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S’s~天空詩曲と滅びの歌  作者: 祖父江直人
第三話 アブソビエの街とガーゴイル使いの少女
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3-B VSガーゴイル

なんかサブタイがポケスペみたい

厨二が迸るバトル描写をお楽しみください。

 ユキたちの世界でも、ビルの飾りなどに使われている同名の石像があるが、リートレルムに生息する“悪魔の使い”ガーゴイルは、その造形が微妙に違う。

 巨大な、骨ばった体躯に、蝙蝠こうもりのような薄い羽根に、猛禽類もうきんるいのようなくちばしを持った顔を持ち、鋭い鉤爪で得物を仕留める。好物は血で、特に人間のものを好むと言われている。

 リートレルムでは太古に猛威を振るった害獣として狩られほぼ絶滅したと伝えられているが、旺盛な生命力を持つ故に、たまに人里離れた場所で発見されることがある。

 しかし、今ユキたちの頭上を旋回する異形の怪物は、町中に現れ、宿に面した大通りをパニックに陥れていた。あちこちで物が壊れる音や、人が倒れる悲鳴が聞こえる。

「ちっ、毎日毎日訳の分からないやつが来るな。ルソラたちは下がってろ。俺が相手する」

 シンが持ってきたギターを構え、大きく腕を振り上げ、六弦をストロークする。

≪演争―プレイ―≫

 六本の槍が、形態を変え、姿を現した。

≪絃槍演武―ダンサブルストリングス―≫

「あれは、『戦奏器』……!」

 ミーファが息を飲む声を聞き逃さなかったシンだが、今は眼前の怪物を何とかするのが先決と、気持ちを切り替える。

「行くぜ!」

 ギターの演奏プレイが、六槍に伝わり飛んでいく。だが、槍を同時に突っ込ませるだけの直線的な攻撃は、上空十数メートルを素早く飛行するガーゴイルには当たらない。

「バッキングじゃダメか。なら、単音ならどうだ?」

≪コードA≫ 

 あまり得意ではないが、六つの音をバラバラに演奏するアルペジオを弾く。

≪乱槍楽団―プログレッシブ・シリィパレード≫

 不規則な動きで槍が飛び交うようになったが、それでも槍自体の速度が足りないのか、ガーゴイルは捉えられない。

「やっぱりアルペジオは苦手だな、俺」

 しかし、と、シンは六本の弦を絶え間なく弾く。化け物とはいえ、相手も生物だ。いずれは疲れが来るだろう。手を緩めなければいずれは捉えられる。

 だが、消耗戦に持ち込もうとしたシンを止める声があった。

「待ってシンさん!」

 ユキだった。止める千鶴の制止も振り切り、飛び出してくる。

「ユキ、どうしたんだ、下がってろ」

「ダメだよ。あのガーゴイル、背中に人を乗せてる!」

「何!?」

 ユキは宿屋の三階から一瞬ガーゴイルを見下ろした。すると、その薄い毛皮に覆われた背に、人影を見たという。

「ルソラさんが言うには、ガーゴイルは人を攫うんだって」

 もたらされた新情報に舌打ちする。これは想定外だ。このまま怪物に槍を突き立てれば、その人間にも刺さってしまうかもしれない。

「くそっ、どうすれば―――」

「僕が行く」

 ユキが、昨夜と同じく、張りのある声で進言した。無論その足には、あのブーツが履かれている。

「行くって、どうやって」

「シンさんの槍に跨って、運んでもらう」

 ノータイムでもたらされた解答に感心の口笛を吹く。確かに、軽いユキだったら持ち上げられそうだ。

「よくそんなこと思いついたなユキ。でも、それをしてもあのデカブツに対抗できるスピードが無いぞ」

 ただでさえ不足しているスピードが、人一人載せることで激減することは明白だった。しかし、ユキはいつもの調子で言った。

「だいじょぶ、できる」

「そうか。じゃあやるぜ」

 シンはその根拠はないが、勇気のある言葉にすぐさま乗った。槍を一本だけ手元に戻す。シンにとっては難しい操作が果たされると、ユキはそれを掴む。

『――――――!!』

