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5. 村の英雄と共鳴する心

 岩の魔物を討伐し、森からフロン村に戻ると、村人たちは俺を英雄として迎え入れた。誰もが俺の剣技に目を奪われ、その強さに畏敬の念を抱いていた。


 だが、その中には、安堵と共にかすかな畏怖の念が混じり始めていることを、俺は敏感に感じ取っていた。彼らの視線の中には、親切さとは異なる、近寄りがたいものを見る目が混じっていることに、俺は気づいていた。


 ――まるで、俺を「人間ではない何か」と見ているかのように。


 村人の中には、俺の力を目の当たりにして、明らかに怯えを見せる者もいた。彼らは俺から距離を取り、目を合わせようとしない。

 しかし、リリアは違った。彼女は俺に駆け寄ろうとし、その碧い瞳には驚きと共に、純粋な安堵と、そして俺への揺るぎない信頼が宿っていた。


「ヤマトさん、本当にありがとうございました…!」

 彼女は震える声で感謝を述べた。その声には、俺が感じていた村人たちの戸惑いとは裏腹に、心からの親愛の情が込められていた。俺の心は、彼女の純粋な優しさに触れ、温かくなった。


 数日間、俺はフロン村に滞在し、村人たちの手伝いを続けた。畑を耕し、薪を運び、子供たちと戯れる。表面上は穏やかな日々が流れるものの、一部の村人との間には以前にはなかった微妙な距離感が生まれていることを感じていた。彼らが何か頼みごとをする際も、以前より控えめになり、その眼差しには常に敬意と同時に、底知れない力への恐れが宿っているようだった。


 ある日の夕食時、ハルじいが真剣な表情で俺に語りかけてきた。


「ヤマト殿、あなたは本当にこの村の恩人じゃ。しかし…あなたのような御仁が、この小さな村に留まるのは惜しいと思うのじゃ」


 ハルじいは言葉を選びながら、ゆっくりと続けた。

「あなたの剣技は、わしらには想像もつかんほど素晴らしい。じゃが、この村はあまりにも小さい。この世界のことをもっと知るためにも、あなたは旅を続けるべきじゃと思う。このままでは、村の者たちも、あんたの力を完全に受け入れるには…」


 ハルじいは言葉を濁したが、その瞳は、俺が感じ取っていた村人たちの畏怖を代弁していた。俺は黙ってハルじいの言葉に耳を傾けた。俺の心は、村人たちのわずかな恐れと、自身の剣を極めたいという本能的な欲求が奇妙に混ざり合っていた。


「…そうか。ハルじい、俺もそう思っていた」

 俺がそう言うと、ハルじいは申し訳なさそうに深く頷く。


「そうか…ならば、道中の無事を祈っておるぞ。わしらには何もしてやれることはないが、これだけは受け取ってほしい」

 ハルじいはそう言って、小さな革袋を俺に差し出した。中には、わずかながらの金貨と、手作りの干し肉が入っている。村人たちが、俺のために用意してくれたものだった。


「ありがとう。大切に使わせてもらう」

 俺は少し戸惑いながらも、その温かい心遣いを素直に受け取った。


 翌朝、俺はフロン村を出発することにした。村の入り口には、ハルじいをはじめとする村人たちが集まっていた。彼らは俺に深々と頭を下げ、感謝と別れの言葉を口にした。


 その列の最後に、リリアが立っていた。彼女はいつもの粗末な服ではなく、少しばかりきちんとした身なりで、小さな鞄を肩に掛けていた。俺が視線を向けると、彼女は真っ直ぐに俺の目を見つめた。


「ヤマトさん、私も行きます」


 リリアの言葉に、村人たちの間にざわめきが起こった。ハルじいは驚いてリリアを見た。

「リリア、何を言うか!旅は危険じゃ!」

 しかし、リリアの決意は固かった。


「ヤマトさん一人では、この世界のことはまだ分からないことが多いでしょう。それに、私もヤマトさんの力になりたい。ヤマトさんのことを、もっと知りたいのです」


 彼女の碧い瞳には、迷いの色は一切なく、強い光が宿っていた。俺はしばし彼女を見つめた後、静かに頷いた。


「…分かった。だが、生半可な気持ちでついてこれるほど、甘い旅じゃない。それでも構わないか?」


「はい!」


 リリアは力強く答えた。その声に、俺の心に新しい感情が芽生えた。一人ではない。この広大な異世界で、俺と共に歩む者がいる。


「ハルじい、皆、世話になった。リリアのことは、俺が責任を持って守る」


 俺はそう言い、村人たちに深々と頭を下げた。村人たちは、驚きながらも、リリアの決意と俺の言葉に、最終的には納得したようだった。


 俺とリリアは、村人たちに見送られながら、獣道を一歩、また一歩と踏み出した。朝日に照らされた二人の背中には、新たな決意と、未来への希望が漂っていた。俺の新たな旅が、今、始まる。この広大な異世界で、俺とリリアは一体何を見つけ、何を成し遂げるのだろうか。そして、俺をこの世界に導いた真の理由とは――。

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