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暗剣を手にしたアタナトとアルバ


会議が終わったのは、夕方だった。


途中軽い食事とお茶が配られたが、食べ物に口をつけるものはなく、皆必死に意見を述べたりメモを取ったりと忙しくしていた。そしてこの会議の最後には、それぞれのやるべき事と進むべき道が示され、皆緊張した面持ちで貴賓室を後にしていたのだが、ここロハンの近衛兵隊長であるアタナトは、しばらく椅子から立ち上がれなかった。


「アタナト…どうしたの?まだ、傷が痛むの?」


彼の聖女であるアカネは、椅子の上で固まっているアタナトに心配そうに声をかけてきた。アタナトは、結んだ長髪を揺らしながら彼女を見ると、「アカネ殿…」と彼女の名前だけを呼び、その精悍な顔を曇らせた。


「傷は、サーシャ様に診ていただいたので大丈夫です。そんなことより、アカネ殿は…」


アタナトはそこまで話すと言葉を詰まらせた。アカネの大きな瞳を見つめながら、彼女の短い黒髪を優しく摩る。彼は、アカネが500年前のファティ大司祭に助けられたという話を聞いて、いろいろと心配が募っていたいたのだ。そんな伝説に残る女神がアカネをわざわざ助けたということは、彼女の背負っている宿命の大きさを物語っている…そう感じると心配でならなかった。だが、当の本人は何も感じていないのか、いつもと変わらずその可愛い顔をアタナトに向けていた。


「アタナト。また何か心配しているの?」


「はは…。あ、そうだ!アルバ様とサーシャ様に、暗剣の相談に行きましょう!」


アカネの心配そうな顔を見て、彼はわざと話題を変えて、元気な声でそう話すとゆっくりと椅子から立ち上がる。だがアカネはそんな彼の手を取って止めた。


「アタナト。私は、貴方の聖女です。心配事があるなら言って?」


背の低いアカネは、立ち上がったアタナトを見上げるようにそう尋ねた。自分の騎士の心配事を放って置けるわけがない。だが彼女のキラキラした目を見ると、アタナトはサッと目線を外して


「私に心配事などありませぬ。さぁ、いきますぞ。」


と、いつもの口調に戻ってアカネの手をしっかりと握って歩き始める。(まぁ…)アカネは彼に握られた左手を見つめながらそう呟いた。彼が甘えてきたり、アカネに自ら触れてくるのは、悩んでいる時か自分を心配してくれている時だけだと知っているのだ。ただ、彼は見た目以上の頑固者で堅物だ。アカネがそれを話しても絶対に認めない。


アカネは思わずアタナトの背中に抱きついた。


「アカネ殿?」


アタナトが慌てて体を止めて振り返り、小さい彼女を見下ろすとアカネは


「サーシャ様たちは、一度部屋に戻ると仰ってました。急いで行かないと誰かに取られてしまいます。」


と言って、可愛い笑顔を彼に向けた。「そうですね…。」アタナトは照れくさそうにアカネを見返してニッコリと笑う。彼はそんなアカネを見て、いつも彼女の明るさに助けられていたことを思い出していた。不思議なことに彼女の笑顔を見ると様々な不安が吹き飛んでしまう。そして、その破天荒な行動と言動も…なんだかんだで嫌なことを忘れさせてくれる。


「アタナト。お姫様だっこして。」相変わらずアカネのお願いは、無茶だ。此処は城の中枢だ。だが、今日のアタナトは優しくアカネに応えた。


「では、やりますか?」


「はい。アルバ様のお部屋までお願いします。」


「結構、恥ずかしいですよ?」


「私たちは騎士と聖女です。恥ずかしい事などあるものですか!」


アカネがそう言い切ると、意外にもアタナトは言われた通り逞しい腕で彼女を楽々と持ち上げた。(ふふ…。)アカネは少し驚いたが、自分の騎士に触れているのは何より嬉しい。そのままアタナトの首に手を回して、くっついた。


