3正面突破
やっぱ正面突破してと要求したらこうなった
夜は更け、王都グランベルのメインゲートは重厚な鉄格子によって厳重に閉じられていた。城壁の上には、僕の捜索に駆り出された王国軍の兵士たちが、トーチの炎と共に緊張した面持ちで巡回している。
僕は王都の主要な通りから一本入った、人気のない石畳の道に立っていた。目視できる範囲だけでも、城門付近には二個中隊、約200名の兵士が警戒態勢に入っている。
脱出方法は、下水道を通る潜行から、一転して「正面突破」に切り替わった。理由はシンプルだ。
「最も労力が少なく、確実な方法だから」
潜行は時間がかかり、発覚のリスクも高い。ならば、僕の能力を最大限に利用し、短時間で、王国の戦意を完全にへし折る一撃を加えればいい。
僕は、右拳をゆっくりと握りしめた。
人間の肉体は、驚くべき潜在能力を秘めている。しかし、通常の人間がその力を発揮できるのは、通常、筋力の20%から30%程度に制限されている。これは、筋肉が骨を砕いたり、腱を引きちぎったりする自己破壊を防ぐための、脳による本能的な「リミッター」だ。
**【ユニークスキル:無限自己回復(極)】**は、このリミッターを完全に無意味なものにする。どんな損傷も即座に修復されるため、脳が自己防衛のために出力を制限する必要がない。
さらに、**【ユニークスキル:恐怖耐性(極)】**は、痛みや不安といった、わずかなブレーキすらも存在させない。
リミッターは完全に解除された。出力は100%。
僕は王都の巨大な城門に向かって、ゆっくりと歩き出した。
城壁上の兵士が僕の姿を発見し、警告の声を上げる。
「何者だ!止まれ!」
僕の足は止まらない。
「止めろ!王命により、あの異邦人は生け捕りにせよ!」
警告が敵意に変わり、城壁の上から矢が雨のように降り注いだ。
矢は僕の体に突き刺さる。バシュ、バシュと、皮膚を、筋肉を、貫通する。激しい出血は、次の瞬間には再生力の光によって消え去る。まるで水面に波紋が広がるように、傷跡は瞬時に修復された。
僕の体がまるで「矢を無効化する壁」になった光景に、兵士たちの顔から血の気が引いていくのが見て取れた。
僕は城門の真正面、硬い石畳の上に辿り着いた。目の前には、厚さ50センチはある鋼鉄と木材でできた巨大な扉。
僕は一歩踏み込み、腰を落とし、そして、リミッターを完全に解除した右腕を振り抜いた。
「フン!」
筋肉が、通常の人間では有り得ないほどに収縮し、膨張する。腱が軋み、骨がきしむ音が、拳から発生する凄まじい風切り音にかき消された。
その威力は、推定3トン(約30,000ニュートン)を超える。
拳が城門の中央に激突した。
ガアアアアアアアンッッッ!!!
轟音は雷鳴のようで、王都全体に響き渡った。
鋼鉄の門は、巨大なハンマーに叩き潰された豆腐のように、内側へ向かって粉々に砕け散った。木材は爆発し、鋼の蝶番は引きちぎられ、破片が四方八方に飛び散る。
門のすぐ内側で警備していた兵士たちは、門の爆発的な崩壊に巻き込まれ、肉片と化した。彼らの甲冑は、まるでブリキのおもちゃのように潰されていた。
立ち込める砂埃の中、僕は無傷で立っていた。
城門は、かつてそこにあったという事実を否定するように、巨大な穴となって崩壊していた。
城壁上の兵士たちから、悲鳴とも絶叫ともつかない声が上がった。
「ば…化け物だ!」 「門が!門が一撃で消滅したぞ!」
僕の体は、この凄まじい一撃による反動で、腕の骨、肩の関節、背中の筋肉がすべて損傷を受けていた。しかし、同時に**【無限自己回復(極)】**が、この自己破壊を秒単位で修復し続けている。
僕は振り抜いた拳をゆっくりと引き戻し、破壊された城門の瓦礫を踏み越え、外の世界へと踏み出した。
広がるのは、王都の光も届かない、暗く広大な平原だ。
王国の最高戦力である騎士団を相手にするのは、もはや時間の無駄だと判断した。彼らはもはや、僕の障害にはなり得ない。
「勇者?違う。僕は、僕を抑圧する存在全てを破壊する無双の存在だ」
僕は振り返ることなく、自由を求め、夜の闇の中へ消えていった。背後では、門を失った王国軍の怒号と混乱だけが、いつまでも響いていた。
(完)




