アカネとベルトラン
一方、アルバたち4人と共にロハンを旅立ったアタナト、アカネ、ベルトランと魔術師のラメレスの4名は別のルートからロフテン国に入り込み、砂漠の街ジェドプールの街に到着していた。今回は目的が大きく2つあった為、仲間たちの作戦隊長であるモモが効率を考え2つのチームに分けた作戦を考えていた。
アルバたち4人は、ピオ司祭の目的を助けながらロフテン国がなぜ教団追放を決めたのかその理由を探る旅だ。ピオ司祭は元々ロフテン地区担当の司祭であったが、在国中、同国の第一王位継承者であるクラクス王子と深い親交があった。しかし将来有望で民にも慕われていたその王子は突如行方をくらませた。それが、ロフテン国内で起きた教団追放と時期が重なっていた為、モモは必ず関連があるとよんでいた。
一方、アタナトたち4人は「ファティの日記」が眠る2つ目の祠を探すことが目的だ。一つ目は、フィルファとサイの国境付近にある湖の側にあった。その湖には「聖女が待つ湖」という別の名前があるのだが、世界には「聖女」と名のつく湖が全部で8つある。これは、完全にモモの勘が頼りだが彼女はその8つある湖の中に、残り3つの「ファティの日記」があると仮定した。ロフテンにも「聖女の想い」という名前の湖がある。彼らはそこを目指している。
「暑い!暑い!暑い!!」
ロフテンのジェドプールの街に到着するなり、ルンの修道士アカネはそう騒ぎ出した。ロハンの砂漠とは違い、ここジェドプールの砂漠の日差しは強烈で、人々が思い描く生物が生きてる感じがまるでしない厳しい大地だ。街は、木と土で組まれた平家が多く、高い建物はほとんど見当たらないため、日陰も少ない。ベルトランは暑さに強いのか、いつもと様子は変わらないが他の3人は汗だくだった。
「ベルトラン殿。目的の湖までは、まだかなりの距離がある。砂漠は日中歩くと危険だ。今日はここで早めに休み、夜中から出発するのはどうだろうか?」
アタナトはアカネのワガママを全く無視して、少し前を歩くベルトランにそう話しかけた。だが当の本人もここの暑さに参っているのか、なにか声も弱気だ。
「あたいはどっちでもいいけどよ。まぁ、お嬢ちゃんち2人がもたねぇか…」
アタナトの問いに彼女は振り返りながら、体を前のめりにして情けなく歩くアカネとラメレスを呆れながら見ると、そう応えた。ベルトランは全世界に「狂戦士」として恐れられる剣士で、その華奢な外見には似つかわしくない無尽蔵の体力がある。華奢と言っても全身が鍛えられた筋肉で、まるでアスリートのようだ。
「ベルトラン〜、そうして〜。私、もう干からびちゃう〜。」
「アカネは、水を飲まないからだよ!」
「水ばっか飲んでたら、お腹出ちゃうじゃん〜」
「バカ!水飲まないと本当に倒れるぞ!」
「やだ!ベルトランはスレンダーだからいいけど、私みたいなチビはお腹が出るとかっこ悪いんだってば!」
アカネの物言いに、ベルトランはすっかり呆れながら「へいへい。」と応えた。小さい彼女はどうやら体系を気にしているらしいがベルトランにはその気持ちは分からない。だがアカネの物言いが気になったのか、ベルトランはこっそり服をめくって、自分の腹を見た。だが鍛えられている彼女の腹はすっきりしていて少し筋肉が割れている。
(水飲んだだけで、腹なんか出んのかな…)
アカネの気持ちが分からず、彼女が小さく首を振ると目の前にフルーツを売っている出店が見えてきた。そしてそれを見たアカネとラメレスが予想通り騒ぎ始める。
「アタナト!アタナト!フルーツが見える!」
「我も休憩したい!」
「…。」
騒ぐ2人の声を聞いて、アタナトはしばらく無言でいたがやがてベルトランに視線を送る。寄り道などしている暇などないはずだが、アタナトは何だかんだで、自分の聖女であるアカネに甘い。
「こんな時間にそんなもん食ったら、晩飯食えなくなるぞ?」
一応ベルトランがそう忠告するが、アカネは手を小さく振りながらその言葉を否定する。
「この暑さじゃ、ご飯なんて喉通らないよ。」
「飯だけは食え!倒れても置いてくからな!」
「アタナトに背負って貰うからいいもん!」
