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5分の戦い




カナイ村長とサーシャの話は、5分ほどで終わった。


ただ今のアルバにとってその5分は、中々に長く感じられた。堪え難い空腹なんてものもあったが、軽く頭の中が混乱したからだ。

その原因は勿論、目の前の老人と美女とのご関係だ。

2人はどうやら知り合いのようだけど、あの村長がサーシャに跪くとは思わなかった。記憶を無くしている彼は、勿論村長の過去なんてものは全く知らないが、70の老体ながらあの身のこなし、恐らく只者ではない事は想像に容易い。

( 実はサーシャは本当にどこぞのお姫様で、村長は以前、彼女の家来だったとか? ) なんて妄想が頭に浮かぶ。

…例えば、サーシャは親同士が決めたどこぞの王子との結婚が嫌になって、昔にとっても頼りにしていた元部下の村長さんのとこに逃げてきたとか?

…はたまた、実は2人は年の離れたカップルだったのだけど、王様にバレて村長さんはお城を追放され、それをサーシャが追ってきた…とか?

今になって思えば、サーシャは、とにかくこの村に来たがっていた。大金をくれ、料理まで作ってくれるなんて大盤振る舞いをしながら。


( はぁ…。 ) 何やらアルバは、自分の気持ちが一気に萎えたことを感じ取った。


いやいや、別にそんなに期待はしていなかったし、そもそもサーシャとどうにかなるなんて妄想も妄想だ。だけれどもこの気持ちの落ちようは、心の奥底で淡い期待なんてものがあったのだろうか…。

しかもサーシャが村長と話をしているだけで、何か胸が痛む。

自分で言うのも何だが、アルバは呑気で物事をあまり深く考えない。まぁ、何とかなるさで生きて来た。物にも人にも執着しない。でないと、こんな生活続けられない。

ところが、この気持ちは何だろう…もしかして、嫉妬?

だとしたら、おかしい。かなりおかしい。というか、ありえない。


アルバは唖然とした表情を浮かべながら、首を大きく振った。

そして歯を食いしばって思い直す。


そうだ、これで終わりだ。って、気づく。

サーシャがどんな理由にせよ、知り合いの村長に会いに来たのは明白だ。そしてその目的は果たされた。つまりもはや鉱山に行く理由もなくなったはずだ。なぜなら、それは村長に会うための方便なのだから。

だとしたら、自分がサーシャに万が一恋に落ちてようが、一目惚れしてようが、これでおしまいだ。

せめて美味しいご飯だけは作っていって欲しいが、彼女はすぐに村長の家に連れて行かれ、自分の元からはいなくなる。そして、もう二度と会うこともないだろう。


何だ、それなら、昨日までと何一つ変わらない平穏な生活に戻れるじゃないか。


めでたし、めでたし。


………。


………。


でも…いいのだろうか?って疑問も浮かぶ。

サーシャは、自分にとっても優しい…。誤解してしまうくらい…いや、そもそも誤解だろうか?だって、さっき、ハグ…された。あんな高貴で美しい女性が思い出に浸ったくらいで、好きでもない男性に抱きつくだろうか…。師匠…騎士様…なんて、いかにも男の影はあるのだけど、そもそもその2名様はこの世にいるのだろうか…。あの時の彼女の落ち込みようったら、なかった。なんか申し訳ないけど、むしろその2名様は死んでると考えた方が自然だ。


それに偶然に偶然が重なったとはいえ、アルバは彼女と手を繋いだりできた。しかも特に嫌がられてはいない。

例えば、ここでお別れして彼女が別の男性と手を繋いだらどうだろうか?イチャイチャしながら、「KINIKUNIYA」で買い物をしているのを偶然見かけたら…それは、すごく嫌だ。なぜか想像しただけで、死んじゃうほど胸が痛い。


さりとて、じゃここでサーシャと暮らす?イヤイヤ、ナイナイ。一番、ない。最もない。想像すらできない…。


やがてアルバは、自嘲気味に微笑んだ。

そして思い切り両手を天に向かって伸ばし、深呼吸をする。

いい夢見れたなぁって。


サーシャと出会って、10時間。さようなら〜!!って、やけになって心で叫んでいる時に、又しても奇跡は起きた。


「アルバよ、ちと事情が変わったのじゃ。後は、頼んだぞ。」


いつの間にやら、自分の側に戻って来たカナイ村長がいきなりそう告げた。…何やらその表情はとても満足げで嬉しそうだ。しかもそれは自分が想像していた言葉と大きく違う。


「へ?どういうこと…ですか?」


「上手くやれ。」


カナイは問答無用とばかりに、自分の言葉を遮ってその場から静かに去っていく…なぜか、一人で…。


「アルバくんー!もう少し煮込めば完成ですよー!早く、こちらに来てくださいよー!」


やがて、彼の耳に何とも嬉しそうなサーシャの声が届く。


( あれまぁ…。 )

すっかり妄想を外したアルバは一度大きなため息をついた。

悲劇のヒーローを気取っていたのに、どうやら結末は違うようだ。

そういえば、今日はツイていることをまたしても思い出す。


彼は大きな笑みを浮かべながら、彼女の元へと走りよったのだった。

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