 ―――すると、また、あの感覚が襲った。頭に“知識”が流れ込む。この“武器”が持つ、新たな力が。

『―――共に奏でる―――協奏―――』

 今度は頭を抱えて蹲ることもなかった。身体が若干慣れたようだ。

「―――できる、な」

 そして、新たな“力”を得たシンがあっという間に見つかった解決策に恐れ入りながら言う。

「バンドだもんね、僕たち」

「ああそうだな。ロックにるぜ!」

≪演争―プレイ―≫

 ユキが、ブーツで地面を踏みしめる。

≪音壊舞踏―ブレイクビートブーツ≫

 そして、シンが再び、ギターを掻き鳴らす。

≪絃槍演武―ダンサブルストリングス―≫

「テンポは160くらいだ。リズムキープを忘れるなよ」

 二つの武器を、同時に発動させる。

「分かった。シンさんも、ミスしないでね」

 二つの“音”と、二つの“思い”が、一つに“共鳴”していく。

「メロディラインは任せろ!」

 “リズム”と“メロディ”が合わさり、新たな“力”に変わっていく。

≪演争―プレイ―≫

 ただのサウンドではなく、合奏アンサンブル、音同士が織り成す“グルーヴ”が強さになる

≪協奏―セッション―≫

 ユキの設定したBPMスピードが、シンの操る槍に伝わっていく。

≪神速絃槍舞踏―グルーヴズ・デッドヘッドビート―≫

 ユキが槍に跨るのを確認し、シンが叫んだ。

「ユキィ!落ちてもちゃんと捕まえてやるからな!遠慮せず、真空突き抜けろォ!」

「イエッサーッ!!」

 ユキも叫び、シンがハイポジションでギターを掻き鳴らす。音の代わりに強大な推進力を得た槍が、高速で頭上の悪魔の化身に突進する。

 しかし、直前で避けられる。否、既にユキを乗せた槍はガーゴイルの飛行速度を上回っている。シンがわざと通り過ぎさせたのだ。

「お前の、その薄い羽根じゃ、そこまで高くは飛べないことは分かってんだよ」

 ガーゴイルが届かない高度まで槍を飛ばすと、そこから急激に方向転換する。横殴りのGを何とか耐えたユキを認めると、シンは狙いを定め、ギターを全力でダウンストロークする。

「ユキ!任せたぞ!」

 不可避の速度でもたらされた急降下の最中、高い集中力で狙いを見定めていたユキが怪物の背に乗せられていた小柄な人間の腕を掴み、抱き寄せる。その反動で槍から体が離れたが、すぐさま六本の槍を束にしたクッションで二人分の体重を支えに掛かる。そのせいで、一時的に攻撃手段を失ったシンに、ガーゴイルが肉に飢えた鷲のような顔を向ける。

「一本くらい残しておけば良かったかも。」

 後悔も虚しく、こちらに猛然と向かってくる怪物に、為す術はない、と思われた。

≪BPM180≫

 しかし―――。

≪狂乱連劇―バーサクビート―≫

 疾風の如く現れたユキがシンの前に立ち塞がり、ドラムスティックによる迅雷のような一撃を叩き込んだ。一撃は連撃となり、ガーゴイルは飛行の暇も与えられない顔面への攻撃にさらされることになった。

 顔面、翼、身体、所構わずスティックを打ち付けるユキがガーゴイルの挙動を止めてくれている間に、救出した人間が降ろすと、シンは「ユキ!ちょっとどいてろ!」と叫び、止めを刺すための槍をガーゴイルに向けて突き刺そうとした。が、果たせなかった。

「やめてっ!!」

 救出した人間、それはユキと同世代くらいの、小さな少女だった。その少女が、あろうことかガーゴイルの前に立ち塞がったので、シンは慌ててとどめをさす為の攻撃を中断する。

「アンディを苛めるなっ!この子はあたしの兄弟なんだからっ!」

 アンディというのが、ユキに散々叩きのめされたガーゴイルの名前だということは、割とすんなり入ってきたが、この状況はシンには理解不能だった。

 少女はガーゴイルの巨体にすっぽりと収まりそうな身長140cmほどの小柄な体で、無造作に一つ結びにした黒髪と碧眼を持っていた。そこまではまだ良いのだが、問題は胸と腰に毛皮を巻いただけの、露出度の高すぎる服装だった。いや、これは“服装”などとは呼ぶまい。単なる“着衣”だ。原始人だ。

