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#1 もみじ  (スローバラード)



 これは ぼく が 生まれて

 育ち 土に 返るまでの 長い 長い

 時間の 中の ほんの 一握りの

 とある 昔話



 ぼくが 初めて めを 開いたのは 

 市立椛ヶ岡病院で 看護婦さんから

 もみじちゃんの あだ名を もらい


 春が来て ぼくは 初めて 花を見た

 夏が来て ぼくは 初めて 蝉を見た


 秋 ぼくの 見える ところにある 

 ベンチに 綺麗な 黒髪の 女の子が

 木陰で 本を 読む


 冬 毎日来た あの 女の子は もう 

 姿を 見せない

 ぼくは 初めて これが “かなしい”

 だと知った

 あの子は もう 退院 したのだろうか

 ぼくは ここから 出られないのに



 ぼくが 初めて てを 広げたのは

 ぼくが 根付き 七回 秋が 来た

 時です


 花が咲き ぼくは 初めて 蝶を知る

 蝉が鳴き ぼくは 初めて 音を知る


 秋が来た ぼくが 生まれ 十五周も

 季節は 周り続けたけど 

 あの 黒髪の 綺麗な女の子は 毎年 

 秋には 姿を 見せた


 冬が来て あの子は また 姿を

 消したけど また来年も 少し大きな

 パジャマを 来て ここに 来るだろう



 ぼくが 初めて 独り立ちしたのは

 秋が十七回 回った 時だった


 蝶が飛び ぼくは 初めて 色を知る

 音を聞き ぼくは 初めて 歌を歌う


 秋が来た あの子は 今年も

 来たけれど ぼくが 一人で立っていて

 驚いた 顔を した


 冬が 来たけれど あの子は ぼくに

 話しかけてくれた 

 わたし ここの木陰が好きだったの

 もう 切り倒された 老いた 椛の木




 ぼくが 彼女に 変わりに 木陰に 

 なってあげると 言ったら 彼女は

 優しいねと笑った


 でも わたし はっけつびょう なの

 ぼくは はっけつびょう を知らない


 秋が 来た 今年は 彼女に 暖かな

 木漏れ日を


 冬が 来た しかし 彼女は

 今年一度も 姿を見せなかった

 もう 退院したのかな


 ぼくは さみしさ を 知った



 秋が来た もう 彼女は姿を 現さない


 秋が来た もう 彼女は ここには来ないのかな



 彼女が 来なくなってから ぼくは

 この気持ちが 恋 だと知った。



 ある晴れた 彼女の 笑顔のような

 春の日


 ある雨の 彼女の 泣き顔の ような  夏の日



 幾度かの 秋が 来たとき ぼくは 

 切り倒されることに なった


 もういちど 彼女に 会いたかったな


 さよなら




 これは ぼくが 生まれて 育ち

 土に 返るまでの 長い 長い

 時間の 中の ほんの 短い

 ある日の 今の話


 チェーンソーが ぼくを 切り倒す

 少し前に 彼女の声を 聞いた気がした




 ねぇ、涼しい木陰を ありがとう






 作曲しよう と思っておられる方がもしいて、この詩を使わせてくれ! って方がいれば是非。

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