「ふふふっ…。行きましょう、アタナト!」


アカネはそう楽しそうに話すとそのまま廊下に歩き出した。




ここはロハンの城の中だ。働く様々な人がいる。

お姫様だっこして歩くアタナトとアカネの2人には、いろいろな目線が送られた。とはいえ、アタナトは近衛兵隊長だ。あからさまに文句を言ってくるものはいない。青い絨毯の上を、彼らは堂々と笑顔で進んでいく。途中、上官や同僚に揶揄われたりもしたが、アタナトは気にせずアカネを抱きしめたまま、無事アルバの部屋の前にたどり着いた。

領主の部屋は、城の最上階にありドアも風合いがある立派なモノだった。2人は笑顔でアルバの部屋をノックをする。


「どうぞ。」


少し経ってからアルバの声がして、ドアが開いた。アルバが内側から、わざわざ開けてくれたのだ。


「おっと!?アタナトさん、アカネ。どうしました?」


アルバは、ドアから顔を出しながらアカネを抱っこしているアタナトに驚きながらも、嬉しそうにそう声をかけた。アタナトは小さく頭をさげると


「お話があります。今は、お時間よろしいでしょうか?」


「大丈夫ですよ。あ、サーシャもいるけど?」


「勿論です。お二人に聞いていただきたい事ですので。」


アタナトはそんなことは知っているとばかりに、苦笑いを浮かべた。この領主と教団の女神が一緒にいない時を探す方が難しい。


「どうぞ。」アルバがそう告げてドアを開くと、サーシャは部屋のソファでお茶を飲みながら教典を読んでいた。だが、2人が部屋に入ってくると、すぐにその美しい顔を向けていつものように微笑む。


「あら、アタナトさん、アカネ。いらっしゃい。」


サーシャはアカネを抱きかかえるアタナト達を特に驚きもせず迎えてくれた。アカネはサーシャを見るとアタナトから体を離し自分の足で立つ。すると珍しい事に、姿勢を正しサーシャにしっかりと頭を下げた。それには彼女の騎士であるアタナトも意外だったのか口を挟まなかった。


「サーシャ様。お願いがあります。」彼女のその声は真剣だった。サーシャも思わず、カップを机に置いてまっすぐアカネを見返す。


「どうしたの?急に改まって…。」


「アタナトに…アルバ様のような黒い剣をお与えください。」


アカネはそう言い切った。アタナトもそれには驚いて、目を丸くしてアカネを見つめる。アルバもその真面目な姿のアカネに驚いて呆気にとられてしまった。アカネがサーシャにお願いしたのは、「暗剣」と呼ばれる剣で、魔人の精霊の力や聖騎士の使う「意志の力」を吸収する特殊な力を持った剣だ。聖騎士はもちろん、アルバ、ジャン、ベルトラン、コルドバなど有名な剣士は皆持っている。アカネは言葉を続ける。


「アタナトは、強いんです。もうすごく強いです。でもその黒い剣を持っていないんで…。私を助けられないって、みんなの役に立てないって…悩んでいるんです。」


アカネの滅多にない真剣な訴えに、アルバとサーシャは目を合わせた。ここにセドリーヌがいたらさぞや感動するだろう…サーシャはそう思うと思わず笑みが漏れる。アタナトもその言葉に、思わず小さい彼女を見据える。(聖女っていうのは…騎士のことはなんでもお見通しなんだな…)そう思うと心が熱くなった。サーシャは、優しい声で彼女に応えた。


「アカネ。アタナトさんは、貴女がおっしゃる通りお強いです。役に立てない等という事は断じてありません。」


「ですが…。」


アカネは必死に訴えた。それはラメレスと魔人2体に襲われたことを思い出しているからだ。アタナトは剣技では、ラメレスを圧倒していたし、不意打ちを喰らわなければ魔人とも対等に戦えたはずだと信じて疑わない。


