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後片付けする面々



その店から、ロフテンの秘密警察が去るとアルバとサーシャとユラは、後から店に入ってきたピオ司祭とともに、店の片付けを手伝った。秘密警察が槍で飛ばした机や椅子もあったのだが、アルバがとんでもない方法で店に登場したので、その近くにあったコップや皿が割れてしまっていたのだ。幸い、けが人はおらず、その事に関してはアルバは、ホッと胸をなで下ろしていた。


「あの…コップとお皿は弁償します。すいませんでした…。」


アルバは頭を掻きながらバツが悪そうに、店主のパルマと店員のアムリタに頭を下げた。そしてその横では、例の黄金色の髪の女も彼に寄り添うようにして一緒に頭を下げている。


「はぁ…。いえ…。」


店長のパルマはその2人の姿を見て、目をぱちくりさせながらどうしたものかと、アムリタを見る。その目の動きは何か助けを求めている時のそれだ。


(ちょっと、店長!私にふらないでよ…)


彼女は、そのすっかり萎縮してしてしまっているパルマに口を尖らせて小声で文句を言った。なにせ相手は、悪名高いこの国の秘密警察10人を、ロクに戦いもせずに追い払った化け物だ。店長の気持ちもわからないではない。どう返事しようかと悩んでいた2人の元に、この店で歌う歌手のバイシャリが寄ってきた。


「バイシャリさん…。」アムリタがそう呟くと、彼女は一度小さく頷く。そして、すぐに黄金色の髪を持つ女の前に立ち、深く頭を下げた。


「さっきはありがとう。お皿のお金は私が弁償するわ。」


バイシャリの声は歌声とは違い、低い声で話し方もゆっくりだ。そして白く長いドレスがより彼女を幻想的に見せている。


「いえいえ。私が勝手に腹を立てて、騒ぎを起こしただけですので、礼には及びません。」


サーシャが遠慮気味にそう話すと、バイシャリは首を横に振った。


「貴女のおかげで私は命拾いしたわ。お礼だけはさせて。」


彼女は、自慢の編み込んだドレッドヘアを揺らしながらそう話す。さすが人前で歌を披露している彼女は堂々としている。目にも力があり、先ほどの事態にも怯まなかった彼女の意思の強さをサーシャは感じ取った。(お礼か…)と、頭を巡らせていたが、サーシャは何かを思いついたように急にパッと明るい顔になった。そして目の前の褐色の肌をもつ歌姫の手を掴んで


「それなら、ひとつお願いがあります。」


と丁寧にお願いした。


「なんですか?」


「私と一緒に歌ってくれませんか?」


と、サーシャは目をキラキラさせて尋ねる。バイシャリはその意外な申し出に一瞬目を丸くしたが、やがてニッコリと笑顔を浮かべた。


「そんな事なら、お安い御用よ。」


「わぁ、嬉しいわ。プロの方と歌えるなんて。」


サーシャはそう言って手を合わせて喜んだ。その様子を不思議そうに眺めていたアルバが2人の会話に口を挟む。


「へっ?サーシャって、歌えるのか?」


「はい、騎士様。貴方に会う前は、毎日のように歌っていたのよ。」


「へぇ!ぜひ聞きてみたい!」


アルバはサーシャの答えにそう燥ぐとまるで子供用に目を爛々とさせた。体を前のめりにしながらサーシャに懇願するその姿に、この店の店長パルマとアムリタは眉を細める。


「アルバって人…そんなに怖い人に見えなくない?」


「ああ…。怒らせなければ…大丈夫そうだな。」


「あの綺麗なお姉さんに危害を加えなければいいのかな…。」


「おまえ、ちょっと試してこいよ。あの金髪の姉ちゃんを後ろからフライパンで殴ってこい!」


「嫌よ!なんでそんな事で命賭けなきゃいけないのよ!」


2人はコソコソとそう話していたが、一人バイシャリは急に静かになった。(サーシャ…)その名は…最近よく耳にする教団の女神と同じ名前だ。元々彼女は敬虔な教団の信者である。ポーカーフェイスのバイシャリは、顔には出さなかったがサーシャを見つめてそれなりに驚き、考えていた。


(そもそも、教団を追放したこの国に女神が来るはずがない…だが、伝え聞く黄金色の髪、美しく優しい微笑み、最高位の司祭でありながら誰分け隔てなく接する慈悲深さ、人の道に逸れた者への毅然とした態度…そして神のごとき強さを誇る騎士と共にいる…まさか…。)


バイシャリはそう思い立つと、微かに目に涙が溜まるのを感じた。毎日のように祈っていた女神像の本物が目の前にいるのだ。それは彼女にとって何よりの贈り物だった。だが、女神はその事を話さない。と、いうことは何か事情があるのだろう…大人なバイシャリは敢えて知らぬふりをする事に決めた。


