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盗賊たちとの戦い

ドドドッー。

森の奥深くからの響くような低音の揺れを、最初に感じ取ったのはサーシャだった。

美しく整った顔を上げて、黄金色の髪を揺らす。

そしてその様子を見たアルバも、彼女の視線の先である森へと目を移した。


「馬の蹄の音のようですね。」


サーシャは落ち着いた声でそう呟く。アルバは彼女が作ってくれたお弁当なるものから手を離すと、そのままゆっくりと立ち上がって耳を澄ました。


「また昨日の連中かな…。」


アルバはあからさまに顔を顰めて頭を掻いた。確かに彼女の言う通り、森の方角からそんな音がする。こんな時間に馬を走らせる鉱夫や兵士などいるはずもないし、これまでも見た事もない。さりとて、わざわざ馬を走らせてこんな山奥にくる御仁などまぁ、いるわけがない。

と言うことは、ほぼ間違いなく昨日の盗賊連中だと予想できる。

自分は彼らの仲間を一人斬っているし、そう簡単にサーシャを諦めてくれるとは思っていなかったけど…。


「アルバ、どうしますか?」


やがてサーシャがそう問うてきた。


「どうするもこうするも、俺は師匠さんじゃない。…逃げましょう!」


「ふふっ。はい、騎士様!」


サーシャがそう可愛く微笑んだ途端、彼は彼女の手を握って一目散に山へと駆け出した。本当は森の中へ逃げ込んでどこぞへ隠れるか、村まで戻りたかったが、奴らはその森からやってくる。少し距離はあるが、なんとか逆方向にある鉱山の穴の中に逃げ込んでやり過ごすしかない。相手は馬に乗っているので少し無理があることは否めないが、彼自身が言ったように、アルバは元々彼女の騎士だった凄腕の師匠さんではないのでとりあえずは逃げるしかないのだ。

( 逃げれるかなぁ…。 )

なんて悠長に構えながらも彼は、朝日の始まりである藍色に染まった芝生の様な草原の上を、彼女と2名で懸命に駆ける。必死に呼吸しながら、全身の力を込め、全身全霊で体を動かす。もうね、息も絶え絶えになって、足が絡まって転んじゃうんじゃないかってくらいになっても走り続けた。

なんでこんなにも速く走れるのか自分でも目を丸くするほどだったけど、むしろね、なんでお姫様みたいなサーシャがそんな自分の速さについて来れるのか、そっちの方が興味深い。しかも振り向けば、なぜか彼女の顔は余裕の澄まし顔だ。

やはり、物の怪…。なんて、頭を掠めるが流石にもうそれは本気では思わなくなった。昨日、血を吸われなかったし…。


やがて、朝日が少しづつ昇ってきたのか、空の藍色が徐々に明るくなりだす。

彼は思わず舌打ちをしてしまった。

もし陽の光がこの場所を照らせば、ここは背の低い雑草しかない草原地帯。隠れる場所がないから、すぐに見つかり捕捉されてしまう。しかも相手は馬で追ってきている。いくらアルバが足が速いと言っても、相手が馬では機動力という意味でも惨敗だ。


( 戦うしか…ないのかな…。 ) アルバはいよいよそんな事が頭をよぎりだした。

だがそれは、どう考えても無謀だ。確かに昨晩、ちょっとだけ背中に背負った大剣に剣技を習うなどという信じられない体験をしたが、流石に一夜漬けの剣技で複数いる盗賊さんたちに対抗できるとは思えない。もし逃げているのが自分一人なら、いよいよ追い詰められた時にそんなお試しもあってもいいかとは思うが、何せ彼は今、サーシャの運命をも背負っている。博打は打てない…。


それに臆病代表のような彼は、できれば実戦など体験したくはないっていうのが本音だった。だけれども、そういう時の希望は軽々と打ち壊される。それは今回もそうだったらしい…。


「いたぞ!!くそ!逃げてやがる!!」


「おー、金髪の姉ちゃんだ!本物だ!!」


やがて、ドドドッーって馬が大地を駆る音ともに、森の方角から盗賊たちと思わしきドスの効いた声が辺りにこだまする。

アルバが走りながらチラッて後ろを振り返ると、森の方角に4頭の馬が砂煙を上げながらこちらに向かってくる様が見えた。太陽はまだ昇っていないというのに藍色と白の光が蒼々と辺りを照らしていて、敵の様子がしっかり見える。だがそれはすなわち、相手にもこちらがハッキリ見えるという事だ。


