5.5. 温もりの剣、共鳴する心
村にヤマトさんが現れたあの日から、私の日常は少しずつ色づき始めました。
彼は「遠い国から来た」と話していましたが、その立ち姿、腰に提げた見慣れない刀、そして何よりも、彼の纏う静かな雰囲気は、私たちが今まで出会ったどんな旅人とも違っていました。最初は少し警戒してしまいましたが、見た目や言葉遣いと裏腹の彼のやさしさに、いつしか警戒心はほどけてしまいました。
彼が村の手伝いを始めてからのことです。畑仕事では、私たちには重い薪束を軽々と運び、硬い土をあっという間に耕していく。その一つ一つの動作には無駄がなく、まるで舞を踊っているかのようでした。彼は決して自慢することなく、黙々と作業をこなします。その真摯な姿に、私はいつの間にか目を奪われるようになっていました。
特に印象的だったのは、彼が子供たちと触れ合う時です。普段はどこか遠くを見ているような、静かな眼差しの彼が、子供たちに向ける視線は本当に優しくて、まるで兄のように接していました。一緒に石を投げたり、笑い合ったりする彼の姿を見るたび、私の胸の奥が温かくなるのを感じました。
ある夜、村の皆が森の奥から聞こえる不気味な音に怯え始めた時も、ヤマトさんはただ静かに耳を傾けていました。村の皆が不安に顔を曇らせる中で、彼の落ち着いた様子は、私にとって大きな安心感でした。
そして、岩の魔物の知らせが届いた時、村中が絶望に沈む中で、ヤマトさんは迷いなく言いました。「俺が行こう」と。
(そんな…たった一人で、あの巨大な魔物に?)
私は息を呑みました。ハルじいや村の若い衆が止めるのも聞かず、彼はただ静かに、そして力強く「俺の剣なら斬れるかもしれない」と言い切ったのです。
「ヤマトさん、危険です!本当に…」
私が思わず声をかけると、ヤマトさんは私の方をちらりと見て、にこりともせず静かに頷きました。
(ああ、この人は止まらない。本当に村を、私たちを守ろうとしてくれている…!)
私は、彼の強さと優しさに、深く心を揺さぶられると同時に私の本当の気持ちに気づいてしまいました。
岩の魔物が倒れた時、私の心は安堵と、そして今まで感じたことのない高揚感に包まれました。彼の強さは、私たち村人とはかけ離れたもの。それはあまりにも圧倒的で、触れることのできない神聖なもののようにも思えました。
(彼は、この村を、私を守ってくれた。)
その事実に、私の心は震えました。
数日間、ヤマトさんは村に滞在し、今までと変わらず村の仕事を手伝ってくれました。畑を耕し、薪を運び、子供たちと戯れる。表面上は穏やかな日々が流れるものの、一部の村人との間には以前にはなかった微妙な距離感が生まれていることを感じます。彼らが何か頼みごとをする際も、以前より控えめになり、その眼差しには常に敬意と同時に、底知れない力への恐れが宿っているようでした。
そんな村人たちの様子を見て、私はますます強く思いました。この人が一人で孤立してしまうのは、あまりにも寂しいと。
ハルじいがお話した時、ヤマトさんがこの村を出ていくことを告げられ、私の心臓は締め付けられるようでした。彼が村を出ていけば、もう二度と会えないかもしれない。あの優しさも、もう近くで感じることはできない。
――そんなの、嫌だ!
気がつけば、私は無我夢中で口を開いていました。
「ヤマトさん、私も行きます」
村人たちの驚きの声も、ハルじいからの心配の声も、その時の私には届きませんでした。ただ、彼の隣にいたい。彼のことを、もっと知りたい。その一心でした。
ヤマトさんが私の目を見て、静かに頷いてくれた時、私の胸には新しい光が灯りました。この広大な世界で、彼と共に歩める。彼の隣で、彼の強さを、彼の優しさを、感じ続けることができる。
私は、彼の剣に魅せられました。そして、その剣を振るう彼の温かさに、心を奪われました。この旅がどんなに危険で困難な道であっても、彼の隣にいられるのなら、何も怖くありません。ヤマトさんの隣で、私は新しい自分を見つけることができると、そう確信しています。
この旅路の果てに、私とヤマトさんは一体何を見つけるのでしょうか。そして、私の中で芽生えたこの温かい気持ちは、これからどうなっていくのでしょうか。
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