Episode4 アポロ13号「ヒューストン、我々は問題を抱えている」リバティ・ガールズ「テキサス、我々は問題(と解決策)を抱えている」
前書きと後書き、書くことがねえ!(でも書くことがないというネタがあった)
テキサス州ボカチカ近郊、航空宇宙メーカーであり、宇宙輸送サービス会社でもある(そして、ついでにインターネットプロバイダでもある)スペースXの本拠地に、一台の白いテスラ・モデルXが入ってきた。本社オフィスの眼の前に横付けされると、すぐにスーツ姿の部下らしき人物が、モデルX最大の特徴であるガルウィング・ドアを開けた。取り囲む記者が一斉にフラッシュを焚き、カメラを向ける。
モデルXから三人が降りる。もちろん、メアリー・マーガレット・エマ(リバティ・ガールズ)の三人である。
三人を代表し、メアリーが報道陣に挨拶をする。
「本日はお暑い中お集まり頂き、ありがとうございます。お招きいただいたホストの方をお待たせできませんので、あまりお話できませんが、どうか有意義な取材になることを祈っています。」
FOXニュースの記者が早速質問をする。
「本日のイーロン・マスク氏との会談は、怪人からアメリカを守るためのものなのでしょうか!」
「もちろんそうです。妖精との不利な契約を避け、十全な力で怪人を叩きのめすためには必要不可欠です。」
ここで、マーガレットが付け加える。
「それと、怪人共をおそらく手引きしている、アメリカの敵と戦うためでもあるわ!」
不幸なことに、CNNの記者はこの機を逃さなかった。
「アメリカの敵とは誰なんですか?貴方がたは分断を煽り、不必要な敵を作っているのではないでしょうか?」
しかし、このような質問にたじろぐメアリーではない。
「アメリカの敵が誰なのかは、皆さんおわかりだと思います。自由と正義、そして安全を脅かす怪人共です。その手引きをするものも同じでしょう…ええ、信じていますよ、あなた方ではないとね。」
CNNの記者が一瞬怯んだ隙に、畳み掛ける。
「まぁ…そうだとしても、私は心配していませんがね。怪人共は不法移民より軟弱ですが、あなた方ではそれすら倒せないでしょう。」
顔を真っ赤にした記者を置いてきぼりにして、三人はオフィスに入った。
スペースX社内の応接間に入ると、既にイーロンは椅子に腰掛けていた。彼は立ち上がると、三人に座るよう促した。
「アメリカを守るという志に共感いただき、ご支援くださるだけでなく、こういった形でお招き頂き、深く感謝申し上げます。」
メアリーが丁寧に感謝を述べる。
「いや、かしこまらないでほしい。なにより、少女たちがアメリカを守ろうとしているのに、大人が何もしないのはおかしい。自分は当然のことをしたまでだ。」
「ありがとうございます。このような大人たちに守られていると思うと、私はアメリカ人であることが誇らしく思えます。」
「いやいや…そのセリフは寧ろ私が言いたいくらいだ。そろそろ時間だから、配信を始めよう。」
挨拶が終わると配信が始まった。
配信ではステーキハウスでの戦闘や、FOXニュース出演、その後のクラウドファンディングなど、様々な話題が飛び交った。イーロンは終始、SNSやテレビを上手に使いこなすメアリーに感心しきっていた。(エマの”ライトスモーカー”ぶりにも同時に感心していたようだ)
さて、配信が終わり、いよいよ密談の時間である。イーロンは人払いをした後、口を開いた。
「具体的に、妖精との交渉…そして怪人との戦闘はどうするつもりだ?カネだけで解決できる問題ではないだろう…」
「ええ、もちろんそうです。100万ドルの支援にはどんな感謝の言葉も見合いませんが、私たちはそれ以上を求めたい…お金だけではなくね。」
「感心した。もし君たちが守銭奴のペテン師なら、ここで求めるのはさらなる財政支援だけだろうからね。」
「お駄賃が欲しいなら、高級ヨットで大西洋を"お使い"したほうが儲かるわ。」
マーガレットが笑いながら言った。このジョークに全員がひとしきり笑った後、メアリーが口を開いた。
「私たちに必要なものは4つです。弁護士・ロビイスト・メディア…そして、PMCです。それも、最も優秀かつ、最も過激で、なにより最も愛国的な連中が。妥協はできません。」
「私も同感だ。早速メンバーの候補を選定して送る。」
「ありがとうございます。」
「それから、私のような世界と祖国を守りたい億万長者を何人か知っている。会ってみると良い。」