「サーシャ様とアルバ様は、いつもお互い助け合って旅をされています。私はサーシャ様みたいに神の力は使えないから、アタナトに頼りきりになってしまいます。だから、せめて彼にはいつも自信を持って戦って欲しいんです。」


「アカネ。貴女は、もう立派な聖女ですね。」


アカネの言葉にサーシャはそう言って嬉しそうな表情を浮かべ、ゆっくりと立ち上がりとアルバににっこりと微笑んだ。すると、アルバは頭を掻きながら、ソファの横にあった棚を開く。アタナトとアカネが興味深そうにその棚を見ていると、アルバはやがて棚から2本の立派な剣を取り出した。


それは、一対の美しい聖剣と暗剣だった。



「本当はさ、明日の作戦会議の時にみんなの前で渡すつもりだったんだけど…。」


アルバはそう漏らしながら、ゆっくりとアタナトの前へと歩いていく。そしてその横にサーシャも続いた。

アタナトがその剣に目を奪われていると、サーシャはアタナトに静かな声で語りかける。


「この剣は…フォスナで命を落とした聖騎士トモエの剣です。彼女の両親が譲ってくれたの。」


「な、なんと…。」


アタナトはそのサーシャの言葉に驚いた。聖騎士トモエは、フォスナで出会った女聖騎士で緑の髪をもった、美しい女性だった。アタナトとアカネに良くしてくれ、最後は自分たちを守るように「魔」の精霊人の最高位ベアトリーチェの剣の前に敗れ、散っていった。アカネもトモエの事は、姉のように慕っていて大好きだった。


「ト、トモエ殿…。」


アタナトはその美しい2本の剣を見るとその突然の事に、感極まった。彼女は聖騎士らしく強く、堂々としていて、何より心根が見た目とともに美しかった。そして、アタナトに「おまえは強くなる。自分の剣をさがせ」とアドバイスしてくれた大恩人でもある。彼女の事は今でも2人の脳裏に焼き付いている。


「アタナトさん。この剣にはトモエの力も残されています。暗剣は、それまで使った剣士の力が宿ると言われているの。」


「はい、存じております。」


「トモエの両親は、貴方にこの剣を使って欲しいそうよ。彼女の最後を見届けた貴方に…と。トモエは、孤高の剣士。他人に話す事などまずない聖騎士だった。そんな彼女が、貴方とアカネには、聖騎士の事や、聖女と騎士、それに剣の事まで話したなんて私でさえ、驚きでした。」


サーシャがそう話すと、アカネがサーシャを見ながらゆっくりと口を開く。


「そうなんですか?とても話しやすいお姉さんでしたけど…。」


アカネの言葉にサーシャは、うんうんと頷いた。


「トモエはきっとあなた達と話すのが楽しかったのでしょう。さぁ、アタナトさん。トモエの剣を受け取りなさい。そこにはきっと、トモエの心も力も宿っています。トモエが心を許したあなたなら…使いこなせるはずです。」


サーシャがそう話すと、アルバはアタナトの前に2本の剣を差し出した。アタナトは、震える手でその2本の剣をゆっくりと受け取る。すると…彼の心の中に優しげで涼しい一筋の緑の風が通り抜けた…気がした。その意識は間違いなく、あの美しいトモエの気配だった。


「アタナトさん。」


剣を受け取ると、急にアルバが真剣な声で呼んだ。


「はっ!」


「折角、暗剣を手に入れたんです。すこし、運動してみませんか?」


アルバはそう話すとアタナトの肩に、ゆっくりと手を置き微笑んだ。







アルバがアタナトを連れだったのは、ロハン城の最上階にある広い芝生で覆われた庭で、ロハンの街が一望できる場所だった。そこは、アルバが先日コルドバと模擬戦闘をした場所でもある。

