第20話 「等価庭園」
何度か全体を書きなおした結果がこれでした。ご容赦ください。
「校長先生!」
「何?」
「私も戦います。だから私もカナタと同じ部隊に入れてください」
『何言ってんの!?』
「カナタは黙っていてくれ!」
『はい!』
居てもたってもいられなくなった。
今この場はそんな時ではあるまい、と分かっているのに私は校長先生に頼んでいた。
「貴女はその理由があるの?」
無表情のまま校長先生は私に尋ねてくる。
「カナタの契約主として、私はカナタを独りで進ませない。
私も置いて行かれたくはない」
私も動じないで思いのたけをぶつける。
そうしなければカナタは行ってしまう。
何処だか分からない何処かへ。
そんな不安が胸中に広がっていた。
「そして、もうカナタを独りで戦わせない。
だから―――」
いくらカナタでも士官候補生相手に無傷で済むとは思えない。
「いいよ」
この時、少しだけ校長先生の表情が綻んだ気がした。
懐かしい思い出を回顧するかのように。
失った何かを慈しむように。
後々考えてみれば気のせいだったのかもしれないが、今はそう見えた。
無表情なはずのこの人が笑ったように。
「……」
先生―――セオドア先生はいつものようにため息をついている。
やはりそうなったか、というふうに。
『校長!?』
カナタは私のことを心配してくれているのだろうか。
それとも足手まといと思っているのだろうか。
冷めていた私は生きる意味を見いだせていなかった。
けれど、今は確かにある。
「”家族”と離れたくない」
「キミと離れたくない」
……ここまで言われて男が引けるだろうか、いや引けはしない。
『わかっ』
「どうしてボクたちはここまで来て、知らない人たちの恋愛を見せつけられているのでしょうか?」
「……空気を読め」
「あれ?もしかして聞こえてました?」
もしかしてもねぇよ!
金髪美形(性別迷子)さんんん。
せっかく二重否定を使ってまでリンと共に戦う決意をしたっていうのに。
「い、いやっ、私はそんなつもりではっ」
リンもめちゃくちゃ慌ててるし。
分かりやす過ぎ。
とりあえず巨漢の男の人が見た目以上に常識人てのは分かった。
「すみませんでした。どうぞ続きを」
こういうのって、タイミング逃すとかなり恥ずかしいのよね。
『戦うんならさっさと戦いましょう』
「そうです。私もお腹がすいてきました」
紫色の髪のお姉さんも同意してきた。
理由がおかしいけどいちいち突っ込んでいたらキリがないのでスルーします。
「にしてもいくらなんでも一対四……じゃなくて二対四でも無理があるのでは?」
緑髪の青年がおずおずと尋ねる。
そりゃあそうだ。
いくらリンが一個師団並みの戦闘力があるからって言ったって。
……あれ?
十分じゃね?
「心配無用。戦いの舞台は私が創世るから」
心配そうにしている青年とセオドア先生に向かって校長が言ってのけた。
『ここで「訓練」をするのでは?』
「お腹がすいたのでご飯を食べに行ってもよろしいですか?」
「………頼むから空気を読んでくれ」
お姉さんのボケはあっちの集団に任せるとしよう。
『そういえば、あなたたちは誰なんですか?』
よくよく考えれば自己紹介もしていない。
この人たち、誰なんだ?
「もしかして今まで分からないままだったのか?」
『自己紹介してないし…』
「まあ、戦ってからで良いでしょう?それよりお腹」
「プリ―黙って」
ついに迷子さんまでもが抑えに回りだした。
「ボク達はアスカ王立士官学校の士官候補生です。
今回例の「特殊部隊」とやらに編入することが決まりまして……一昨日」
一昨日!?
「それで顔合わせの意味を兼ねてこの街まで僕らは来た次第です……走って」
走って!?
「ボクの名前はアリス=エクスと申します」
『あどうもご丁寧に。
俺は時田彼方って言います』
「私はリン=ソラル。カナタの契約者だ」
流れでリンも挨拶をする。
「契約?ご結婚でもされているんですか?」
ボンッ!
↑リンから煙が出た音。
『あはは、違います。
精霊なんです、俺』
「は?」
変な奴を見るかのように見られている!
『細かいことはともかく!
他の方の名前は?』
「(ぜ、ぜんぜん細かい問題ではないと思うぞ?)」
『(いちいち詳しい説明しても面倒だしいいでしょ)』
「(…私は構わないが)」
「俺はヨナだ」
巨漢の男がぼそりと呟く。
「自分はミフル=セシルールです」
緑の人もつられて挨拶してきた。
「お腹がすきました」
「―――このどうしようもないのがプリート=ディ=ハルガです」
一気に自己紹介が済み、変な沈黙が流れた。
「…始める」
校長がそう言った途端に練習場の地面にややこしい模様が浮かび上がった。
無秩序に様々な記号が書いてあるように見えるその模様は深い深い青色だ。
深海を思わせるマナが模様から噴き出し、この練習場にいる全員を包み込む。
次第に視界が青に染まっていく。
そして。
「青」が唐突に裂け、俺たちは先ほどと寸分違わぬ練習場に立っていた。
「《等価庭園》」
「すごい…!
マナによる魂の完全複製か」
リンがよくわかんないことを呟いてる。
『……』
聞いてもどうせ分からないので尋ねませんよ!
「これで怪我は心配しないでいい」
「全員準備は良いか?」
『準備つっても俺たちなんも持ってませんよ?』
「校長」
《水》のマナが俺とリンの手元に集まったのを視た直後、そのマナは物質に変化した。
『なん…だと…?』
俺の手にはいつもセオドア先生との訓練で使っている刃引きした鋼鉄製のロングソード。
リンの手には薙刀が。
俺らが武器を持ったことに反応して四人も武器を構えた。
紫髪は両手にナックルを。
巨漢は二つの剣を。
緑髪は盾と剣を。
迷子はレイピアを。
「ここは校長が創った結界の中だ。
この中での傷は結界の外には反映されない。
存分に戦え」
セオドア先生が告げる。
「始め!」
剣戟が鳴る。
ご覧いただき、ありがとうございます。
始まんなかったです、戦闘。
本当はもうちょいリン視点とか掛け合いとか校長の魔法の描写とかしたいんですが私の語彙が底をついてしまいこんな感じになってます。
前書きも言い訳臭いどころか言い訳だ\(^o^)/
こんな言い訳野郎ですが、気が向いたら感想などいただけると嬉しいです。
またのお越しをお待ちしております(土下寝)