パルク・グリーンの庭師たち──『From Pieces, Peace.(欠片より、平和を)』
SFって読まれないらしいので書いてみました!(笑)(*´∀`*)<というのは半分冗談で、実は元々、公式企画の「夏ホラー(音)」で思いついたお話です。
「音」と聞くと怖い話を考えたくなるのですが、気付けば初夏の風が吹くような、爽やかな物語になっていました。(´・ω・`)
青空の下。
草原を渡る風。
どこか遠くで鳴る音楽。
そんな景色を思い浮かべながら読んでいただけたら嬉しいです。
少しだけSFで、少しだけファンタジーで、そして少しだけ音のお話です。
それでは、初夏のパルクへようこそ。(◡ω◡)
『パルク・グリーンの庭師たち』
地球から遠く離れた、テラフォーミング途上の惑星【パルク(Parc)】。
観光と農産物を主な産業とする、この星の最大の特徴は、大陸の半分を覆う『巨大な緑の海』だ。
といっても水ではなく、ナノマシンが組み込まれた植物型デバイス、通称『パルク・グラス』が一面に広がっている。
光合成をすると、このグラスたちは一斉に、まるで地球の遊園地のような形をとり、賑やかな音を奏で始める。
僕が持っているコントローラーの画面には、一面の緑が音符のように表示されている。
僕たち「パルク庭師」の仕事は、この星の生態系——という名の巨大なアミューズメント・プラント——をメンテナンスすることだ。
風が吹くと、ざわざわという葉擦れの音ではなく、オルゴールやトランペットのような音が響くのだ。
「あ、音の波が喧嘩した。……うわ、最悪だ!」
丘の斜面で、僕は悲鳴を上げた。
画面上で、緑の音符たちがバラバラに弾けている。
風のアルゴリズムの選択を誤ったのだ。
それまで心地よく響いていた『回転木馬』のフルートが突如として歪み、谷間の『ジェットコースター』が刻む打楽器の音と衝突した。
キィキィと耳障りな不協和音が丘を駆け上がり、パルク・グラスたちが不快そうに波打つ。
「おいおい、サキ。ずいぶんと賑やかな不協和音だな」
ホバーボードに乗って風を切りながら、先輩のレオンが滑り降りてきた。
彼は慌てるサキの隣に着地すると、呆れたように笑って、持っていたボトルをポケットに突っ込んだ。
「すいません、レオン先輩、風と土の鼓動が上手く噛み合わなくて……」
「パルク・グラスの基本を忘れるなよ。一本一本はただのちっぽけな『欠片』だ。でも、そいつらの鼓動が綺麗に重なり合って初めて、この星の『平和』が鳴る。ほら、貸してみろ」
レオンはサキからコントローラーをひったくると、慣れた手つきで画面をスワイプした。
彼がいくつかのパラメーターを調整すると、不快な雑音が瞬時に霧散する。
それどころか、丘の上のグラスたちが青緑色に光り、「パッパラー!」と息の合った楽しげなファンファーレを響かせた。
「すげえ……一瞬で調律された」
「これが年季の差ってやつよ。この星を『開拓した連中』の古いモットー、お前も研修で習っただろ?」
レオンは空を見上げ、何気なくその言葉を口にした。
「『From Pieces, Peace.(欠片より、平和を)』。ま、俺たち庭師にとっては、『バラバラの音をまとめて、気持ちいい遊び場を作れ』って意味さ」
「なるほど……。あ、先輩、僕にもう一回やらせてください」
サキはコントローラーを受け取り、今度は慎重に指を動かした。
レオンの手本を思い出しながら、グラスの根に流れる微弱な鼓動を揃えていく。
風の向きに合わせてテンポをわずかに遅らせると、今度は失敗しなかった。
谷間から丘へ、小さな音の欠片たちが綺麗に繋がり、心地よい波となって駆け上がっていく。
「……よし、今度は上出来だ。少しはマシな音になったな」
レオンが満足そうにサキの頭を小突いた。
その時、地平線からゆっくりと、光る緑の巨大なツルが輪を描いて空へと伸びていく。
星の自転と連動して動く、直径三キロメートルの植物製大観覧車だ。
風がその輪を通り抜けるたび、星全体に、うっとりするような美しいパイプオルガンの和音が響き渡った。
「綺麗ですね……子供たちが喜びそうです」
