あ、俺ちょっとトイレ行ってくる
とある高校生三人がファミレスに来ていた。
「てかさ、俺らめちゃ仲良いのに、この面子で飯食うの初めてだな」
「あー、確かにそうかも」
「マジでそうだわ。マジで」
そんなふうに和気あいあい楽しく食事をしていた。
「てか、俺ちょっとトイレ行ってくるわ」
一人のチャラチャラとした高校生が席を外した。
その背を見送り、残った二人が話し始める。
「……あー、やっぱあいつうざいわ。うざくね」
「マジでわかる。あいつほんとうぜーわマジで」
「最近、彼女ができたからってすげー調子乗ってるよな。あー腹立つわ」
「しかもあの可愛い里奈ちゃんが彼女だもんなー、マジでむかつくわ」
態度が豹変した二人である。
この二人、実はあのチャラ男が嫌いなのである。
件のチャラ男は、すっきりとした顔で戻ってきた。
「うぃーっす、てか俺の話してた?」
「してないから」
「してねー、マジで」
三人になると、また和気藹々の雰囲気が戻った。
そうしてしばらく楽しく話していると、また一人トイレに立つ。
「あー、俺ちょっとトイレ行ってくる」
アンニュイな男が席を外した。
その背を見送った二人が、剣呑な雰囲気になる。
「てかさ、あいつがいるとテンション下がんね?」
「マジでわかる。あいつ陰気すぎるわマジで」
「あの『あー』って言うのがすげー苛立つ。なんなんあれ?」
「わかるわ。あれマジで嫌だわ」
態度が急変した二人である。
この二人、実はあの陰気な男が嫌いなのである。
件の陰気な男は、すっきりとした顔で戻ってきた。
「あー、ただいま。まさか俺の悪口とか言ってないだろうな?」
「てか悪口とかないし」
「マジでそう」
三人になると、また穏やかな雰囲気が戻った。
ドリンクバーによる尿意は半端ではなく、また一人トイレに立つ。
「マジで俺もトイレ。漏れそう」
頭の悪そうな男が席を外した。
その背を見送った二人が、溜息などついた。
「てかさ、あいつつまんねぇ上に馬鹿じゃね?」
「あー、ほんとそう思うわ。マジしか言うことないのかって」
「それよ。語彙が貧弱すぎるわ。あいつのせいで『マジ』って言いたくねぇもん」
「あー、それは俺もある」
態度が激変した二人である。
この二人、実はあの馬鹿が嫌いなのである。
件の馬鹿な男は、すっきりとした顔で戻ってきた。
「おーっす。マジでただいま」
「てか、マジじゃないただいまってなんだよ」
「あー、ピンポンダッシュとか?」
三人になると、また和やかな雰囲気が戻った。
話すこともなくなり、食事もお開きとなった。
帰り際、三人は言う。
「てか、やっぱこの面子で飯食うの楽しいわ。今度は彼女も連れてくるわ」
「あー、機会があれば、また飯食おうか」
「そのときはマジで行くわ。マジで」
そうして三人は別れた。
もちろん、次の機会などなかった。