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第26話 「私の運命の人」

ゴーレム(ヤタガラス)は背に皆が乗ると大きな翼を広げた。

そのまま両翼を振るうことなくゴーレムは静止した。

い、一体今から何が起きるんでしょうか?


「飛びます」


ミフルが呟くとともにゴーレムの翼微下から大量のマナが噴き出し、巨体を浮かび上がらせた。

まるでミサイルの発射のような勢いで放出されるマナに土が舞い上がる。

翼と地面を平行に保ったまま森の木々の高さまで舞い上がると目的地へと動き出した。

翼は全く動かさず最初はゆっくりと、次第に加速していく。

高さは森自体から噴き出しているマナを利用しているようだ。


「安定しました。

とりあえずはゆっくりしてください」


ミフルに続いて皆も緊張状態を解いた。

遠くから見てとても幻想的だったマナの奔流は間近で見てみるとこれまた違った綺麗さだった。

極太の色彩の巨木が乱立する森を抜けているようで結局のところ森を抜けているのとあまり変わらない。

昨日感激した風景も一晩とちょっと見ていたお陰でかさほど心が動かされる感じもなくなった。

綺麗は綺麗なんだけどさ。

人は慣れる生き物だからね。


「何か考えているのか?」


リンは心配そうに問いかけてきた。

ちなみにこのゴーレムの背中は小型の軽トラ並みの広さがある。

加えて風避けの壁じみたものもあるのでとても過ごしやすい。

そのお陰で風景はあんまし楽しめていない。

それでも今言ったとうり、マナを感じ取ることは出来るのだが。


『え?俺なんか変な顔してた?』


「変と言われれば変というか、得意げというか」


無意識のうちにドヤ顔をかましていたようだ。




人は慣れる生き物だからね(ドヤァ)。




とても恥ずかしい!

なんだか一人でここから命綱なしで眼下の森へバンジーでもかましたい。

~~だからね(ドヤァ)、とかもっとラスボスっぽい奴が言うべきではないだろうか?

偏見だろうか?

いいや、落ち着くんだ俺。

このまま俺のラスボス論を悶々と考えていてはいずれ他のメンバーに俺が地の文(モノローグ)に自然とドヤ顔をしていたのがばれてしまう!

話題を変えねばっ。


『あ、あのさ他の隊の人たちはどうしてわざわざ地面を行くの?』


リンに訪ねる。

無理やりの話題転換ではあるが気になっていたのは事実である。


「彼らと私たちは目的が違うからな。

私たちはの目的は分かっているだろう?」


『いやいや、だからこそなんだけど。

前線に至るまでに魔王城への入り口があったらどうすんのかなーって』


「それは大丈夫だそうだ。

入口――というより結界の綻びだな。

前線までの範囲は他の隊とは別のに先生たちが調べてくれているらしい」


『……だったらわざわざ俺らが捜す必要ないんじゃね。

苦労を買ってるようなマネしたくないんだけど』


演習って命の危険があるんだよな?

リンが怪我でもしたらどうすんだ!、という言葉は胸にしまっておくべきかな?(ド)

あ、危なかった……またドヤ顔するとこだった。


「いいや、先生がたは裏方からサポートもしなければならないらしい」


『結局人が足りないってことかぁ』


「がんばろうじゃないか。

私たちは特殊部隊(れいがい)に選ばれたんだ。

つまりは私たちが学校最高のコンビということだろう?」


冗談めかしてリンは笑う。

どうしてそこまで朗らかに微笑むんだろう。

そんな笑顔を見たら俺が感じた疑問なんてどうでも良くなってしまう。


『いやいや学園最高どころか世界最高じゃん!』


「……それは言いすぎだと思う」


『そこで否定!?』


持ち上げた後に落とすのやめて!


「ボクもそう思います」


『アリスさんまで!ってあんたは関係ないでしょーが!』


ってヨナもこっとをみながらうなずくのはやめろ。

いつも真剣な人に冗談言われたら誤解するわ。


「冗談ですよ、気を悪くしないでください」


「……悪いな」


『へーへー心の籠ったお言葉ありがたく受け取っとくよ』


「そういえば、貴方は異世界から

来たのだと言っていたかしら?」


今度はプリ―さんだ。

珍しいな、普通に話しかけてくるなんて。

失礼だなんて思ってはいけない。


『そうっすよ』


意図の読めない質問に軽く身構えてしまう。


「以前聞きそびれていたのだけど、異世界にはどんなお菓子があるのかしら?」


プリーさんはプリーさんでした。

ドストレートにプリ―さんでした。


『種類なんかは数えきれないほどかな?

つっても俺が作れるのなんてたかがしれてるしなあ……』


皆様お忘れかと思いますが、俺の特技というか趣味はお菓子作りでございます。

今のところ居候先を見つけることにしか役にたっていないエア特技だけども。

大概のテンプレ展開だったらもっと目立つ特技があったりするんだろうなぁ。

……お菓子作りの道に突き進んで行くべきか?

「お菓子を作る精霊さん」―――なんて「ぷりてぃー」で「きゅあきゅあ」な響きだろう。


「そんなことない、ミルフィーユという菓子は美味しかったぞ」


リンのフォロー?が俺を現実に引き戻す。


「ミル……?乳製品ですか?」


『薄く伸ばしたパイ生地をたっくさん重ねたパリパリ食感の新しいお菓―――』


「この作戦が終わったら食べました」


プリ―さん文法がおかしくなってる。

食べたい(きぼう)じゃなくて食べました(かんりょう)になってるよ!

