ぷろろーぐ
僕の名前は黒崎悠人。高校二年生。そして、常に足音が聞こえるたびに心臓が凍り付く、生ける恐怖の塊だ。
教室の片隅、昼休みの屋上裏、放課後の人気のない体育館裏。どこにいても、彼らの嘲笑と暴力から逃れることはできなかった。担任は見て見ぬふり、家族は「お前にも悪いところがある」と非難するだけ。僕にとって世界は、自分を蝕み続ける巨大な檻だった。
特に酷かったのは、リーダー格である赤城の冷酷な目だった。あの目が僕に向けられるたび、身体は勝手に震え、呼吸さえも忘れる。恐怖は皮膚の下に染み込み、骨の髄まで浸食し、僕の精神を完全に麻痺させていた。
「おい、クロサキ。また顔色が悪いぜ。幽霊か?」
今日、赤城は僕の頭に冷たい缶コーヒーをぶちまけた。冷たい液体が制服を濡らし、髪を伝って滴り落ちる。屈辱と、これから起こるであろう痛みの恐怖で、僕はまたしても動けなくなった。声も出せない。逃げることもできない。その場に立ち尽くすことしか許されない、哀れな存在。
その瞬間、世界が突然、白く爆発した。
次に目を開けた時、僕がいたのは石造りの荘厳な空間だった。目の前にはローブを纏った数人の男女。壁にはトーチが灯り、湿った空気が肌を撫でる。
「おお、成功したぞ!これが異邦の勇者か!」 「なんと虚弱な…これで魔王を倒せるのか?」
罵声が聞こえる。しかし、驚くべきことに、僕の心はまるで反応しなかった。
ローブの男の一人が、苛立ちを隠さずに僕の胸倉を掴んだ。
「貴様、何だその態度は?我々を前にして平然としているとは!」
その男が僕の顔に拳を振り下ろした。衝撃とともに血飛沫が飛び、視界が揺れる。しかし、痛みは一瞬で消え去った。
僕は思わず自分の頬に触れた。べっとりと血がついていたが、傷跡がない。まるで最初から何もなかったかのように、皮膚は滑らかに再生していた。
「な……!?」男が驚愕の声を上げた。
その時、僕の視界の隅に、青い半透明なウィンドウが現れた。
【黒崎悠人】
ユニークスキル:恐怖耐性(極)
効果:あらゆる種類の恐怖、精神的圧力、トラウマを完全に無効化する。常に冷静な判断力を維持し、自己を疑うことがない。
ユニークスキル:無限自己回復(極)
効果:肉体のあらゆる損傷を即座に修復し、無限のスタミナを提供する。致命傷すら瞬時に回復する。
極。二つのチート能力。僕を支配し続けた最大の敵である「恐怖」は消滅し、二度と傷つかない「肉体」を手に入れた。
恐怖がない。僕の身体を支配していた鎖が外れた。
「…そうか」
僕は静かに呟いた。高校の教室で、赤城の目が怖くて一歩も動けなかったあの時の、震える情けない僕ではない。
僕の目に、初めて冷たい光が灯った。
「失礼だが、君たちは僕を召喚したのか?僕を、この世界で道具として使うつもりか?」
僕が口を開くと、ローブの男たちは凍り付いた。そこに、いじめられっ子の怯えは一切なかった。あるのは、無限に回復する肉体と、何にも揺るがない絶対的な精神力を持つ、新しい僕だった。
僕の異世界での「無双」は、こうして始まった。




