7. 冒険者ギルド
翌朝、俺はリリアと共に宿を出た。今日の目的は、冒険者ギルドへの登録だ。ギルド職員の話では剣士の地位は低いとされていたが、この世界で情報を集め、力を磨くにはギルドが一番手っ取り早い。それに、リリアを連れての旅では、資金も必要になる。
ギルドの扉を開けると、昨日と変わらぬ喧騒が俺たちを包み込んだ。酒の匂い、男たちの下品な笑い声、そして依頼板の前で議論する冒険者たちの声。リリアは不安そうに俺の袖を掴んだ。俺はリリアの手を握り返し、受付へと向かう。昨日応対した職員が、俺たちを見てげんなりした顔をした。
「おいおい、またあんたか。今度は何の用だ?」
「冒険者登録をしたい」
俺の言葉に、職員は目を見開いた。
「マジかよ…。まぁ、いいぜ。冒険者登録は誰でもできる。ただし、身分を証明するものと、登録料が必要だ。身分証明書は…旅のあんたは持ってねえだろうな。そういう場合は、試験がある」
…面倒なことになった。身分証明書などない。
「試験とは、何をするんだ?」
俺が尋ねると、職員はにやにやと笑った。
「簡単な話だ。ギルドの訓練場で、俺が用意した魔物と戦ってもらう。それでおまえの強さを見極めるってわけだ。ただし、もし死んでもギルドは一切責任を取らねえからな」
彼はそう言って、奥の扉を指差した。その口調からは、俺の剣を軽んじていることがありありと伝わってくる。
(実技か。望むところだ)
俺はむしろ、歓迎した。この世界で俺の剣がどこまで通用するか試す良い機会だ。今後厄介な目に遭わないためにも、ここで力を示す必要がありそうだ。
「分かった。試験を受けよう」
俺が即答すると、職員は驚いた顔をした。実技試験次第で登録できると知り、リリアも安心したようだ。
「ヤマトさんなら大丈夫だとは思いますが、頑張ってください」
「あぁ」
(ここまで信頼されていると失敗はできないな)
俺はリリアに微笑みかけ、職員が示した扉の奥へと足を進めた。訓練場は、石造りの広々とした空間だった。中央には、いくつもの剣や槍が立てかけられており、壁には魔法の訓練に使われたであろう焦げ跡や、斬撃の跡が残っている。
「じゃあ、いくぞ」 職員がそう言うと、訓練場の奥から、一匹のゴブリンが現れた。 そのゴブリンは、身長こそ俺の半分ほどだが、醜悪な顔つきに鋭い牙を剥き出しにしている。手には錆びたナイフを持ち、奇声を上げながらこちらに突進してきた。
「まずはウォーミングアップだな」
俺は無銘を抜き、迎え撃つ。ゴブリンの突進は直線的で、その動きは俺にとってあまりにも緩慢だった。
――一ノ太刀、霞斬り
ゴブリンの目の前で、俺の姿が霞む。次の瞬間、ゴブリンは目の前で崩れ落ちた。その体は、一閃のもとに両断されていた。
「なっ!?」
職員の驚く声が響いた。ゴブリンの討伐など、冒険者にとっては日常茶飯事だろう。だが、俺の一撃は、彼らの想像を超えていたらしい。
「まだだ。こんなものじゃ、登録はできねえ」
職員は焦ったようにそう言い、さらに魔物を呼び出した。次に現れたのは、二匹のゴブリンと、一匹のオークだ。オークはゴブリンよりも一回り大きく、分厚い棍棒を手にしている。
「ほう。まとめてか」
口角が上がる。数が増えれば、多少は楽しめるかもしれない。
オークが唸り声を上げながら、棍棒を振り上げて突進してくる。同時に、二匹のゴブリンが左右から挟み撃ちにしてきた。
――二ノ太刀、旋風
俺はオークの棍棒を紙一重でかわし、そのまま体を高速で回転させながら、無銘を横薙ぎに振るう。風の渦が巻き起こり、オークとゴブリンをまとめて吹き飛ばした。 ゴブリンたちは壁に叩きつけられ、そのまま動かなくなった。オークは吹き飛ばされたものの、すぐに体勢を立て直して立ち上がる。
「グルルル…」
オークは警戒したように俺を睨み、棍棒を構え直した。
「なかなかやるな。だが…」
俺はオークに向かって一歩踏み出した。
――三ノ太刀、閃光
オークの目が追いつかないほどの速度で、俺は懐に潜り込み、無銘を突き立てた。オークの巨体が大きく傾ぎ、そのまま力なく地面に倒れ伏す。
訓練場に、静寂が訪れた。職員は唖然とした表情で、倒れた魔物と俺を交互に見ている。リリアの瞳には、誇らしげな色が宿っていた。
「…信じられねえ。あんた、一体何者なんだ…?」
職員は震える声でそう呟いた。彼の声には、侮蔑の色は一切なく、ただ純粋な驚愕と、かすかな恐怖が混じっていた。
「俺はヤマト。ただの剣士だ」
俺はそう言い、無銘を鞘に収める。
「…分かった。あんたの登録を認めよう。今日からあんたは、ギルド公認の冒険者だ」
職員はそう言って、震える手で登録用紙を差し出した。
こうして、俺は冒険者ヤマトとして、この異世界での新たな一歩を踏み出した。 このギルドで、俺はどんな出会いをし、どんな戦いを経験するのだろうか。 この世界での俺の剣の道はまだ始まったばかりだ。
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