「まいった…馬で来られたら、戦いにならない…。」


アルバは思わずそう漏らす。騎士などが馬に乗って剣や槍を振るい、敵兵を散々な目に合わすなんて様は、さすがにアルバでも噂に聞いた事がある。大体、馬が迫ってくるだけで怖いし…。だが、それを聞いたサーシャはクスって笑った。


「ふふっ。彼らは、馬からは攻撃して来ないですよ。馬で回り込んではきますが、必ず馬から降りて戦いを挑んできます。」


「へっ?どうして?馬でそのまま来るんじゃないの?」


アルバは、手を引くサーシャを見返してそう尋ねる。どう考えてもそっちの方が早いし、相手にとっては楽そうだ。だが彼女は一度苦笑いを浮かべながら肩をすくめると、ゆっくりとした口調でその理由を話しだした。


「馬上で、剣や槍を使って攻撃するのは、実はすごく高難易度な技なんです。盗賊さんたちにそんな真似ができるとは思えません。それに、アルバは昨日の夜に敵の一人を見事打ち取っています。盗賊さんたちは、アルバの力量を測りかねてると思いますから、不慣れな馬からでなく、降りて戦いを挑んでくるのが定石です。ですが、もし彼らが馬で来たら、儲けもんです。横に回り込んで馬を狙いましょう。お馬さんたちには申し訳ないのですけど。」


…貴女は軍略家ですかー?って、アルバは問いたくなった。


「へぇ…。サーシャって物知りなんですね…。」


「ふふっ。アルバは案外、呑気ですね。」


こんな時だというのに、2人は走るスピードを緩めて笑いあっていた。

特にサーシャは、まるで何も恐れる事がないかのように普段と全く表情が変わらない。それがアルバにはどうにも解せなかった。

表情には出ていないかもしれないが、自分は結構ビビっている。


「サーシャ…なんでそんなに落ち着いていられるの?」


たまらず尋ねた。


「そんなの決まっているではありませんか。…騎士様がお側におられるからです。」


なんてサーシャはニコって微笑みながらそんな言葉を口にする。

…空いた口が塞がらないというのはこの事だ。…まぁね、本物の騎士様がいたらそうなんでしょうけど…って臨時の騎士様アルバ様はそう思った。


「…今の貴女の騎士様は、かなり追い詰められていると思うんですけど…。」


少しだけ皮肉を言ってみた。だけどやっぱり鷹揚なサーシャには効果がない。


「アハッ。私の騎士様はこんな事くらい、へっちゃらです。だいたい、今だってアルバは落ち着いているじゃないですか?とても追い詰められているようには見えませんよ。」


彼女のその言葉に、アルバは思いっきり苦笑いを浮かべて頭を掻いた。

自分はただの物売り。何の解決能力も持っていないからこそ、右往左往する事すら出来ないのだ。それに一度逃げると決めた以上、どんなに格好悪くても一目散に逃げるしかない。だから今も走っているのだ。

だが彼女は、そんなアルバの気持ちを全く知りませんとばかりに、昨日までと変わらない溢れるような笑みを浮かべ、信用しきった顔で見つめてくる。

「騎士様なら、サクっと倒せるでしょう?」ってな視線で。

だけどね、悲しいかな実力が伴っていない新米騎士で偽物のアルバにしてみれば、そんな彼女の微笑みは逆に痛い。とんでもないプレッシャーだ。


「アルバ、お腹すきましたね…。」


すっかり驚愕している自分に、彼女はふとそんな事を言ってくる。アルバは若干あきれ顔だ。


「こんな時によくお腹すきますね…。」


「ふふっ、私はこう見えて食いしん坊なのです。…早くお弁当食べたいものです。」


「ですが…こんな状況では…。」


「本当ですね。まったく…迷惑な連中です。」


もうね、彼女の鷹揚さには、呆れるを通り越して賞賛すらしてしまう。

やはり今まで散々守られてきたからだろうか…。まさか、この見た目ですげー強いとかないだろうし…。むしろ雷でも落としてくれればいいのに…なんて冗談が頭に浮かぶ。この時にそれを思ったアルバはある意味天才だが。


