第27話 「フォーリングダウン・キャッスル」
わけのわからんたいとるー。
「カナタっ―――」
『リンっ―――』
お互いに手を伸ばし、近づく。
あと少し、あと少し……!
体が様々な方向に引っ張られ、地面もない。
見える風景はさっきまでの森ではない。
まるでどこかのお城のような廊下が流れて行っている。
俺は景色のとおりに動いている感覚は無いから見ているものがポスターだといわれても納得できる。
さっきまでこんなマナを感知できなかったのに。
こんな状況だけど、いやだからこそ今リンと離れるのはヤバい気がする。
精一杯リンに近づく。
向こうも少しずつ、近くに来る。
―――よしっ、手が届い……。
唐突に回廊が終わった。
「っ、終わった……?
カナタっ? 離れてしまったのか!?」
『下を見てくれると、とっても嬉しいなって』
さて、こういうときのお約束ならば主人公の手がヒロインの胸とかにあたって
「きゃ!どこ触ってんのよ!?」的なドキドキイベントが起きて当然だろう。
当然だ。
ん? 漫画の読みすぎだろ、とか言われたってお約束はお約束だ。
俺は間違ってない!……じゃなくて。
どうしてわざわざこんないらん説明をするのかと言えばお約束どおりになっていないからで。
俺はリンの下敷きになっていた。
そうだ、ここまではいい。
ここまではお約束どおりだ……がしかしだ。
リンが立っているのは俺の顔面の上だった。
あーあ、やっぱり俺ってばセオドア先生がいつか言ってたみたいにヒーローって柄じゃないわー。
そして人間の頭の上に立って平然としてるなんてどんなバランス感覚してんだよ、リン。
「きゃ、すまん!」
……可愛い驚き声が聞こえたから満足しよう。
その声とともにリンは俺の上から退いた。
ちなみにリンはズボンなんで「しましま……?」「どこ見てんのよ!」イベントも起きなかったよ。
「ほら」
『とんくすー』
俺は手を貸してもらい体を起こし、やっとこさ周りに気を向けた。
ここは……城?
『ええと、とりあえず怪我は無い?』
「ああ、私は大丈夫だ。それにしてもここは……」
『城、だよね』
俺たちは二人だけで石造りの吹き抜けに立っていた。
先程のわーぷ?中に見た廊下と同じ作りだ。
なかなかに長い階段が吹き抜けの中央から上に伸びており、その先には三メートルほどの巨大な扉がある。
他にも小部屋のような扉はあるがそれだけが圧倒的な存在感を放っている。
地面には高価そうな赤い絨毯が敷き詰められ、壁には色とりどりの絵画が飾り付けられている。
窓は無いが天井近くの壁は一面ステンドグラスになっておりそこから色とりどりの光が落ちてきている。
ここまでマナを感知することはなかった。
『そんでもってすんげー豪華だね』
「ああ」
周りには俺たち以外の人影はない。
『みんなともはぐれちゃったか……まあ、大丈夫っしょ』
「……その信頼はどこから来るんだ」
『信頼ってか、心配しようがないしね。
それにそんな余裕ないかもしれないじゃん?』
俺たちは魔王城を探していた。
そして、今俺たちがいるのは何処かの城。
関係ないと断じることはできないと思う。
「まあ、そうだな。
それにしても、もしかするとここが魔王城か?」
『かもねー。
それにしちゃ趣味の良い城だけど』
と、鈍い音をたてて巨大な扉が開いた。
入ってこい、と言わんばかりに。
『行く?』
「行ってみるか」
俺は剣を抜く。
何があるか分からないが扉が開いたということはその向こう側には誰かがいるのだろう。
もしくはナニカが。
マナが見えない以上魔法的な罠はない。
俺はリンの前に立ち、庇うようにして階段を上る。
……ゆっくりと時間をかけて階段を上ったが結局何も無かった。
扉の向こうはカーテンで覆われており覗くことはできない。
『俺が先に入るからリンはそのあとに』
「……了解」
不服そうにリンは答えるがこれは俺を心配してのことだろう。
『ありがと』
リンに言葉を残し、意を決して幕の向こうへと踏み出した。
『……は?』
幕を抜けた先の光景を見て、あほみたいな声が口からこぼれた。
「いらっしゃい、紅茶でもどう?」
広間の向こうにはある女性が紅茶を飲みながらケーキを食べていた。
女性は黒いゴスロリ衣装に身を包み、穏やかに微笑んでいる。
それだけで結構な異常風景だけど俺の驚きは別にある。
『いやいやいや、あんたこんなところで何やってんすか、校長!?』
なぜに校長がいるんだよっ。
何が起きるかわかんねーし若干命かけるつもりで踏み込んだってのに!
もしかしてここは魔王城じゃないってこと?
またあの人の気まぐれかー!?
校長は一人脳内突っ込みをする俺を見て不思議そうに見ている。
今の俺を外から見たら黙ってるだけなので疑問を覚えているのだろう。
「一人であたふたと楽しそうだな」
外から丸々ばれてました!
『……で、マジに何やってんですか?
それとここどこです?』
「私は貴方を待っていたの、運命のヒト。」
そう言うとゴスロリ校長は紅茶を置き立ち上がる。
「俺の城へようこそ、異邦の精霊」
ご覧いただき、ありがとうございます。
前回から少々間がいてしまいました、すみません。
今回は短めですがつぎはもちっと早い更新になるかと。
それではまたのお越しをお待ちしております。