第6話 「転校生」
色とりどりの髪と瞳を持つ30人前後の少年少女たちの前で俺は立っている。
ここはエクリプス魔導学院九回生「甲」クラスの教室。
ちなみに九回生は日本の高校生にあたり、小学生から大学生までにあたる一二回生まである。
甲、乙、丙…とクラス名がある。
で、この教室に知り合いはリンしかいない。
ではなぜ、俺がこんなところに立たされていれのかといえば、
『えー、皆さんはじめまして。時田彼方と申します。
ひょんなことからこの世界に召喚された精霊です。
とは言え、皆さんと同じ18歳ですので仲良くしていただけると嬉しいなー、なんて』
新たなクラスメート達の前で自己紹介をするためである。
出来る限り、無難に喋ったつもりだったこど何か失敗しちゃったかな?
俺に向けられる視線には好奇心こそ感じられるが皆一歩ひいているように感じる。
自称精霊という、中二病まがいの転校生が来たら俺でもそうすると思うけど。
「二学期から転校で珍しいから驚いてるかもしれん。
昨日の召喚式でトキタ は召喚されたばっかだから、それなりに気を使ってやれよ」
適当に言ってのける担任―――確か、ティーちゃんの暴走のときに格好つけていた人だ―――の言葉にクラスがまたも呆然としている。
リンだけは楽しそうにこちらを眺めているが。
「それと、まだ仮とはいえソラルと契約してるから考えなしに手を出さないように。以上」
またも爆弾を投下する先生。
この人本当に何を考えているんだか。
今の今まで心イタい相手を見る程度の視線を向けていた新たなクラスメート達だったが、先生の言葉のおかげでそれは一変した。
男は敵意を、女は先程とは比べものにならない以上の好奇心を。
異世界デビューは失敗かなぁ…。
一言、現状について言及するならば……どうして こうなった?
今朝、リンの願いに答える形でこの世界で生きてみることを決めた俺。
だが、生きるために何をすべきか解らなかった。
目標といえば「せっかく魔法が存在する世界に来たのだから魔法を使ってみたい!」ぐらいしかない。
リンに魔法を習おうと思ったがそもそも俺の属性がわからないため、彼女にもどうしようもなかった。
『この学校に入れたらなぁ』
あぁ!これだ!この言葉が原因だった…。
「それはいい」
と乗ってきたリンに流されるようにして、この学校の校長に挨拶に行き、校長がサクッと入学を許可しやがった。
『この学校て王立のお偉い学校なんですよね?そんな簡単に入学とかアリなんですか?』
「面白いため可(笑)」
(笑)てなんですか!?
容 姿は十代後半の少女。実年齢は3桁らしい校長は無表情に笑っていた。
で、ロリババア校長(本名は長くて忘れちゃった。てへ☆)のありがたいはからいのもと、俺はこの学校に入学することが決まったのだった。
さっぱりと決まりすぎて裏がある気もするが。
そして、今に至る。
とりあえず、今はへらへらと笑う以外に出来ることはあまりない俺なのです。
自己紹介を終えると指定された席に着いた。窓側の席でリンの横にあたる。
『なんか俺睨まれてる気がするんだけど』
「みんな不思議なんだろう。この学校に転校してくる者は滅多にいないからな」
『それだけかなぁ』
「皆、まだ18歳なんだ。疑問を隠せないことだってあるだろうさ」
リンと言葉を交わしながら軽く周りを 伺うが、目が合っても気まずそうにほほ笑むばかりだった。
「転校生が来たくらいしか報告はあまりない。終わりな~。っと授業に遅れないようにー」
だらだらと先生は歩き去って行った。
教室の扉が閉まると静かだった教室がにわかに騒がしくなった。
「ねぇねぇ、トキタ君ってホントに精霊なの?」
「ソラルさんと契約してるの?」
質問のあらしである。
女子は異世界でも女子だな…。
「精霊たちが住む世界ってどんな世界なの?」
「人気者(笑)」
「なんで仮契約状態でここにいられるの?」
今なんか違和感が…。
「鼻の下のびてる(蔑)」
って校長じゃん!
『どうしたんですか?校長先生』
俺が問いかけると周りで質問を浴びせかけていた女生徒達は離れた。
「え?校長先生いるの!?」
「ど、どこにいるの?」
彼女達は校長先生が見えていない?
もしかして…幽霊?
「違う(怒)。これは《水》の鏡。その名も…」
声だけは表情豊かに校長先生が答えた。
今この人俺の考えよんだよね。
こわぁ…。
「また「水鏡」で見回りしてるんですか?」
うろたえる女生徒達を尻目にリンが声をかけてきた。
あれ、リンなんか機嫌悪い?