下宿先の菓子屋さん(ウインドムーン)の親父さんは俺作の菓子を大分気にいってくれており、いくつかは店頭に並んでいる。

この世界に来てから人に食べ物を振舞うことに楽しさを覚えたのでそれ自体には全然不満はないんだけどさ。


『んじゃまー期待してて』


「よおっし!さっさと終わらせて帰りましょう!!」


わーい、プリ―さんキャラ崩壊ー。


『ミフルもな』


「俺もいいのかっ?」


そりゃあ広いとはいってもこんな空間で会話に入りたそうにしてたら俺でも気がつくさ。

ってか楽しく話してる俺らだけど今から命がけで何かするって感じしないな。

演習ってのは、リンから聞いたり俺が調べた限り人死にが当然のごとくでるようなものらしいのに。





「もうそろそろ着きます、準備を」


ミフルが告げるまでもなく、皆分かっていた。

戦場が近付いていることを。

空気はどことなくピリピリとしていたし、俺はマナを感知していた。

それもこの森から発せられるマナとは別に。

おそらくは戦闘で魔法を使っているのだろう。


『ティーちゃんは大丈夫かな?』


「あいつは今年はあくまで見学だから危険な目に遭うことはないさ」


ふと呟いた俺にリンが答えてくれた。


「……では目標地点に到着次第、一気に前線を抜ける」


あらかじめ話し合っていたことを確認するようにヨナが言った。

そのまま少し待つ。


「降ります」


風を切って空をかけていたゴーレムが戦闘区域の少し前にあたる木が開いたところに着陸した。

皆が降りるとミフルのゴーレムはマナとなり、大地に還った。

マナの滾るような感じも、戦いの空気も近くに感じる。

……なんか俺含めて急に真剣になったような説明だけど実際はそんなことなかったりする。

空気はピリピリしてるけど(ミフル以外は)全然そんなこと気にするようなタマ(・・)じゃなかった。

俺とリンは相棒がいるってんで無根拠に安心していたし、(ミフルを除いた)士官学校メンバーも平時と変わらない。

ヨナは淡々と。

アリスさんは飄々と。

プリ―さんはもぐもぐと。

……この中のどれかにツッコミポイントなんて無い、きっと無い(自己暗示)!


「―――では、射線上から退避は完了したんだな。

トキタやってくれ」


どこかに連絡していたヨナが俺に言う。

先程、ヨナは前線を抜けると言っていたがそのキーパーソンは俺だったりする。

そう!

久しぶりの見せ場ってわけさ!

え?今まで俺に見せ場なんてあったのかって?

あったっけ……?

あー、なんか空しくなってきた。


『りょーかい』


まあ、空しいからって役割を放棄することなんて出来ないんだけど。

とりあえず魅せてやるぜ(キリッ

ポジティブシンキングで行こう。


『皆は少し下がってて』


俺は今から「魔弾」を放つ。

工程は簡単だ。

思いっきしマナを込めて撃つだけの簡単なお仕事。

両手を前に出し、マナを集める。

特訓の成果もありすぐに直径三メートルほどの球体が出来上がった。

名付けて「魔弾・大《カナタスペシャル・バーストモード》」!

まだ大きくできそうだけどこんなもんでいいかな?


『目標を蒸発させる』


球体は地面と木、ともかく触れたものをのみ込みつつ駆けて行った。

おかげで目の前には道が出来あがっていた。


『じゃ、行きましょう』


「……あ、ああ」


あれヨナの声が少しうわずってる?

リン以外、皆微妙な顔してね?


『もうちょっとおっきい方がよかった?』


「いや、十分だ。

……というかやりすぎだ」


そっかな?


『そりゃあ「魔弾」のお陰で数キロ先まで道が出来てるけどそんなにたいしたことしてないよ?』


「「「「……」」」」


無言が突き刺さる。

リンはこれでもかとドヤ顔かましているけど。


『……やっちゃったぜ☆』


「……行くぞ」


スルーされただとっ?

と心のうちで突っ込みつつ俺たちは動き出そうとした。

そうしようとした。


突然だ。


突然、「魔弾」で作った道の前にナニカが立っていた。

誰一人として、その接近に気がつかなかった。

ヒトの形をしたナニカ。

一瞬で皆、臨戦態勢に入った。

なんだかわからないけど敵だということは理解出来た。

ナニカと対峙してもその全貌はわからない。

顔もない、薄っぺらなそいつ。

ただヒトのような(・・・)形をしている。

何で体が成っているのは分からないが、普通のモノではないのだろう。


「……魔物か?」


ヨナが双剣を構えたままポツリとこぼした。


『ヨナあれが―――』


俺が喋った瞬間そいつは笑った。

目も鼻も頬も口も眉も何も何も何も無い、ソレがケタケタと笑う。

なんだこれ、純粋に怖い。

ソレには顔なんて無いはずなのに、ソレは俺を見た。


『亜あ嗚、美ィつケタ』


そして、そう言った。

直後俺たちの足元に魔法陣が浮かび上がる。

―――マナが見えなかった!?

魔法陣が発光した瞬間、地面が消え去るのを感じた。


『な!?リン!』


咄嗟にリンへと手を伸ばす。


「カナタ!」


体が天へ、今度は右へ、様々な方向に落ちていくのを感じる。

それに抗うようにしてリンへと向かう。

幸いリンも俺へと向かってきてくれる。

あと少し、あと少し……!

お互いに手を伸ばして掴めないなんてテンプレ的展開になってたまるか!

もう、少しっ!


「カナタっ―――」


『リンっ―――』





森の広場で、ソレは笑っていた。

けたけたけた、と嬉しそうに。


『輪たしノうん命のヒト』


それだけ言うと、ソレは霧散した。

誰もいなくなった森の広場には赤い瞳のような宝石が落ちていた。

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