だがしかし、現実はそんなんほのぼのしていない。

敵の脅威は、どんどんと近づいて来ている。


馬の蹄の音はますます大きくなり、大地の振動まで伝わってくる。


あっ…ダメだって思った。

こりゃ、逃げきれない。


やがてアルバは、ゆっくりと走るのをやめた…。

サーシャもそれに合わせて静かに止まる。




そんな2人を見て盗賊たちは、「ついに観念しやがった!!」…そう思ったのだろうか。ドリ率いる盗賊一家のガラが悪く、如何にもなセリフをアルバとサーシャに言い放った。


「くくくっ。お二人さん!今日はもう逃がさねぇぜ!?」


そうせせら笑いながら、やがて四方からサーシャの予想通り、わざわざ馬から降りて来た盗賊4名様。( あっ、ほんとだ。 )ってアルバは目を丸くした。

だがサーシャの予想は当たれど、この危機的状況はなんら変わらない…。

いかにも柄が悪そうな盗賊さんたちが、地平線に頭を出した陽の光を逆光で浴びながら、いよいよ二人を囲うように徐々に距離を詰めて来る。

ウンウン、朝日のおかげもあって盗賊たちのそれは迫力満点だ。


「…サーシャ、戦うしかないよね…。」


アルバはそう言って、チラッとサーシャに目をやる。

そして、背負った師匠の大剣に左手をかけた。緊張しているのか手が震える。

正面からは、チョビ髭が似合ってないおっさん剣士、右手からは、やけに体がもっさりとした髭面の赤鼻が鬼の形相で向かってくる。

( こわっ! )ってアルバは思わず体が震えた。だけど前回と同じく、そんな彼の気持ちを見透かしたようにサーシャは小さく頷いて、彼の右腕にそっと自分の美しい手を添えてくれた。そして、戦う事を選択した自分に優しい声で同意してくれる…。


「騎士様。戦いましょう。」


「はい。…あの…サーシャさん…聞いてもいいですか?」


「さん はつけないお約束です。…何ですか?」


「すいません。…えっと、俺…勝てますかね?」


「勿論です。」


毅然と答えるサーシャの声を聞くと、アルバはとっさに苦笑いを浮かべた。

その根拠を教えて欲しいとは思うが、不思議と彼女のそんな声を聞くと血が沸き立ち、全身に力が溢れ出すように感じる。

アルバはサーシャの気配を胸に感じながら漆黒の大剣をそろりと抜いた。漆黒の刃がスゥーって姿を表す。

アルバはその刃を無表情で見つめながら、昨晩、この剣から教えてもらったように、正面まっすぐに青眼の構えをとった。


( 頼む!師匠さん、力を貸してください! )


彼は一度目を閉じると、そう念じた。もう、今なら神様でも悪魔でも恋敵でもどんな野郎の力でも借りたいっていうのが本音だった。


「小僧!死にたくなかったら、女を渡せ!」


やがて正面から向かってくるチョビ髭剣士の怒鳴るような声が聞こえた。

…アルバは、そっと目を開ける。

だが、そこにはいつもの少年の目はなかった。時がまるで跳躍したみたいに、そして何かが彼の中で覚醒したように、生気溢れる力強い瞳を創り上げていたのだ。

その気配を感じた盗賊たちは、自然と足を止めてしまったほどだ。

だが、彼らとて命をかけた盗賊稼業。こんなガキの睨み顔だけで、いちいち引いていたら商売にならない。


「小僧が…。」


やがてチョビ髭剣士のラドゥは、手にしていた剣をいきなり突き出すと、そのままアルバに全力で突進して来た。アルバはあんな睨み顔をしたのだ。こいつが降伏しないことだけは明白だった。

アルバは…2,3歩、サーシャの前に出たが、そこからは青眼の構えをとったまま動かなかった。


「死ねや!!小僧!!」 チョビ髭剣士がそう叫んで、右手の剣を振りかぶった時だった。アルバはその身軽さを利用して、素早くその男の懐に入るや否や、体を屈ませながら大剣を持った左肘で、相手の溝うちを強烈にヒットさせたのだ。