「ああ。これが聴けるから、初夏のパルクの仕事はやめられねえんだ」
レオンは炭酸飲料のボトルを開け、グイッと喉を鳴らした。
シュワリと弾ける音さえも、足元のグラスたちが「ピチピチ」と真似をして、僕たちを笑わせていた。
──百八十年前、移民船がこの星へ降り立った時、計画は失敗寸前だった。
大気は薄く、水は少なく、土壌には有機物がほとんど存在しない。
このままでは植物型ナノマシンは定着できなかった。
そして、長い航海の宇宙放射線が乗員たちを蝕み、生存者に残された時間は数か月しかなかった。
誰一人として、次の世代を見ることはできない。
艦長エレナ・ヴァイスは、最後の会議で静かに告げた。
「ならば私たちが土になりましょう」
最初、その意味の意味を理解できた者はいなかった。
乗員たちの遺伝情報。
神経組織。
細胞。
骨。
血液。
記憶媒体。
すべてを分解し、ナノマシン群と融合させる。
──船内には人間の身体を有機資源へ変換する緊急生態維持システムが存在した。
本来は命を落とした乗員を再利用し、閉鎖環境を維持するためのもの。
エレナはそれを惑星規模へ転用した。
乗員たちの身体をナノマシン群と融合させ、惑星最初の土壌へと変える計画だった。
あまりの提案に、誰もが沈黙した。
自ら装置へ入る決断は──容易ではない。
その沈黙を破り、エレナは立ち上がった。
「命令ではありません。ですが、この計画の責任者は私です」
彼女は操作盤に自らの認証を行うと、静かに微笑んだ。
ためらいはなかった。
「花を咲かせてください。できれば、子供たちが笑う場所を」
彼女は振り返り、最後にこう言った。
彼女は誰かを見送るのではなく、自らが『最初の種』となって先に未来へ行くことを選んだのだ。
装置の扉が閉まり、彼女の鼓動は、パルク・グラスの最初の根へと溶けていった。
かつて彼らが掲げた標語『From Pieces, Peace.(欠片より、平和を)』。
それだけを残して。
反対意見はなかった。
──もう未来を生きることはできない。
──ならば未来そのものになろう。
それが全員の答えだった。
船長の後を追うように、乗員たちも次々と未来そのものへと還っていった。
それは開拓者たちの、文字通りの決意表明だったのだ。
──それから百八十年。
草原は歌い、観覧車は和音を響かせ、サキとレオンはホバーボードで風を切る。
──誰もその過去を知らない。
──思い出す必要すらない。
「サキ、ぼーっとしてるとグラスに置いていかれるぞ」
「あ、すみません! 今行きます!」
僕はもう一度コントローラーを調整し、丘全体のテンポを整える。風が変わり、無数の音が重なり合う。
その重なりの、ほんの一瞬。
ほんの一音だけ。
『─────』
聴こえた気がした。
振り返っても、誰もいない。
ただ初夏の眩しい風が吹いているだけだ。
だが足元では、無数の緑の葉が揺れていた。
まるで誰かが、優しく微笑んでいるように。
「どうした、サキ?」
「……いえ、何でもないです。なんだか今日のグラス、特別に綺麗な音だなって」
レオンが笑った。
「ああ。この星は昔から音楽好きなんだ」
僕たちはまたホバーボードを加速させ、緑のメロディの中へと飛び込んでいった。
この星の夏は、まだまだ始まったばかりだ。
(了)
最後までお読みいただきありがとうございました。m(_ _)m
この物語を書きながら考えていたのは、『受け継がれるもの』についてでした。
私たちは誰しも、先人たちから何かを受け取って生きています。
技術だったり。
文化だったり。
言葉だったり。
あるいは名前すら知らない誰かの努力だったり。
受け取った側は、その重さや由来を知らないことも少なくありません。
けれど、知らないまま笑ったり、遊んだり、日々を生きたりできること自体が、もしかすると受け継がれたものの一つの完成形や、恩返しなのかもしれませんね〜♡(*人´ω`*)<感謝感謝〜♡
パルクの庭師たちが奏でる音が、そんな「見えない誰かからの贈り物」のように感じていただけたなら、とても嬉しく思います。
ありがとうございました♪(人*´∀`)。*゜+