その光景を茫然自失で眺めていた傭兵のコプラは、やがて大きなため息をついて苦々しく女神の騎士を見つめていた。コプラには彼の正体は分かるべくもないが、只者で無い事だけはわかる。


(おっかねぇなぁ…)その悪魔の如き所業をやってのけた少年を見ながら大きく息を吐いた。


やがて、彼の側にせっせと箒を掃いていたユラが寄ってきた。この女にもまんまと騙された…そう思ったコプラは口を開く。


「あのお嬢さんが、あんたに楯突いたら殺されると言った意味がやっと分かったぜ…。あんた、コルドバだろ?」


コプラは彼女にそう話しかけると鼻を鳴らした。あの美しい女の男と思しき剣士は、このユラの事を「コルドバ」と呼んでいた。その名は、傭兵の間で知らぬ者などいない。全世界に名を轟かす、最強の傭兵の名だったからだ。


「はぁ…。」ユラはそんな彼に気のない返事を返すと、そのまま掃除を続ける。


「人は見た目じゃわかんねぇもんだ。しかも、あの残忍で有名なコルドバが女だったとはな…。おまえさんは、アトラスの騎士団を辞めたと聞いていた。こんな所で何やってんだ?あのお嬢さんの護衛か?」


「いえ…。私、傭兵を辞めて就職したんです。」


「就職?あんたみたいな化け物を使いこなせる国があったのか?」


コプラは、ゆっくりと葉巻に火をつけて煙を漂わせると興味深そうにそう尋ねた。ユラは、その言葉を聞くとニッコリと微笑んで


「はい!理想の就職先でして。今度の主人たちは、本当に気持ちがいい人達なんです。」


と、じゃれ合うアルバとサーシャを見つめながら言い切った。コプラはそのコルドバの眩しそうな顔を意外な目で見つめ返す。


「へぇ…。それで宮仕えかい。何がそんなに気に入ったんだ?」


「はい。彼らには「法」とか「理」がきかないんです。」


「そりゃ、どういうこっちゃ。」


「「法」なんて所詮、人が作った物。権力者や有力者の都合でどうとでも変えられる。でも彼らは、良いもは良い。悪いものは悪いって確固たる物差しがあるの。勿論、彼らにも守る「法」はある。でもそれが気持ちいいの。」


「わかんねぇな。それが権力者とどう違うんだ?」


「ふふっ。それは彼らと共にいなければ説明は難しいわ。」


「まぁ、権力者っぽくはねぇわな。」


コプラは、客とバイシャリと楽しそうに笑う2人を見て、そう漏らした。


「で、あいつらは何者なんだ?」


と、そうユラに問いかけたコプラは、ふとサーシャと目が合ってしまった。すると女神は目を見開いて


「コプラさん〜。こっちに来てください。私の騎士様を紹介するわ。」


と話しかけてきた。コプラは、苦笑いを浮かべながら手を小さく振りやんわりと断る。あの悪魔のような騎士と話すなど冗談ではない。なにせ自分はつい先ほどまで用心棒に託けて、サーシャを口説こうとしていたのだ。

すると動かないコプラを見て、サーシャは怪訝そうな表情を浮かべると、横に立っていたアルバの腕を掴んで自分の方へ引き寄せる。(い、いやな予感がする…)コプラがそう感じるとすぐに、サーシャは自分を指差して


「アルバ。あの人が、さっき私を口説いていたコプラさんよ!傭兵ですって!」


と神妙な顔つきで彼に話しかけてしまった。するとアルバもこちらに顔を向けた。コプラは反射的に顔を横に向けて目線を外す。そして横で意地悪く笑っているユラに小声で


「こら!笑うな!…つーか、あの騎士はまだこっちを見てるか?」


と尋ねた。するとユラは呆れ顔で応える。


「ふふっ。睨んでるわよ。あれは、相当怒ってますね…。」


「ちょっ!あんた、コルドバなんだろ?金払うから、俺を守ってくれよ!」


コプラがそう軽口を叩くと、ユラは肩を竦めた。


「アルバ様からあなたの身を守れというの?100億つまれてもお断りです。まだ、死にたくないですもん。」


ユラはそう体を震わせて話すと、スタスタとアルバたちの方へ歩いていってしまった。


「お、おい!」


コプラが慌ててそう声をかけると、ユラはゆっくりと振り返り


「ふふっ。アルバ様はそんな事で怒らないわよ。」


と言い残すと、再び前を向いて小走りで自分の「主」たちの元へと走っていった。

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