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修道院




ルンという街がある。

そう、アルバが村からえっちらほっちら3時間もかけて歩いてきて、石を売るザグレア地方有数の大都市だ。


そしてこの大都市の中央には、執政官宿舎なる仰々しいお名前がついた建物があった。

白石で作られた美しく十字に広がるこの建物は、経済都市ルンを象徴した大きな構造体だ。「執政官宿舎」との名から、単純に執政官の住む家という意味に勘違いする者が多いが、実際は町の有力者が達が意見交換したり、治安維持を目的とした警備と軍備を司る街の行政機関が集まった重要な拠点でもある。

またこの時代の人々の心の支えでもある神に祈りを捧げる「ルン修道院」も、すぐ側にあったりした。ちなみにルン修道院もここザグレア地方で最大の修道院で、一説には教団にとってかなり重要な場所であることでも知られていた。


さて、この豊かな街の最大の収入源は「鉄」と「石」の採掘・加工・販売だ。だがそれは大きな恩恵をもたらすが、争いの火種にもなる。大きな利権は度々、内部の権力闘争の元になっていたが街が一番恐れているのは、外部からの圧力だ。


ここは「ザグレア」という、元世界に13あった国のひとつの街だった。「ザグレア」は、元々水の豊かな国で農業を中心とした穀物大国で、豊かな大地とともに人々の生活は豊かだった。


だが、ある年から水が枯渇する。


農産物を全て自国で賄っていた同国はあっという間に疲弊した。

実はこの年は他の12の国でも同様なことが勃発している。


世界中が自国の民を守るため、富と食料を求めて戦争になった。


そして300年前、当時国王だった「ザグレア5世」が隣国の「フィルファ」という国に戦争を仕掛けた。だが彼が攻め入った理由は他の国王と違っていたと言われている。一説には「ザグレア5世」はこの世界の理を知って、世界制覇する野望があったと伝えられた。


だが、彼は突如世界から消えた。その一族も貴族も軍も。「ザグレア5世」の野望に加担した中心人物が根こそぎいなくなったのだ。


正当な王位継承者や実力者がいなくなったため、「ザグレア」の街は自治をはじめ、民を守った。ちなみに「ザグレア」にもともとあり、自治をはじめた街の数は13で、「ルン」もそのひとつの街である。


そして、今。このルンに、一人のとっても招からるざる客を迎え、会議が紛糾していた。


「ルン」の執政官であるジェニファ・ロダンは、紛糾する会議を黙って見つめていた。この会議室は、縦に長い長方形になっていて巨大な一本木から造られた縦長の机が中央に置かれている。

その机を囲うように12人の街の有力者たちが怒鳴りあいながら、意見を述べあっていた。

街の最高責任者ジェニファ・ロダンは、80歳と高齢だ。長く伸ばしたヒゲを蓄え丸メガネをしている。やせ細ってはいるが、目の奥に感じる炎のような力は失っていない。


その彼と対峙するように巨大な机の反対側に座る男もまた黙って会議の様子をみていた。

彼の名は、セザールという。

赤い長髪が印象的で、眼光鋭く、全体的にすらっとした外観、パッと見はクールに見えるがどこか不気味な印象を与える人物だった。紅の重厚な鎧にグレーのマントを羽織っていて腰には立派な剣も帯びている。


「もういい!!」


ジェニファ・ロダンは、自分たちの利権を守るために怒鳴りあっていた街の有力者たちを一声で制した。一斉に声がやむ。この街は大きいゆえに有力者も多い。その為、こういう一大事な時に意見が纏まらないのが玉に瑕だった。

ジェニファ・ロダンはその中でも実力者と知られ、権限は強いが街の全てを勝手に決めれるわけではない。その為、大ごとの場合にはこのような会議で合議して決めるのだが、これが中々まとまらない…。

やがてそんな会議の様子を見て、セザールがゆっくりと立ち上がった。


「執政官ジェニファ様。そろそろ腹を決めていただけないでしょうか?」


彼は大きなため息をつきながら、まずそう切り出した。

いやはや、この意味のない会議を続けても何も決まらないことは明白だった。普段は温厚で滅多に声を荒げない彼もいよいよ痺れを切らしたというわけだ。

ジェニファ・ロダンは、突然立ち上がった彼を苦渋の表情を浮かべ、仰ぎ見た。


「セザール殿。鉄の値段については交渉の余地はある。だが、鉱山の利権については渡せない。」


「ほう、それが最終決断と受け取ってよろしいですかな?」


彼は、この老齢な男の言葉に大きなため息をつきながら、そう答えた。


セザールは、ここから100kmほど離れた「ロハン」という街から来た使者だった。彼の提案は、「王」のいない時代を終わらせ「ザグレア国」復活したいという内容でそのために、自分たちの街「ロハン」の領主を王とし、国つくりに力を貸せということだった。


力を貸せといっても実際は、ルンを支配下に置きたいということだ。

ようは、脅しにきたのだ。


「ご存知かとは思いますが、我らが街「ロハン」は、人口数が他の街に比べ圧倒的に多く、最後まで他国の軍と戦ってきたので軍備、兵の数、経験すべてにおいて他の街を凌駕しています。この街を滅ぼすなどそう時間はかかりませんが、よろしいですか?」


「従わないものは滅ぼすのか?ろくな交渉もせずに。だいたいルンとロハンは今まで協力して生き延びてきた。それをいきなり…あなた方の領主殿はなにを考えておいでか?」


ジェニファ・ロダンの言葉は若干チカラない言葉に聞こえた。。確かに2つの街は、国が滅びて以来ルンが経済、ロハンが軍事とそれぞれに助け合ってきた間柄だ。だが、それは信頼関係があってこそだ。ロハンの領主ダニエルとロダンは毎月のように親書を交わし、長年親睦を深めていた…はずだった。

だが彼の言葉を聞くにつけ、どうやら老獪なロダンも気づかぬうちに彼らに利用されていたにすぎなかったようだ。


「交渉?笑わせないでください。交渉というものは背景に力があってこそ意味があるもの。ろくに軍隊も持っていないこの街に、交渉などというものができるとでも?」


「…」


それは真意をついた言葉だ。確かにルンの街は防衛、治安をロハンに任せっきりだった。ロダンは深いため息をついて椅子に深く座り直す。


答えないジェニファ・ロダンにセザールは大きく机を叩いた。

40歳を迎えたこのロハンの将軍は、苦渋の表情を浮かべながらついに最後通告とも取れる言葉を口にした。


「わかりました。お話ししてもご理解いただけないようなので、一度お見せしましょう。私たちの力を。その後なら、きっとご理解いただけると信じて…今日は失礼します。」


「それは、本気でこの街にせめこむということか?戦争なぞ何も生まぬぞ。それは歴史が証明している。」


「この戦争は、あなた方が引き起こしたのだ。ロダン殿。それに…もはや事は動き出してしまった。この国は再び戦乱に巻き込まれる…」


彼はなにか憂いのある表情を浮かべた。ロダンは戸惑った。この男の真意が見えない。


セザールは、ロダンを一瞥して、ゆっくりと窓から見えるルン修道院を見る。


巨大な神の紋章と、女神の微笑みと言われる教団のシンボルが彼の目にはいってきた。(あの修道院を…彼の方は本当に壊すのつもりなのか…)彼はまたも苦渋の表情を見せる。


だがしばらくして、その場に一礼をして会議室から出て行った。




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