夕日から夜に変わろうとしているロハンの街は、夕日に照らされ幻想的な光景が2人の目に飛び込んでくる。

そこには当然サーシャとアカネも同席し、話を聞いたフィルファ宮廷騎士でアルバの友であるジャンとその聖女パオラも見に来ていた。


「いや〜、アタナト君もついに暗剣を手にいれたんすね〜、頼もしいわ〜」


ジャンは相変わらず戯けていたが、意外にも目は真剣で笑っていない。ジャンは、アタナトにも大きな期待を寄せていたからだ。


アルバとサーシャ。


ジャンとパオラ。


アタナトとアカネ。



運命を背負った3人の騎士と3人の聖女が勢ぞろいした格好だが、この3組の中では騎士も聖女もアタナトとアカネが一番格下であることは否めない。だが、アタナトはアカネの為にも、アルバとジャンという英雄を越えずとも並び立ちたいと心から思っていた。


(そうでなければ、アカネが進みたい道に着いていく事ができない…アカネが行きたい場所に安心して行けるように自分は強くあらねばならん。)アタナトは心にそう思い、誓う。ふと、前をみると自分の領主であるアルバがいる。彼の強さは噂では聞いているし、実際に見たことも一回だけある。だが、対決するのは初めてだった。アルバは、自分よりも背が低くどちらかと言えば華奢だ。それに、目が大きく童顔で、可愛い顔立ちをしていて、もし背中に黒の大剣を背負っていなければ、剣士だとは誰も気づかないだろう。


アタナトが、意を決してトモエの剣をゆっくりと抜く。その剣はあの時と同じように美しく弧を描いていて、刃もまるでトモエの心のように美しかった。アタナトの脳裏にあの血まみれのトモエの姿が浮かぶ。(私は必ず頂を目指します。トモエ殿、どうか見守っていてほしい)アタナトは心でそう思うと静かに剣に頭を下げた。


「アタナトさん。剣技では、俺は君に言うことはない。むしろ、俺が教えて欲しいくらいだ。」


アルバは、アタナトの前で剣を構えるとそう話しかけた。だが、それは謙遜中の謙遜であることはアタナトには分かっていた。アルバは、毎日のようにサカテやベルトランと剣を交えていて、その基本はジャンに教えられている。初めはそうだったかもしれないが、今はそうではない事をアタナトは知っている。アルバは天才ではないかもしれないが、努力で頂へあがるタイプだ。


「だから、とにかく「意志の力」を呼び覚まそう。まずは、それを自分で感じてみて!」


アルバはそう話すと、いきなり何の前振りもなしに意識を集中し、ジルから学んだ「意志の力」を解放した。それは、アスランという島で聖騎士ミロから稽古をつけて貰った時に、彼が自分にした事と同じだった。アルバは、それを真似ることにしたのだ。理屈や言葉よりも体感したほうが早い。その事をアルバは聖騎士ミロから学んでいた。


やがてアルバの体から黒いオーラが現れ始める。




「ありゃ、アルバくん。本気でやるみたいっすね…。」


「みたいですね…。」


ジャンとサーシャは、アルバがやろうとしている事を直ぐに察知して、アカネとパオラを後ろに下げさせた。そして、神の力と意志の力をそれぞれその場に解放し、2人を守るように前に立つ。だがその間にも、黒いオーラは着々とアルバを囲み始めた。


「うう…。」


アタナトは初めてアルバと剣を交えることになったわけだが、いつも見ているその黒いオーラのプレッシャーの恐ろしさに腰が引けた。


(これが…いままでアルバ様に挑んだ相手が受けた…恐怖か…まるで足が動かない…。)


アタナトがそう思った時、ついにアルバの黒いオーラはアルバの剣と体から膨張し始める。そして時が立たず一瞬でその膨張した黒いオーラがアルバを中心に四方八方に解放された。


グォーーーーン!!


