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サーシャの昼食とアルバの弟子入り



一方、大問題が勃発しているルンから馬で半刻ほどの距離にあるワラミ村では、ルンの執政官宿舎とは対照的な、とっても慎まやかなアルバの家で例の3人が肩を寄せ合い遅い昼食をとっていた。いやはや本当に狭いので、アルバとサーシャは言葉通りピタってくっついている。

アルバは手を動かすたびに艶やかに擦れる彼女の右肩をとっても気にしていて、頬を赤くしながら何かとチラチラと見ていたが、サーシャは澄まし顔で静かにスープを口にしていた。そしてもう一方の小さい彼女は、そんなことはまるで気にせず一心不乱、ランチにとっても夢中だった。


「お姫様の料理は、ほんとうまいな!」


その黒装束を着た槍使いのサカテは、サーシャの作ったサンドイッチを口にして思わずそう声をあげた。まぁ、その意見にはアルバも大きく賛同している。


「ふふっ。サカテさんのお口にあって何よりですわ。」


料理を作ったサーシャは満足そうな顔を浮かべたサカテを見ると、口に手を上品に添えると、嬉しそうに微笑んだ。

結局彼女は、昨日の残り物をうまくアレンジしてサンドイッチと野菜のスープを作ってくれたのだが、これがまた見事な味だった。サンドイッチなど具材が同じなら味に大差がつくことはないはずだが、彼女が作ったそれは味が深くスパイシー。どうやらソースに秘密があるらしい。


「いや、これは参った。僕は女だけど、嫁に来て欲しいくらいだ。」


「まぁ…。」


「もう、飯だけ作ってくれればいいからさ。」


「ふふっ。サカテさんは、胃袋を掴まれると弱そうね。」


そんな他愛もない会話をしているサーシャとサカテ。

その様子を見たアルバは、なんだかとっても安堵した。なにせこのお二人さん、盗賊のアジトからこの村に帰るまでほとんど口をきかなかったのだから。

だけど、今はとっても普通に話していて、若干壁を感じるものの会話は成り立っている。意外にも幼く見えるサカテが主導権を握っているので、それがまた何とも面白い。


「ところで、サカテさんって歳はいくつなんですか?」


ふとアルバは最初から気になっている事を聞いてみた。彼女は体が子供のように小さいのだけど顔は切れ長の目が特徴的で、とってもクールでカッコいい。顔だけ見れば自分より年上である事は間違えないのだが。


「女性に歳を聞くなんて失礼な奴だな。」


だけれども彼女はすぐにそう言って口を尖らせた。だが昨日までお年頃の女性に知り合いがいなかったアルバがそんな事を知る由もない。


「あっ、すいません。知らなくて…。」


頭を掻きながらそう弁明する。


「…僕は25だ。」


「…へっ?サーシャよりも年上なんだ。」


「それ、褒めてんのか、貶してんのか、どっちだ?」


「一応、若く見えるって…褒めてます。」


アルバがちょっと後退りながらそう漏らすと、今度はサーシャが彼女に問いかける。偶然だがそれはアルバが最前から気になっている事と同じだった。


「ところで、サカテさんは何故あんな場所にいたのですか?普通、鉱夫でもない限りあのような場所、来ないでしょう?」


「ああ、それなら大した事じゃない。僕はさっきの盗賊たちの用心棒だったからさ。」


パンを嚙りながら、そんなとんでもない事をさらって言うサカテさん…。

だけれども、こちらは腹の底を鈍器で殴られ、ついでに神様に雷を落とされたかの如く驚いて、思わず椅子から飛び上がってしまったほどだ。


「はぁっ〜!!?」 って、アルバはただでさえ大きい瞳を更に見開く。いやはや、さすがに呑気な自分でも、これにはさすがに驚愕した。というか、目の前のこのお二人さんには驚かされてばかりだったが、この時も当の本人は小さいため息を漏らし、逆に驚いているアルバにとっても呆れているようだった。


「おいおい、そんなに目くじら立てるなよ。結果的に僕は君らを助けただろ?」


「それはそうだけど…。じゃ、これまではサカテも盗賊に加担してたって事だろ?」


「う〜ん、その質問に答えるならノーだな。僕は、今回ある理由で盗賊なんて連中に関わった。その理由は…君も知っていると思うけど?」


その言葉に、そうか…ってすぐにピンと来た。理由はまだ知らないけど、彼女は最初からサーシャと知り合いになりたがっていた…。何しろ、自分を助けてくれた理由もそれだ。


「ふふっ、アルバ。サカテさんは悪い人じゃないと思います。きっと深い事情がおありなのだと思いますよ。」


全く事情を知らないサーシャがスプーンをテーブルにそっと置くと、そう口にする。

まぁ、それはとってもお優しいサーシャさんぽいご意見だ。

だけど、ここまでくるといよいよこのサカテがサーシャとお近づきになりたい理由とやらを知りたくなった。この小さな槍使いさんはサーシャのいう通り悪い人には見えないんだけど、どうにも腹に一物を隠し持ってる気がしてならない。だがらサーシャに危害を加える気は無いって事をもう一度だけ、念押ししてみる。


