道がないと思ったのだ。やがてその伸ばされた手は、華奢なアカネを軽々と馬の上まで引き上げると、そのままその場から走り去った。


アカネが必死に馬を操るその男を抱きしめるように掴まる。その男は、先ほどの紫の集団を恐れているのか、無言で馬を飛ばす。アカネがそっと顔を上げて彼を見ると、髪の色が黄金色だった。そして抱きついて分かったことだが、彼は女の子のように華奢だ。だが、もちろんアカネにはこの男の心当たりはない。


(でも、この人…私の名前呼んだわよね…。どこかで会ったかしら…。)



アカネは、不思議そうにその華奢な男の後ろ姿を見据える。男はいつまでたっても馬のスピードを緩めない。やがて、街の門を強行突破し、さらに馬を進める。本当は一刻も早くアタナトの元へと戻りたいアカネだったが、目の前の彼があまりに馬を飛ばしているので声がかけられない。すると、そのアカネの気持ちを察したのか、男は一瞬だけ振り向くと


「彼らは、魔法をつかうんだ。危ないから少し先まで行くね。」


と優しくアカネに声をかけた。その男…と、いうか少年はまるで女の子のような顔をしている。アルバよりも可愛く、目はクリクリだった。


(まぁ…なんて可愛い…)アカネは思わず目を丸くした。


彼は、結局半刻ほど馬を進め森の中にある木々に囲まれた小さな湖のほとりでようやく馬を止めた。


「驚かせてすまなかった。怖くなかったかい?」


その少年はそう言って、素早く馬を降りるとアカネに手を伸ばす。アカネは「うん、ありがとう。」と応え、とりあえずその手を掴むと彼は素早く彼女を馬から降ろし抱きかかえた。目の前に彼の顔がある。月夜に照らされたその顔を見たアカネは、ますますその顔の綺麗さに驚く。

彼は、優しくアカネを大地に立たせると、すっと手をアカネから離した。だが、アカネは先ほどの恐怖で足がまだ震えている。


「あは…、うまく立てないや…。」


アカネが少し涙目でそう漏らすと、その少年は再びアカネの腰に手を回し支える。そして満面の笑みで、アカネを見ると「一度座りましょうか?」と言い、ゆっくりとアカネを座らせてくれた。その優しさに、彼女は遠慮がちに彼の手に掴まると、彼もゆっくりと大地に腰を下ろした。アカネはしばらくボーッと彼を見ていたが、やがて最初から疑問に思っていることを口にした。


「あの…助けてもらってありがとう。…前にお会いした事ありましたっけ?」


「ううん。」そう首を振る彼はなぜか、とても嬉しそうで恥ずかしそうだった。


「でも、貴方は私の名前を知ってたわ。」


アカネがそう尋ねると彼は、小さく頷く。そしてまた微笑みを浮かべながら話を続ける。


「もちろんです。僕は、ずっと貴女を探していたんですから。」


「え?私を?」


「はい。」


「えっと…なんで私を探していたの?」


アカネがそう申し訳なさそうに言うと、その少年はアカネの手を握って、丁寧に頭を下げた。そして、


「聖女アカネ。遅くなって、ごめんなさい。僕はイズー・カール。…あなたと運命を共にする貴女の騎士です。」


と優しい笑顔でそう伝えた。

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