と、爆音とともにまるで心臓を刳り貫かれるような恐怖と絶望がアタナトを襲う。城はまるで大地震にように揺れて、大気にも波動のような振動が襲う。やがてそのオーラの力は空中を這う巨大な黒い炎のように一気にアタナトの体を襲った。


「うわっーーー!!?」


アタナトはそう叫び声をあげながらその場から吹き飛ばさ、城の壁まで飛ばされる。「ぐぁっ!!」石壁に背中を激しく打ち付けられ、アタナトは激痛に呻き声をあげた。だが、このままの体制でアルバの一撃を喰らったらひとたまりもない。


「ぐぐぐっ…。」


彼は必死に足に力を入れようと試みる。だが、アタナトはアルバの放つ黒いオーラのあまりの恐怖に立ち上がることすら叶わない。顔をあげてアルバを確認するが、彼は遠く近づくことさえ許してくれそうもない。


「こ、こんなにも…差があるのか…?」


アタナトはアルバの本気の戦いを一度しか見たことがない。その相手は、自分が持っている剣を操るトモエを殺した魔人のプリンセス、ベアトリーチェだった。ただ彼女はあまりにも強すぎて、アルバの強ささえ霞んで見えてしまっていた…と言うことか。(あのベアトリーチェはこのプレッシャーにも動じず、打ち払ったということか…)その事実にアタナトは驚愕した。ロハンでベアトリーチェと再会した時に、彼女に斬りかかろうとした自分の愚かさに恥じた。おそらくベアトリーチェにかかれば、自分など剣を抜く事さえ出来ず絶命していただろう。


「アタナト!立つ事も出来ないのか!?」


アルバはそう言って、彼の心を鼓舞する。アルバは、まだ全力で黒のオーラを解放していない。それをさせたのは、先日戦ったコルドバと聖騎士ガクヒだけだ。この程度のプレッシャーなど簡単に跳ね返せないと、聖騎士はおろか中位の魔人に対抗することすら難しい。


「アカネを守るんだろう!?」


アルバはそう言い放つ。それは、かつてミロが自分に投げかけた言葉だった。「サーシャを見捨てて逃げ出すのか!?」その言葉で彼は立ち上がれて、ミロに対峙することができた。


「アタナト!!」


意識が遠のく中、アカネの叫び声が微かに聞こえる。聖女の言葉に、騎士は強く自分の心の中に彼女を感じさせる。(なんとしても立ち上がらなくては…)彼は…剣を大地に突き刺し、ゆっくりと立ち上がった。それを見たアルバは、彼に満足そうに話しかける。


「お前には、アカネと聖騎士トモエがついている。俺の黒いオーラを弾き返せると…信じるんだ。」


アルバはミロとジルに言われた言葉をここで復唱した。その原理はわからないが、自分で想像できることは具現化される…それが「意志の力」の正体だ。


「うくく…。」


アタナトは何とか立ち上がると、一歩づつアルバに近づいていく。意識を集中させアルバだけを見る。


「どうした!聖騎士トモエならこんなプレッシャー平然と立っている!」


アタナトはその言葉に、右手に持っていた暗剣に力を込める。そして無意識に、その暗剣をアルバに掲げた。(跳ね返せ!!)暗剣から…声がした。それは間違いなくトモエの声だ。


「うおおおおおっー!」


アタナトは体の奥底から力を生み出す感覚があった。そしてそれはやがて体全体に感じられ、やがて彼の体から何かが噴き出し始めた。だがそれは、まだ実体がない。ただ大気が微かに揺れた程度だった。と、急にアルバのプレッシャーが弱まった。


「ん?」


黒い霧がはれて、視界が開ける…。ふと前を見ると…アルバがいない。


「ここだ!!」


急にアルバの声が真後ろからした。アタナトは、大慌てで暗剣と聖剣をクロスさせアルバに斬りかかったが、その瞬間再びアルバは姿を消した。「バカな!!?」アタナトは驚き慌てふためいて周りを見たが…いない。しかし次の瞬間、いきなり自分の真上から気配がしたと思うと、巨大な黒剣が目の前に現れた。