「おい、何をしてるんだ。危ないぞ!」

 シンが、とりあえずという感じで注意をするが、少女は両手を大きく広げて、あくまでガーゴイル“アンディ”を庇う格好だ。

「きょうだい?君はアンディの妹?」

 ユキが清潔にさえすれば美しいであろう顔の少女に話しかける。

「妹じゃない!あたしがお姉さん!あたしの方が年上なんだから!」

 どっちでもいいだろう、とシンは思ったが、少女は子供っぽい舌足らずな声で力説する。ユキはその様子に首を傾げながら言う。

「でも、アンディは『シーラは妹のようなものだ』って言ってるよ?」

「え?」とシン。

「え?」と少女。

「え?聞こえないの?アンディの声」とユキが言い、先ほどまで散々に暴行を加えた鷲頭を撫でる。

『少年、我の声が聞こえるのならば皆に言ってほしい。我々は、人を襲わない』

「うん、いいよ~。シンさ~ん。アンディは人を襲いに来たんじゃないって~!」

 さいですか、と言えるはずも無く、さりとて状況を未だに飲み込めず、シンはとりあえず、二人と一匹の下に近付く。

『それにしても、我が声を聞ける人間がいるとは思わなかった。異世界の住人か』

「日本から来ました。志動幸光です。ユキって呼んでね」

 アンディの声は野太く、頭の内側まで響く重低音だったが、大音量のグランジを聴き慣れているユキはこともなげに受け取り、自己紹介する。

『ふん、魔奏石の力が、外界の人間に特別に作用したようだな。何にしても貴様のおかげで命拾いをした。礼を言うぞユキ』

「なんにもしてないよ~」

 アンディが猛禽類独特の得物を射殺すような目をユキの足元に向ける。

『貴様がその靴に収めた剣を抜いていれば、我の命は無かっただろう』

「そうかな~」

『ふっ、掴めん人間だ。そうだユキ、このシーラに言っておいて欲しいことがあるのだが―――』

「おいちょっと待て、勝手に先に進むな」

 シンが苛立った口調で、少年と怪物の異種間交流に割り込む。

「何の話が進んでるんだよ。俺たちにはユキが喰われそうになってるように見えるぞ」

 シンとシーラには、アンディの声は肉食獣が得物を威嚇するときのような獰猛な唸り声にしか聞こえず、嘴の先からたまにチロチロと出す長い舌が、ユキを襲おうとしているようにしか見えなかった。

「まぁ、アンディは血を吸うだけで殺したりはしないけどなっ」

 シーラが、直線的な胸を張って言う。

「ええとね、シーラ?」

 人見知りしない性格のユキが初対面の少女におずおずと話しかける。何か言いにくいことを言おうとしているようだった。

「なんだお前。アンディと話せるからって弟はやらないぞっ」

 ユキは珍しく困ったように目を細めて、自称“姉”に言った。

「アンディね。雌なんだって」

「え?」

『まぁ、人間には区別がつきづらいのだろうが、ようやく誤解が解けた。恩に着るぞユキ』

「どういたしまして~」

 生まれた時から一緒にいる存在である兄弟―――実は姉妹―――から突き付けられた真実に愕然とするシーラに、シンが言った。

「とりあえず、お前は俺が連行していく。アンディは、ユキに任せろ」


 アンディとシーラの起こした真昼の襲撃事件は、夜になったところで、ようやく一つの収束をみせた。

 大通りに面しているとはいえ、首都からも遠く離れた交易街に起こった騒ぎが収束するのは簡単なことではなかったが、ルソラが町長と街の兵士長に話を付けに行き、宿屋で羽を休めるガーゴイルを何とかしろとやってきた街の顔役を、ユキが持ち前の自分のペースに巻き込む話術で、のらりくらりとなだめすかし、シンがラジオ放送で培った口八丁とギターによる槍の操演で住人に「俺がいる限り安全だ!」と演説をぶったことで、夜が更ける頃には千鶴とミーファによって風呂に入れられ、着替えさせられたシーラへの事情聴取が叶った。