「ありがとうございます。よろしくお願いします。」
会談の、最も重要な部分が終わった。イーロンが口を開く。
「これは…余談なのだが。怪人、そしてそれに関連するであろう妖精、これらが既存の物理法則を捻じ曲げているというのは本当か?」
メアリーが答える。
「ええ、本当ですよ。物理法則の改変や、空間の転移、肉体の超高速再生などを確認しています。妖精への"インタビュー"では、契約によって我々にもそれを付与できるとか。」
「しかし、まだ契約は結んでいないのか。普通ならすぐ結びそうなものだが。」
「まず…こういう無茶苦茶な連中との契約が履行されるか怪しいのが一点、契約に不利な条項を盛り込まれる可能性が一点、それから…今の状態では、ここだけの話ですが妖精側が有利です。この能力だけでも、上手く使われれば初戦の怪人のようにはいかないでしょう。」
イーロンは、本当に目の前の少女がただの少女なのか怪しく思えるほどの聡明さに舌を巻いた。
「Excellent…ポストを行うまでの短期間で、そこまで考えていたのか。」
「まあ…最初は動物的な勘もありましたが。それに、よくわからない契約書にサインしないのはアメリカの鉄則です。」
「間違いない…それをわからない連中も多いがな…」
「そういうわけで、取り敢えずダクトテープで簀巻きにしています。」
「その妖精…妖精というのは呼びにくいな…"Q-Ball"とかはどうだ?それをこちらによこしてくれないか?」
「いい名前です。もちろんお願いしたいのですが…ただ一つ問題が。」
メアリーが続ける
「少し、"状態が悪い"んですよね。ノークレーム・ノーリターンのジャンク品扱いで良ければ。」
イーロンは笑った。
「もちろんだ。ジャンク品の扱いには慣れている。学生時代を思い出すよ。」
「私が思うに何だが…これは人類への"試練"だ。地球外生命体…それが我々の考えるところの"宇宙"から来ていないにしても…とコンタクトをとり、研究できるわけだからな。逆に言えば…私の大きな目標であるテラフォーミングの前に、地球が飲み込まれるかもしれない危機でもある。」
「同感です。貴方は世界一の大富豪ですが、私たちにとっては貴方の資産より、貴方が持つテクノロジーの方が重要です。」
「よろしく頼む。」
「こちらこそですよ。次いつ新しい怪人が現れるかわからない…契約の有無にかかわらず、彼らの解明は急がれます。」
「もちろん。最大級の優先度で取り組むから、安心してくれ。」
そうして、会談が終わった。エマが口を開く。
「あ…一本どうです?よくシガレットを見ていたので。」
「喫煙の習慣はないが、君から貰うのは特別だ。もちろんいただこう。」
そうして4人はラッキーストライクを吸った後、外に出た。
外では、この暑さの中というのに取材陣が待ち構えていた。メアリーはFOXニュースに最大限の笑顔と、CNNに最大限のカウンターを食らわせた後、テスラに乗り込んでロケットの発射場に向かった。
メアリーとイーロンは、口早に意見を交わす。
「スターシップの再利用可能な耐熱タイルは、怪人のエネルギー攻撃に応用できないか?」
「それが出来れば、我々はビデオゲームで言うところの"避ける"以外のコマンドを手に入れることになります。それが大きいのはご存知かと。」
「アメリカ各地で怪人は発生しています…我々3人では限度がある。初戦の怪人程度は、街の人々でも駆除できるようにするテクノロジーが必要です。」
「テスラのオートパイロット技術を、対怪人用の無人ドローンに転用することができるかもしれない。テスラのエンジニアに提案してみよう。」
「ニューラリンクで兵士の反応速度を高めることは可能か?」
「脳はまだまだ未知数の領域が大きいです。もしかしたら、Q-Ballの解析でなにか新しい知見を得られるかも。」
なお、エマとマーガレットは少し離れたところで、ラッキーストライクをふかしながら4chanの雑コラを見ていた。無理はない、ついていけるメアリーがおかしいのだ。
そして、会談と"工場見学"が終わり、三人は帰路へついた。
その晩、FOXニュースとCNNは、それぞれこの会談を報じた。
FOX「リバティ・ガールズ、イーロン・マスクと"アメリカを守るための契約"への対峙で合意」
CNN「怪人を倒した少女たち、次はテクノリバタリアンのビリオネアと秘密会合か?」
てかこの小説、書きたいシーンが多すぎて全然戦闘してない…