アタナトは反射的に体を屈め、その一撃を躱すとそのまま地面に転がる。しかし、転がったその先にはすでにアルバが待ち受けていて、次の瞬間、彼の首にはアルバの黒剣が添えられていた。それは…言い訳の効かない見事なまでの完敗だった。


「アタナト、どうだった?」


アタナトの首に剣を添えながら、アルバは汗一つかかないでそう尋ねてきた。アタナトは自分の首にアルバの黒剣を感じながら、


「何も…できませぬ。何も…。」


と漏らすのが精一杯だった。彼は…もう少し戦いになると思っていた。だが、これはもはや戦いとは呼べない。だが、アルバは首を横に振ってその言葉をやんわり否定した。


「やはり…君は「意志の力」を持っていた。一瞬、俺の力が押し戻された。おめでとう!やっぱ、君は騎士だ!」


アルバはそう話すと、にっこりと笑い黒剣を背中に戻した。そしてアタナトに手を差し出す。不思議とアタナトは、その手を掴むと急に力が戻ってきてすんなりと立ち上がれた。


「ありがとうございます。」


アタナトは自分より少し背の小さいアルバを見据えて、大きく頭を下げた。




と、その時に先ほどアルバが黒いオーラによって城が激しく揺れたため、心配したサカテとコルドバがその場に慌てて現れた。


「なんだ…模擬戦かよ!」


サカテは、アルバとアタナトの姿を見るなりそう漏らした。彼女にしてみれば、会議でモモから敵について詳しい説明があったため、また変な奴がロハン城に攻めてきたと思ったのだ。コルドバことユラは、キョロキョロ落ち着きなく辺りを伺っている。アルバはそんな2人に向かって嬉しそうに叫ぶ。


「サカテ!アタナトさんが少しだけど、「意志の力」を出した!」


「へぇ!すごいじゃないか!」


「そうだろ!俺はアタナトさんは、絶対使えると思ってた!」


アルバはそう話すと、サカテとユラはゆっくと2人の元へと近づいていく。するとサカテは、アタナトが暗剣を持っていることに気づいた。サカテは、そんな彼を見ながら


「アタナトは背が高いから、2本の剣を持ってもバランスが良くてカッコイイな!」


と、笑って褒めた。「は、はぁ…。」まさか、そこをサカテに褒められると思っていなかったアタナトは、驚いて恥ずかしそうに顔を下に向ける。

アルバは、そのサカテを見て満面の笑みを浮かべて


「なぁ、サカテ!折角来たんだ!ちょっと、相手してくれ!」


と、剣の相手をお願いした。だが、サカテは碧壁した表情で


「は?やだよ!もう水浴びしたからさ。」


と、ぞんざいに断る。彼女は水浴びを済ました直後だったのと、長い会議の後で疲れていたのでキッパリとお断りした。アルバは少し残念そうな顔をしたが、彼女の横に立つユラに目をやると


「そっか…。あ、ユラさん!ちょっとこの前の続きをどうですか?」


と再び目を輝かせてお願いする。だが、ユラは先日それなりにアルバとの模擬戦で酷い目に遭っている。


「あ…えっと、私も私の心の中のコルドバも…アルバ様と剣を交えるのは、もう懲り懲りだそうです…。」


と、恐る恐る遠慮した。だがそれも致し方ない事で、先日コルドバと化したユラは、暴走したアルバに殺されそうになっていたからだ。


「はい、はい。君の相手は、僕がしてあげますよ〜!」


その様子を見て、呆れたような声でジャンが仕方ないとばかりに前に出てきた。


「おっ!さすがジャン!この訓練バカのやる気を削いでくれ!」


サカテがそう笑いながら叫ぶと、アルバとジャンは久しぶりにお互い本気で打ち込み始めた。

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