2自由への潜行
王宮の長い廊下を歩きながら、僕は冷静に思考を巡らせた。
目的:王都からの完全な脱出。
この世界で生きるための情報、資金、装備の確保。
状況: 僕の能力(無限自己回復)は露見したが、「恐怖耐性」と併せて、彼らはまだ僕の真の強さを理解していない。しかし、王国の最高権力者たちを前にして敵対を宣言した以上、猶予はほとんどない。すぐに王都は僕の捜索で混乱するだろう。
背後からは、騎士たちが動揺から立ち直り、剣を引きずる音が聞こえ始めた。
「止まれ!王命に背く者よ!」
僕は足を速め、廊下の突き当たりにある扉を蹴り開けた。そこは、給仕が使うような裏の階段だった。
追ってくる騎士は三人。鎧の音は大きいが、動きは鈍重だ。階段を降りる途中で、一人の騎士が上から長槍を突き下ろしてきた。
僕は避けることも可能だったが、あえて動きを止めなかった。回避は体力を消耗し、時間を浪費する。
槍の穂先が、僕の左肩を貫いた。
ズブッという感触と共に、肩の骨が砕ける。普通の人間なら戦闘不能になる激痛と、出血多量に見舞われるはずだ。
だが、痛みは一瞬、そしてすぐに**【無限自己回復(極)】**が発動した。
「ぐっ……な、なぜ平気な顔を!」
騎士が驚愕に目を見開いたその隙に、僕は回復した左肩を動かし、槍を掴んで引き寄せた。身体が密着した瞬間、僕は騎士の顔面に思い切り頭突きを叩き込んだ。
**【恐怖耐性(極)】**のおかげで、躊躇も、相手を傷つけることへの罪悪感も一切ない。ただ、合理的に、最小の労力で最大の効果を得るための行動だけを選択できる。
金属のぶつかる鈍い音と共に、騎士は意識を失って階段を転げ落ちた。
残り二人の騎士は、同僚の異常な敗北と僕の超常的な回復を見て、動きが止まった。
「化け物め…!」
彼らが怯んだ隙に、僕は階段を駆け下り、王宮の裏手にある厨房から外へ飛び出した。
王宮を出た僕は、王都の雑踏に紛れ込んだ。
この世界の服装は、僕の異邦の制服とはあまりにもかけ離れている。まずは目立たない服と、この世界で通用する金銭が必要だ。
僕は、王宮に近い貴族街ではなく、生活臭の濃い裏路地を選んで進んだ。そこで見つけたのは、薄暗い倉庫の陰で怪しげな取引をしている二人組の男たちだった。明らかに「闇の住人」だ。
僕は物音を立てずに二人に近づいた。
「おい、もっと金を積まねぇと、この情報はお流れだぜ」一人が低い声で脅している。
僕は何も言わず、二人の頭を掴んで、そのまま倉庫の壁に叩きつけた。二人はすぐに意識を失い、地面に崩れ落ちた。
「…成功率99%の行動を選択」
ポケットから金目のものを抜き取る。古い革袋に入った、銀貨と銅貨が合わせて十数枚。この世界の通貨の価値はまだ不明だが、当座の足しにはなるだろう。
さらに、背の低い男が着ていた、フード付きの地味な色のチュニックとズボンを剥ぎ取った。彼らは意識がないため、抵抗もない。
王宮の制服を脱ぎ捨て、チュニックに着替える。これで人前に出ても、不自然さは減った。
次に、僕は王都の賑わいから離れた、庶民が集う場末の食堂に入った。賑わいすぎず、静かすぎない場所は情報収集に最適だ。
カウンター席に座り、店主に目立たないように銀貨を一枚差し出した。
「これで一番量が多くて、日持ちする食べ物と飲み物を」
店主は銀貨を見て目を丸くしたが、すぐに笑顔になり、山盛りの焼きパンと干し肉、水筒いっぱいの飲み物を用意してくれた。銀貨一枚でこれだけの量…僕が持っている資金で、しばらくは野宿しながら生活できると判断できた。
食事をしながら、耳に入ってくる会話を注意深く拾う。
「…王都の門は、今朝から全部閉ざされてるってよ」 「また魔物の襲撃か?最近、王様の顔色も悪いって噂だぜ」 「変な噂は流すな。誰か、王宮から重要なものが逃げたらしいぞ。兵士がやけにピリピリしてる」
「重要なもの」—それは僕のことだろう。門は既に閉鎖されている。正面突破は無駄な労力だ。
僕は情報を統合した。
脱出ルートの選定: 王都を囲む城壁には、下水道の排水口、あるいは古い水路跡が必ずある。警備が甘くなる夜間、そこを突破する。
僕は食堂を出ると、人目につかない場所でしばらく待機し、夜になるのを待った。
夜の闇は、僕を追うグランベル王国の光を打ち消す、最も信頼できる味方だ。絶対的な恐怖耐性を持つ僕にとって、暗闇の不安も、城壁の高さも、ただの物理的な障害でしかない。
僕は、自由と無双の始まりを求めて、グランベル王国の城壁へと潜行を開始した。