「ぶわぁっ!!?」 いきなり予想外の反撃を受けたラドゥは、苦悶の表情を浮かべながらその場で動きを止め、打たれた腹を抑えながら屈んでしまった。勢いよく走って来たので、その反動は中々のものだったようだ。相手にとっては鎧を着ていなかったことも災いしたが、見事なアルバのカウンターが決まった。

( よしっ! )とアルバが呟く。

ーーだがそれで喜んでいる場合ではない。何せ相手は打撃を受けただけ。致命傷には程遠い。

だがそこからは、まるで本能のようにアルバの体が勝手に動く…。

「テメェ!!」と体勢を立て直しながらも、すっかり平常心を失ったチョビ髭剣士が両手で剣を持ち直した瞬間だった。

ーーアルバが漆黒の大剣を、その男めがけ横から一閃したのだ。

スパッ!と切れ味鋭い音が響いたかと思うと、その瞬間チョビ髭剣士の両手首は、剣ごとアルバの大剣に切り飛ばされていた…。

だが、血が出ない。…むしろ、極寒の風が吹いた様に感じられた。。

あまりの突然のことに、ラドゥは最初何が起こったか分からず、しばらく吹き飛ばされ無くなってしまった自分の手を見ていたが、やがて「ウワァーーー!!ウギャァーー!!」と悲鳴をあげ、泣き叫びながらその場で崩れ落ちていった。…手を失ったら、剣士も盗賊も続けられないからだ。


しかしとりあえずそれは、速さだけはあるアルバの一撃が見事に決まった瞬間だった。

( えっ…こ、これ、俺がやったのか…。 ) 

彼は震える手で剣を握りしめながら、目の前で倒れこんでのたうち回っている盗賊を見据える。

自分で自分を信じられないって感じで…。昨日は暗闇だったし、すぐ逃げ出したので実感が沸かなかったが、今は目の前で現実がしっかりと見えてる。


勝った…。


ーーだが、盗賊たちは当然そのチョビ髭一人ではない。


「やりやがったな!このクソガキが!!」


今度はいつの間にかアルバの右方向から近づいてきていた厳つい赤鼻の男がすごい剣幕で、三日月のような形をしたでかい剣を振り回し、アルバの首根っこを狙って思い切り振りかざしてきた。この盗賊一家の親分、ドリだ。

「げっ!」って、アルバはギリギリで体を大きくそらし、その一撃を躱す。

彼のそれは、ある意味信じられないほどの反射神経だ。

だが、このドリは先ほどのチョビ髭剣士のラドゥとは違い、勇猛果敢なことで知られるロハンで、本格的な軍事訓練を受けた元兵士。「クソがっ!!」って再び汚い言葉を叫びながら、すぐに剣を持ち直して逆方向から第二撃を繰り出してくる。一撃目を避けたことで大きくバランスを崩していたアルバは、止むを得ず左手に持っていた大剣でドリの一撃を受ける羽目になった。

キィーン!!って、金属音が激しくぶつかり合う音が響く。


下から突き上げる様なドリの一撃に、必死に黒い大剣で押さえ込もうとするアルバ。


一瞬、互角にも見えたその受けだったが、やがて体の軽いアルバはじりじりと追い詰められていく…。そりゃ、これだけの体格差。彼が押されるのも無理はない。

少しして勝利を悟った赤鼻の男は、一度ニヤッと笑うと続けざまに「ふんっ!!」なんて気合の声をあげて剣に力を込め、アルバを剣ごと上に飛ばす。

当然、思い切り力負けした華奢なアルバは、そのまま大剣ごと数メートル先まで吹き飛ばされてしまった。

重い…って、飛ばされながらアルバの顔が歪む。とにかく、がっちり体型のドリの一撃は重かった。


ザザァッーっ。

やがて草原に倒れこむアルバ。

だが、すぐに腕に力を込める。不思議と恐怖は感じなかった。

草の青臭い香りを受けながら、ゆっくりと立ち上がる。

…何しろ彼はサーシャを守らなくてはならない。


「………。」


アルバは無心だった。

やがて、タンって勢いよく一歩を踏み出した。

サァッ、サァッ、サァッ!っと、背の低い雑草をかき分け、飛ぶ様に大地を駆けて時をおかずその赤鼻のヒゲもじゃ男に再び戦いを挑む。…昨晩、それこそ手に持った漆黒の大剣に教わったこと全てをここで使おうと腹を決めた。