「あたしはシーラ。ガーゴイル使いさっ!アンディと一緒にイギルスタンの独裁政権を倒すためのレジスタンスをやってるんだっ。だからこのひらひらした服を脱がせろーっ!」

「ああ、ちょっと暴れないでください。髪が梳かせないじゃないですか」

 人形服のような衣装を着させられてベッドの上に座っているシーラの背後で、櫛を持った千鶴が言う。

「やめろって言ってるだろっ。こんなの革命家には必要ないんだっ」

「ダメですよ。女の子なんですから綺麗にしないと。ほらできましたよ。可愛いです」

 千鶴も中々にマイペースだ。シンは姉の着せ替え人形にさせられてしまった妹という図を幻視して、少し笑った。

「ほらこいつ笑ったっ。あたしの変なカッコ見て笑ったっ!」

 小動物が精一杯の威嚇を行うときのような声で怒るシーラに「そうじゃない」と言ってやる。

「大丈夫だ。狼に育てられた少女みたいな恰好よりか、ずっとよく似合ってる」

 と、言った自身の言葉に、ある予断を持ったシンは、それをシーラにぶつける。

「お前、ガーゴイルに育てられたのか?」

「違うね。あたしがアンディは一緒に育ったんだ。あたしの故郷は―――」

「ローレアンヌ」

 シーラの碧眼が見開かれ、故郷の名を言い当てたもう一つの碧眼を見つめた。

「15年前の戦争で滅んだ、いくつかの国の一つですね。その黒髪と碧眼。貴女は王族の血を引いているのでしょう?先程身体を洗わせて頂いたとき、背に王族の紋章らしき刺青を見ました」

 ミーファが、哀しそうな瞳でシーラを見るが、跳ねっ返りの少女はツンと目を背けた。

「知らないよっ。生まれた時からあたしには親も兄弟もいなかった。人間がガーゴイルと暮らしてる村で拾われた孤児だからねっ」

 再び衝撃の事実を知らされるが、シンはもういちいち驚かない。この世界の姿が少しずつ分かり始めてきた。


 西の方に消えていった陽が、化生の類である自分にとって安心できる闇夜を連れて来てくれた。

 なぜ、身の上話などを始めてしまったのだろうか。と、アンディは足元に座る小さな少年の方を見ながら考えた。言葉が伝わるからだろうか。否、伝えたところでどうなるというものではない。

「そっかぁ。その、シーラと暮らしてた村では、人間とガーゴイルは仲良しなんだね」

『少し違うな。ガーゴイルは食料となる人間の血を、人間は我々の持つ魔力や力を、お互いに利用し合う関係だった。そうしないと、生きてはいけなかったからだ』

 アンディが羽を休める為に上った宿屋の屋上で、ユキはスティックで叩きすぎた部分を労わるように撫でながら、よく分からないと言った調子で唸った。

『我々の種族も、少々やり過ぎた歴史がある。血を吸えばいいだけの話を、わざわざ殺してしまっていては、人間の怒りを買い、狩られても仕方がない。最早人里離れた場所でひっそりと暮らすしかないほどに種としての力は弱まってしまったが、それでも生きねばならぬ。―――小僧には少し難しかったか』

「うーんとね、アンディは、シーラが好きじゃないの?」

 あまりにも直截的な言葉で訊かれ、アンディは目を少し見開き狼狽する。

 シーラ。小国を治めていた王族の血を引く娘だと、村の人間は言っていた。そして、あの村のガーゴイルの中でも力の強かった自分にお守りを頼んできた。その代わり、血をより多く与えてくれる取引を結んだ。

『どうかな。村を出奔して、もう何年になるだろうか。我にとっては、あれもまた、血の供給源でしかないはずだが』

 村を出た今となっては、その取引も意味を成さないが、それでも、自分はシーラから離れないでいる。

「好きなの?嫌い……なわけ、ないよね?」

 アンディはまた一声唸り、血なまぐさい息を吐き出した。ユキの純粋な瞳には、下手な誤魔化しや嘘を通さない光があった。アンディはやりにくさを感じながら、何とか言葉を繋ぐ。