「じゃ、本当にサカテさんは盗賊の仲間じゃないんですね?」


「ああ、神に誓ってもいい。」


「…サーシャを攫わない?」


「当たり前だ。大体、僕が本当に盗賊の用心棒をしてたら、君なんて手も足も出ないよ。…結果的にそこのお姫様だって助けられなかった。」


彼女の切れ長の目が、怪しく光る。

その怖いけれど屈託のない瞳を見て、一度立ち上がってしまったアルバは若干申し訳なさげに顔を伏せ、丸椅子にゆっくりと腰を下ろした。

…別に彼女を怖かったわけじゃない。むしろね、その堂々とした物言いが羨ましかったのだ。

情けないけど…きっと、師匠さんもそんな喋り方をするんだろうなって思って気持ちが少し落ちる。


「…すごい自信なんですね。」


しみじみと言ってしまった。


「まあね。」


「何で自分にそんな自信が持てるの?」


「さぁ…。」


「修羅場をいっぱい潜ったから?それとも…修行や鍛錬の賜物?」


「…どうだろうね。」


その曖昧な返事を聞いた時だった。

ある事を、ふと思い出した。

そういえばこのお方、自分で自分の事をたいそうお強いと言ってらした事を。

と、いうことはだ。

そんな彼女に戦い方を教われば、強くなる近道ではないかと…。

云々、これは無知な自分がよくぞ思いついたって喜び勇んで彼女に目を向け、大声で叫ぶ。


「サ、サカテさん!!」


「は、はい?」


「俺に、戦い方を教えてくれないか?」


小さな丸机に両手をバンって置き、彼女の方へと前のめりになって尋ねる。

…きっと、目が血走っていただろう。見ればクールなサカテさんの顔が狼狽し、若干腰が引けている。云々、キスするんじゃないかってくらいサカテに顔を近づけてしまっていたのだけど、だがそんな事は気にしてられない…何しろ自分は必死なのだ。

アルバが思いついたのはこの槍の名手さんに稽古をつけてもらう事。以前、彼女は一人の男を除いて誰にも負けてないと豪語していた。見た目からは想像できないが、もしかしたら師匠さん並みにお強いかもしれない。ならば、こんないい機会を逃すわけにはいかない。

…何しろ自分は、サーシャに相応しい騎士になる為に1日でも早く、強くならなくてはいけないのだ。


「…いいけどさ、じゃ君も僕との約束を違えるなよ?」


やがて彼女は自分の目を睨むようにまっすぐ見つめ、そう問うて来た。

それは彼女がサーシャに何か頼みごとをするときに、一緒に頭を下げて頼んでくれというものだった。


「…本当にサーシャが嫌がることじゃないんだな?」


アルバは諄いほど確認する。


「当たり前だ。僕は別に彼女に恨みがあるわけじゃない。」


「…分かった。それならできる範囲で協力すると約束する。」


「よし、決まりだな!」


彼女はニカッって笑うと、大げさに手を叩く。

アルバも覚悟を決めたように真剣な眼差しで頷いた。それは、意思のある魅力的な目だ。

( へぇ…、いい顔するんだな。 )

そんな彼を見据えたサカテはそう思うと、小さい手を握りアルバの顔の前にそっと突きつける。


「どうだい?今から、やってみる?」


「い、今からですか?」


「うん。こういうのは、思いついた時にやった方がいい。」


「…じゃ、よろしくお願いします。」


アルバはそう言って、大きく頭を下げた。

言葉ではとても控えめに言ったのだけど、心では、よし!!って思った。

( この短い時間でも、意外に強くなれるかもしれない…。 )って、何やら自信まで浮かぶ。

だけどそれは希望的観測、確固たる理由などない。

とにかく、サーシャの為、彼女を安心させる為…でも一番は彼女の側に少しでも長くいる為なんて下心なんだけど、まぁ、その為にはとにかく強くなるしかないのだ。


アルバは、顔を俯かせながら、チラッとそのお相手のサーシャさんに目をやった。

…その時、何気に彼女の顔色を伺ったんだけど…なぜだか、とっても寂しそうな…寧ろ切なそうな表情を浮かべてしまっていた。

( あれ?どうしたのかな…。)って不安になった。彼女はこれまでいつも笑顔だったから。

ただ…何かを言いたげだったその時の彼女は、口を噤んだまま、結局何も言わなかったのだ。

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