やがて…アルバは思いつく限りの攻撃を仕掛ける。

だが…余裕に満ちたドリのせせら笑いが消えることはなかった。

どんなに打ち込んでも、この相手には軽々と受けられてしまう。まるで、この赤鼻の男は自分がどこを狙っているのか初めから分かっているように…。

( な、何でだ?。 )

さすがの呑気者も驚愕する。

ただ、これは単に実戦経験の差だった。赤鼻のドリは、幾重にも死地での戦いを生き抜いてきた歴戦の猛者。対してアルバは今回がデビュー戦…こればかりはどうにも覆らない。


まるでアルバの力量を試すように、受け続ける赤鼻の男…。


と、その赤鼻ドリは、突如フェイントをかけてきた。アルバと撃ち合いながらも腰を屈め、いきなり足をはらってきたのだ。「くっ!」ってアルバは顔が歪む。予想もしない場所から、意外な打撃が来たからだ。いきなり足をかけられた彼は、大きくバランスを崩し、そのまま地面に転がされてしまった。


「これで終わりだな!くそガキが!!」


やがてドリが不気味な笑みを浮かべながら、大きく剣を掲げ、恐ろしいギョロとした目でアルバを見下ろしてきた。


( …えっと、これやばいな。どうしようかな…。 )


さすがの呑気者の物売りも、赤鼻を見上げながら額に汗を浮かべる。ここまで上手くいっていたのに、こんな場所で死ぬなんて冗談ではない。

と、この厳つい男は、突然に剣を大きく振りかぶった。

恐らくその偃月刀の一撃で、地面に転がったアルバの首を一刀両断しようと、思いのほか力を入れてしまったのだろう。

だけれども、その不必要な振りかぶりは大きな隙も呼ぶ。


( しめた!! ) っとアルバは心で叫ぶと、その僅かな隙に左手で持っていた漆黒の大剣を倒れこみながら、赤鼻の男の右足目掛けて勢いよく突き刺したのだ。


「グァッ!!」


と、ドリの苦渋に満ちた叫び声が上がった。

( よしっ! )アルバも心で歓喜の声を上げる。

ただその声とは裏腹に、倒れこんで剣を刺したためか目測が大きくずれてしまい、相手に与えたダメージはかすり傷程度の様だ。

やがてその赤鼻は、もう一方の足でうまく跳躍しながら後ろに下がり、アルバの間合いから抜ける。

( くそっ! チャンスを逃した! ) 

アルバの顔が悔しさで歪む。


ーーーーーだが、相手は足を負傷している。


( もう一度、足を狙う! )と、アルバが尚も、その赤鼻を追い詰めようと立ち上がろうとした時だった。


「動くな、小僧!!」


なんて、突然後ろから別の盗賊の声がした。

アルバが慌てて見返す。

( はっ! ) って思わず息を飲んだ。

彼の視線の先には、最も恐れていた光景が広がっていたからだ。


チャラい茶髪の男に後ろから羽交い締めにされ、

首に短刀を突きつけられた

サーシャの姿…だった。


「サーシャ!!」


彼は思わず叫んだ。

心の臓がドクンって波打ち、腑にドロドロしたものが蠢く。…何か体から恐ろしいものが飛び出ようとしている変な感覚に襲われる…。


「このガキが手こずらせやがって…。だが、これでオシメェだ。」


後ろからさっきまで戦っていた赤鼻の意地の悪そうな声が聞こえた。


「ひ、卑怯者…。」


アルバが苦悶の表情を浮かべながら振り返ると、その男は豪快に笑った。


「ガハハっ。そりゃ、俺らにとっちゃ最高の褒め言葉だ。さてと、剣を捨てな。あの女の顔に傷をつけたくなかったらな。」


ドリのせせら笑う様な言葉を聞いたアルバは、目を閉じながらゆっくりと剣を地面に刺したのだった。


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