エピローグ “S”の目的
ここまでくるのに四カ月もかかってしまいました(中断三カ月)
しかし、めでたく完結です。もう『この小説は更新がありません』が表示されないようにしたいです。
天奏島上空。
「いやぁ、なんていうか、色々ゴチャゴチャしていたのが、まとまって行っている感じだな」
ミーファとイーフ、シンとルソラと千鶴たちのやり取りをアンディに乗って空から観察していた晃陽が独り言ちる。
「僕らのおかげだね」
ユキが得意気に胸を張る。シーラはユキの家に帰って眠っている。
「そうなのか?」
「そうなのだ」
「そうか、それは良かったな」
「良かったね~」
あはは、と笑う同族の二人。とても繊細な恋愛模様には組み込めなさそうな能天気な会話が、ガーゴイルの羽音と共に続いていく。
「なぁ、ユキ、俺はお前をスカウトしに来たんだ」
「履かないよ?」
「スカートじゃなくてスカウト、勧誘だ。お前を、俺たちの仲間にしたい」
「なんで?」
一瞬会話が止まり、夏の夜風が吹き抜けた。晃陽の精悍な顔が一層引き締まる。
「世界が、危ない。俺たちの住んでいる世界が、なくなってしまうかもしれないんだ」
ユキは、勉強ができない。難しい言葉が分からない代わりに、物事をとてもシンプルに理解する能力がある。晃陽の簡潔な説明に、全ての意味を読み取り、返事を返すのは早かった。
「分かった。仲間になる」
「いいのか、そんなに簡単に決めて」
「この世界はとっても素敵だから。なくなって欲しくない」
小学生らしからぬ意志の強さを感じる言葉に、こちらも中学生にしては精神的に出来上がっている晃陽が頷く。
「ああ、そうだな。なくしたりなんか、させるものか。」
そういうと、無言でシルディアを出した。月の光に照らされた西洋の剣を掲げ、二人の少年が決意を固める。
「やるぞ、ユキ。世界を救おう」
“S-World”専任諜報員No.01、神宮寺敦。それがシンに与えられた役職と、コードネームだった。
同じく諜報員で、直属の上司に当たる氷月と正対したのは、夜も更けた深夜二時。特別営業のカウンターバーに繰り出したシンを待っていた男は、相変わらず飄々としていた。
「どうも氷月さん。」
「出迎えありがとう家持―――いや、神宮寺君。」
恐らくわざと本名を漏らした氷月と、握手を交し合う。
「ようこそ、ホスピタリティとコンプライアンスがガバガバなロックフェス“天唱祭”に。まるでどこぞの秘密組織みたいじゃありませんか」
「いやいや、“上”と『十三人』を向こうに回して無理矢理異世界ゲートを開かせたどこかの諜報員よりは秩序立っているお祭りだと思うよ」
そして、皮肉をぶつけ合う。互いに組織のアウトロー同士、言いたい放題だ。
「電話でも話しましたが、『サウンド・ワールド』―――リートレルムのことは、俺に任せてください」
「これはまた、大きく出たね。君自身のことは、未だに混戦模様のようだけど。」
あの前夜祭のステージを見ていたのだろう氷月に言われ、シンは恥ずかしそうに頭を掻く。
「それも、何とかしますよ」
「ラブコメは程々にな。我々は、志動雪光君を連れていくことにした。異存はないね」
「あいつが決めたことなら、何もいうことはありません」
「心配ではないか?」
「全く。あいつは強いですよ。恐らく、氷月さんよりも」
「そうか、それは非常に頼もしいな」
それから、暫く互いに頼んだ酒を飲む時間が続いた。狭い店内に、客は自分たちのほかにもいたが、気になることは無い。どうせ何を話しているか分かってなどいないだろう。シンは意を決して、氷月にロシェフという世界を崩壊に追い込もうとした男の話をする。
「リートレルムで出会った敵は、何者かに操られているみたいでした。でも、奴は氷月さんたちが封印したんですよね?」
「“S”は同じ時、同じ場所にいくつも自らの思念を人間に取り憑かせることができる。恐らく奴の残留思念が、奴の復活と共に強くなったのだろう。これから、そんな事件がいくつも起こるはずだ。君がこれから向かうリートレルムも、完全に脅威が消えたわけではない。心してかかった方が良いな」
「分かりました。でも、奴は何が目的なんですか?」
「これだ」
と、いって、懐から文書データを取り出した。受け取ったシンは、手持ちのコンパクト・タブレット(CT)でデータを解凍する。3D映像で映し出された文書のタイトルは『S's』。そして、その内容は―――
「これは、とんでもないというか、トチ狂っているというか。いやぁ、ユキ、お前はかなりヤバいものに足を突っ込もうとしてるぞ」
ここにはいない。恐らく既に家で寝息を立てているであろう弟分に話しかけるように呟く。氷月がその内容を端的にいった。
「以前にもいったね。福利厚生も法令順守もままならない我らの組織の目的。世界の結合、そして壊滅の阻止」
つまりは、こういうことだ。
「我らの力で、世界を救う」
『S's』 続く
しかし、『S's』を冠した作品群は、まだ続きます。