第9話 「厄介事」
ディスティ宅に世話になるようになって1週間が経った。
学校でリンとティーちゃん以外の友人も出来た。まだまだ遠目に俺を見てくる視線も多いが。
元の世界での「理科」にあたる授業の終わった後、3限の休み時間。
リンは席を立って何処かに行っており俺は暇を持て余していた。
「どうしたんだよ?」
『別にー』
前の席の男子生徒が話しかけてきた。
名前は……忘れた。
「愛しの彼女がいないから暇なんだろ?精霊とはいっても男だからな!相談ならこの…」
親しげに話しかけてくる男子生徒(名前はまだ無い)の少しばかり鬱陶しい声を聞きつつ考えにふけっていた。
この世界は月の名前こそ違うが、元の世界同様に1年は12ヶ月で季節も日本と同じだ。
今は9月の中旬で秋口。
悩み、というか考えの種は来月に迫ったあるイベントである。
それはこの学校の近く、街の郊外にある軍学校との合同演習である。
別にその演習が嫌というワケではなく気になっていることは別にある。
「出番を作っておくから楽しみにしておいて」
という校長の言葉である。
いつもながらの無表情だったが嫌な予感だけは感じた。
リンやティーちゃんに聞いても思いあたる節は無いようだったが校長の言葉だと考えると無視は出来ない。
『はあ…』
「どうかしたか?悩みでもあれば相談に乗ってやろうか?
ただ…その代わりといってはなんだが、ソラルさんに僕を紹介し―――」
『あ、リン。おかえり~』
「や、やぁソラルさん!どこに行っていたんだい?」
休み時間に女子が何処に行ったか聞くやつがあるかよ…。
「……どうしたんだ?カナタ。やけに顔が優れないな」
黙殺したッ!
『んー校長先生の発言がね』
ま、俺もスルーだけど。
「あぁ。そのことか。いくらなんでもそんなに深く考える必要ないんと思うが」
『そうは言ってもなあ』
「よ~し席につけー」
セオドア先生が教室に入ってきた。
それを見て立ち上がっていた生徒も席につく。
(俺が名前を忘れたから)謎の男子生徒は(´・ω・`)な表情をしていた。
「キリがいいところで終わっとくか。うし、これまでー」
いやいや、全然キリ良くないですよ先生!という生徒の声が聞こえそうなところで授業が終わった。
「カナタ、昼食はどこで食べる?」
『リン達は食堂?』
「ああ、弁当か?」
『メロウのついでに作ってもらってるからね。じゃ、席が空いてる内に行こう』
「そうだ、トキタはちょっとついて来い」
セオドア先生からの呼びだしに嫌な予感を感じながらも俺はついていかざるをえなかった。
だってセオドア先生怒ると恐いから。
『先生、何故ボクは校長室に入らなければならないのでしょうか?』
「知らんわけではないが俺からは言えん。ただ……ドンマイ」
こちらの世界にもドンマイって言葉あるんですねっ。
気にするなって素敵な言葉だと思います!
『どうせ今度の演習のことでしょう?』
「お察しのとうりだ」
『はぁ…九回生クラス甲、時田彼方です』
「入って」
ノックに返事をされ、校長室に入った。
校長は机の上に座っていたが、俺を応接用らしきソファに座らせると彼女はその向かいに座った。
その後ろにはセオドア先生が部下のように立っている。
実際に部下なんだけど。
「用件は分かってると思うけど」
『ええ、今度の演習でしょう?』
「そのとうり。例年の演習の内容は知ってる?」
『ええ。リ…ソラルさんから伺いました。
しかしその中で俺をメインに据えるようなものは無かったと思うのですが?』
毎年十月に行われるエクリプス魔導学校と軍学校――正式名称はアスカ士官学校――の演習。
目的は両校の学生の交流、スキルの向上にある。
参加するエクリプスの生徒はほとんど十回生から十二回生。
七回生から九回生は見学こそすれ、参加する者はあまりいない。
一方軍学校はそもそも入学年齢が18歳以上なため全員参加である。
演習の内容とはちょっとした遠征だ。
近隣の草原には野生動物しかいない。
しかしその草原を東に抜けた先にあるのは、山々が乱立し深い森を持つ急峻な土地「新月」。
その森、新月の森にすむ魔物の討伐がこの演習である。
学生の中から指揮官をたて、実践的な戦いを目指すというもの。
新月の森は深く、その奥地は例え腕に覚えのあるような者でも滅多に行きたがらないほど危険だ。
逆に浅いところはそこまで強い魔物もおらず、他人と協力することを学ぶにはとても都合がいい。
毎年多くの負傷者と少しの死者がでるがそもそも覚悟のないものはこの演習に参加しないので特に問題視されていない。
死者が出ることを悲しく思わない、というのとは違うが。
『ボクは九回生です。それにマナの量がそれなりだとしても、属性も不明で戦いに関してはまるで素人です。
仮にこの演習に参加しても指揮官役に迷惑がかかります。
どれだけ使えるか分からない味方がいては戦いがままなりません』
もしものためにリンが教えてくれたことを先に話した。
これだけ言えばわざわざ演習に参加させられることはないよな。
「そういう事情は分かってる」
セオドア先生に校長が目配せをする。
「あー、ソラルもまだ実戦を踏んだことがないから分かってないと思うんだが、この演習で必要なのは安定だ。
たまにマナや戦闘技術がとんでもないやつがウチにも軍学校のほうにもいるんだわ。
部隊の中にそういうやつがいればそこの生存率はあがる。
だが魔物はそこだけを避けるように行動する。
結果的に平凡なやつらがやられちまう。
こういう事情とお前が今言った理由を鑑みて今年から指揮から独立した部隊を創設することになった」
『特殊部隊ですか、かっこいいですね。…それとボクに何の関係が?』
俺だって空気が読めないわけじゃない。
話の流れぐらいわかるけど、足掻いてしまう。
絶対にこれは面倒事だ…!
「トキタ、がんばってくれ」
そんな同情するような目で見ないで!
…わかっている、わざわざここまで説明したのだ。
「君にはその特殊部隊に参加してもらう(わくわく)」
無言でサムズアップする校長。
眉間を揉むセオドア先生。
『拒否権は?』
「ない(キリッ」
ご覧いただきありがとうございます。
一気に一週間、彼方は結構コミュ力あります。ただし面倒な男子には冷たいです。
またお越しください!