『あの娘は、嫌いではない。そんなところだ』

「む~。今日はこのくらいにしておいてあげよう」

『うむ。手厳しい人間だな』

 とりあえず満足気なユキの表情がはっきりと見えた。てっきり完全な闇夜と思っていたが、どうやら街は明るい月に照らされているらしかった。


 再び宿屋。シンは、微笑む千鶴に抱かれるがままになっているシーラを一瞥して、口を開く。

「ミーファ、革命軍ってなんのことだ?」

「私にもそれは分かりません。独裁政権も何も、イギルスタンは共和制の国ですから、主権は国民にあるはずです」

「まぁ、“共和国”が民主主義じゃないなんてことは、俺たちの世界でもよくあることだけどな。しょっちゅうドンパチやってるみたいだし」

 シンは独り言ちると、少女と女性の乗ったベッドの上にどっかりと座る。

「ど、どうしたんですか?シンさん」

 千鶴が言う。初対面の時からそうだ。どうもこのシンという男の目は、何かを見通しているような不思議な力を感じる。高校を中退したという割にはよく回る頭に、無邪気そうに見えて、実は自分以外は誰も傷付けない計算がされたような様々な奇行。

 シーラもその得体の知れなさを感じたのか、やや千鶴の方に身を摺り寄せた。シンは沈黙を続けたまま、じっと二人の顔を見つめた後、破顔した。

「よし、シーラ。俺たちと一緒に来い。一緒に、イギルスタンを倒そう」

「……え?」

「ちょ、ちょっと何を言ってるんですかシンさん!そんなことしている場合ではないですよ!」

 千鶴が慌てて身を乗り出すので、シーラがその胸に押しつぶされる格好になってしまった。

「まぁまぁ落ち着いて。丁度乗りかかった船じゃないですか」

「むしろシンさんが乗せてるんでしょう!私たちは帰らないといけないんですよ!」

「どうやって?」

「え……」

「帰る方法ったって、どうやって来たのかも分からないのに、どうすればいいんですか?先生」

「ええと……」

 困惑する千鶴をフォローするように、ミーファが言った。

「“白き光”です。そこから、私は皆さんの世界に行きました」

「何ですか?それ」

「リートレルムの伝承です。『大地揺らぐとき、白き光の中に、世界の扉が開かれん』」

 そういえば、この世界に来る前、天奏島の空が白んでいたことを思い出す。

「『大地揺らぐとき』って、地震の前触れか何かか」

 シンの推察に、ミーファは自信なさげにかぶりを振る。

「分かりません。ただ、私は確かに『白き光』を通りました」

 そして、シンたちの島の空から落ちてきた。

「それ、あたしもアンディと一緒に見たことがあるぞっ。光ってかもやみたいだったけどなっ」

 千鶴のマシュマロのような胸に埋もれていたシーラが顔を出して言った。

「というか、シーラさん、この伝承、元はローレアンヌのものだったはずです。伝え聞いていることなど無いのですか」

 生意気そうな少女にも丁寧な口調を外さないミーファに訊かれるが、シーラはぶっきらぼうに「そんなの知るわけないじゃんかっ」と言った。

「つまり、何の前触れも無く開いた異世界の扉が、再び偶然開くのを待つしかないってことか」

 シンが今ある情報をまとめ、千鶴に言う。

「だってさ、先生」

「はぁ~」

 肩と眼鏡をずり落としながら落胆する千鶴に、シンは安心させるための笑顔を作って言ってやる。

「大丈夫ですよ。何とかなりますって。それに―――言ったでしょう?先生を泣かす様な事は絶対にしませんよ」

 魔奏石が部屋を照らす明かりのせいなどではなく、千鶴が赤くなる。

「ベタか~」

 ユキが突然現れた。

「わっ!なんだよっ!」

「ユキ、どうしたんだ?」

 シーラとシンが口々に驚く中、千鶴は相変わらずアラサー乙女モードである。

「言ってみたかっただけ~。あと、ルソラさんが呼んでるよ。仕事だって」

「一日が長いぜ。今度は何をするんだ?」

「バンド演奏」

「え?」

“グルーブ”を、どう日本語で表そうか苦心したのですが、結局“グルーブ”は“グルーブ”だ、ということになりました。

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