「見せ場取られた(泣)」
『あの、用件は?』
「属性とマナ量を計測するから来て欲しい(願)」
便利な喋り方をする人だ。
『今からですか?』
「私も行こう」
「レッツゴー(爆)」
水の膜が弾け、姿を現したらしい校長についていくことにした。
校長先生についてリンと歩いていると広々として何もない部屋へとたどり着い た。
何もないが、部屋全体がうっすらと光っている。
『ここは?』
「儀式用の教室かな?私は初めて入る。
属性とマナ量を計測するのにこれだけ大規模な式は必要ないのでは?」
部屋の中心へと向かう校長先生についていきながら、リンが疑問をぶつけた。
『だからこの部屋光ってるんですね~』
やはり魔法はすごいなぁ。
驚嘆が自然と漏れた。早く俺も使ってみたいぜ。
「「………」」
呆れるように2人から見られた。
「まだ何もしていないのに(驚)」
「言ったでしょう。彼はマナを見ることが出来ます。多分、残存したマナを見ているのでは?」
「ここを最後に使用してから50年以上経っているというのに(感動)」
2文字で表すのもアリなんだ。
「何を行ったのですか?」
『というか、今 から何するんです?』
「ここは精霊用の魔法空間。通常の式では計りきれない精霊の属性やマナを計るの。
私の属性とマナを計ったの(懐)」
無表情だった顔に少し懐かしさが見えた気がした。
「先生は精霊だったのですか?」
驚いたように聞くリンに無表情で頷く先生。
とっつきにくい人だと思っていたがけっこう話し易い人みたいだ。
「そこに立って」
先生に指示され俺が中心に立つと輝いていた光、マナが脈打ち始めた。
マナそれぞれ絡み付き、1つの魔法陣が足元に浮かび上がった。
「ちょっと痛いけど我慢して(謝)」
ちょっと痛い、って言われた場合ほんとにちょっとしか痛くないって稀だよね。セオリー的に。
魔法陣の光が針を形作った。
『ねぇ!なんか刺さるんじゃないんの!?』
「 大丈夫(笑)」
『笑いながらこたえ―――』
「魔術針、打ち込み開始」
『いっづうぅぅううーーーーーーー!』
「結果がでた」
『……』
「カナタ、大丈夫か?」
『う、うん。問題ないよ…』
女の子にこんな心配をされて大丈夫ではないと答えることはできなかった。
悲しいかな、男の性というやつだ。
「トキタカナタ、属性は無し。マナ量は測定不能。詳細不明」
『…それだけですか』
「つまらない(不服)」
「つまらないって…」
結局属性もわからないまま儀式の部屋を後にした。
「とりあえず、皆と一緒に頑張ってね(適当)」
校長はさっさとどこかに行ってしまった。
「とりあえず教室に帰ろうか」
『うん。なんか無駄に時間を潰してしまったね…』
「しっ かりとマナがあるとわかったんだ。それを収穫としよう」
励ましてくれるリンの優しさが辛いよ。
昼休み、俺とリンは食堂にいた。
『あー酷い目にあった…』
「悪気があってああしたわけではないだろう」
何処の世界でも学生は学生なようで、食堂は人で溢れている。
『悪気は無いにしても絶対に楽しんでたよね』
「否定は出来ないな」
ちらちらと俺達を伺うような視線を感じるが話しかけて来る人はいなかった。
そりゃリンは美人だから、人気なんだろうな。
「おまたー。まだ食べてないのー?」
「ティーを待っていたんだ。さあ列ぼうか」
ティーちゃんは学年が違うため遅れてきたのだ。
「トキタくんは食事できるのー?」
『食べれる……らしいよ?』
「何故疑問なんだ?」
『校長が教えてくれたから』
「あー」
あの愉快犯のような性格の発言を真っ正直に信じられるほど俺は子どもではない。
……結局何事もなく食べることができた。
肝心の食事だが異世界だというのにパンやシチューなど見知った料理ばかりで少し残念だった。
『お金、どうにかして返すね』
「気にするな。今は金には困っていない」
「でも私には買ってくれないよねー」
「無駄遣いはしない主義でな」
「酷いっ!男が出来たら親友なんてポイ捨てなんだー!」
姦しく騒ぐ2人を見ながら、この世界のことを考えた。
季節があるのかはわからないが窓の外に見える木々は繁り、ちらちらと花も見える。
暑いとも寒い感じないため、季節は春か秋だろう。日本同様ならば。
貨幣は当然日本のものとは違った。
いつまでもリンに頼るわけにはいかないしアルバイトでも探してみようかな。
リンはああ言ってくれたが俺にもプライドってもんがある。
ちっぽけだけどな!
「この次は魔法の実技だな」
リンの言葉で意識が現実に戻された。
「カナタくんは精霊だから楽勝だねー!楽しみだねー」
『ティーちゃんも一緒なの?学年違うのに』
「午前中の座学は学年別だが午後からある実技は能力別だ」
「えっへーん!私もリンも1番上のクラスなんだよー」
『俺はどうなんの?原理もわからんのに上級者と一緒だなんて無理だよ』
「カナタくんは三回生と一緒だよ?」
「え?」
『え?』
小学生といっしょ?
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彼方は自然に言葉も読めたので違和感もってません。
それではまたお越しください!