8. セントラルの異変
冒険者ギルドでの騒動から一夜明け、俺はリリアと共にセントラルでの生活を始めていた。ギルド公認の冒険者となった俺は、まず手始めにいくつか依頼をこなすことにした。リリアと二人で生きていくには、資金が必要だ。
ギルドの依頼板には、薬草採取や魔物討伐といった低ランクの依頼がずらりと並んでいた。その中に一つ気になる依頼書があった。
(迷宮探査…)
「…迷宮とは、魔と宝が集まる場。夢と死の隣り合う場。」
俺が驚いた顔を見せると、リリアが続ける。
「…ヤマトさんが興味持ちそうなものくらいわかりますよ。さっきのは母に聞いた迷宮のお話です。幼いながら憧れがあって、覚えてたんです。」
「なるほど…」
「今は無理ですよ。まずは簡単な依頼をクリアしてランクを上げないとなんですから!」
と言ってリリアは依頼書を一つ一つ確認していく。フロン村での魔物討伐を思えば、どれも楽なものだろう。
「ヤマトさん、この依頼はどうでしょう?『森の薬草採取:ベニキノコ10個』。初心者向けって書いてあります」
リリアが指差したのは、確かに簡単な依頼だった。俺は頷き、その依頼を受理することにした。
「…お気をつけて」
ギルド職員は、俺の顔を見るたびに少し怯えたような表情をするが、それでも丁寧に対応してくれるようになった。
依頼の場は、セントラルの街からほど近い森であった。森の中は、フロン村の森とはまた違った雰囲気で、見慣れない植物が茂っている。リリアは、幼い頃に母親から教わったという薬草の知識を活かし、次々と目的のベニキノコを見つけていく。彼女は、森の中で生き生きとして見えた。
「ヤマトさん、見てください!大きなベニキノコです!」
無邪気に笑うリリアの顔を見ていると、自然と心が和む。平和な時間は、この異世界では貴重なものだ。
その日の夕方、依頼を終えてギルドに戻ると、俺たちはギルド内の一角で子供たちが集まっているのを見かけた。リリアは、フロン村でも子供たちに読み書きを教えていたせいか、すぐに彼らに興味を持ったようだ。
「ねえ、お兄ちゃん、お姉ちゃん!新しい冒険者さん?」
好奇心旺盛な少年が、リリアの服の裾を引いた。リリアは優しく微笑んで応じる。
「ええ、そうです。リリアと言います。こちらはヤマトさん」
「僕、コウだよ!この子たちはミミとルカ!」
子供たちは無邪気に自己紹介をしてくれた。リリアはすぐに子供たちと打ち解けた。その日から会うたびによく話すようになり、リリアだけでなく、俺も子供たちと親しくなった。
そんなある日。
「ねえねえ、最近、変な噂があるんだよ!」
コウが声を潜めて言った。
「え?どんな噂?」
リリアが身を乗り出す。
「迷宮の近くで遊んでた子が、急にいなくなっちゃうんだって…」
ミミが付け加えた。
「そうそう!僕の友達のユウも、昨日から学校に来てないんだ!」
ルカも寂しそうに顔を伏せる。
子供たちの話に、リリアの顔から笑顔が消えた。俺も、その言葉に眉をひそめた。行方不明の子供。ギルドの依頼板には、そのような依頼は出ていなかったはずだ。
「そんな…本当なの?」
リリアが心配そうにコウたちを見つめる。
「うん…。なんか、夜になると、変な声が聞こえるって…」
コウが震える声で言う。
子供たちの様子から、それが単なる噂話ではないことを悟った。セントラルの街は治安が良いと聞いているが、水面下では不穏な空気が流れているようだ。
宿に戻った後、俺はリリアに尋ねた。
「子供たちの話…どう思う?」
リリアは不安そうな顔で頷いた。
「私も気になっています。フロン村でも、時々魔物に子供が襲われることはありましたが、街の中で、それも人攫いのようなことが起きているなんて…」
彼女の碧い瞳には、子供たちへの心配が色濃く浮かんでいた。
「ギルドでは、そういった依頼は出ていない。だが、放っておくわけにはいかないな」
俺は腰の無銘の柄を握った。平和な街の裏で、何かが蠢いている。弱きもののために、俺が動く時が来たのかもしれない。
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