どんなにへばっていても口の減らないアカネに、ベルトランは仕方なく「寄ってくか…」と漏らした。アタナトもその言葉を待っていたのか、いつも無表情の顔を緩ませた。
「ベルトラン殿の分は、私が奢ります。」
「いや、あたいはいらないよ。」
「そう言わずに。旅は、みんなで同じ事をするのが鉄則です。では、ちょっと買ってきますので。」
アタナトはベルトランにそう話すと、2人を連れてその出店に向かっていった。ベルトランは、その様子を黙って見ていたが、やがてそっと街を見渡してみた。街の住民は、自分と同じ褐色の肌をしたものが多が、景気が良くないのか人々の表情は何となくだが元気がなかった。
彼女の周りを通る人々は、皆一様に自分をチラチラと見ていく。視線を合わす者はいないが、多くの視線を感じる。肌の色が同じとはいえ、ベルトランは顔半分が刺青だ。そして白い獣の皮を羽織っていて、なにかと目立つ。そして、聖剣と暗剣を背中にクロスさせて差しているのも珍しかった。
街にいる兵士や官兵にも見られているが、皆恐れているのか寄ってこない。彼女がサイの国で起こした数々の重罪は、女神サーシャによって教団の指名手配共々消えていたので捕まる心配はない。と、いっても彼女を捕まえられるのは上位の聖騎士くらいだが。
(自由って…意外に大変だな。)
ベルトランはそう思って少し微笑む。だが、彼女が今手にしている自由は、大変だが心地いい。何より自分より強い頼もしい仲間がいる。それがこれまで数多くの苦難を一人で乗りこえてきた彼女にとって何より嬉しい事だった。
やがて、アカネが両手にフルーツを持ってこちらに走ってきた。
「ベルトラン〜!どっち、食べる!?」
その天真爛漫な彼女を見て、ベルトランはニッコリと微笑む。アカネは全く自分を恐れていない。彼女はとても不思議な力を持っていて、それが敵であろうが味方であろうか手なづける。彼女の後ろをついて回るラメレスもつい先日までは、アタナトを傷つけ、サーシャの命を狙っていた魔術師だ。
「あたいはどっちでもいい。アカネが好きなのを選べ。」
「え〜?ベルトランって、欲がないわね…。う〜ん、じゃ半分に分けようよ!」
「好きにしろよ。」
ベルトランが笑ってそう答えると、彼女は目の前まで来てしばらく迷っていたが、なにか閃いたのか「よし!」と答えると、いきなり一方のパイナップルに噛み付いた。そして、もう片方のスイカと思しきものをベルトランに差し出す。
「噛み付いて、はんぶっこ!女同士だからいいでしょ?」
「ハハハッ!やっぱアカネは楽しい奴だ!」
ベルトランはそう言うとスイカにかぶりついた。おそらくこれがサーシャなら丁寧に半分に割って渡すだろう。だが、何事にも大雑把なアカネはそれが面倒だったようだ。
やがて、ラメレスとアタナトは店先で果物を食べてきたのか手ぶらで歩いて戻って来た。そしてアタナトは、道のど真ん中でフルーツにかぶり付いているベルトランとアカネを見ると、
「アカネ殿、行儀が悪いですよ!」
と文句を言った。だが、アカネは聞こえないフリを決め込んでモグモグ食べている。その様子をみたベルトランは、果物を頬張りながらアカネに文句を言う。
「おまえの彼氏は、細かいなぁ…。」
「ね!堅物なのよ!」
「ハハッ!浮気してやれよ!」
「それはパス!私、これでもアタナトを心の底から愛しているのよ。」
「へいへい。ごちそうさん!」
「ベルトランもとっとと彼氏見つけなよ!」
「…あたいを好きになる男がいると思うか?」
「はぁ?あなたは美人よ。その刺青やめれば!」
アカネはそう話すと、ベルトランの刺青を指でツンツンした。だがこの顔半分の刺青は、彼女のトレードマークみたいなもので、それ自体にも意味がある。
「ハハッ!これは、アカネの彼氏の似合わないヒゲみたいなもんだ!」
「あ〜!それ言う?」
そう言い合うと、2人は大きく笑った。
「なに笑ってるんだ?」
その様子を見たラメレスは思わずそう呟く。アタナトはやけに息の合う2人に見慣れているのか特に興味を示さず
「ベルトラン殿、とりあえず宿に急ぎましょう。」
とだけ告げるとスタスタと歩き出した。




